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ポラリス市街地戦 下

連載小説の書き方?間違って完結にしてしまって失敗してしまいました。ごめんなさい・・・

15


一羽のツバメが賢者の銅像に止まっている。鶴が大声を発した途端、ツバメは上昇気流に乗り、大正門の上空を猛スピードで飛び去って行った。

アニャン、アズマルのアイコンタクトに端を発し、鶴はそれに呼応して念動力を発動した。その一連の反撃行動を翠玉は別の観点から待っていた。

仮面の男が転送魔法でドアを創り出したことに真っ先に気付いたのは翠玉であったし、仮面の男が虚数魔法を使う鶴と飛び道具を使うアズマルを警戒していることにも誰よりも早く気付いた。重力魔法が掛かりきるほんの僅か前に得意な自然魔法を使い、銅像の肩に止まっていた一羽のツバメを操り、飛び立たせた。

ツバメは翠玉の記憶を頼りに選令門で講義を受けているはずのうさぎの下へ一直線に飛んで行った。重力魔法が掛かって一分にも満たない時間が経過した。ツバメはうさぎのカラーを目当てにうさぎを探していたところ、うさぎが大講堂で講義を受けているのを発見した。大講堂ではアズマルの発砲により、非常事態の発生を受け、学生達の避難誘導が開始されたところであった。ツバメはうさぎの右肩の上に止まった。

「うさぎ!あんたの肩に止まってるその鳥、何?何かペチャクチャさえずってるけど。」

ツバメに気付いた音聞可奈がうさぎに話しかけた。

「翠玉さんが呼んでる、大正門にいるからすぐに来いって。」

「あたし達が避難させられてるのと何か関係あるのかな?」

「多分。私、行かなきゃ。」

「あんたが行ってどうにかなるもんなの?」

可奈は一瞬、考えた素振りを見せた。

「私にしか、出来ないこともあるんだ。」

「分かった。あんたに協力する。その代わり、今度から私もあんたの仲間の輪の中に入れてよね?」

「うん、けど、大正門の近道を教えてくれるとか?」

「馬鹿言わないでよ。そんなこじんまりした能力じゃないよ。ほら、手を出して!」

うさぎが手を出すと可奈は手を繋ぎ、大講堂の窓を開けると屋上まで一っ飛びした。

「すごい!?これ、脚の身体変質術?」

「そのとおり!うさぎはさ、トロくさそうにしてる割には、私のこと下に見てるのか分かんないけど、私に興味ないでしょう?私のことあんまり聞いてこないよね?身体変質術なんて、めっちゃ得意分野だって言うの!」

よく見れば可奈の靴底に魔方陣が張られている。可奈はうさぎを連れた状態にも関わらず、一度の跳躍で三十メートルもの距離を跳んでいた。可奈は垂直に立った壁すら、その跳躍力で渡り飛んでいる。大正門は目の前だ。二人は遠くから雅号が発光した瞬間を見ると、大正門のすぐ近くに降り立った。

「何か、いかにもヤバそうなのいたから、あたしはここまでにするね・・・衛兵も来てるみたいだし。私は遠巻きに友人を生温かく見守ることにするよ・・・じゃあね。」

「ありがとう!見直した!」

うさぎは可奈に礼を言った。

「見直したじゃねぇよ!すぐそうやって人のことを上から目線で・・・」

可奈はぶつぶつと呟くとその場から立ち去った。

「翠玉とやら、御主、先程小さな式を打ったな。我を欺くこと叶わぬぞ。御主とアズマルと言う名の魔術士よ、あの光の戦士が現れる前に御主らの命だけはきっちり頂くぞ。」

長身巨躯の益荒男は長い青紫色に光り輝く髪に彫りの深い美しい顔、全身には裸体に直に藍色のローブを纏っている。

「その前に肩慣らしをするとしよう。そこな衛兵共から始末してやるわ。」

益荒男を狙い撃ちしようとしていた衛兵が益荒男に対し、一斉射撃を始めた。益荒男に無数の銃弾が着弾するや、益荒男の身体の周囲に波紋のように沢山の魔方陣が浮かび上がり、弾丸を受け止めると一発の弾丸も当たることなく、地面へパラパラと落ちた。益荒男は右手で手筒を作り、衛兵の一人に向かって手を向けてから、大きく息を吸うと、口をすぼめて、手筒の穴に勢いよく息を吹きかけた。その瞬間、狙われた衛兵の頭が爆ぜた。

