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15.なんだァ? てめェ……(六日ぶり二度目)

 六日ぶりに校門をくぐった俺を迎えたのは、「おはよーございまーす」という、どこかおざなりな挨拶だった。

 黄色い腕章をつけた数人の生徒が校庭に立ち、登校する生徒たちに声かけをしていたのだ。


 これはいわゆる『朝の挨拶運動』ってやつだろう。中学のときは、教師や保護者も混ざって頻繁に行われていた。

 しっかし、高校生にもなって、こういうノリのイベントは勘弁してほしい。

 現に、ほとんどの生徒は無視するか、ぺこりとお辞儀するだけに留めている。でっかい声で挨拶を返しているのは、運動部系の連中っぽい。


 さっさとこの挨拶ゾーンを抜けようと歩みを速めたとき……。


「おはよう、三ツ瀬(みつせ)くん」


 いきなり背後から名指しで挨拶され──しかもどこか偉そうな声で──、俺はびくりと足を止めた。


 この声、聞き覚えがあるぞ。

 思いっきり眉をひそめながら振り返ると、案の定、声の主はスクエアフレームの眼鏡野郎。

 風紀委員長の『ユノスケくん』だ。連休明け早々にこいつの顔を拝む羽目になるなんて、最悪極まりない。


 俺の名前は、(ともえ)先輩から聞いたんだろう。だからといって、朝っぱらから気軽に挨拶されるような仲になった覚えはこれっぽっちもない。


 ちなみにこいつの右腕には黄色の腕章がついていて、『風紀委員』とマジックで書かれていた。

 なるほど、挨拶運動と、風紀を乱している生徒の取り締まりを兼ねているってわけだ。

 だったらなおさら、真面目な学生生活を送っている俺が、こいつに声をかけられるいわれはない。


「……オハヨーゴザイマス」


 俺はそっぽを向いて、限りなく棒読みっぽい声で挨拶を返しておいた。


「それじゃ」


 ぺこりと一礼して回れ右……しようとしたとき。


安元(やすもと)くん、どうしたの? トラブル?」


 腕章をつけた女子が近づいてきた。

 最悪だ。風紀委員長なんかに呼び止められてたら、まるで俺が校則違反をしているみたいじゃないか。

 ふと気付けば、通り過ぎる他の生徒たちも、俺のことをチラ見してきている。ほんと、最低最悪だ!


「いや、なんでもない。ただ、この彼が生徒会に入るかもしれないって言うんで、挨拶をしておいただけだ」

「えっ、生徒会に入るの!?」


 眼鏡野郎の台詞に、女子生徒は大いに驚いたようで、目をまん丸に見開いた。


「うっそ……よく考えた方がいいよ。あ、もしかしてあきらちゃん目当て?」


 ずばりと指摘され、俺はたじろぐ。もちろん、『はいそうです』なんて答えられない。


「あきらちゃん、すごくかわいいもんね、なにか手伝ってあげたい、って思うのは仕方ないけど……」


 一人で納得した女子生徒は、不安そうに眼鏡野郎の顔を見上げた。奴は、ずっと俺を視線で()てきている。


「単純にあきらが目当てなら、やめておけよ」


 低い声が、ずしんと俺の心にのしかかった。怒りと羞恥が俺の心に渦巻く。

 美人な先輩を手伝いたいから、っていうのは、確かに生徒会に入る理由としては不純かもしれない。けど、二人がかりで制止されるようなことかよ。


「それと、生徒会室に出入りする以上は、素行には重々気をつけろ。あきらに迷惑かけるんじゃないぞ」


 と、『ユノスケくん』──安元(やすもと)由之助(ゆのすけ)、という名前らしい──は、校門の方へ大股で歩いて行った。残された女子も、俺のことを気にしながら去って行く。


 ……朝から、あんまりにも不愉快だ。

 憤然と息を吐き出した俺だが、かといってこの怒りをぶつけるところなんてない。


 イライラと上履きに履き替えながら、ふと思った。

 今朝のような挨拶運動には、生徒会は参加していなんだろうか。朝から先輩の声を聞けたら嬉しいんだけど。

 裏門からも登校してくる生徒はいるので、先輩はそっちにいるのかもしれない。


 どのみち昼休みには会えるけど、無性に先輩の声が聞きたかった。

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