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幼馴染がDVクズ男に殴られてるみたいなので奪い取ります

作者: 柏木ユウマ

題名実は少し考えたことあって、奪い取る物語なんだよねぇ

「お前さ、暑くないの?」

夏真っ盛りの8月15日。高校も夏休みだ。

俺は幼馴染と公園に遊びにきていた。

気温も30度くらいあった気がする。

だというのにコイツは長ズボンと長袖で来た。

バドミントンするのに動きづらいだろ。

木陰にあるベンチに座る。

人一人分。それが今の俺とコイツの距離だ。

別に仲が悪い訳でもない、久しぶりに話した訳でもない。ただ俺は男でコイツには彼氏が居るってだけだ。


「……」

返答に困ってる幼馴染。

間違えたのか?もしくは。

「日焼けとか?」

「あ、そうそう!日焼け止め面倒くさかったって言うかー」

う〜ん、違そうだけど。


「まぁ、いいや」

そう言って時々水を飲みながらただボーッとしている。

蝉の声とか、時々吹く風に涼しさを感じるこういう時間が俺は嫌いじゃない。好きでもないけど。


「こんな天気の良い日だってのに誰も公園で遊んでねぇんだな。まだ、高校生で若いはずなのにジェネレーションギャップを感じる」


「そうだね、昔、って言ったら年老いたみたいで嫌だけど小学生の頃は宿題もせず朝から夕方まで遊んでたよね」


「そうそう、夕方5時には帰ってこいってな。定時かよ」


「あはは、そうだね。会社員は帰りたい時間だけど、子供にとっては帰りたくない時間だよね」


「そうだったな。今、青春真っ盛りでそんな過去を懐かしむような時期じゃないはずなのにな」別に遊具なんて半分のタイヤがあるだけの何もない公園。

でも、確かにここには小さい頃の思い出があって。ここに来ると不思議と思い出す。


「アンタは若年寄りみたいなとこ前からあったけどね」

あの老中を補佐する奴?それは幕府の役職か。


「う〜ん、そうかもな。嫌なこった」

歳をとるってのは不幸で退屈で理不尽な日常に慣れるってことだ。

小難しい奴なんて面倒くさいだけだし。


静寂が場を支配する。

目を閉じて耳を澄ます。

まぁ、虫の声しか聞こえねぇけど。

蝉も多いと風情っていうよりうるさい。

たまにだから良いんだ夏の間ずっと鳴いてちゃ嫌になってくる。

もうちょい風が吹いてくれりゃあ風のさざめきみたいなのももっと聴こえるんだがな。

今は時々、聴こえるぐらいだ。

蝉の声を意識から追いやっていくと聞こえてくるミシミシという太陽光がアスフェルトを焼く音。こういうのを夏の音っていうのか。

瞼を透けて入ってくる、赤い光。

目を瞑っても見ているのは瞼の裏側何だってのを突き付けられる。

実際のところ光が入ってこなければ目は休まるんだろうがな、休んでない気がする。

体の機関に定時もクソもないな。

自然と匂ってくる自然の香り、木だとか花だとか、色んなものが空気で中和された匂い。

鼻がいいとか匂いに詳しいとかなくたって夏の匂いってのは肌で感じられる。


「清少納言も言ってたけど夏は夜だな。昼は暑い。清少納言の頃はこんな暑く無かったんだろうけど」


「あれ?夏が夜何だっけ?秋かと思ってた」


「お前…。覚えとけよそれぐらい。秋は夕暮れだったかな」

秋は空が高いからなぁ、赤が雲に映って綺麗だ。

真夏の太陽と同じくらい青春を感じる。試合が終わった後の物悲しさの具現化みたいだ。