「弾丸を飛ばしたんだ。あの手筒で大きいな口径の銃を作って。さっきの魔方陣、弾丸の威力を吸収して、あの手筒の魔法銃の魔力に換装したんだ。おそらく、同格の霊位体からの攻撃でなければ、あらゆる物理エネルギーがあの魔方陣に吸収され、撃ち返されてしまう。」

アズマルは益荒男の圧倒的な力の前に最早、戦意を失いつつある。いつもは最善を尽くし、行動を促すはずのアニャンも何のアクションも起こそうとしない。動けば死ぬ、逃げることが最適解となった今、そのために必死に頭を働かせているはずである。

衛兵達は後退し、大きく距離を取ると、前衛の衛士が魔方陣を大きく展開、後衛が陣を組み、魔法を詠唱し始めた。陣形を作り、集団で魔法を放つ攻撃は軍隊式の魔法使用法としては基本的な戦法であり、最後衛のリーダーが照準を合わせ、術をコントロールすることでその力と精度が発揮される。アニャンやアズマルが使った合体魔法もこれに類するものである。魔法が発せられる瞬間、前衛の衛士が魔方陣を解除した。鶴達は巻き添え喰らわないよう、一斉にその場から離れた。紅玉が得意とする火炎魔法であるが、一人の魔術士が使用するより、遥かに上位の魔法である。

益荒男は炎に包まれると益荒男を火力源として大きな火柱が上がった。狙われたアズマルは本来なら翠玉を連れ、この隙に乗じて逃走すべきであるが、本能がそれを拒んでいる。

「この攻撃は失敗する。あのローブ、学内の資料で見たことのある聖遺物と全く同じものだ。大宇宙の秘儀、万年詠唱の儀で精製された糸で編まれた物だ。だとしたら、あの程度の魔力で構成された魔法など効くはずがない。」

大宇宙の秘儀とは古代の時代から続く東方の魔法文明で編み出された人工的に真解を擬似的に創り出す秘法であり、大人数の訓練された魔術士と多大な時間を費やして行われる魔術儀式であり、神事として今も執り行われている。その儀式の一部分にあたる万年詠唱の儀は一人の魔術士が十年分の魔力を呪術として、詠唱、大人数の魔術士でそれを同時に行うことで長時間の詠唱効果を生み出し、護摩業によって姿を現した高純度の魔力の炎に換装させることで、真解を創り出すための莫大なエネルギーを精製するためのものである。その護摩の燃焼力を呪物に還元させ、物質として保管されたものは高次元の魔力を持つとされている。益荒男の纏っているローブはその中でも旧世代の人類によって精製されたものであり、その魔力的効果は想像も付かないものなのである。

「思い出した!神話と同じだ。あの益荒男と言う男、文明によっていくらかのストーリーに違いはあれど、遥か昔から伝承された七夕伝説の彦星だ。我々と彼らでは体感時間が全く異なる。憑代で合一しているように見える二つの霊位体はお互いの存在は可視出来たり、存在は感じられるかもしれないが、おそらく肉体を持たなければ絶対に触れ合うことは出来ない。しかも、あの憑代の少女に二体同時にとどまっていられる時間は彼らにとってはごく短い時間のはず・・・受肉したのも、現世界の理に適合するように自身の存在を合わせたからだ。僕と翠玉君を狙うには私怨を超えた思惑が必ずあるはず。翠玉君はうさぎちゃんに助けを求めたのか。

