表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

シリーズ『徒然草的な何か』

ペンローズ博士はホンモノ、ハメロフはトンデモ。

作者: 鶴鴇屋徳明

――ペンローズ博士の特異点定理は真にノーベル物理学賞に値する仕事であるが、ハメロフがペンローズ博士を箔付けに利用した『量子脳理論』はトンデモ。

 2020年のノーベル賞も、自然科学部門は全て決定した。

 残念ながら今年は自然科学部門に日本人の受賞者は無かったが、

私が個人的に尊敬しているロジャー・ペンローズ博士の物理学賞受賞が決定したのは喜ばしいと思った。

 あと、化学賞受賞者が全員女性であったが、「真に創造的な知的活動において性差は決定的要因とならない」(※1)という証拠を補強するという意味では、これも喜ばしいと言えよう。

(※1:ただ、男と女でそれぞれ知的活動の分野毎に得手不得手が有る事を否定するものではない)


 ところで、ペンローズ博士の物理学賞受賞に関連して、

ツイッター(「平 和男」名義)でタイムラインを追っていると、とある理論物理学の先生とツイートを交わす機会に恵まれた。

 その先生は、ペンローズ博士の威光を借りてトンデモ理論を正当化しようとする連中(特にマスゴミ)がしたり顔で騒ぎだす事を危惧していた。

 

 今回のエッセイはその際の(私の)ツイートのまとめに加筆修正したものであり、表題の通り、ペンローズ博士の威光を借りてトンデモ理論を流布しようとする輩に関する警鐘のつもりで書いた。


 さて、今年のノーベル物理学賞の受賞対象となったペンローズ博士の業績は、「ブラックホールの形成が一般相対性理論の強力な裏付けであることの発見」であり、その中でも特に、『特異点定理』(※2)の証明。


(※2:正確には、『ペンローズ-ホーキングの特異点定理』。

特異点定理はペンローズ博士とホーキング博士の共同研究の結果であるので、

もしホーキング博士が2020年まで存命であれば、間違い無くノーベル物理学賞の共同受賞者になったであろう)


 特異点定理とは、語弊を恐れずにおおざっぱに言うと、

「ブラックホールが生じる過程において、一般相対性理論の適用範囲を超える『特異点』が必ず発生する」事を告げる定理である。


 その後、『特異点』をも説明するより進んだ物理学が追究される様になり、現在未完成の『量子重力理論』がその特異点の問題を解決すると期待され、多くの優れた物理学者が量子重力理論の完成を目指して力を注いでいる。

(ペンローズ博士本人も一般相対性理論と量子論を統合する量子重力理論に多大な関心を寄せている)


 上記の通り、ペンローズ博士の業績が真にノーベル物理学賞に値するものである事は疑いの余地が無い。

 そのペンローズ博士は『意識』の問題にも多大な関心を寄せ、どういうわけかハメロフなる麻酔医師が唱えた怪しげな説に固執するようになり、『量子脳理論』を唱える様になったが、この『量子脳理論』は、残念ながら多分にトンデモ要素を含んでいる。


 そもそも、ペンローズ博士が量子現象と脳活動を結びつけたがる理由と言うのは、同博士の著作『皇帝の新しい心』が1989年に出版された頃に遡る。

 この著作の中で、ペンローズ博士は次の様な旨の3つの主張をしている。

(以下、3つの主張に“P1”から“P3”までの符号を付ける)


*主張P1「ゲーデルの不完全性定理が示す通り、いかなるアルゴリズム(形式的手続き)にも決定不能命題が有るにも関わらず、そのアルゴリズムの原理的限界を、人間の脳は何らかの仕組みで超えている様に見える」(※3)

*主張P2「脳の意識的活動は複数の選択肢から条件を満たす最適解を絞り込む事と強く関連している」

*主張P3「脳が最適解を絞り込む過程は、波動関数の収縮過程を支配する未知の物理法則(おそらくは現在未完成の量子重力理論)と強く関連している」


 この3つの主張だけなら「なるほど、興味深い仮説だ」と思う。

 しかしながら、ペンローズ博士はどういうわけか主張P3とハメロフのトンデモ説を結びつける事に固執し、『量子脳理論』という、大いにツッコミ所が有る理論を唱える様になってしまった。


(※3:実を言うと、主張P1にも異議を唱えた学者がいた。

哲学・数理論理学・計算機科学を専門とし、

『ゲーデルの定理 利用と誤用の不完全ガイド』を著した

トルケル・フランセーンである。

 フランセーンはホーキングの様に超一流の学者でもしばしばゲーデルの不完全性定理を誤用する事に警鐘を鳴らし、「ペンローズもまた例外ではない」事を指摘した。

 フランセーンは自身のWebサイトで著書に関する質問にも誠実に答えていたが、残念ながら、2006年に病没している)


 ハメロフのトンデモ説は、次の様なものである。

「神経細胞の微小管で起こる量子の重ね合わせが意識の起源である」


 多少物理学を学んだ者であれば、これがトンデモである事は即座に分かる。

 なぜなら、脳内は量子の重ね合わせを容易に壊す熱ノイズに満ちていて、意識を生じるのに充分と思われる時間よりも遥かに早く、量子の重ね合わせが壊れてしまうからだ。


 ハメロフ説がどれ位トンデモかと言うと、ノーベル化学賞を受賞したライナス・ポーリング(※4)が唱えた「ビタミンCを大量摂取すれば癌細胞を消せる」という説と同じ位トンデモである。


(※4:ポーリングもまた、真にノーベル化学賞に値する業績を遺した物理化学者・生化学者であるか、どういうわけかトンデモ説に固執する様になったのは、

ペンローズ博士と共通している。

 因みに、ポーリングは自分の説で自分の癌を治せず、93歳で亡くなった)


 経緯は不明だがペンローズ博士はハメロフと親しくなり、今に至るまで、自身の量子脳理論に固執している。

 ハメロフには、自らの説を箔付けするために、ペンローズ博士を利用しているふしが有る。


 ツイッター上で時々「量子力学コーチ」を自称する怪しげな自己啓発系っぽい輩を見かけるが、その手の輩がペンローズ博士の意識仮説のトンデモな部分やハメロフのトンデモ理論を錦の御旗のごとく振りかざす事態を、私は危惧している。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