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06  お兄ちゃんも

その時は突然きた。



葵はずっとカイルに会ってみたいと思っていた。

蘭が言うには、容姿はまんま王子様らしい。

頭の中で王子様を想像するが、葵はついつい星の王子様のあの本のイラストを思い出してしまう。


弟が欲しかった葵は、自分に似ていたらいいなと期待してしまう。


今カイルの宿題の答え合わせをしたところだ。後の解説をしたいのだが、蘭が1階の和室に行ったまま戻ってこない。


葵は壁に向かって、多分壁の向こうで待っているだろうカイルに、言っておいた方がいいだろうと、状況を報告する。


「カイル君、蘭が部屋に戻って来ないんだ。ごめんね。もうちょっと待っててね」

白い壁にぶつぶつ言うのは、恥ずかしい。


「カイル君、俺ずっと弟が欲しかったんだよね。あっ、勿論蘭も素直で、妹で良かったと思ってるよ。でもさぁ、友達が弟と喧嘩したって話をすると、逆に羨ましいなーて思ってったんだ。俺には見えないけど、今、カイル君が弟みたいに思えるんだよね。嫌じゃなかったら、俺の弟になってよ」


相手が見えないと、表情がわからないから不安で、ついつい長く語ってしまった。

そう葵が反省してたら、蘭が毛布を抱えて部屋に入ってきた。


「家にある毛布で、一番もふもふしてるのを持ってきた・・って、お兄ちゃん! カイルに酷い事言ったの?」


「え? 俺酷いことなんか・・」


「カイル! どうしたの? 何で泣いてるの?」


葵はさっき自分が、カイルに言った言葉を思い返していた。

(弟なんて嫌だった?)


「ご、ごめん。俺が勝手に弟なんて言ったから! なんか近くにいるって思ったら、もっと仲良くなりたかったっていうか・・無理強いしてごめん」


壁の向こうの葵が、必死に謝っている。

「弟になって欲しい」と顔を赤くして言ってくれた葵に、嬉しくてカイルの胸が、ぶわっとあったかい物に包まれた。


なんか嬉しくて、嬉しいって伝えたくて、蘭が呼んでるみたいに、声に出して「お兄ちゃん」って言ってみたら、涙が溢れた。


そんな時、蘭が部屋に戻って来てカイルを見たものだから、訳も分からず葵を責めた。


「ごめんね、無理強いして」と葵も謝っている。

カイルは堪らなくなって、壁を叩きながら、

「違う、違うんだ! 蘭! 聞いて! 葵に伝えて。僕も弟になりたい」

そう叫んだ時、壁がパーンと、シャボン玉が弾けた様な、透明な何かが小さい粒みたいになって消えていく。



蘭と葵は倒れたまま、動けずにいた。

葵は特に体の上に感じる、温かいのを受け止めていた。


ハッと状況確認すべく、体を起こす。

蘭の部屋に、蘭と葵と、そしてカイルがいる。


「カイル?」葵が声をかける。

「はい」


「・・・ウォーーー」葵が叫ぶ。


ポカンとしていた蘭も、漸く状況が分かり、そっとカイルの頭を撫で、肩を撫で・・抱きついた。

本物だ。

「カイルー! 嬉しいよー」


カイルは思考が追い付かず、茫然自失だったが、蘭の手の温もりが頭、肩に感じ、全身に感じた時、漸く理解出来た。

それを確かめるように、カイルも蘭に抱きついた。


暫くしたらカイルが、蘭の澄んだ空気の部屋に、自分が凄く臭いんじゃないかと気になった。


抱きついてる蘭に、オズオズと問う。

「あの、僕汚いかも・・」


「そんなの、カイルに抱きつける嬉しさに比べたら、気になんない」

蘭はもう一度ギュッと抱き締める。

「じゃあ、俺も気になんない。めっちゃ、嬉しいー」

葵もそう言って、カイルに抱きついてる蘭ごと、抱きついた。


「キャー、サイコー」

大声を上げる蘭に、葵が怒る。

「耳元で大声出すなー」


かなりドタバタしてたのだろう、

百合が怒りながら階段を上がって来た。

ドアを開けると同時に、怒る。

「何を騒いでい・・る・」


でも、見るからに近所の子供ではない男の子が、蘭と葵に挟まれて笑い泣きしている。


「え? え? え? カイル?」


「はい、カイルです」

恥ずかしげに名前を言う男の子。


「キャー、ウソー、嬉しいー」

百合も叫びながら、その抱きつき団子に加わった。


「キャー、会いたかったわー 蘭が言う通り王子様だわー」


「だから、言ってたでしょ。あーでも、近くで見たらもっと王子様ー」


キャーキャー言ってる女子に、スーッと冷めたのは葵だった。

冷静になった彼は、もぞもぞ動きだし自由になった手をパンと叩く。


「さぁ、嬉しいのは分かるけど、カイルがクタってなってる事に気付こうね。それから、まだカイルの足に鎖が繋がってるから外さないと。その後、お風呂に入るから蘭はお風呂のお湯を溜めてきて。お母さんはカイルの着替えと、ご飯の用意ねー」