ただで殺されるもんか。僕と翠玉君でうさぎちゃんに必ずバトンを渡す。」

アズマルは益荒男攻略に全神経を集中させた。アズマルの予想通り益荒男は炎の魔力を吸収し、火柱は消えつつある。衛兵隊は魔法による攻撃手段がないと分かるや、撤退のための用意を始めていた。アズマルはこの隙に翠玉へ駆け寄る。

「翠玉君、僕の話を聞いてくれ。奴から僕と君が狙われているのは分かるかな。」

「はい、私は東方の三賢者の一人、行王の直系の血族ですから、あの益荒男と言う英霊と行王の因縁についても知っています。うさぎちゃんと先生の話を聞いて、もしやと思いましたが、確信が持てなかったので、話しませんでした。

我らの祖先はかつて一度だけ受肉した益荒男を倒しています。伝承では主の導きによって東方の未開の地への永き遠征の旅の途中、行王は受肉した益荒男と手弱女に遭遇し、旅の障害となった益荒男を倒したそうです。受肉した姿とその戦いぶりは伝承と全く同じです。」

「うん、分かってるなら良いんだ。遠い血筋の僕より、直系血族である君の方がより危険だ。この状況、僕は今更逃げても無駄だと思ってる。奴は今、受肉したばかりで、魔力が欠乏しているんだ。そのため、僕達の攻撃を利用し魔力を集めるつもりだろう。覚醒状態のうさぎちゃんは同格の霊位体だから、その攻撃はおそらく奴に通るし、うまくいけば、魔法すらあの力で分解して、無効化出来る。奴もそれは重々承知してるはずだ。うさぎちゃんがやって来る前に僕達を始末しに来るだろう。」

「私達二人を狙うには理由があると言う事ですか?

二人に共通するルーツがその原因だと?」

「多分、僕は違うと思う。奴の見当は外れてると思う。けど、翠玉君の力に対する警戒は当たっていると思う。久坂家は代々司祭を歴任する一族でしょう?その専門分野は風水や式神等の力を使った結界魔術だ。奴はおそらく魔法による攻撃ではなく、奴自身の能力や攻撃を無効化することを恐れているんだと思う。奴は受肉すれば、この世界に寄り添う存在になる。自身のあらゆる力を不自由なく使えるようになれば、制限されていた快楽的な欲求を満たすことも可能となるだろう。」

「アズマルさんは私にどうして欲しいんですか?」

「今がどれだけヤバい状態か君にも分かるはずだ。益荒男は炎の魔力を吸収し終えたら、

真っ先に攻撃に転じ、その矛先はこちらへ向く。そしたら、僕達二人はおそらくここで

死ぬだろう。僕は今ここで、捕食者と戦う魔術士の使命として命の証になるような僕ら

だけが出来ることをやりたいと思ってる。どうせ死ぬなら、未来のために、僕のために死んでくれないか?」

翠玉はじっとアズマルの目を見つめている。アズマルの覚悟や意図していることを感じ取ったのだ。魔法世界に身を置く者にとって、主の存在や真解は絶対的なものであり、翠玉やアズマルの様な魔術的環境に素養が多分にあり、且つ高貴な身分の者は運命=宿命となる境遇にある者は多い。自由意志より信仰や任務が上回るのだ。葛藤は弱さを生む。だからこそ、高潔であり続けなければならない。ただ、二人の思惑は目的は同じでも、大きな差異が生まれていた。

「翠玉君、こんなことになってしまって本当にごめん!」

翠玉はアズマルに長い口づけをして、言葉を遮った。

「えっ、ちょっ!」

「アズマル君、それ以上は何も言ったらダメ。

さっきからずっと死亡フラグ立ちまくりだから!

私はこんなところで死ぬつもりは全くないけど、もし、死んじゃったら、死ぬ程後悔

しそうだから、先に言っておく。

私、アズマル君のこと、ずっと前から大好きだった!言葉がなくても、あなたの目を

見ていたら、何を考えているか分かるの。あなたは誰よりも優しい人、私はアズマル

君の様な他人を大切に出来る人にもなりたいし、鶴みたいな強い信念を持った人にも

なりたい。

だから、こんなところで絶対に死んだりしない!ここを乗り切ったら、二人でたっ

ぷり休暇を取って、デートして下さい!約束ですよ!

