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07 夏の雪

 アイリスとのお忍びデートも無事終わった。

 風邪をひかなかったとか、高山病にも(かか)らなかった的な意味で。


 もっとも、みんなにはしっかりとバレていたので、お忍びではなかったかもしれない。

 それでも、瞬間移動のおかげで邪魔は入らなかったので、そっちの意味でも無事という点では間違いではない。



 また、お城に帰る前に、ついでにカリンが暴れていた所がどうなっているかを見に行った途中で、

行き掛かり上八十名ほどの【雪女】を保護することになった。



 雪女とはその名のとおり、女性しか存在しない種族である。


 私より肌が白い――というか、純白の雪のような色であることを除けば人族と変わらない、美しい女性の姿をした人型の魔物だ。


 冷気を操ることに長けているらしいけれど、熱と土属性には弱く、特に火竜などは天敵ともいえる存在らしい。

 というか、竜は大体の生物の天敵である。



 とにかく、それをなぜ保護するに至ったかだけれど――雪女たちが言うには、何でもここ最近、若い男が獲れない状況が続いていたそうで、氏族の存亡の危機だったらしい。


 まるで山菜でも採るかのような物言いだけれど、彼女たちの種の存続のためには他種族の男の人がどうしても必要になるため、どちらかというと男に尽くす性質なのだそうだ。


 とはいうものの、帝国の圧政による辺境の村々の衰退に、亜人狩りによる環境破壊。追い打ちの火竜による大規模森林火災などなど、彼女たちに同情すべき点も多々あった。


 ただ、接触を試みた私とアイリスに、

「なあ、アンタら男持ってないか? アンタらくらい可愛ければ持ってないわけがないよな! なあ、ちょっとでいいから分けておくれよ!?」

 などと詰め寄ってくる様には、男性に尽くすというより、吸い尽くしそうな雰囲気しか感じなかった。

 真剣さというか、深刻さは伝わったけれど。



 ちなみに、【雪男】という魔物も存在するのだけれど、そちらは知性の乏しい大きな猿でしかないらしい。

 一応、雪男とも交配はできるそうだけれど、それと交わるくらいなら死を選ぶ雪女も多いらしい。

 雪男や半魚人といい、見た目的には女尊男卑の激しい世界である。


 とまあそんな感じで、捨て鉢気味な彼女たちを置いていくこともできず、回収することにしたのだ。



 問題は、常夏の国に雪女を迎え入れても大丈夫かという点だけれど、そこは腐っても魔物である。

 熱には弱いといっても、自然現象程度でどうにかなるものでもない。

 限度があるそうだけれど。

 どっちだよ。


 人間関係的には、鬼とか亜人の男衆が鼻の下を伸ばしているし、雪女たちも私たちと遭遇した時とは違ってお淑やかに振舞っているので、恐らくは大丈夫だろう。




 とはいえ、耐えられることと問題が無いことはイコールでではない。

 今は大丈夫でも、長い時間を過ごすうちにどんな不具合が生じるかも分からない。

 もちろん、町の住人にできることなら任せてしまうのだけれど、この解決法を考えろというのは無茶がすぎる。


 これは、恐らく私がするべきことだ。

 決して暇を持て余しているわけではない。



 もう一度北の方へ行って、雪とか氷とか、それっぽい精霊のようなものを探そうと思う。

 繰り返すけれど、決して暇だからではない。


 お節介や義務感が4割、突発的な人脈構築の可能性を期待しているのが4割、暇潰しや遊び感覚が2割だ。


 町が出来上がっていく様子を見るのは楽しいものだし、将来的に私たちが遊べるような町になればという期待もある。

 そのためにも、多少の基盤づくりはやむなしといえる。


 何より、雪女たちには、お城近辺での殺虫剤的な働きを期待している。

 氷殺するタイプの殺虫剤というのもあった気がするし。


 みんなが快適に暮らすために、人も町も万全なコンディションを維持してもらわなければならないのだ。


◇◇◇


 深く考えずにひとりで飛び出したものの、よく考えると、雪や氷の精霊って何だろう?


