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03 水面下の争い

「油断したのう……。アイリスがこれほどの爆弾を隠しておったとは、盲点じゃったわ」


「……そうね。これはどんどん話しづらくなるパターンだから、ユノは最後よ?」


 アルとアイリスの話に、古竜と大魔王のプライドでも刺激されたのか、ふたりとも真剣な顔で考え始めた。

 張り合う要素がどこにあるのか分からない。


 変に入れ込んで、変なことを口にしなければいいのだけれど。


◇◇◇


「次はリリーがお話しますね!」


 考え込むふたりを横目に、リリーが元気良く挙手して立ち上がる。

 何だかとても微笑ましい光景である。

 授業参観に参加した父兄のような気持ちだろうか。


 なお、妹たちの授業参観に参加しようとしたら、猛烈に反対されたことがある。

 解せぬ。



「リリーは隠すようなスキルは無かったんですけど、尻尾が九つになってから《殺生石(せっしょうせき)》と《傾城傾国(けいせいけいこく)》っていうスキルが増えました!」

「「「!?」」」

 女性陣の――いや、私も女性なのだけれど――私以外の驚き具合が過剰だった。



 しかし、リリーが今現在可愛いこと、将来美人さんに育つことなど明白だし、驚くようなことではないと思う。


 なお、前者の物騒なものは聞かなかったことにする。



 確かに、お城が物理的に傾くのは困るけれど、リリーは控え目な良い子なので、物に当たることはないと思うし、警戒しなくても大丈夫だ。


 経済的には、私の存在する限り、お城の財政が傾くことがないように頑張るだけだ。



「《殺生石》の方は、ユノさんの領域とか天使の《神域》みたいな感じでした。でも、《傾城傾国》の方はよく分からなかったです。――それより、《傾城傾国》ってどんな意味なんですか?」


「リリーは可愛いね、ってことだよ」

 そう言ってリリーを再び膝の上に乗せて頭を撫でる。


 私も日本でよく言われていたことなので、意味は知っている。

 もっとも、その時は男だったので微妙な印象だったけれど。


 とにかく、スキル上でも将来美人さんになるのは保証されたようなものだけれど、寄ってくる悪い虫は楽には殺さない。


「幼く見えても立派な狐なんですね……」


「化かし合いはお手の物じゃということか……」


「リリー、恐ろしい()!」


 私に甘えて太陽のような笑顔を見せるリリーを見ながら、3人が戦慄していた。


 もしかすると、《殺生石》というスキルがそれほど危険なのだろうか?