あっ、こう言うのも死亡フラグになっちゃうのかな・・・」

翠玉は興奮からか小刻みに震え、次第に涙声となった。

「分かった。約束は絶対に守る。あいつに勝ったら、翠玉君に付き合って下さいって告白する。そしたら、絶対断らないでね!」


アニャンと鶴は呆気に取られた様子で、アズマルと翠玉のやり取りを見ていた。

「私に考えがあります。アニャンさん、短い間だけ、あの仮面の男と後藤紀を引き付け

ておいてもらえますか?アズマルは気負ってるみたいだけど、あんなに幸せそうにして

る二人を殺す様な真似は絶対にさせません。」

「分かってるよ。私にも少しだけ分かったことがあるんだ。あの仮面の男の正体につい

てね。あの男、手弱女を連れて、あのドアを使ってトンズラするつもりだよ。うさぎが

早くここへ辿り着いて、形勢が変わることがあれば、間違いなく事態は動く。その時ま

では、あたし達も死ぬわけにはいかないからね!」

アニャンは鶴の前に背を向けて立ち、壁となった。

鶴は右の掌ををアニャンの背中につけ、左腕を反対方向に伸ばし、魔導筆で円を描き、詠唱を始めた。

すると、左手の前の空間が歪み、どこへ繋がるか分からない丸形の漆黒の空間が現れた。

「間に合ってよ!」

鶴は心の中で強く願った。

アズマルは鶴の背後に立ち、両肩に両手を乗せた。トリアングルムの銃撃戦で見せたバレットモンスターと同じくアズマルの背後に銃火器が搭載された二本のアームが繰り出され、うさぎと魔法を合体させた時とは異なり、より高性能なレーダーパネルが付いた左アームと更にはPCモニターが付いた右アームが翠玉の肩から展開された。翠玉は空間に浮き出したレーザーキーボードを素早く、器用に操作し、益荒男の魔力回路、更には身体の細かい部位を分析し始めた。益荒男は正に火柱の魔力を吸い上げ、炎は消えようとしていた。

「分析終了、アズマル君の読み通り、やっぱり心臓部のクリスタルと雅号とか言う男の心臓が完全に融合していない。急場凌ぎでやったから、やはり受肉するに適した肉体じゃなかったのよ。おそらく元の肉体の持ち主の精神に葛藤があるのだと思う。心が融合のペースを停滞させている。益荒男はそれを強力な魔力で制するために、魔力を吸い上げてたんだわ。」

翠玉は後ろにいるアズマルにモニター越しにチャットで意思を伝達している。モニターにはバックカメラがあり、アズマルの瞳に取り付けられたミラー液晶の画像を読み取り、アズマルの意思を文章として読み取り、液晶にそれを表示させている。

後に、バレットモンスターインテリジェントカスタムと二人が名付けた合体魔法は翠玉のハイスペックな事務能力がなせる技である。

「あの物理防壁がどのレベルまでのものなのか全く持って未知数なのが一番の問題だわ。

おそらく私が魔法であの物理防壁を無効化出来るのはほんの一瞬の間しか出来ない。

あれだけの数の魔方陣を同時展開してる相手に魔力で防壁効果を中和して消すことはほぼ、不可能だと思う。小さいけれど、魔方陣一つ一つがとても強固なもので、絶対的に物理攻撃を反射する仕様になっているんじゃないかな?絶対に侮っちゃダメだよ。

「翠玉君、レスが早くて追いつかない・・・もっとゆっくりでお願い。」

優秀過ぎる翠玉にたじたじなアズマルであった。


16


うさぎは全速力で走り、鶴達の救援に急行していた。大正門まであとわずかの距離である。何者かによって襟首を掴まれた。

振り返ると、宙空に黒い穴が開き、そこから手が伸びている。その手の薬指と小指には魔導筆が握られている。うさぎはその魔導筆を見て、瞬時に鶴の左手と察した。黒い円は下へと動き、うさぎの左手に握手を求める仕草をした。

