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ワンフェス ささクリライブの思い出

作者: ピンクダイアモンド

 朝、平時なら重い身体を起こすのに一苦労も二苦労もするところだが、今日だけはスーパーヒーローのように飛び起きる。

 服を着替え、髪型をセットし、洗面所で歯を磨く。

 そこで朝の準備をしていた母親と会話を弾ませる。


「まるでデートに行く時みたいだな」

「お前の動きが今日はキレがあるよ。いつもはだりぃなって感じで動いてるのに」

「いつもの俺はナマケモノか」


 そう、今日は決戦の日。

 告知が出た次の日に速攻チケット予約をした「ワンフェス」の日なのだ。

 世界最大級の造形物の祭典。そんな所で推し達がライブするだって?行くしかないじゃないか。




***




 海浜幕張駅に降り立つ1人の男。そう、私だ。

 幕張メッセの位置はわからなかったが、それっぽい先頭集団の後ろをついていくと、国際会議場までたどり着いた。

 エスカレーターの前でビラ配りをしている男性。ここで何を配っているのだろうかと受け取ってみると「資格取得」のビラだった。

 そう、幕張メッセは同日に試験会場でもあったのだ。


「頑張ってくださいね!」

(いや、私は推しのライブを見に来たただのオタクなんです……)



 そうして少し歩くと、入場待機場に到着した。

 どこを見ても人だらけ。やっぱり凄い祭典なんだなと再確認をし、無事に入場を果たす。

 まずはライブのある会場の場所を把握するために企業ベースに足を踏み入れると……


 そこで背筋から震え上がるほどの造形物達が私を出迎えた。


(ワンフェスすげぇ!!!)


 肌のキメまで再現されているかのような繊細かつ、ダイナミックなインパクトを与えるフィギュアジオラマ。

 ゲームセンターで取れるフィギュアしか見たことが無い私には衝撃的すぎた。


「ほえー……ほえ……ほえーー」


 間抜けな声を出しながら、テンション上がりっぱなしのままワンフェスの会場をぐるぐると見て回る。

 全ての出展を見て回ったあたりで、ささやきクリニックの物販が始まる時間が迫っていた。




***




(ここで物販が始まるのか)


 物販が始まるにはまだ早い、10分ほど前に会場に到着していた。

 そこでは5人程の集団が、円になって談笑をしていた。

 まさかとは思い、近くを歩いてみると……


「………ジラチーノさんが………」

(!?)


 ジラチーノと言ったな、今確かにジラチーノと言ったなぁ!?

 ジラチーノさんといえば、無糖しおさんのとんでもリスナー。数いる無糖しおファンの中でもぶっちぎりの存在感を放っている。

 更には犬塚いちごさんのアクキーを鞄に付けている人まで……これは確定だ。この人たち全員子リスナーだッ!!


 しかしここで迷いが生じる。


(あんなに楽しそうにグループで話しているんだ……私が入ったら邪魔か……?それにもし違う集団だったら……俺はその辺の展示物の辺りをブラブラするしかなくなるっ!!)


 心の中でいやいやと首を振る。


(もう確定してるんだ、腹を括れ。ダメだったら恥かくだけだ……!)


 決意を胸に、前方の集団に向かっていく。


「あの、すみません。子リスナーの方々ですか?」

(さあ、どうなる…?)


「「「「「はい、そうですよ」」」」」


 あったけぇ〜〜〜……。いい人すぎるでしょ、この人達。


「え、だれ推しですか?」

「あ、犬属ですっ!」


 ここで、まじか〜…といった表情をする人がちらほら。中でもぶっちぎりの存在感を放ち、集団の先頭に立っている雰囲気を纏った人がいた。


(もしかしてこの人が……)


 ここで他の子リスナーさんが一言。


「やばい、布教始めるぞ」


 刹那、缶バッチがぎっしり詰まった、高さ15cm、横幅10cm程の袋をジャラジャラと取り出した者がいた。


(やっぱジラチーノさんか!!)


 大量の缶バッチを手に持ち一言。


「貴方も無糖しおを推しませんか?」


 内心若干引いた。ジラチーノさんの印象が「無糖しおバーサーカー」に確定した瞬間であった。


「賄賂だ賄賂」

「は、はは…」


 その時、私は苦笑いしか出来なかった。


「あ!ピンクダイアモンドさんだから、ピンクのネックレスか!!」

「いや、これ実は紫なんですよ」

「違うんかい!!」


 焼き芋みたいな色の服の上に、薄い紫のアメジストのネックレスをつけていたので色相的にピンクに見えたようだ。申し訳ない。


 その後も物販が始まるまでの間、他の子リスナーさん達と談笑を楽しんだのだが、そういえばジラチーノさんをフォローしてなかったと思い起こし、Twitterを開く。


 すると、とあるツイートが目に入った。


『#無糖しお

 しおさーーーーん!!!

