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14.惨劇のあと

手持ちの金が足りたことに安堵してタクシーを降りた玉城だが、

その場に車を待たせておけばよかったとすぐに後悔した。

振り返るとタクシーのテールランプは街灯のまばらな暗い住宅地を折れ曲がって消えていった。

いや、何も急を要する事じゃないさ。

そう心の中でつぶやき、リクの家のドアに向き直った。


ザワザワと騒ぐのはケヤキの木の音なのか、自分の胸のざわつきなのか分からなかった。

そう言えばいつもそうだった。玉城は思う。

動植物のみならず、静物と呼べるものまでリクのまわりでは命を持ち、

リクの心に同調するようにざわめき、ささやく。

気持ちを表現する方法を身に付けることができなかった同胞を庇うように、つぶやく。


インターホンを無視して玄関ドアを引く。

やはり鍵など掛かっておらず、玉城はその空間に足を踏み入れた。


そして、金縛りに遭ったように動けなくなった。


相変わらず家具や生活用品の少ないガランとした部屋。

その壁や床、至る所が絵の具を塗りたくられたように赤く染まっていた。

それが血であることは玉城にもすぐ分かった。

分かったが、どういう状況なのか理解できない。


リクがいない。

その代わりにカーキ色のジャケットを着た大柄な男が、腰の辺りを押さえて何か呻いている。

それが須藤であることは近づかなくてもわかった。

まさに、それを恐れて玉城はここへ飛んできたのだから。

胃がギュッと軋む。


怪我をしてるのはこの男なのか?

恐る恐るうずくまっている須藤に近づき、覗き込む。

心臓が激しく打ち続ける。

須藤の横に鉄パイプが転がっているが、けれど出血はしていない。


この大量の血はリクのものなのだ。吐き気と腹立たしさが込み上げてきた。


「あの、クソガキが・・・・」

地響きのように割れたうめき声が足元からしたと思った瞬間、

うずくまっていた須藤がガバッと身を起こした。


一瞬ひるんだが、すぐに玉城はその男の肩を掴んで睨みつけた。

「あんたリクに何をした。何をしたんだよ!」

「うるさい!どけっ!」

脇腹を押さえながら、まるでハエを追い払うように玉城を振り払い立ち上がった須藤は

昼間会った人物とは思えないほど顔も性格も変貌していた。


「まだその辺にいるんだ。まだ、そのへんに・・」

「やめろ、いいかげんにしろよ!」

玉城は須藤のジャケットの裾をつかみ、後ろにグイと力一杯引っ張った。

須藤はその勢いで倒れ込んだが、反射的に肘で力一杯玉城のみぞおちを付いてきた。

いきなりの攻撃に玉城は咳き込み、一緒に倒れ込んだ。

なんとか体勢を整えて、同じく転がってきた須藤の上に馬乗りになったが、

喧嘩や格闘技とは無縁に生きてきた玉城だ。

その次にどうしていいか分からない。

鉄パイプは手の届かない所に転がって行ったし、須藤を縛るロープも無かった。

リクが気になるが動くこともできない。

下にいる男が再び暴れ出したらもう、どうすることもできない。

無情にもその思考のさなか、下の男はうめき声をあげて凄い力で玉城の体を持ち上げてきた。

玉城は床に投げ出され、半身を起こした須藤に血走った目で睨みつけられた。

万事休す。玉城は身を縮めた。



バン!、と、後方で大きな音が鳴り響いた。

須藤が先に視線をそちらに向けて身構えた。

ドスドスドスという足音。


玉城が振り向こうとした、ほんの一瞬。 

勝負はついた。


たくましい拳がブンと唸り、玉城を睨みつけていた鬼のような顔面を床に叩きつけた。

須藤はあっけなく突然入ってきた新参者に組み伏せられてしまったのだ。


「長谷川さん!」

玉城が感激の声を上げた。


「メール見たよ。あのバカはどこにいる?」

長谷川は須藤の腕を後ろに捻り上げ、さらに動きを封じながら玉城を見上げた。

無駄な言葉も動きも一切排除したその強くたくましいジャンヌダルクに、改めて玉城は惚れ惚れした。


「分かりません。僕も今来たばかりで・・」

「探して。早く!」

「は、はいっ!」


弾けるように玉城は外に飛び出した。



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