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ハイエルフの世界冒険譚  作者: 切り身
3/3

03話 門出と予感

「つ、ついにこの時が……!」



 恐る恐る、サンクトゥスの森の外へ足を踏み出す。

 いくら待っても誰も捕まえに来る事は無く、ワシは安堵のため息をついた。

 自由……本当にワシは自由になったんじゃな!

 ま、といっても周りは代わり映えのしない似た森なのだが。

 しかし「サンクトゥスから出られた」というに事実に浮かされている為、似た様な森でも十分に解放感があった。


 三百年以上サンクトゥスの森に縛られていたからか、少しだけ寂しさを感じながら背を向ける。向こう二百年は絶対に帰らんぞ!

 さて、自由にはなったがこれからどうするか。

 三百年前に仕えていた国にでも行くか?

 色々旅をするのには金も掛かるだろうし。


 じゃがなぁ……報酬が良い代わりに如何せん、人使いが荒かった覚えがある。

 三百年も経っていれば多少変わってはいるだろうが、何となく行きたくない。

 勿論良い思い出もあるにはあるが。

 ああそれと、昔の仲間達がいたという所にもいかなければ。

 確かレフィが言っていた場所は元仕えていた国、《アストルム》の近くだった筈。まぁ国に入らず森にだけ行けば良いか。



『それって《フラグ》って言うんだぜ!』



 などと笑いながら言っていた、かつての仲間を思い出す。

 そう言った本人も、次の瞬間には魔物の巣穴に落っこちておったな……。

 基奴は本当によく笑うお調子者だった。

 この世界を救う為に召喚された《勇者》という者だ。

 彼奴には、本当に申し訳ない事をしてしまった。


 まだ召喚する準備が整っていないと説明したのに、王が痺れを切らして無理矢理召喚してしまったのだ。全く!効率重視のせっかちめ!

 そのせいで勇者は元の世界に帰れず、この世界で勇者として生きて行く事になってしまった。……あぁ、今思い出しても頭が痛い。

 無理矢理連れて来られ、戦って欲しいと決定事項の様に言われ、挙句の果てには魔王を倒しても元の世界に帰れない。


 しかも勇者は召喚された時、齢十五だったのだ。

「問題ないな」と言った王の頭をこの時は殴り飛ばしたわ!

 一国の王がなんて事を!十五はまだ庇護される年だというのに……。

 だから息子に嫌われるんじゃ!この大馬鹿者!!

 とまぁそんな事があり、勇者は一時期心が不安定になってしまったのだ。


 因みに勇者と一番最初に仲良くなったのワシ((どや))

 召喚したからと言って、絶対に勇者になる必要はないからな……。

 一年程経った頃、勇者も段々と表情を表に出す事が出来る様になった。

 あんなに怯えておったのに、第二の勇者を召喚すると言ったら「俺が魔王を倒しに行く!」といきなり言い始めた事には驚いたのう。


 つい感動して、視界が滲んだ事は秘密だ。

「誰にも知られたくないから」と勇者に言われ、聖女の王女と、王国騎士の王子と共に、城を抜け出して旅に出たのは傑作じゃった!

 慌てている王の姿を見て、事情を知らない者以外は皆笑っていたからな。

 これぞ日頃の行いが表に出ている良い例である。

 これに懲りたら、自らの行いを見直しておくんじゃな!


 そしてワシ達は魔王を倒す為に旅に出たのだ。

 たまたま再会した知り合いの鍛冶師のドワーフ、旅の途中で仲良くなった吟遊詩人の二人も仲間になり、毎日とても賑やかであった。

 勿論旅は過酷で辛く、時には衝突する事もあったが、本当に毎日が楽しかった。

 三百年経っても、鮮明に思い出せる程に……。


 あ~~~いかんのう、年を取ると涙もろくてかなわんわい。

 まぁまだワシ五百歳になったばかりじゃがな!

 まだまだ知りたい事や、やりたい事が沢山ある。

 うむ、手始めに一番近い村に行ってみるか。

 確か、東の方角だったと思うが……。



<しるだ! しるひさしぶり!>

<げんき? ぼくらはげんきだよ!>

<むらはねぇ、あっちだよ>

<ちがうよこっち!>



 三百年前の記憶を頼りに、森を進む。

 木々が風に揺られて、気持ち良さそうに葉を揺らした。

 ふふ、そうかそうか、この道を歩くのは久しぶりだったな。

 丁度良い、彼等に少し質問をさせて貰おう。

 木々達から温かな歓迎を受けつつ、最近森で起こった事を聞く。



<さいきんはねぇ、もりにくろいらんぼうものがきたの!>

「ふむ、乱暴者とな?」

<くろいらんぼうもの! ぼくあいつきらい! おっきなするどいつめでね、ぼくたちのことひっかくの。すごくすごーくいたいんだよ!>

<むらのひともこわがって、むらからでてこなくなっちゃった……>



 木々達が言う乱暴者は、おそらく[ブラックベア]だろう。

 個体数こそ少ないものの、非常に凶暴な性格をしており、攻守共に優れたモンスターの一種である。縄張り意識が強く、木の幹に爪痕を残す事が多い。

 ふむ、ブラックベアか。そんな凶暴なモンスターが何故この森に?