 それと分かる特徴でもあればよいのだけれど――と、とりあえず分からないものは探しようがないので、魔素を撒いて誘き寄せる作戦に出る。

 精霊は魔素に惹かれるそうだし、その検証という意味もある。




 朔の気配は出さないように注意しながら、魔素を薄く広く撒いていく。


 世界に与える影響が分からないので加減も分からず、様子を見ながらじわじわと魔素の量を調整していたのだけれど、一時間ほど経っても何の変化も見られないし、精霊も寄ってこない。


 変化が分かりやすいように見渡す限りの銀世界を選んだのだけれど、こうも何も起こらないと正直飽きてくる。

 だからといって微調整を止めれば、ろくなことにはならない。


 朔は私を成長しない存在だと言っていたけれど、私だって学習するのだ。



 そうして退屈に耐えて、更に一時間ほどが経過すると、ようやく変化が表れ始めた。

 深く積もった雪から、何かの植物の芽が顔を出した――と思ったら、一気に開花するまでに成長した。


 なぜだ? ――と首を傾げている間にも、同様の光景がそこかしこで再現されて、あっという間に見渡す限りのお花畑が雪原に誕生した。


 一見するととても美しい光景なのだけれど、十メートル近い積雪量を考えると異様にしか思えない。雪が融ければ自重で折れてしまうのではないだろうか?

 というか、朔なら気づいていたはずなのに、なぜ教えてくれなかったのか。



 どうしたものかと考えていると、遠くの方から雪煙を巻き上げながら、雪中には似つかわしくないピンクのワンピースを着たひとりの少女が、鬼のような形相をして駆け寄ってきていた。



「それは私の仕事だー!」


 そんなことを叫びながら、駆けてきた勢いのまま飛び蹴りを放つ少女を華麗に躱す。


 仕事とは一体何のことだろう?


 少なくともパンツ丸見えの飛び蹴りを放つことではないと思う。



「新手の春の使徒か! ――いや、雪解けも待たずに芽吹かせるなど、悪魔の所業! ――粛清する!」


 更に別方向から、軍人っぽい大男――帝国兵さんなどではなく、勲章がゴテゴテ付いた現代風の軍服の男性が、これまた雪煙をあげながら突進してきた。


 彼が言う春の使徒とは、もしかすると、さっきの少女――などと考える暇もなく、屈強な北欧人のような男性から、独特なモーションの突きが繰り出された。


 というか、ふたりともどこから湧いてきた?