「あのさ?バドミントンしないの?」

ラケットを持ち聞いてくる。


「お前がしたいなら」


「うん」


「分かった」

そう言って俺は立ち上がった。

木に引っかからないよう少し離れた位置で向かい合う。


「眩しっ!」

高くあがったシャトルを打とうとして目を閉じる。

適当に振ったラケットは勿論空振り。


「あはは、太陽への耐性下がってんじゃないの?家にばっかりるからさ」


「耐性って何だよ。太陽は眩しいの、直視するもんじゃねぇから」

そう言って俺もシャトルを高く飛ばす。


「あ、意地悪!」

ただ、丁度よく雲が太陽を隠す。


「ちえ、つまんねーの」


「ラッキー」

しばらく、打ち合う。

ただ、コイツ。

ずらしやがって、後ろに打ったり、横に打ったり、前に打ったり。

それを俺はしっかり真ん中の取りやすい位置に返す。


「あ」

幼馴染がミスってシャトルを掠る。


「お前、筋肉痛?」


「え?」


「ちょっと、休もうぜ」


「う、うん」

もう一度木陰に入り休憩する。

俺がつまらないと感じて辞めたと思ったのか下を向く幼馴染。


「あ、普通にお前が振り回しすぎて疲れただけだからな、気にすんな」


「それはフォローなの?」

苦笑する幼馴染。

結局、コイツが悪いってことになってるからな。


「最近どう?」


「最近って?」


「う〜ん、確かに、知らない訳じゃないからな。彼氏のこととか?」


「っ、そ、それ聞いちゃうか〜」


「うん」


「まぁ、上手くやってるよ」

そう言って幼馴染は悲しく笑った。

何で、そんな顔するかな〜。

言いづらいことがあるのか。少なくとも上手くやってないな。

嘘をつくときの耳たぶを摘む動作、直ってないんだな。

それだけならいずれ別れるんだろうなで良かった。

なのに、コイツは悲しく笑いやがって。

嫌なもんだ、美少女の悲しげな笑顔ってのはどんな景色にも似合いやがる。

俺は見たくなんてないってのによ。

誰だよ、俺の幼馴染にこんな顔させたのは?


「お前さ、何でそんな肌隠してるの?」


「いや、それはだから日焼けするから…」


「今、影にいるんだからさ。袖、捲ってみてよ」


「え、いや、それは」

「何か出来ない理由ある?」


「そ、それは私彼氏いるんだよ」

「そしたら半袖で町歩いてるやつは何なんだよw」


「そ、それは…」

言葉に詰まる幼馴染。

見せられないってだけでも分かることはある。

痣か?怪我か、う〜ん。

病気って線もあるがそれなら普通に相談してくれるだろ。

彼氏関連、DV説が高いな。

そもそも、おかしいと思ったんだよな。

彼氏が出来てすぐは少し連絡とか会う機会も減った。

高校なら普通に顔合わせるけど。


「二人きりで何の用事も何の記念でも、何かが終わったわけでもない。なのにいきなり会おう、と。まぁ、あり得るっちゃあり得るけどさ〜。用事、或いは相談があるって方が自然なんだよな。今までのお前から考えてな」


「そ、そうかな?」


「うん、お前さ、腕怪我してんの?」


「え?」


「バドミントンのとき痛かったんだろ」


「…」


「殴られた痣とか?」


「いや、転んだだけだよ」


「嘘付くな、前、電話したことあったよな。ビデオ通話あのとき、お前目元赤くなってたぞ。泣いてたんだろ。何か感動系の物語とかみたのかと思ったがそれなら話題としてだすよな?そうじゃなかった話辛いでも、そのままでも辛かっただからでんわをかけてきたんだろ?」


