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28.デート・バイ・デイライト シーズン6

 俺、なにをやっているんだろう。意気揚々と自分語りをして、褒めてもらいたかったんだろうか。

 結果として、俺と似た境遇の先輩に、苦い思いをさせる結果になってしまった。

 身体がズンと重くなり、なにも言葉が見つからない。


 けれど、二人の間に沈黙が流れたのは、本当にわずかな時間だった。


「あ~、ホント恥ずかしい。年下のゴウくんが家族のためにすごく頑張ってるのに、わたしってば自分のことしか考えてなかった!」


 先輩の頬は真っ赤になっていて、それを冷やすように両手で顔を包み込んでいた。


「そんな、先輩が気に病むことなんてぜんぜん……」

「ええ~? 気に病むに決まってるじゃない。自分のダメさを思い知らされたんだから」


 そんなふうに言われ、ずきりと俺の心が痛む。


「すみませ……」

「あーもう、ゴウくんったらすぐ謝るんだから」


 呆れたようにそう言われたから、俺は慌てて口をつぐみ、おずおずと先輩を窺う。


「そんなに謝らないで、もっと自信を持って」


 先輩は、口元に温かい笑みを浮かべながらそう言った。目も柔らかく細められていて、俺へ向ける眼差しは包み込むような優しさにあふれていた。縮み上がっていた俺の心臓が、どくりと脈打つ。


「わたし、ゴウくんのこと尊敬してるよ。それは前々からだったけど、今の話を聞いて、もっと尊敬した」


 憧れの女性(ひと)からの真っすぐな称賛が、俺の心にじわりと沁み込む。同時にカッと頬が赤らんで、先輩を見ていられなくなって、俺は深くうつむいていた。


 ああああ、めっちゃめちゃ照れる!!

 なんて返事すればいいの? 『ありがとうございます』って?


「あのあのあの、せんぱい……おれ、ありありあり……」


 舌をもつれさせまくる俺に、先輩はくすっと笑みをこぼした。 


「動揺させてごめんね。……でも、もっと言っていい~?」


 どこかサディスティックな物言いに、俺はぎょっと目を剥いた。どうやら先輩は、俺を徹底的に褒め殺し、照れてパニックになるところを見て愉悦に浸るつもりらしい。恐ろしいひと……!


「いや、もう言わなくても……」

「ほんとカッコいいよ、ゴウくん!」


 勢いよく浴びせられた言葉の暴力に、俺はビクンと震えた。


「料理ができる男の子はただでさえカッコいいのに、その特技を家族のために使うのはもっとカッコいい。誰に強制されたわけでもなく、自主的に料理をするのも、すっごくカッコいい。正直、ゴウくんがすごく輝いて見える」


 矢継ぎ早に突き付けられた讃頌(さんしょう)に、俺はこれ以上ないくらい面映(おもは)ゆくなり、息も絶え絶え。心臓は限界まで脈を速め、脳が沸騰して頭蓋骨が破裂しそうだ。


 しかも、先輩はずーっと俺を見つめていた。俺は目を合わせられなかったけれど、先輩の熱く真剣な視線をずっと感じていた。決してお世辞じゃないよ、と強く念押しするような、強い意思のこもった視線に刺し貫かれっぱなしだった。


「……もう一度言うね。だから、もっと自信を持って」


 とどめの一撃は、とても優しい響きを帯びていた。まるで、ぽんぽんと頭を撫でられるかのよう。


 年上の女子からの、包容力にあふれた言葉を受け、心がじんわり温まると同時に、暗い部分がわずかに漏れ出した。


「先輩、俺……、料理をすることを肯定的に捉えてもらった経験って、あんまりないんです」


 低くつぶやくと、先輩は目をぱちくりさせながら首をかしげる。


「え、そうなの?」

「はい……。親戚とか、母ちゃんを責めるんです。遊びたい年頃の子供に家事をやらせて、そこまでして働きたいの、って。同級生には、女々しいとかキモイとか可哀相だとか言われたことがあります」


 改めて思い出すと、キツイなぁ。

 親戚になにを言われても、母ちゃんは絶対に言い返したりしなかった。むしろ、怒る俺をたしなめていた。

 クラスの奴らは、『すげぇな』って褒めてくれることもあったけれど、(ののし)られた記憶の方が鮮明に残ってしまう。


「だから、先輩の言葉はすごく嬉しい反面、ちょっと戸惑っちゃいますね」


 暗い話をしてしまったことを誤魔化すようにハハハと笑う。けれど対する先輩の顔からは笑みが消えて、険しい表情になっていた。


(つら)い経験もしたんだね……」

「まぁでも、過去のことですし……」


 ああ、また俺の話で先輩を落ち込ませてしまった。優しい先輩は、自分のことのように悲しんでくれている。嬉しけれど、楽しい『デート』の最中に言うべきことじゃなかった。

また暗い雰囲気で終わってしまいましたが、次回はきっと大丈夫…!お楽しみください!

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― 新着の感想 ―
[一言] まあ、本当の理解者は一人いれば足りるのかもしれないから。理解してもらいたい人に理解してもらえるのが一番だから。
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