 とにかく、軍人っぽい人のそれがスキルなのかどうかまでは分からないけれど、なかなかに鋭く、隙も小さい。

 それ以上に、普通の人間なら一瞬で凍りつきそうなほどの冷気を纏っているこの人は、もしかすると――もしかしなくても、目的の存在ではないだろうか。



 ひとまず彼を取り押さえようと、突きを往なしつつ彼の袖を掴むものの、彼は取られた袖を気にせずさらに踏み込んできて、当て身か投げを狙ってきた。

 これまでの相手のように、ただ力やスキルに任せてぶん回すタイプではないらしい。

 若しくは、特殊なスキルなのかもしれないけれど、そうだとしても、撃ちっ放しのスキルよりはマシだと思う。



 せっかくなので、少し遊んでみよう――と、私も更に踏み込む。


 そうすると、当然お互いに体当たりするような形になって、当然、体重の軽い私が当たり負けして大きく後退する。

 ただ、そこから追撃可能な体勢になるのは、そういうつもりで踏み込んだことに加えて、翼や尻尾でも姿勢制御ができる私の方が、ほんの少しだけ早かった。


 できる人から驚きの眼差しを向けられるのはなかなかに気分が良い。


 しかし、驚くにはまだ早い。

 有利を作りながら攻めない理由は、ただ余裕を見せているわけではない。


 などと考えているうちに、戦闘領域に復帰した少女の飛び蹴りが、「うおりゃー!」というかけ声と共に私と彼の間を通過する。



 今のタイミングで追撃に出ていても、すぐに彼女に邪魔されたので、あえて攻めなかっただけだ。

 もちろん、私には奇襲は通じないので、どうとでも対処できるのだけれど、万が一にも彼が怪我をしてしまっては、楽しめなくなってしまう。


 彼の戦闘技術がそれなりの水準にあることは分かる。

 しかし、結局のところ、勝負を分けるのは間合いを支配する技術である――と、私は母さんに教わっている。


 勝負や強弱にはさして興味は無いけれど、それは証明してみたい。



 さておき、少女が戦線に復帰したせいで、三者で向き合う形になった。


 そうして、微妙な膠着状態が発生した。

 束の間のことだと思うけれど。



『いきなり襲い掛かってくるなんて酷いなあ』


 その一瞬の隙に朔が語りかける。


 きっちり往なした上に反撃まで試みているので煽っているようにも思えるけれど、おおむね同意である。

 この世界の人たちは気が短すぎる。



『君たちは精霊か何かじゃないの? そんな短気で務まるの?』


「うるさい! 世界を破壊する悪魔め! 世界に春の訪れを告げるのは私たちの役目! それを妨げる奴はみんな敵だ!」


 怪物とか悪魔と呼ばれるのにも慣れてきた――というより、邪神よりはマシだと思ってしまう。


 それはともかく、春の妖精さんは可愛らしい見た目と違って、随分攻撃的な性格らしい。


「戯け! 冬の静寂こそ世界には必要なのだ! だが、これほどの力を持ちながら意図も目的も分からぬ魔人は野放しにはできん!」


 やはり少女の方は春の精霊か妖精、北欧人っぽい男性の方は冬の精霊――いや、冬将軍? その昔、天気予報で見た武者風のものとは違うものの、これはこれでハマりすぎて怖いくらいだ。