「いや、それは」

言い淀む幼馴染。


「もういいや、追い詰めるみたいでやだし。お前は彼氏にDVされてる。見てれば分かるさ、12年以上幼馴染してるんだぜ?そんな奴、訴えちまえば良いだろ」


「で、でも良い人何だよ」


「良い人な訳ないだろ。殴ってる時点でそいつはクズだよ」


「でも、私にも悪いとこはあって!」


「じゃあ悪いことしたやつがいたらお前は殴るのか?」


「そ、それは」

小刻みに震える幼馴染の体。

あぁ、この震えを上手く止めれるような器用さが俺にあったらな。


「お前さ、恋愛小説とか好きだったよな?」

諭すように出来るだけ優しい口調で言う。

「お前が夢見た恋愛ってそんなのか?女の子を殴る何てサイテーって前小説のキャラに対して怒ってただろ」


「う、うん」

唇を噛み締める幼馴染。

DVされる怖さとかその精神的支配がどんなものなのか俺には分からない。

ただ、こんなに俺の幼馴染を苦しめていることが許せなかった。

コイツのクズ彼氏も、どうすれば良いか今も迷ってる自分に腹が立ってくる。


「お前は今日、辛くてでもどうすれば良いか分からなくて気付いて欲しくて今日俺を遊びに誘ったんだろ」


「うん」

ついに幼馴染は泣き出した。


「ごめん、迷惑ばっか掛けて、彼氏が出来て少し疎遠になっちゃったのに困ったら都合良く助けて何ておかしいよね。本当に言うつもりはなかったのでも、何処かで気付いてくれたらって、期待して…」