 まあ、本人も領域みたいだと話していたし、上手く使えるようになれば身を守るのにも役立つだろう。



 一応、アルにリリーのスキルを確認してもらったところ、《殺生石》の方はやはり劣化神域のようなもので、範囲内の敵を致死性の毒で侵すと共に能力も下げるらしい。


 敵味方の判別は若干はつくようだけれど、私たちには直接的な恩恵はないし、私の領域下では発動できない。

 アルの神剣でも切り裂けるだろう。


 それでも、誰にも気づかれないように展開した領域で、こっそり相手の力を奪っていくような使い方をすると怖いかもしれない。


 デメリットとしては、魔力の消費が膨大なこと。

 獣型になってパラメーターが倍増した状態のリリーでも一分程しかもたず、それ以上はリリーの寿命を削る可能性があるそうだ。


 危険なスキルではあるものの、リリーは賢い子なので、私が禁止しなくても使い方や使い時はわきまえるだろう。


 一方、《傾城傾国》のスキルの方は、誰にも効果のほどは分からなかった。


 みんなが口を揃えて「ユノがいるからかも」と言うのだけれど、私はリリーのスキルに干渉した覚えはない。

 恐らくみんなの気のせいだ――というか、理由が分からないことは、全て私のせいだという風潮はよくないと思う。


◇◇◇


「何やら気勢を削がれてしもうたが……。何を話そうかの……」

 何にヒートアップしていたのかは分らないけれど、ミーティアとソフィアも若干落ち着いたように見える。

 ソフィアはともかく、ミーティアが下手に口を滑らせるとは思わないけれど、やはり落ち着いている方が安心して見ていられる。


「そうじゃな。竜と世界のことを少し語ろうか。――儂が災厄を象徴する精霊に近い存在じゃというのは前にも話したと思うが、当然覚えておろうな?」

 ミーティアの問いに、みんなは首を縦に振って頷いた。

 そんな話聞いたかな? と思いつつ、私も首を縦に振っておいた。


 難しい話とか面倒臭い時などは、聞いている振りをして朔に丸投げすることもよくあるのだけれど、記憶に無いということは、そんな時の話なのかもしれない。


「儂以外にも、嵐やら地震やら疫病やらの災厄を象徴する竜もおるし、さらに、その上に竜神――神竜じゃったか? 呼び方は忘れたがそんなものもおる」


 竜神か。

 神を名乗るのは気に食わないけれど、7つの玉を集めれば願いを叶えてくれるような存在だと嬉しい。

 さすがにそんな都合の良い存在はいないと思うけれど。


 ついでに、修行しても身体から「気」を飛ばすこともできたとしても、魔法の存在する世界では今更すぎる。



「儂のことに話を戻すがの、儂が象徴するものは他とは少し変わっておっての、星――特に月なのじゃが、まあ、太陽が生命の象徴であれば、その対となる月は死――と、特に根拠のないものなのじゃ」


『それでブレスを受けたユノの傷の治りが遅かったのかな?』

 なるほど、あの時は結構なダメージを受けた――と思っていたら、死んでいたのか。

 それでなかなか治癒しなかったのか。

 それでも、一晩寝れば治る辺りは、さすが私というほかない。


「……本来は治るようなものではないのじゃがな? ――むしろ、直撃して生きておるのがおかしいのじゃが……」

 事実は事実として受け止めないと。


「ユノに普通を求めても仕方ありませんし……」


「霊体でも霧でも『気合だ』って素手で掴むしね……。いや、気合って何? やってることは無茶苦茶なのに、説明が違う意味で滅茶苦茶でわけが分からないのよ!? 気合って莫迦ってことなの!?」


「まあ、莫迦には効かんようじゃが、儂のブレスにはそんな特殊効果があるという話じゃ。――が、儂にはもうひとつ象徴するものがあるのじゃ」


 みんな、言い方。


「星っていうか、流星――隕石衝突かな?」

 私をディスる流れから一転して、ミーティアのもったいぶった問いかけに、アルが間髪入れずに答える。


「ほう、さすが元日本人――というべきかの」


「確かに、月を災厄と言われてもピンときませんが、隕石でも巨大なものになると、災厄というより終焉になってしまいますね」


「禁呪の中にはそういうのもあるって聞くけど、石や岩が落ちてくるくらいで災厄っていうのも大袈裟じゃない?」


「と、その辺りの知識の無いこの世界じゃと、ソフィアのような反応が普通じゃの」


「ということは、ミーティアさんは巨大隕石が落ちたらどうなるか、知ってるってことですか?」


「お主らと同程度――いや、神と同程度にはということになるのかの。さすがに実際に経験しておるわけではないからのう」


『実際に体験した感じだと、この世界だと対抗手段もいっぱいあるように思うけど? 上空にあるうちに小さく砕いて、《固有空間》に収納するとか』


「《固有空間》は、基本的には触れられる位置で、認識できている物にしか発動しないから、ユノみたいに受け止められないと死んじゃうかな?」


「体験したとか受け止めたとか――そんな危ないことをしいてたんですか?」


『大丈夫。ユノなら月が落ちてきても受け止めるから』


「やはり莫迦には効かんようじゃし、世界を滅ぼすまでもいかんが、それでも甚大な被害を齎す災厄なのじゃ。問題は、なぜ儂がそんなものを象徴しておるのかじゃが」


「ユノみたいなイレギュラーならともかく、システムを創った神が、竜にその力を与えている意味――ですかね」


「抑止力でしょうか? 人間か悪魔か、それとも神様や天使様か、何に対してかは分かりませんが」


「まあ、そう考えるのが正解なのじゃろうな。つまり、儂が何を言いたいかというとじゃな、力を持っておるというだけで、神が攻撃してくることはないということじゃ」


「なるほど、そういう話でしたか。確かに神様がこの世界のことに介入してくることは滅多にありませんしね。あっても《神託》という形で、私たちの力でどうにかさせようというスタンスですし」