 とにかく、これで目的達成。

 ただし、即ミッションコンプリートとはいかないようだ。


 精霊を呼び寄せられたのはいいのだけれど、なぜか敵視されてしまっている。


 今日はバケツも被っていないというのにだ。

 私はただ、精霊を呼び寄せようと魔素を放出していただけで、気がついたらお花畑ができていただけなのに。

 ……うん、客観的に見れば理解不能で怪しすぎる。



「春よ、一時休戦だ! ――我々の勝負はこの美しすぎる魔人を排除した後だ!」


「そうね! 春とか冬以前に、この世界を闇に落とすわけにはいかないわ!」


 しかし、短気というより、人の話を聞く気がない彼らにも問題がある。

 何にしても、いつものことでもあるし、ひとまず私が悪い邪神ではないことを理解してもらわなければならない。




「冬の! 時間を稼いで!」


「長くはもたんぞ! ―――食らえ! 《北極気弾》!」


 冬将軍が突き出した両掌から、魔力を纏って硬質化した氷の散弾が、驟雨のごとく撃ち出される。


 ソフィアの魔剣を使った魔法とよく似ていて、対処法も変わらない。

 それでも、改めて朔の能力やレジスト能力に頼らず対処しようとすると、視界を塞がれて逃げ場もない――と、なかなかに良い手だと思う。


 もっとも、私の領域内では視界を塞がれても何も困らないし、当たったとしても、傷つくどころか肌を濡らすことさえできないのだけれど。

 こんな手加減――というより手抜きは相手に失礼かとも思うものの、本気を出してねじ伏せるのも大人げない。


 どちらがマシか――というか、どちらもろくでもないけれど、私の能力を考えると、この程度は傲慢でも何でもない。


 ミーティアが言うには、傲慢とか気紛れとか慢心は私の特権なのだそうだ。

 慢心は特に要らないような気がするけれど。



 最低限の氷の飛礫を叩き落としながら春の方に目をやると、「ふおおーー」と声に出して気張りながら、魔力を高めている最中だった。


 隙だらけではあるものの、しょせんただの遊びなのだし、あれを妨害するために攻撃するのは無粋なのだろうとスルーする。


 ということで、お望みどおりに氷の散弾を掻き分けて冬将軍に詰め寄ると、彼のゆらゆら揺れる両手から、起こりの分かりにくい突きが繰り出される。

 もっとも、分かりにくいのは肉体的なものだけのことで、魂や精神を見れば一目瞭然なのだけれど。


 相変わらずユニークな型のそれを律儀に躱して、私も前蹴りと見せかけたブラジリアンキックを返す。

 本当は腰より高い位置を蹴るのは好きではないのだけれど、わざと隙の多い攻撃を仕掛けるのも遊びの醍醐味だろう。


 残念ながらフェイントには引っ掛かってくれたものの、好反応でスウェーされて足先が鼻先を掠めるに留まった。

 そこで、蹴りの勢いで反転しつつ、追撃でヒップアタックをお見舞いするも、それもクロスアームブロックでしっかりガードされた。


 私が本気ではないとはいえ、これだけしっかり凌げるとは、やはりこの世界の人にしては戦術レベルが高い。


 彼の戦闘スタイルは、構えらしい構えを取らず、常に自然体でありながらも動きを止めない――イメージ的にはシステマに近いのかもしれない。

 とはいえ、システマのことは名前以上のことはほとんど知らないので、そのイメージの大半は冬将軍の外見に由来していると思われる。


 何にしても、スキルだけではない洗練された格闘技がこの世界にも存在していたことには喜びを覚える。

 たとえマイナーだとしても、あるとないでは全く違う。



「うら若き乙女が、そんな短いスカートで足を高く上げるとか、尻を突き出すとか、恥を知れ!」


 しかし、残念なことに戦う女性には否定的なご様子。


 目の前に敵として立つなら、男も女も関係無いと思うのだけれど。

 自分の意思で立っているのだから、戦闘能力以外に触れるのはお門違いというものだ。


 それは、女性を尊重しているのではなく貶めていると思う。


 もちろん、対峙しているのが子供の場合は、子供を戦場に立たせた大人の責任である。

 そんな大人は、戦場に立っていなくても、敵対していなくても殺すくらいでいい。

 むしろ、私が見つけたなら、死ぬよりつらい目に遭わせるまである。


 などと考えていたからか、少し力が入りすぎたらしく、いつの間にかの首相撲からの膝蹴りが、冬将軍の水月に深々と突き刺さっていた。

「――くはぁっ」


 苦悶の表情を浮かべて、肺から息を吐き出しながら、膝から崩れ落ちる冬将軍。



「冬の! ――待たせたわね!」


 それとほぼ同時に、春の魔力チャージが完了したらしい。

 奇襲すべき立場でその合図はどうかと思うものの、頭の中も見事なお花畑なのかもしれないので生暖かく見守ることにする。


「――俺のことには構わず撃て!」


 いまだにダメージを引き摺りながらも、私の足を掴んで移動を封じる――封じたつもりの冬将軍。

 女性を尊重しているつもりなのかと思えば、平然と女性の生足にしがみつくとか意味が分からない。