泣きじゃくる幼馴染。

俺はその独白をゆっくり頷きながら聞き入れた。


「俺はお前の幼馴染だ。半分家族みたいなもんだ。都合良く使ってくれて良いさ」

俺はそう言って笑った。


「あはは、そうだね」

幼馴染も泣いてガラガラになった声で笑った。

幼馴染が落ち着くまで傾いてきた日を眺めながら待つ。

どこかの木々から鳥が飛び立っていったところで俺は話しかけた。


「そいつを今日ここに呼んでくれ」


「え?」


「話を付ける」

目を見て俺は有無を言わさぬ口調で言った。


「わ、分かった」


「うん、それじゃあ帰ろっか」

俺は足で勢いをつけ立ち上がる。


「送るよ」


「いや、大丈夫だよ、そんな」


「途中で彼氏にあっても困るだろ?」

今の状態で彼氏にコイツを会わせたくない。


「…それじゃあ」

それを聞いて俺は幼馴染の家へと歩きだした。



「それじゃあ、彼氏が来ても入れんなよ」

特に何事も無く幼馴染の家に着く。

懸念してた彼氏と遭遇、何てことも無かった。


「わ、分かった」


「あ、あの公園に行くよう連絡もよろしく。来る時間とかが分かったら連絡してくれ」

そう言うと俺は自分の家へ帰って行った。



家について30分ほどすると連絡が来た。

『8時に公園に行くってさ。遅い時間だけど大丈夫?」

暗くても、問題ない筈だ。

むしろ、好都合かも知れない。


『大丈夫』

それだけ返してホーム画面に戻す。

現在7時20分。

少し、暇だな。


「はぁ」

自分のベッドに寝転がり考える。

どうしてこんなことになったかな〜。

気付いてあげれなかったかな。

彼氏が出来て、もう俺が気をつけなくても良いなんて思ってた。少しは相手について調べとくべきだったかな。


「何それ、ストーカーかよ」

自分で自分の考えを笑う。

幼馴染の範囲じゃないな。

10分ほど目を閉じ思考を巡らす。


「よし、行こう」

せめてだアイツが不幸になんないように。







「たっく、何だよ。こんな時間に変な場所に呼びやがって」

別に相手は時間の指定をしておらず自分が遊ぶために逆に時間を遅らせたことはもう彼の頭にはない。ただ、面倒臭いことに対する苛立ちが募っていた。

いざ着いてみると公園には幾つかの街灯とその下には一人の青年しか立って居なかった。


「遅れてんのか?あの〜、すいません。高校生ぐらいの女子見かけませんでした?」


「ホントに上っ面だけのクズだな」


「あ?」








幼馴染の彼氏は予定より10分ほど遅れてきた。

ただ、幼馴染がいないもんで顔だけはすまなそうにして俺にみかけたかを聞いてきた。


「あ?」


「アイツなら来ないよ。お前にようがあるのは俺」


「は?誰だよ。お前」

そうか、俺の方からコイツを見かけたことはあるが面識はなかったな。


「アイツの幼馴染」


「は?幼馴染が俺に何のよう?最初から文句つけてきてなんのつもり?」

俺を高校生だかと下に見て、いや、コイツの場合大抵のやつにはこんな態度取りそうだな。

威圧的に話す、幼馴染の彼氏。


「俺だったらこんな時間に公園に彼女を待たせないけどね。何なら迎えに行く」


「はぁ?だから何なんだよ!」

早くも頭に血が昇ってやがる。

てか、良く見たら少し酔ってんじゃねぇか。

酒の匂いが少しする。

彼女を公園に待たせ飲むとかありえねぇだろ。


「別れろよ、そんで2度とアイツの、前に現れるな」


「は?何言ってのお前」


「もう一度言わないと分からねぇのか?別れろっつてんだよ、そんで2度とアイツの前に現れるなこのドクズ野郎!」


「ッテンメェ」

拳を振りかぶる幼馴染の彼氏。

思ったよか早く手が出たな。

振り下ろされる拳を腕でガードする。


「さっきから聞いてりゃ好き勝手言ってくれんじゃん。俺が何だって?」


「何回でも言ってやるよ、このドクズ野郎」

ドン、ともう一度殴られる。


「まだ殴られ足りねぇみたいだな?早いうちに取り消した方が良いぞ」


「てぇめぇの脳みそシワ足りてねぇんじゃねぇか?それにそんなにカッカしてると血圧上がるぞ?猿みたいに顔赤くしてんじゃねぇよ」


「テメェ!」

さらに殴られる。


「ったく、馬鹿は短絡的で困る。こんな風にアイツのことを殴ってたのかと思うと吐き気がするぜ。選択肢が少なすぎだろ昔のRPGのが選択肢多いぜ、頭の容量少なすぎだろ」

さらに挑発するように嘲笑ってみせる。


「あー!完全に頭に来たもう許さねぇ泣いて謝るまでぶん殴る」

頭にきたって、なら今までのは何だったんだよ。殴るの早すぎだろ。


「100点満点の噛ませ犬なセリフをありがとう、頭悪すぎて定型分しか話せないんだな。NPCかよ」

ついに無言で殴りかかってくる。

4、5、6。

続けざまに殴ってる来るのをひたすら耐える。

腹に1発入り後ろに後退する。

手で膝と腰を押さえ、痛みに耐えていた。


「何で、お前アイツに近付いた」


「っは見た目は良かったからな、アクセサリに使えそうだと思い近付いたんだよ。ちょっと優しくしてやってなそのあと、仲間を襲わせたんだ。そしてそこを俺が助ける。そしたら直ぐに落ちたよ。恩を感じてそのあと何かあっても言いづらいだろうし丁度良かったんだ」

アイツが言い出しにくかったのはこれもあるのか。

本当にクズなことしかしないな。

最悪な奴だ。


「最初にむしゃくしゃして殴ったときのあの悲しみと驚きに満ちた顔、最高だったな。ストレス発散に丁度良いサンドバッグだったぜ。前は壊しちまったからな今回は気を付けたんだよ」

っつ、危うく手が出そうだった。

初めてじゃなかったのか…。

胸糞悪い、殴られた痛みとかとは関係ない吐き気がしてきた。

歪んだ顔が気持ち悪い、どうしたらこんな奴が生まれちまうんだ。


「人の人生を狂わせてんだぞ」


「あ?知らねぇよ」

唇を噛み締める。

もう、許して置けないな。

多分19歳以上だろう。

もう、少年法は適用されないな。


「お前はどうしようもない奴だな」

俺は諦めるようにそう呟いた。

そして腕を下げる。


「おいおい、どうした反撃してこないのかよ」

そう言って殴ってくるアイツの彼氏。

その拳を俺は左頬で受け止めた。

口が切れる。

俺は血を地面に吐き捨てた。


「お前が普通の奴でアイツを幸せにしてくれれば良かったのに」

俺はそう言って拳を強く握った。





遅い、もう8時から20分ほど経っている。

連絡はまだ来ない。

遅い、でも少しぐらい揉めているかも知れない。

まだ、焦るような時間じゃない。


「だよね?」

揉める、少しで済む?