「手を繋げ、そう言うことか!」

うさぎは鶴がうさぎに何を求めているか理解した。

「今の私に出来ること・・。・」

簡単なサインであるからこそ、手と共に心と心が繋がった瞬間であった。


益荒男に纏わりついていた炎が完全に消えた。翠玉とアズマルを攻撃する準備が整った様である。先に仕掛けたのはアズマルと翠玉であった。アズマルは後ろのアームから益荒男に向かって機銃掃射した。益荒男の周りに無数の魔方陣が展開、弾丸を全て受け止める。

「あと、何秒いける?」

アズマルの問いに翠玉は、

「二十秒が限界」

とレスする。ガトリングガンが二基、二十秒間に発射できる弾丸の数は合計三千発程度である。益荒男は二十秒後この弾丸を間違いなく、全て跳ね返す。この撃ち返された弾丸を翠玉がどう防壁で防護するかが二人の作戦の生死を分けるのである。

「私の魔力ではこれが限界。残りの魔力は全てこちらの防壁に回す。ラスト二秒で合体を解除するから、アズマルさんは最後の攻撃に集中して!」

アズマルから発せられた大音量の射撃音が付近に鳴り響く!

アニャンは仮面の男と手弱女から鶴へのマークを外すため、陽動に出た。背中に隠していた小型のハンドガンで後藤紀を早撃ちで狙い撃ちにしようとしたのである。

仮面の男は必死で紀の前に出て両腕を広げ、盾となった。弾丸は仮面の男の右上腕部に当たると激しい金属音を出し、、装備していた腕当てに風穴を開けるも、弾丸は体内に留まっているようである。

タッチアンドゴーでアニャンの陽動と同時に鶴は射撃中のアズマルの脇から背後に回り、アズマルの背中に右手を置いた。

「鶴、どうしたんだ!?」

「自分の攻撃に集中しろ!私とうさぎの二人でお前を援護する!右手は絶対に動かすな!魔法回路はそのまま維持、左手の実銃を使え!絶対に決めろ!分かったら、返事!」

鶴はアズマルに向かって吠えた!

「了解!!」

アズマルもそれに応える!アズマルは機銃掃射を終え、左手で益荒男の心臓目掛けて、銃を構えた。

「魔力防壁を展開!」

翠玉が鶴と顔を見合わせて、頷くと魔力防壁を大きく展開した。その直後、一斉に益荒男の展開した魔方陣から三千発以上の弾丸が同時に撃ち返された。

その直前、無数に上半身だけが分身したアズマルが実銃を発射した!アズマルの撃った弾丸と益荒男が撃ち返した弾丸が交差する。

数千発もの弾丸が翠玉の張った防壁に突き刺さる。アズマルが撃った無数の弾丸は魔方陣を一瞬すり抜けたかに見えたが、内側に何重にも張り巡らされた魔方陣がアズマルの弾丸を受け止めた。

その瞬間であった。アズマルが夕焼けで習得した魔法が発動した。一回の射撃で二発の弾丸を同時に撃つ、トリアングルムで使ったあの魔法である。魔方陣の防壁をかいくぐった二発の弾丸が二方向から益荒男の左胸部に着弾、一発が益荒男の皮膚に直接展開された魔方陣の防壁に捕らえられたが、同時に放たれた最後の一発が益荒男の心臓部に直撃すると、弾丸は背中を貫いた!