 とはいえ、奇襲であろうとなかろうと、移動が封じられても全く問題にならない。


 それに、この奥の手を潰せば、彼らも私の話を聞く気になってくれるかもしれない。



「っ! 遠慮はしないわよ!? ――《目覚めよ》《生命たちよ》! 《今こそ咲き誇れ》――」


 春の足元の雪が融けて、露わになった地面から何かの植物が芽を出して、あっという間に花を咲かせる。


 まあ、普通はそうだよね。


 しかし、先に私の咲かせていた花が、幹とでも称した方が近いしっかりとした茎に、巨大な葉っぱで日の光を遮っているせいか、彼女の花はあまり発育が良くないように見える。


 正直なところ、奇跡を起こすには魔力の量が、既にお花畑のところを更にお花畑にしようとするのは、知性が足りていないのだろう。


「くっ、何よこれは!? ――いや、まだよ! とにかくまとめて吹っ飛びなさい! ――《春一番(スプリングバズーカ)》!」


 もちろん、これはお花畑勝負ではない。


 とはいえ、ほぼ勝負はついているようなものだけれど、最後まで諦めない姿勢だけは評価したい春の突き出した両掌から、虹色の光線が放たれた。

 ものすごくメルヘンチックな光景である。


 しかし、それは足元の花を撒き散らしながら私に迫る。

 メルヘンチックが台無しである。


 せっかく咲かせたお花が可哀そう――というか、それ以上にネーミングセンスも可哀そうだ。



 さておき、威力はアルの禁呪かそれよりも弱い程度だろうか。


 後の展開を考えればアピールも必要になることだし、少しだけ実力の差を見せてあげようと、左腕を突き出して、掌に領域の花を咲かせると春の光線を包み込む。

 同時に何枚かの花弁を展開して、春の吹き飛ばした花を元通りに復元しておいた。


「もふっ――」

 そして、私の足にしがみついたまま呆然としていた冬将軍の首に尻尾を巻きつけて、キュッと絞めて落とす。


 これで目的は達成したのだけれど、ついでなので春の方にも駆け寄って、デコピンでノックアウトしておいた。


◇◇◇


「くっ、殺せ――」


「殺すがいい。どのみち捕虜になった時点で見殺しにされる。解放されても、裏切り者扱いされて粛清されるのが我らの常だ」


 久々の殺せコール。


 彼らがこんなに簡単に自分の命に見切りをつけられるのは、それだけ覚悟して生きているのか、転生とやらが保証されているのか。

 つまり、こういう場合は転生はできないように殺すべきで、それをちゃんと告知した方がいいのだろうか。



『捕虜にしたつもりはなくて、スカウトなんだけど―――冬の精霊くん、うちで仕事しない?』


 とにかく、勧誘は渉外担当の朔に任せて、私はテーブルや椅子を取り出して、お茶の準備を始める。


「貴女のような力のある魔人が、今更私たちに何の用があるというの? 世界を闇に落とすなんて許さないわよ!」


 初対面の時からそうだったけれど、彼らの目には、なぜか私が世界の敵に映っているらしい。


 能力はともかく、容姿はそんなに邪悪ではないと思うのだけれど、まだ何か私には分からない要素でもあるのだろうか。


『世界をどうこうする程度なら君たちの力は必要無いんだけど、ボクたちの常夏の国に冬が欲しくてね』


「……ほう、冬の良さが分かっておられる同志でありましたか」

 さすが朔、と言うべきか。

 見事な口説き文句で、早くも冬将軍が落ちたようだ。


「あれ? 私は?」


 元々雪とか氷の精霊を探していたので、春を捕まえたのはついでにすぎない。

 というか、春に何ができるのか分からない。

 宴会芸?



 とりあえず、ふたりに席を勧めて、紅茶を飲みながら朔が勧誘する様子を眺めて、時折相槌を打つ。


 この紅茶には、新しく思いついた《精霊殺し》という魔法で出したお酒を、ほんの数滴混ぜている。

 捻りも何も無いネーミングだけれど、効果の方は、緊張していたふたりの顔がだらしなく緩むくらい。

 なので、口をつけたが最後、交渉(餌付け)は九割方成功している。


 何でもかんでも殺すのはどうかと思うものの、現に冬将軍は完全に陥落していて、跪いて私の手の甲に口付けをして忠誠を誓っている。


 また、春の方は、何だか必死に自己アピールを始めていた。

 いつの間にか、面接審査になっていたらしい。


 ただ、話を聞く限りでは特に何ができるというわけでもなく、主に精神的な働きを活性化させるという微妙さだった。

 なので、帰ってもらってもよかったのだけれど、「私も連れてけー!」と散々駄々を捏ね続けられた末に、私が折れる形になった。

 子供――という年でもないけれど、泣く子には勝てない。


 そうして、今は満面の笑みでケーキを頬張っている。


 とりあえずは宴会部長でもさせることにしようと思う。


 何の役にも立たない人というのはいないのだし、うちのように他種族が共生する場所では何かしらのニーズがあるかもしれない。

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