 来たよーーーーーー!!!!』


 という文字と共に、4枚の写真が写っている。


『しおグッズいっぱいになったね……』


 と、無糖しおさんからリプライが飛んでいた。


(いや、ほんとっスよ、しおさん)




***




 そうしているうちに、ついに物販が開始される。


(新参者は最後尾に並ぶぜ……)


 かれこれ1時間近く、列に並んで順番を待つ。


 そして死の宣告がスタッフから放たれた。


「チェキくじ、あと7枚でーす!」


 やはり。もしかしたら自分の番までに売り切れてしまうのではないかと危惧していたが、的中していたようだ。


 ふと、後ろの列を見る。2回目に並ぶ人達をはぶいて、まだチェキくじを回していないのは自分とひとつ後ろの人だけ。


(これは勝負しかあるまい)


 そう思い、グーに握った拳を突き出す。


 そう、武力行使


 ではなく、古代から全ての物事を決着させるのに多用されている神聖な儀式である。


 まだオロオロとした後ろの人に、冷酷にもジャンケンを始める。目と目が合ってしまったのだ。ポケモンバトルかジャンケンしかありますまい。


「最初はグーっ、じゃんけんぽん!!」


 そしてお互いに手で形を作り……


「負けた」


 負けた。惨敗である。

 敗北者は大人しく、半分にして少ない方をいただくとしよう。


「チェキくじ3枚と…5ショット4回ください」


 元々1万は絶対に使うつもりで来ているから、5ショットが連発してしまった。


「あ、いいんですか?あ、どうも。すみません。ありがとうございます」

「いえいえ、どうぞどうぞ」


 対談待ちの間に後ろの人が4枚チェキくじを引いていた。何のためのジャンケンか一切知らせていないので、オロオロとしていた。かわいいね。


「次の方どうぞー」


 とうとう自分の出番がやってきた。大丈夫だ、並んでいる間に、話したい事は考えてきた!1時間もなぁ!!


 ストンッ


(あれ、何話そうとしてたっけ)


 ニワトリもびっくりの鳥頭である。ミトコンドリアでも脳みそに詰まってんのか?


「では開始しますねー、スタート」


 ええい!まずは挨拶だ!


「どうも、初めまして〜!」


『初めまして〜!』


(何を言いたかったけ……そう!)


「そういえばチェキくじ完売しました!!」


 ぱちぱちぱち。


『『『『????』』』』


 一同困惑。


(唐突すぎたな。うん)


 本来なら一つ、二つクッションを挟んでから出すような内容だ。会話デッキ破綻。元から全部飛んでるけど。


 その後、自分にとって皆さんの癒しがどれだけ大切なのかを話そうとしたところ……


「はい、お時間でーす」

「ハッ!?」


 会話に必死すぎて、全然気が付かなかった。


(やば、最後二つ星レストランで働いたことしか言ってないじゃん。めっちゃ自慢するイヤな奴じゃん)


 ここで、2回目の列に並ばずに、邪魔にならない所で待機していたジラチーノさん達と合流する。


「2回目は……ちょっと間空けようか」

「そうっすね、水飲んだり喉休めないとですもんね」

「そうそう」


 その間に、一通りここにいる人達の名前をできる限り把握する。

 小豆さんがここにいるらしくて、神夜さん、エモンガさん、あとはまだわからない人達が…あ、さっきの後ろの人、なーやんさんか!


 そして2回目が始まる。


(流石に自慢だけしていたイヤな奴で終わりたくないぞ…)


 そして、もうすでに4枚持っている5ショットチェキを更に2枚購入する。


(1.5倍プッシュだ…!)


「これから就職で、配信リアルタイムとか、動画投稿されてすぐに見るとか出来なくなると思うんですけど、それまでは全力で推し活します!」


『沢山ね、ささやきクリニックの動画を聴いてもらって』


「はい、オーバードーズ(市販の薬を多幸感を得るために必要以上に摂取すること)するぐらい摂取するんで!」



(ふぅ……伝えきった)


 そう一息ついたのもつかぬ間……


(あ!!1番大事な事伝えるの忘れてた!!)


 そう、「大好き」であるという言葉を忘れていたのだ。


(もう、前の話全部いらないくらいの大事な事じゃないか……やっちまったなぁ!!)


 でも流石に3回目は疲れてしまうしやめておくかと思い、断念した。


 5ショットチェキを6回も撮ったのだが、それぞれ同じ表情にならないように皆さんがいろんな工夫をしていてくれた……ありがとうございます!!

 後、隣の写真映り悪い男は誰だよ。こんな奴知らない。



***




 ささやきクリニックが登場するステージの前に予定されていたステージが突如中止となったため、早めにライブ席に着くことができた。

 そこで今か今かとライブの開始を待っていると、後ろから声がかかる。


「あのー、Twitterフォローいいですか?」

「どうぞどうぞ……」


 そうして誰なのかスマホを覗き込むと……


「小豆さんじゃないですか!!」

「え、もしかしてピンクダイアモンドさんだったんですか!?」


 知ってる人だった。

 Twitterでいちごさんを推し始めた時から、フォローやハートをくれていた人だ。


 思わぬ出会いもありながら、もうしばらく待機しているとライブが始まった……。



 ライブの感想



最高だった



以上





 多くを語る必要はあるまい。何せ、推し達が大きなステージのトップバッターを飾って出てきたのだ。

 最高の一言で言い表せるに決まっている。



 結構前の席を取っていたので、お手洗いがてら席を他の人に譲る。他の推しがいる人たちにも、出来るだけいい席で見ててほしい。このささやきクリニックが作ったライブ感を楽しんでくださいね。