小隊長の様にてきぱき指示を出す葵。一斉に動き出したので、カイルが蘭の部屋に一人っきりになった。

壁を見ると、さっきまでいた薄暗い部屋がある。

戻りたくないと強く願う。


今、壁はどうなっているんだろうと気になったカイルは、壁に手を恐る恐る手を伸ばす。


その時、ガチャッとドアが開いて蘭が入ってきた。

蘭が、ハーハーと肩で息をしている。

「蘭、どうしたの?」


「私がいない間に、カイルが戻ってしまう様な気がして、お風呂の用意とお母さんに頼まれたバスタオルをお風呂場に持っていくのを走ってやったから・・」


「ありがとう」

カイルは蘭の一生懸命さが嬉しかった。


続いて、葵も戻ってきた。

重そうな道具箱を持ってきた。

「カイル、ちょっと待ってね」

葵は道具箱から、次々道具を取り出して、並べていく。


「探してるのが、一番下にある」

トンカチやペンチ、水平器。

「誰も片付けないからー」

葵がぶつぶつ言いながら道具を出していく。それを珍しそうにカイルは見ていた。


「あった」

ボルトクリッパーを手にした葵は鎖を挟んで、ぐっと力を込めて握る。


ガチッ


先ずは鎖を切る。これで自由に動き回れるが、足枷を何とか外したい。鎖より頑丈そうな南京錠に似た鍵がつけられている。


「これはこのボルトクリッパーじゃあ切れないかも」

うーんと悩んでいると、蘭が思い出したっとばかりにパッとカイルの顔を見て言う。


「カイルの魔法で、外せるんじゃないの?」


「「うん?」」

カイルと葵が顔を見合せた。


「無理、無理だよ。だって魔法使えないし」

カイルは首のチョーカーを、指差す。


蘭がチョーカーを、触ろうとしたらカイルが全力で止める。

「触ったらビリビリして数分は痛い思いをするよ」


「でも、さっき抱きついた時、私触ってたよ」

「あ、そう言えば俺も触ってた」

蘭と葵がそうそうと頷きあう。


葵がチョーカーに触る。

やはり、何も起こらない。

「じゃあ、大丈夫。先にこれを外そう。チョーカーは細い鎖だから、普通のニッパーで十分だ」

パチッ

カイルの白い首から、黒いチョーカーがあっさり外れた。


「ここがスースーして気持ちいい」

カイルが自分の首を擦る。


「よし、カイル。足のを外せるか、やってみて」

葵と蘭は目を輝かせて、待っている。

「お兄ちゃん、魔法だよ?」

「うん、分かってるよ。ちょっとドキドキするよな」


二人が見守ってる中、カイルが足に手を翳す。


「サイル」

カイルが呟くと、青い光と共に足枷が外れた。


「「オオーー」」

凄い凄いと二人が大騒ぎしていると、階段下から百合が呼ぶ。


「お風呂沸いたから、葵とカイル、一緒に入りなさーい」


「はーい」

葵が返事した後、カイルに向いて

「よし、一緒に入ろ!」

と、ちょっとの恥ずかしさを振り払うように、にかっと笑った。


お風呂は何から何まで、不思議な物で溢れていた。

カイルはいい香りのするシャンプーで2回目の洗髪し、さっき使ったどんどん温かいお湯が出てくるシャワーで髪の毛を濯いだ。


顔、体、髪の毛を洗う毎に、洗顔クリーム、ボディソープ、シャンプーと変わるのだ。

髪の毛を洗い終わったらすぐに、コンディショナーという、髪の毛をサラサラにするのも使う。


すっかり綺麗になったら浴槽に浸かる。

「ちょっとお湯が冷めたね」

葵がボタンを押すと、「追い焚きをします」という声が聞こえる。


カイルは慌てて声の主を探す。

「カイル、違うんだ。今のは音声案内で、機械で録音したのが流れてるから、人はいないよ」


「そうなんだ」

と返事はしたものの、仕組みはわからない。しかも、勝手に熱いお湯が増えていく。

かなり高等魔法が使える人がいるはずだと聞くと、また、「魔法じゃないょ」と言われカイルは困惑した。


二人の間に、沈黙の時間が流れた時葵が急に「ごめんね」と言った。

なんの事かな?と言う顔付きで葵を見る。


「弟になって欲しいって言って、ごめんね」


「違うんだ、僕、嬉しすぎて泣いてたンだ。言われた時、弟になりたいって思ってた」


「ホントに?」


「うん」


「じゃ、これからは俺、カイルのお兄ちゃんな!」

葵は期待を込めた顔で、カイルから呼ばれるのを待った。


「葵お兄さん」


「いやいや、お兄ちゃんまたは兄ちゃんで、よろしく」


「えーと、じゃあ、お兄ちゃん」


「おう、カイル」




お風呂から出てきた二人は、顔が真っ赤で茹で蛸寸前だった。


「二人とも長湯し過ぎよー」

すっかり夕御飯の支度を終えた百合が、ぶーぶー文句を言ってくる。


「あー、カイル。ちゃんと髪の毛拭かないとー」

蘭が嬉しそうに世話を焼く。

モシャモシャとタオルで拭いて、顔を見る。


間近で見ると、王子様度が格段にアップする。


「お母さん、私、今日のご飯何杯でも食べれそう」

蘭の視点のずれた意見に、皆が笑った。

「なんじゃそれ」


百合の作ったご飯は、今までも美味しかったが今日は格別だった。


4人で料理を囲んでご飯を食べる。本当に何杯でも食べれそうだとカイルは思った。


葵が、またカイルが戻ってしまった場合の対策を考えたい、と言うので夜遅くまで話し合った。


チョーカーはもう何の効果もないように細工し、つけ外しが出来るように改善した。


鎖や拘束具も取り外しが出来て、大きさの調整が出来るようにこれも改良した。


夜、カイルが不安にならないように皆で和室に布団を並べて寝ることにした。


固いベッドではなく、ふわふわの布団に潜り込んだカイルは、気持ち良さに長い息を吐いた。

布団は気持ち良かったが、カイルは寝てしまうのが怖かった。


明日また、暗い部屋で寝ていたらどうしよう。


しかし、次第にカイルの瞼が重くなってきた。












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