あの人はお酒が入ると頭に血が昇りやすくなる。

もしかしたら。

そんな不安が押し寄せる。

毛布を抱きしめている手を開く。

硬く結んでいた口を開く。


「行こう」

私は階段を駆け降り玄関に向かった。


「どこ行くのー?」


「ちょっと公園に忘れ物した気がするからー」


「ご飯はー?」


「すぐ帰るから!」

そう言って私は外に駆け出した。

相手は大学生だ、もしかしたら。


公園に着いてすぐに見えた。


“幼馴染が一方的に殴られている姿が”







「何だよくんのか?ビビり君?」

俺が初めて拳を握ったのに反応し嘲笑うように言う幼馴染の彼氏。

俺は強く、握った両手をズボンのポケットに入れた。


「俺は、殴らないよ。それは殴るという行為を認めることになるからね。アイツを悲しませた行為を俺は否定する」

これは決意で、覚悟だ。


「はぁ?じゃあ殴らせて貰うぜ」

ただ、拳を耐える。

拳が一旦止まったとこで、屈んで痛みに耐える。


「……………」


「あ?何つってんだ?」


「別に、何でもないさ」

もう一度立ち上がる。


拳で語れるほど俺もコイツも純粋じゃない。

残念ながら俺はコイツの救い方を知らない。

精々、償って貰おう。

今はただ、殴られる。


俺は手でガードをすることもせず、両手をポケットに突っ込む。









「どうして」

泣きそうだった。

何で殴られ続けてるの?

抵抗しないの?

逃げ出さないの?

私のためにそんなにする必要ないのに。

迷惑かけてばっかなのに。

私の幼馴染は優しい。

泣かないように噛み締めていた唇を開き。

荒くなる息を抑え込むように息を大きく吸う。


「やめてぇぇえええ!」







いきなり、大きな声が聞こえ俺も幼馴染の彼氏も声の方に振り向く。

「何で、アイツ!」

こんな時間にしかもここに一人で来るなよ。

あんなに泣いてやがる、方法ミスったかもな。

俺がそんなことを考えていると

「丁度良いところに来たじゃん」

と幼馴染の彼氏が笑った。


「コイツさ、俺は殴らないだの何だのカッコつけてんだよwアイツを悲しめた行為を否定するだってよwどうせビビりだろw」


「っ」

幼馴染の顔がさらに泣きそうに歪む。


「やめろ、お前!」


「うるせぇ、黙ってろ」

そう言って殴ってくる。


「あ」


「おい、コイツお前の幼馴染何だってな。別れろとかノコノコ言いに来て、無駄足ご苦労だぜ。おい、コイツをこれ以上殴られたくなかったら。私はあなたの彼女です。言うことは何でも聞きます。もうやめて下さいお願いしますって土下座しろよ」

コイツ何処までも、クソ野郎だな。


「お前は何を言うべきかちゃんと考えろ!お前はコイツに言ってやることがあんだろ!俺は大丈夫だ、信じろ!」


「お前は黙ってろ!」

そう言って追い討ちに蹴ってくる。

腹にもろにくらって転がったが関係ない。

今はアイツの時間だ。

アイツが選択しなきゃならない。

アイツが破らなくてはならない、拘束を、支配を。

こんなクソみたいなやつとの関係を。






私は、

目の前で転がる幼馴染、血もついてる。

相当に痛いだろうに。

ただ、私に幼馴染は私から一切目を離そうとしない。

あのクソ彼氏の嘲笑うような笑みが目に入る。


「私は、」

違う!

信用できるのは、信頼すべきなのは。

こんなになってまでのことを無駄にするのか?

ダメだ!