益荒男の撃ち返した三千発もの弾丸は鶴とうさぎが援護、魔力換装した結果、幾重にも重ねがけされた魔法防壁に直撃するも強固な防壁により、全て阻まれた。

「やったか・・・!?」

「お願い!」

アズマルと翠玉は全力を使い果たし、その場に倒れると、反射的に主へ祈った。


益荒男から炸裂音がすると、益荒男の心臓部から粉々になったタリスマンが噴き出した。

「バカな!?この私にあの程度の魔術士の攻撃は全て通じぬはず!」

益荒男は身体のバランスを崩し、地に膝をついた。

「タリスマンを破壊したとて、この肉体は既に受肉し、我の物である。おのれ、小賢しい魔術士供め!」

益荒男はすぐに立ち上がるとアズマル達へ向かってきた。

「うさぎ!後は頼んだよ!」

鶴が大声を上げるとその背後には若葉を抜刀し、身構えたうさぎが立っていた。


17


手弱女は仮面の男が盾となった直後、後藤紀の身体を操り、既にドアから何処かへ消え去っていた。仮面の男もその後に続こうとした瞬間のことである。うさぎは手にしていた愛刀若葉の切っ先をドアへ向けて投擲し、若葉が仮面の男が創り出したドアの真ん中へ突き刺さるとドアは木っ端微塵に破壊され、転送魔法の術式は破壊された。うさぎの手を離れたはずの若葉はいつの間にかうさぎの右手に戻っている。仮面の男は周囲を一度見廻すし、

「片手落ちとなってしまったか、もはやこれまでか。」

そう呟くと、駆け足でその場から逃げ出した。

「逃すか!鶴、行くよ!あのでかい鳥を出しておくれ!」

アニャンは鶴に追跡のため、凶鳥大虚鶴を出すように促した。

鶴は凶鳥を魔法で呼び出すとアニャンと二人で背に乗って追いかけ始めた。仮面の男は人ならざるものの速度で逃走している。

「鶴、あの男はヒューマンじゃない。

あいつの両脚、速度を上げるのに身に付けている鎧ごと変形してるのが分かるだろ?おそらく、あの鎧は魔術外装ってやつさ。」

「魔術外装?けど、あいつからは捕食者でも気配をしっかりと感じます。今までの戦いから、間違いなく実体を有しているはずです。」

「魔術外装はかつては強化骨格と言われた魔法の体系が今みたいにきっちりと解明されていなかった時代の旧世代の技術さ。

正直言って、あたしも見るのは初めてなんだけどね。あたし達アバターは人類の進化の過程で、一定水準以上の科学技術は私達の住むこの世界にデジタルベースで再現できないと言われている。

文明の水準がある水準に達すると必ず衰退に転じると言う現象、これを起こさないためにアバターに備わった仕様によるものらしいんだけどね。

あの魔術外装は魔法適性のないものに補助的に魔力発生をもたらす。言い換えれば、誰しも魔法を使えるように出来る技術なのさ。」

「それじゃあ、あの鎧の中身は一体、何なのですか?」

「捕食者Pのあんたが言うんだから、中身が本当はどんな姿をしているか分からないけど、あいつが捕食者であること、それは間違い無いんだろう。

ただ、間違いなく、鎧の中身はがらんどうだよ。あんたと私の攻撃が当たった時のあの金属音、特に私が後藤紀を狙い撃ちした時、右上腕部から体内に入ったはずの弾丸が奴の体内で跳ね返ってたからね。

今回の一連の襲撃、単なる捕食者Pの軍隊による反撃なんかじゃなく、真相はもっと根深く、別のところにあるんじゃ無いかね?」

鶴は仮面の男の行動について、一つの疑念を抱いていた。鶴もアニャンに伝えてはいないが、独自の観点から今回の襲撃の真相と仮面の男の正体に近付きつつある。アニャンの話を聞いて、それが解明されたような、されないようなもどかしい気持ちになっていた。

「あの男、あの時何故あんな行動をしたんだ・・・?」


18


うさぎは若葉を再び手にすると、益荒男に飛びかかった。振り下ろされた愛刀若葉は益荒男の魔方陣をいとも簡単に破壊し、そのまま益荒男がかばい手で出した右腕に刺さると、そこで止まった。

益荒男はめいいっぱいの力でうさぎを振り払った。うさぎは腕から振り払われようとする瞬間、咄嗟に左片手で益荒男の太い腕に捕まるとその反動を使って猛スピードで回転した。すると、益荒男の右腕に螺旋状に大きな切創が付き、血が噴き出し、うさぎの身体は益荒男から離れた。