「そういえば、古代文明ってすごく栄えてたらしいけど、結局は自滅しちゃったっていうしね」


「魔王が国を滅ぼしたって話はあるけど、そんな時でも神様は何もしなかったってのも事実としてあるわけだしな」


『ユノにもここで大人しくしてろってこと?』


「そうじゃのう。ここで大人しくしておる分には、神も見て見ぬ振りをしてくれるかもしれん」


「それは考えが甘すぎない?」

 何だか話の流れが速すぎてついていけなかったけれど、重要なところで口を挟むことに成功した。


「ユノが神様を嫌っていることは理解していますし、前回の印象が強いこともありますけど、本気で、問答無用でユノを――種子を手に入れようとしているのなら、狙う機会はいくらでもあったはずです」


 確かにそうなのだけれど、あの様子からは諦めるようにも思えない。

 他人の話を聞かないし、頭は悪いし、力の差も理解してくれないし。


 私としては、神とは必要なときには出てこないくせに、出てこなくていいときに限って現れて、頼んでもいない試練を強制で課してくるイメージなのだ。



「もう少し肩の力を抜けということじゃ。あの時も天使と敵対しただけでは介入はなかったじゃろうに。つまり、お主が暴走せん限りはアレを撃たれることはなかろう」


「あ! リリーたちが天使に負けないくらい強くなれば、ユノさんが無理する必要は無いってことですね!」


 確かに人同士、人と魔王や悪魔の争いには干渉しないようだけれど、うーん?


 考えても分からないけれど、みんなが私に依存せず強くなることは悪いことではない。

 というか、そうやって頑張ってくれるのは嬉しい。


「相性が悪いとか言ってられないわね。むしろ、戦わずに済む方法を模索するべきなのかしら?」

 ソフィアまでソフィアらしくないことを!?


「いっそ、自分も神様なんだって開き直って、この町に加護でも与えてれば、他の神様も文句言わないんじゃないの?」


『加護っていうか、恩恵は充分に与えてると思うんだけど――ああ、病院とか学校を造らなきゃいけないね』


「施設はともかく、神はやりたくないなあ」


「それはお前のスタイルでやればいいじゃん。どんな形でも、世界を害する存在ではないってアピールできればいいんだから」


 なぜだ。

 ミーティアの暴露話だと思っていたのに、いつの間にか私の話になっていた。


 ミーティアが大きな力を持っている――それは分かる。

 といっても、人間と比較してだけれど。


 神や天使は、そうそう襲ってこない――確かに、散々種子の力を使っていて、戦闘――介入されたのはあの一度だけということは、単純に運が悪かっただけなのかもしれない。


 しかし、そこからなぜ私が神をすることに繋がるのか?

 そもそも、トラブルを呼び込んでいるのはアルであって、アイリスの話からすると、私は充分に世界平和に貢献しているのではないだろうか?



『うん。いつまでも神と対立し続けるのもまずいよね』

 朔まで!

 ちょっと裏切られたような気になったものの、朔がそう言うならそれが正解なのか?


 私だっていつまでも神と敵対していては、妹たちを呼ぶこともできないことくらい分かっている。


 仲良くしろとは言わないけれど、共存する努力くらいはしてほしい――というのは、私が町の人たちに期待していることでもある。


 できれば住み分けしたいところだけれど。


 とにかく、それを私自身が実行しないのは無責任なのだろうか?


 やはり認識が変わらないと仲良くできそうな気はしないけれど、お飾りでも神としての立場を確立していれば、向こうの態度も変わるとか?



「――善処します?」

 私の頭では何をどうすればいいのかさっぱり分からないので、こう答えるしかなかった。


 なお、私の理想とする神とは何もしない神であって、それなら得意分野であるものの、私の目的を果たすことができなくなる。

 オンとオフをしっかり切り替えれば大丈夫だろうか?