「私は、お前の彼女なんてやめる。このドクズ野郎!大っ嫌いだぁ!」

言ってやったと私が笑うと、幼馴染も良くやったとでも言いたげに笑った。








「と、言うわけだ。幼馴染の彼氏さん、いや?ただのドクズ野郎」

その言葉で少しの間呆気に取られていたドクズ野郎が顔をさらに真っ赤にさせていった。


「テメェ!」

幼馴染を後ろに庇いながら下がる。

後ろからスマホを操作する音。

そして通話が繋がる音。


「え、もう、その通報されてる?!」

少し、して後ろから驚きの声が上がった。


「あ?どう言うことだ?」

まだ、状況が分かってないドクズ野郎。


「ここってさ、子供の安全のためとかなんとかで監視カメラが設置されたんだよね。大して人気のないここに設置して意味があるのかはさておき今回は役に立った。街灯っていうか電灯か。電灯も増えてさ、お前が俺を一方的に殴ってるとこ映ってるよね」


「は?」


「さらに、ボイスレコーダー」

そう言って俺はスマホをポケットから取り出した。


「最初にお前が殴りまくって俺が膝と腰を押さえたタイミングアソコで録音を開始してたのさ。お前の自白とも言える言葉が入ってるってわけよ」

少しづつ青褪めてくるドクズ野郎。


「あ、あ、あ」


「そして、ポケットに手を突っ込んだあのタイミングで俺は警察に通報してる。注意力散漫だな。気付けないなんて、酔いすぎだぜ。自分に」

狙ったようなタイミングでパトカーがやってくる。

パトカーできたか、夜だしな。


「クソっ」

公園の木々が生えている方に逃げ出すドクズ野郎。


「あ、まぁ逃げてもなぁ」

後ろから警官が走ってやってくる。

もうすぐ、ドクズ野郎が闇に溶け込む、というタイミングで闇が動いた。

いや、あれは、フクロウか。


「うわぁ」

いきなり現れたフクロウに驚いてる間に警官が追いついてドクズ野郎の身柄を抑えた。


「あ、あれ。近所から逃げたフクロウじゃない?」


「あ、確かに」

何だか間抜けな結末に俺達は笑った。






ドクズ野郎はパトカーに入れられ連れて行かれた。

俺たちも事情聴取されないといけないところだがもう、時間も遅いし、俺の怪我もあって取り敢えず帰ることになった。


「送ってくよ」

警官達が去っていったあと俺は幼馴染に言った。


「うん」

しばらくして幼馴染が立ち止まる。


「どうした?」


「い、いや、何でもない」

そう言ってはいるが声は涙ぐみ目からも今にも涙が溢れ落ちそうだった。


「どうしたんだよ」

俺は苦笑しながら言った。


「違うの、これは。違うの」


「いいよ、それは俺が殴られてて悲しいとか、可哀想とか自分のせいでとかそういう涙じゃないんでしょ?」


「っ、何でも分かるんだね」


「幼馴染だから、良いんだよ。好きだった奴のことを嫌いになるのも失恋何だから。失恋で泣くのは当たり前だろ?」


「うぅ、」

静かに、幼馴染は泣いた。

そんな幼馴染の頭を俺はゆっくり優しく撫でた。

ただひたすらに緩やかな暖かい気持ちで。

少しして泣き止む。


「もう、大丈夫か?」


「うん、最初っからクズだったんだろうね。アイツは。もう忘れた」

そう言って前に走っていく幼馴染。

それを俺は微笑ましく思い見ていた。


「お前相変わらず男運悪いなぁ」


「確かにw」


「中学の頃変な奴に好かれた時も大変だった」


「あはは、あの時もそのごめん」


「気にしてねぇよ」

まぁ、俺もそんな男運が悪いお前が出会った男の一人なんだがな。

追いつこうと俺が早足で向かうと幼馴染が急に止まった。

そして、振り向く。


「おい、あぶな」

そこまで言って俺は次の言葉を繋げなかった。

唇が幼馴染の唇によって塞がれていたからだ。


「ふふふ、もう、信じる人を決めたんだ。気付いたのいつも助けてくれる人を。私を大事にしてくれて私も大事にしたい人。今は迷惑かけてばっかだけどちゃんと、迷惑かけないようにして相応しい幼馴染になるから。好きだよ」