 この周辺にいる凶暴なモンスターは、三百年前ワシが全て倒した筈。


 生き残りがいたのか?それとも縄張りを追われてこの森に来たのか?

 ……兎に角、村の人間が襲われる前に倒すか、森から追い払ってしまわねば。

 村の中に籠っているのなら、助けを呼ぶことも出来ていないだろう。

 此処から大きな町に行くまで、かなりの距離がある。

 ブラックベアだけではなく、他にも凶暴なモンスターがいるかもしれない。



「わかった、その乱暴者はワシが懲らしめてやろう」

<ほんと? しるにならまかせられるね!>

<がんばって、しる! おうえんしてるよ!>

<つめにきをつけてね!>

「ああ、色々とありがとうな」



 木々達に別れを告げ、森の中を進む。

 少し進むと一本の木の幹に、ブラックベアのものだと思われる、大きな爪痕が刻まれていた。地面にある足跡の大きさから見ても、相当大物だと見て取れる。

 ……これは早く村に行かないと不味いな。

 サンクトゥス周辺の森の木々には、基本的に実が生らない。


 ワシ達エルフ族と同様、普通の木々と比べて寿命がとても長いからである。

 しかし中には実をつける木も存在するが、元々この森の土壌では普通の木々や作物の栽培がとても難しく、限られた者にしか育てる事が出来ない。

 昔からある言い伝えでは、木々等が育たないのは欲深い者が実や作物を全て独占し、森の精霊達の怒りをかったため……とも言われている。


 本当の所は分からないが実際、サンクトゥスの森には実に様々な人間が来た。

 ___そう、特に《欲深い者》が。

 時には子供のエルフを人質に取り、時には森を焼き払おうとした。

 その際、言い伝えは本当の事なのではないかと思った程だ。

 まぁ当の精霊達は否定していたがな……。


 そんなほぼ不作なこの森で、暮らしている者達がいた。

 《緑の手》を持つ、特別な人間達だ。

 自然の精霊から加護を受けた、稀な人間達の事を総じてそう呼ぶ。

 そもそも人間が精霊から加護を与えられる事自体珍しい。

 殆どの人間には精霊の声は聞こえず、姿も見えないからだ。


 彼等の手にかかれば、荒れた土地は草木溢れる美しい森になるという。

 しかし、特別な加護を持つ人間は皆悲惨な末路を辿っている。

 心無い者達には迫害され、欲深い者達には利用されたのだ。

 追われ、逃げ出し、そうして彼等はこのサンクトゥスの森に来た。

 ワシが長になって直ぐの事だった。


 周りのエルフ達は反対したが、ワシは彼等を受け入れた。

 人間だから?汚らわしいから?はっ!そんな事で追い返すなどもっての外!

 追っ手が来たのなら追い払ってしまえばいい!

 しきたりを知らぬなら覚えるまで教えればいい!

 汚らわしいなら風呂にでも突っ込んでおけ!


 新しい物は新しい者達からしか生まれない。

 それに……正直面白そうだと思ったんじゃ!

 それが一番の理由だ。だって気になるじゃろ?

 どの様に草木が生えるのか、どの様に成長するのか、ワシは知りたかった。

 理由なんてものはそれで充分。


 ワシは「緑の手を見たい」、彼等は「安息の地が欲しい」。

 これぞ、うぃんうぃんの関係というやつじゃ! 

 彼等は人間の中でも特に性根が優しく、中には気難しいエルフと契りを結んだ者もいる程であった。あれには先代も驚いていたのぅ……。

 彼等と出会えた事で良い事も悪い事も、数え切れない程あった。


 これも女神の導きなのだと、ワシは信じている。

 彼等の危機は我等の危機。

 少し遅くなってしまったが、隣人の為に一肌脱ごうではないか!

 持っていた杖を持ち直して気合いを入れ直す。



「ふふふ、腕が鳴るのう!」



 久しぶりの討伐の予感を感じ取り、ワシはにんまりと笑った。


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