◇◇◇


「ミーティアの話は口惜しいけど良い話だったわ。――というより、自分の話と見せかけてユノに釘を刺すなんて、さすが年の功というべきかしら」


「古竜としては若い方じゃがな。ともあれ、これ以上神や天使と揉めんためにも、ユノと儂らは立場を明確にし、抑止力を持つ必要がある」


「実際の戦力はユノひとりで充分なんだろうけど、抑止力的にはゼロだからなあ」


『その辺りはボクも考えてるんだけど、いろいろ試してみるしかないよね』


 その「いろいろ」の中には、この前の「がおー」というのも含まれているのだろうか? 


 不思議なことに、あれでなぜか多くの人が戦意を喪失していた。

 理由はさっぱり分からないけれど、実際に戦闘を回避することはできたことは評価しなければならない。

 しかし、素面でそんなことをさせられた私の心労も考慮してほしいところだ。



「朔がついていてくれれば、何だかんだで結果を出していますから安心ですね」


「ユノ本人はかなり迷走しとるし、朔がおらなんだらどうなっていたことじゃろうな」


「毒を以て毒を制すってやつかしら。比喩じゃなく、世界を壊すような劇毒だけど――って、またユノの話になったわね」


「それはまあ、仕方ないですよ。だって、朔も含めて、この中で一番わけが分からないのはユノですし」

 何この謎の朔推し。


「リリーが前に、ユノさんは不思議がいっぱいですねって言ったら、『良い女には秘密がいっぱいあるものなんだよ』って言ってました」

 やめて!?

 それはリリーにだから言える言葉であって、他のみんなに聞かれると超恥ずかしいの!


「良い女なのは確かだけど、ユノが言うとギャグにしか聞こえない」


「見た目も匂いも触り心地も最高ですけど、こうやってちょくちょくお莫迦な言動をするんですよね。そこがまた可愛いんですけどね!」


「儂には分かる。こやつ、澄ました顔をしておるが、実は恥ずかしがっておる」


「ちょっと前は見分けがつかなかったけど、今なら私にも分かるわ!」


「あ、動揺した。ちょっと赤くなった! 萌える!」


「ユノさん可愛い。秘密いっぱいですね!」


 ううう、何この仕打ち?


「ソフィアの番でしょう? 早く(はにゃ)して」

 やってしまった!


「噛みましたね」


「あざとい!」

 ちょっと噛んだだけなのに、鬼の首を取ったように喜ぶことはないと思う。


「戦闘では無敵なのに、口は最弱ね。でもそうね、ユノが怒る前に話しましょうか」

 むしろ、こんなことで怒るほど狭量だと思われていることが心外なのだけれど、話してくれるなら――話を変えてくれるなら是非もない。



「じゃあ、魔王についてでいいかしら」

 何でもいいよと、何でもいいから早く話せと首を縦に振る。

 というか、そもそも、ソフィアがさっさと話さないから私の話題になるのだ。


「魔王っていうと八大魔王が有名だけど、私みたいな無名な魔王も結構いるの」

 それは目の前にいるから知っている。

 何なら、八大魔王の実在の方が怪しい。

 話に聞いただけの存在だし、むしろ、人間は目に見えないものを恐れる習性があるので、それかもしれないと疑っている。

 幽霊とか、宇宙人とかと一緒だね。



「それで、何をもって魔王というのかだけど、魔王にもいくつか傾向があるの」


 私も、魔王とは何なのかには少し興味がある。


 九尾になったリリーは、伝承にあるように魔王にはなっていないし、ソフィアに至っては配下のひとりもいない王様だとか、基準がさっぱり分からない。



「まずは王となるべくしてなったタイプ。生まれついての魔王というのかしら――有名なところでいうと北の暴虐の魔王ね」

 生まれた時から魔王なんて、いやすぎるのだけれど。

 前世でどんな悪行をすればそんな業を背負うのだろう?