 ちょうどジラチーノさん達も抜けていたので、少し話を聞いてみる。

 どうやら帰路につくようだ。


 それを聞いた私は目的であったお手洗いをすませにスッと消えていった。

 その後、立ち見でライブを観ていたら一つのDMに気がつく。


『よかったら小豆さんと神夜さんとごはんどうですか…?』


 ジラチーノさんからのDMだった。


(こ、これが『オフ会のお誘い』ってやつかぁぁ!?)


 正直、自分にこれが来るとは思ってなかった。

 そう、何を隠そう私は新参者だ。2年前にいちごさんを知り、ささやきクリニック結成で知った人もいる。

 実はこういうイベントも生まれて初めてだったりする。


(これに乗らない手はないだろ!!)


 そうして海浜幕張駅まで歩き、先に帰っていたジラチーノさん達と合流をした。


「ご飯だけど、どこで食べる?」


 その言葉を聞いた時、脳裏に名案がよぎる。

 私は千葉県出身の千葉育ち。更には近くに中のお店に詳しいショッピングモールがあるのだ。


「〇〇〇なら、〇〇〇〇があるんですけど、どうです?」

「〇〇〇〇か〜……何がある?」

「一風堂あります」

「「「よし、行こう」」」


 そうして満場一致でラーメンに決まったかのように見えた。

 ショッピングモールに行く道中、とある提案をした。


「串カツのバイキングもありますけど、どうしますか?」


 この提案がいけなかったのだろう。


「串カツか〜魅力的だな」


 一度は決まったかのように見えたラーメンが揺らぎ始めた。


 その後も優柔不断ボーイズはお互いに遠慮し合いながら………


「串カツ行こう」

「よし決まり!」


 ようやく決まった…。ラーメンではなく、串カツのバイキングに行くことになった。


「でもブッフェか。時間かかるな。神夜さん帰る時間大丈夫?」

「ちょっと無いかも」

「じゃ、ラーメンで、ちゃっと食べちゃおっか」





 結局ラーメンだった。





 その後、ラーメンを食べながら


無糖しお推し 1人


兎美ロゼ推し 1人


犬塚いちご推し 2人


の4人でラーメンを食べながらお互いのささやきクリニックのココスキを語り合った。


〜一部抜擢〜


「フウさんの、台風の目になるというか、ムードメーカーなところが好きなんですよね」

「「「わかる〜〜」」」


「ロゼお姉ちゃんの、声の抜ける感じが大好きなんだよ」

「「「わかる〜〜」」」


「しおさんって、結構何でも出来る大人びた印象だったんですけど、知っていくと思ったより子供っぽいところありますよね」

「そこがいいんだよ……」


「いちごさんのシャンプーの音いいよね」

「最近の動画で出してましたもんね。あと2人のお姫様の動画でもあったっけ?一緒にお風呂に入るんだけど……」

「えーとね……(ケータイを取り出す小豆さん)」




 そうして楽しい時間はあっという間に過ぎていき、小豆さんと神夜さんは帰路についた。

 ここで解散かなと思ったが、ジラチーノさんから素敵な提案が出される。


「じゃあ、せっかくだし何かしながら話そうか」


 そうしてジラチーノさんと2人で、ワンゲームだけビリヤードを始めた。

 初心者2人がやるワンゲームはとてつもなく長かったと言っておこう。



〜会話一部抜擢〜


「これで……こうか!(隣の台の上手い人のフォームを真似ながら)」

「こいつ、戦いの中で成長している!?」




「もしデートに行くなら、どこに行きたい?」

「水族館ですかね。夏は涼しいし、冬は寒くない。動物園だと夏はバテて動かないし、冬は寒くて動かないですしね」

「王道だよね。僕は一緒に服を買いに行きたい」

「あー、いいっすね!」

「そしてどんな服が好みなのかをさりげなく知りたい」

「あー!いいっすねぇ!!」




「無糖しおショット!!(スカッ)」

「名前騙ったのと、スカしたので二重に謝ったほうがいいっすよ」




「俺、ピンクダイアモンドって名前ですけど、1番好きな色は紫なんですよね」(しおさんのイメージカラーの紫の玉を落としながら)


「………あのピンクのいちごさん、ぜんぜんオトせないなぁ……」(執拗にピンクを狙うジラチーノさん)


「もしかして、紫落としたこと根に持ってます?」

「全然?」(ピンクを狙いながら)



「いや、狙って落とすつもりはなかったんですよ!たまたま偶然紫が落ちただけで!!」

「ほう、狙ってオトしたわけではなく、勝手に向こうからオチたと」

「めっちゃ根に持ってる!?!?」




 その後、中々落ちず(2人が下手すぎて)最後までひとつだけ残ったピンクを、ジラチーノさんが落として終わった。

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