第8話 火のある生活っていいよね
野菜(野草)の在庫を増やし、また魔物の肉をゲットした俺は拠点に戻ってきた。
裏の水路でチャチャッと解体を済まし自分の部屋に戻ってくる。
「しかし、殺風景な部屋だよな」
部屋にはベッドもキッチンも風呂もない。
ちょっと部屋を改造するか…
その前にアーク神様に報告しないとな。
事後報告だと怒られそうだし。
中央の部屋に行き、太陽の紋章に向かい報告する。
「魔法やスキルを頂きありがとうございます。あと、部屋を改造するのでそこんとこよろしくです」
感謝の言葉と部屋を改造する旨の報告をした俺は自分の部屋に戻る。
まず、ベッドを作ろう。
大体の位置を決め、土魔法発動!
ベッドはただの長方形の台のような形なので簡単に出来上がる。
椅子になる台と簡単なテーブルも作っておく。
次にキッチン兼ダイニングだ。
竈を二つイメージして作る。
頭の中で浮かんだ映像をイメージして修正しながら少しずつ形作っていく。
見た目はちょっと不格好かもしれないが上手くいったようだ。
そのうちの一つには五徳みたいなものをイメージして作って置いた。
地面には囲炉裏を作る。暖を取る手段にもなるしね。
竈の横には調理用の台や排水口を付けたシンクも作っておく。
煙対策で壁に穴を開け、竈からの煙が外へ流れるように壁から煙受けの庇を出し、そこからパイプのような形状で壁の穴までの誘導路を作る。
何とかなった。
以前、古民家を見学した事があって、古民家の構造だけでなく竈や囲炉裏などの使い方や仕組みを実体験で覚えたのが役に立ったな。本来なら囲炉裏は板敷きの部屋に設置するのだが地面でいいだろう。梁から吊り下げる道具は確か自在鉤だったっけ。この部屋には梁がないので後で何か工夫しよう。
最後は風呂だな。
クリーンの魔法で身体も衣服も清潔に保てるが、やっぱり風呂は必要だよな。
外で露天風呂タイプも考えたが寒いと行くのが面倒だし。
やっぱりこの部屋に作るか。
部屋の片隅に簡単な壁を作り間仕切りのようにしていく。
その内側に寝っ転がれるタイプの浴槽を作っていく。
その横に簡易的な窯を作り浴槽と繋ぐ。
ここが一番面倒臭いが何とかなった。
窯の煙対策も施し、浴槽の底に穴を開け栓で蓋が出来るようにする。
栓から出た水は排水路を作って建物の外に流れるようにした。
焼いた石を直接浴槽の水の中にぶっ込む方法も考えたが、それだと後処理が面倒臭そうなので止めた。
脱衣所のスペースも作り風呂場と仕切る。
どうせ誰も覗かないだろうが様式美ってやつさ!
「完成したな!」
だが、残念ながら今の俺には火を起こす手段がないのだった。
さて、とりあえず飯の準備だ。
その前に、鍋や皿を用意しないとな。
造形スキルを使って土鍋や平皿などの食器を作っていく。
どういう仕組みで空間に物質が生まれるのかわからないが、これがファンタジーというやつなのだろう。
「そうだ、まな板と箸も必要だな」
形と長さが手頃そうな倒木と枝を用意する。
倒木を薪を割る要領で手斧で割って平たい板にする。
ここでも造形スキルがお仕事をしてまな板の面が滑らかに仕上がる。
これで簡易まな板の完成だ。
「あっ! 斧術のスキルを獲得した」
箸はナイフを使い、枝の先端が細くなるように削っていく。
難なく箸も出来た。
完成した土鍋を竈に備え付け水筒から水を出し入れていく。
次は火起こしだ。
昨日集めた枯れ木の枝を持ってくる。
竈の下に放り込む。
乾いた倒木を手斧で二つに割りさっきのまな板作りの要領で平面の部分を作る。
その板を足で挟み固定して、両手には真っ直ぐな棒状の枝を持つ。
そう、原始的だが棒をくるくる回して火を起こす方法だ。
両手で棒を挟み、板に押し付け回転させていく。
摩擦熱で板が少し黒ずんでくるが、慣れない作業でなかなか火が起きそうにない。
くっそ! 面倒だし魔法で火が付けられたらな!
ハイハイハイハイ、知識が降りて来ましたよー。
俺は《火魔法》を獲得したのであった。
早速一番簡単なファイアの魔法を使ってみる。
揺らっとした炎ではなく、魔力を絞ってバーナーみたいな火をイメージする。
指先からトーチバーナーから出てくるような真っ直ぐな火が出てきた。
「よし、成功だ」
枯れ枝に火をつけると勢いよく燃えだした。
竈でゆらゆらと揺れる炎を見るとなぜか心が落ち着く。
火のある生活っていいよね。
少し太めの枝を放り込むと火が安定してきた。
調理に火が使えると使えないでは全く違ってくるもんな。
こうして俺の異世界生活は待望の火を手にしたのだった。
火にかけた鍋の水が沸くまで風呂の準備をする。
やっぱり日本人といえば風呂でしょ!