「次に、悪逆非道を重ねて魔王になったタイプ――は、説明の必要は無いわよね。後は魔王となる以外の選択肢が無かったタイプ。魔王の肩書きや呪いを受けてでもなすべき何かがあったとか、魔王になることでしか望みを繋げないほどに追い込まれたとか――私はこっちね」


「魔王の呪いって、そんなものあったんですか?」


「厳密には呪いとは違うかもだけど、魔王になると能力は何倍にも上がるんだけど、それ以上に問題や敵が増えるのよ」


 ふむ。魔王を、反社会的勢力の人と置き換えてみれば分かりやすいのかもしれない。

 確かに、非合法な武器やら手段やらは増えるけれど、そんな肩書きを堂々とぶら下げていれば、寄ってくるのは同業他社かコバンザメ、若しくは国家権力の手先くらいのものだろう。

 至極当然の話だと思うものの、アルの例もあるし、もしかするとシステムによる強制力的なものがあるのかもしれない。


「私は幸い、協力者と居場所を早い段階で得られたからそれほど苦労はしてこなかったけど、それでもあんたたちと遭った時、脅す以外に選択肢は無かったのよ」


「それはソフィアがそう思っていただけで、私たちは対話を求められれば応じたと思いますよ?」


「それはあんたらが特殊なのよ」


「ユノはゴブリンやオーク、スライムなんかとも対話をしようとしておったがの」


「それは特殊すぎるわ……」


「ミーティアさんともですよ!」


「ぐむ……」


「ユノが絡むと常識は通用しなくなる……。ソフィアさんの言いたいことは分かります。魔王や古竜と対話しようなんて奴はそうそういませんからね。俺だって、真っ先に逃げることを考えましたし」


「魔王から逃げるのは簡単じゃないけどね。で、まあ、私も最終的には対話をするつもりだったんだけど、それは私の優位を築いてからの方が良いじゃない?」


『それで見事に失敗したと』


「だって、仕方ないじゃない!? 想定だとデスとの戦いで疲弊しているところに現れるはずだったのよ!? ユノがいなきゃそうなってたはずよ! いえ、ユノは封印付きのデスに梃子摺ってたし、それを使い魔にしてたとか、想像できるはずがないじゃない!」


「ユノがいなきゃ戦わずに帰ってたと思いますけど、その、何ていうか、ご愁傷さまです」


「とにかく、普通は魔王が出てきて『お話しましょう』なんて言っても脅しにしかならないから、お話できる環境を作らないといけないのよ」


「私は対話で解決したい派なのだけれど、この世界では一般的じゃなかったりするの?」


「どちらの世界でもそれが理想だと思いますけど――」


 もちろん、それで万事上手くいくとは思っていない。

 ときには肉体言語も必要になる。


「あんたは……、パッと見強さは感じられないし、身体つきも戦いとは無縁にしか見えないし、落ち着いた態度も巧妙な罠というか、挑発にしか見えないのよね」


「一番弱そうに見える癖に、相手が竜じゃろうが神じゃろうが全くビビらんからのう。儂は何かあるとは見抜いておったが、まさかあそこまでとは思いもせなんだわ」


「リリーにも優しくお話してくれましたよ?」


「相手によって差別しないのは美徳なんでしょうけど、それもいきすぎれば……」


「そもそも、お前口下手じゃん? 一番苦手な方法でアプローチって、バ――天然って怖いな」

 もしかして、莫迦って言おうとした?


 しかし、言われてみれば、私は最も困難なことをやっていたのか?

 道理で上手くいかないわけだ――いや、でも、暴力ってその場凌ぎにしかならないことが多いし――というか、また私の話になっている。


「痛いところを突かれたみたいな顔をしてるけど……、まあいいわ。みんなユノの話を聞きたいでしょうし、言いたいことだけ言って終わりにするわ」

 ソフィアはそこで一旦言葉を切って、リリーの方を見る。


「リリーが魔王にならないのは能力的なことじゃなくて、そういう状況じゃないってだけよ。というより、魔王にならずに済むならそれが一番よ。進化だけで満足しときなさい」


 なるほど。

 どうやら人生の、そして魔王の先輩として、これが言いたかったらしい。


 今まで年齢ほど落ち着きとか威厳がないと思っていたけれど、リリーの将来を案じているとか少し見直さざるを得ない。

 いや、お姉ちゃんだもの、これくらいは普通か。


 残念ながらソフィアも私と同じで口は上手くないので、魔王になるデメリットはそれほど伝わってこなかったものの、身近にそうやって釘を刺してくれる人がいるだけでも幸運なのだろう。

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