悪戯な幼馴染の笑み。


幼馴染のキスは。

罪の味だな。


俺がボケーっとしていると

「あれ?ファーストキスだった?ご、ごめん」


「いんや、セカンドキスだ」


「そうなんだ」


「あぁお前は?」


「えぇ?聞いちゃう?違うよ」

少し驚いたあと苦々しげに言った。


「だよな」

少し、考え込む。

きっと言うべきなんだろうな。

何年越しの自白だろうか。


「ごめん、お前のファーストキス俺なんだわ」

俺はそう言って苦々しげに笑った。


「え?」

ただ困惑する幼馴染。


「引くと思うけどさ。昔、小学生の頃寝てるお前の唇に触れたことがあるんだよね。ごめん。勝手に、何か、気になって抑えきれなかった」

俺の自白にポカーンとする幼馴染は少ししてやっと理解し

「何それ、サイテーw」

そう言って晴々と笑った。


「ごめんって2度とそんなことしない」


「うん、お願いね」

そういう幼馴染の表情が心底愛おしく感じた。

美少女の悲しげな笑顔は確かに何にでも合うけど。晴々とした笑顔も何にでも合うなぁ。

今まで不幸にはしないようにしようと思ってた。

でも、もう腹を括るしかないのかもな。

幸せにしよう。

してみせよう。

幼馴染の隣に並んで歩く。


「お前ちょろすぎ」


「えぇ!?」


「えぇ!?じゃねぇよ。ちょろいのもこれで最後で頼むな」


「…うん、分かった」






「本当に大丈夫なのね?」

幼馴染の家まで行くと幼馴染のお母さんが慌てて出てきた。

警察からの連絡を聞いたのだろう。

まず幼馴染の無事を確認した後俺の姿を見て声をかけてきたってわけだ。


「はい、やってて良かった格闘術って感じですね」

実は俺、格闘術を習っていた時期があるのだ。大丈夫な殴られ方とかもそれなりにわかってる。


「ふふ、塾のCM?」


「あ、分かった?」

パクったのが幼馴染にはバレたしまった。

俺と幼馴染のやりとりを見て幼馴染のお母さんも微笑みを浮かべる。


「ありがとうね」


「はい、それじゃあ」

俺は手を振りながら幼馴染の家から離れて行った。


「さて、帰りますか」

俺は自分の家へと向かった。

メチャクチャ心配されてるだろうし怒られるんだろうなぁ。

まぁ、それもしょうがない。



あの後、あのドクズ野郎は防犯カメラの映像とレコーダーの音声で逮捕が決定した。

少年法が適用されなくて残念だったな。

それと前の彼女。ドクズ野郎が壊れたと言った女の人(自殺したらしい)の遺族からも訴えられているらしい。あの音声は証拠の一つになるかもな。

勿論大学は退学処分。

ただそれ以外に詳しくどうなったかは俺は聞いていない。

幼馴染も同じだろう。


「う〜ん、自業自得なのかな〜」


「うん、そうでしょ」


「だな、救えない奴なんて居ないと思ってたけど救い方が俺には分からなかったなぁ」


「もう、手遅れではあったよね。人の人生を狂わせたんだから。償いはしないと」


「そうだな」

また俺は公園で目を瞑り今度は夏から秋に移り変わっていく空気を感じていた。


「嫌なもんだなぁ」

それがあのドクズ野郎に対してのものだったのか、俺には救えない存在がいるということに対してのものだったのか俺はもう忘れてしまった。

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[良い点] 主人公が暴力でなくガンジースタイルで応戦した事 暴力はヒロインが受けた行為だから、暴力で行動を覆すのは正当性がなくなる、だから搦め手使ったのも納得しました
[一言] 昨今のSNSの普及を見ると警察に捕まった時点で個人情報晒されて出所してもまともな生活は出来なくなるんだけど、それと同時に失う物も無くなるから無敵の人になって逆恨みから復讐に走られたら本当に怖…
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