火魔法のおかげで風呂に入れるぞ。
風呂場に行き、水筒の水を浴槽に入れる。
この水筒はかなりの水が入るので凄く便利だ。
およそ200リットル程の水を浴槽に入れて窯に火をつける準備をする。
薪になるような枯れ枝と倒木を持ってくる。
その場で手斧を持ち、倒木や枯れ枝を丁度良い大きさに揃えていく。
この手斧の切れ味も素晴らしく、木目お構いなしにズバンズバンと切れていく。
ある程度の量を確保したら窯に小さな枝を放り込んでさっきと同じ要領で火を付ける。
沸かし過ぎないように火力は小さめにした。
楽しみだな。
後は風呂が沸くまで食事の準備に戻ることにする。
外で平べったい石を探して竈の五徳にセットする。
俺が作ろうとしてるのは野菜炒めだ。
石が焼けてきたのを見計らって小松菜のような野菜を上に置く。
箸でかき混ぜながら塩胡椒を振り、最後にちょっとだけ醤油を垂らす。
お手軽野菜炒めの完成だ。
極めて簡単だが、この世界で初めて料理らしいものを作ったな。
次にメインとなる肉だ。
解体した魔物の肉を取り出し適当な大きさに切っていく。
軽く塩と胡椒を振って切った肉を枝に刺して串焼きの形に整えていく。
さっき作った小ぶりの囲炉裏に竈から火が付いている薪を取り出し置いていく。
まだ囲炉裏の中には灰がないので土魔法で串を刺す台を作り肉の刺さった串をセットする。
暫くすると肉の表面から『ジュージュー』という音がして肉汁と脂が落ちてくる。
旨そうな匂いが辺りに立ち込めてくる。
思わず涎が垂れそうだ!
全部の面が均等に焼けるように串の位置を変えながら回していく。
「早く焼けないかな!」
期待に胸を弾ませながら焼け上がるのを待つ。
その間に風呂の窯へ薪を追加して火の強さを調節しておく。
「そろそろ頃合いかな」
そう判断した俺は囲炉裏から串に刺さった肉を取り出し平皿の上に置く。
「あー、我慢出来ない!」
「いただきます!」
串を手に持ち肉にかぶりつく。
「旨えっ!」
肉は固くなく、丁度良い焼き加減だ。
後は無言で黙々と食べていく。
一つの串焼きを食べ終わった俺はまさに至福の瞬間だ。
水筒の水を飲み一息つく。
野菜炒めも食べる。
この世界で普通っぽい料理が食べられる事に顔が自然と綻ぶ。
「そうだ、キノコも焼いてみよう」
一本の串に何個もキノコを刺し、これも焼いていく。
焼け上がったきのこを野菜炒めで残った汁に付けかぶりつく。
「熱っ! だけど旨っ!」
これも旨い。
明日の朝食と昼食用に余分に肉を焼き、野菜炒めも少し残してマジックバッグに収納しておく。
その後、もう一本串焼きの肉を食べた俺は大満足の食事を終えたのだった。
暫くの間、余韻にふける。
「あっ、火の処理と皿を洗っておかないと…」
こういうところは割と几帳面な俺だった。
皿をクリーンの魔法で洗って片付けた俺は、火の処理をして椅子に一旦座る。
「そういえば風呂は沸いたかな?」
立ち上がり、風呂場まで歩いていく。
「おっ、沸いてる」
見たところ、ちょっと熱そうなので窯の中の薪を取り出し脇に除ける。
試しにお湯の中に指先をちょっと付けてみたがかなりの熱さだ。
水魔法で出した水で埋めて丁度良い湯加減に調整する。
脱衣所で服を脱ぎ、待望の入浴タイムだ!
そろそろっと浴槽のお湯の中に足から入っていき、次第に身体も浴槽の中に沈めていく。
「うううう!」
思わず声が漏れる。
「はぁあああ!」
至福の喜びについ大きな溜め息が出る。
「異世界で早速風呂に入れるなんてな…」
両手でお湯を掬い顔を洗う。
「余は満足じゃあ!」
俺はお殿様かよ!
足を伸ばしてゆったりと浴槽に浸かり目を閉じる。
今日も一日色々とあったな。
風呂から上がって栓を外してお湯を抜き、自室に戻った俺は裸のまま火照った身体をクールダウンさせる。
今日は食事らしい食事も出来たし、満足の一日だった。
そして《調理》スキルも獲得していた。
落ち着いてきたら眠気が襲ってきたのでベッドに向かう。
短パンのパンツを履いて横になる。
神様に「おやすみなさい」の挨拶をして暫くしたら俺はいつの間にか眠りに落ちていたのだった。
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