「手弱女!我の疵をすぐに治せ!」

手弱女の姿は既にそこには無い。ドアの向こう側である。それに気付いた益荒男は怒りで大きく咆哮した。


「すごい!利き手と反対の手を身体変質術で強力にすると同時に咄嗟に片手剣に切り替

えたんだ!若葉の剣術に身を委ねていた以前とは違う。若葉の意思に合わせて、身体の機能を自分の意思でコントロールしてるんだ。けど、剣技の水準そのものは皇若葉の力と遜色ない!」

アズマルは成長したうさぎの剣技に感嘆の声を上げた。


「徒らに人の命を弄ぶその所業、悪逆、許すまじ!」


うさぎは益荒男に死の宣告を告げた。

うさぎは脚を前後に大きく開きつま先立ちし、前傾姿勢となると、益荒男を目掛けて一直線で突進すると、渾身の力で益荒男の銅を目掛けて剣突きを放った。

益荒男は今の弱った魔力ではうさぎの突きを魔法陣で防ぐことができないと判断し、半身になって、うさぎの直線的な攻撃を回避しようとしたそのときである。

うさぎの全身が両腕の第二関節を中心として、ぐにゃりと曲がり、突進したままの勢いで益荒男の身体に向いたうさぎの両脚のつま先がドロップキックの要領で益荒男の鼻に直撃すると、益荒男の鼻はひしゃげ、顔面が陥没すると、顔から大量の血が噴き出した。益荒男は膝をついている。うさぎはすぐに起き上がり、態勢を整え直した。

うさぎは先ほどから両脚のつま先を身体変質術により強化し跳躍力が増すようにしている。今の攻撃も雅号の変形技と真仲介滋の身体変質術からインスピレーションを得て、編み出したものである。

「イメージは槍による突き、今の身体変質術のレベルじゃ、未だ爪先を刃物の切っ先のようにするところまではいかないか。」

益荒男は右手で潰れた顔面を押さえると出血が収まった。魔法により、応急処置をしたのであろう。地面に向かって、口から勢いよく血の塊を吐き出した。


長刀による突きは陽動か。あの小僧、とてもいい感性をしている。

それにしても、我の腕も鈍ったものだ。防御の要として用意した魔法陣が警戒心を鈍らせ、逆に戦いの邪魔をしている。だが、もし、物理攻撃から防護する術を解いていたら、あわやあの蹴りで頭が飛び散っていたところだ。

元々不適合で更に傷ついたこの肉体では、全力を出すことは叶うまい。

手弱女よ。何故、あの時俺の戦いを遮ったのだ。後藤紀の肉体から単独で、離反するため、俺を謀ったのか。

長く連れ添った伴侶にも逃げられ、いつのまにか追い込まれていたのは我の方だったか・・・我も新たな憑代も惚れた女には難儀するな。


 益荒男は勝負の行く末を悟ったのか、悲しげな表情をすると、以前の襲撃の際にも見せた大きな金の輪を取り出し、左手でそれを持つと、うさぎに向かってそれを投げつけた。

うさぎは屈んでそれを寸前のところでかわすとその輪はアズマルと翠玉の方向へ弧を描いて向かって行く。うさぎは屈んだ状態から益荒男の膝へ向かって反動をつけて飛び上がり、益荒男の膝に右足を着けるとその反動でサッカーのゴールキーパーがゴールポストに向かってゴールを守るように真横に跳躍した。

益荒男の膝に着地した時にうさぎは右足に身体変質術を用いて、跳躍力を上げている。それに益荒男の物理反射の魔方陣の反発力が加わり、姿が見えなくなるほどの超スピードでうさぎは益荒男に投げられた輪を追い越し、身体変質術で強化された両手で持ち替えた長刀を振り払うと、益荒男に向かって輪を打ち返した。

益荒男は輪が自分に向かって打ち返されたことに気付き、上半身を反らしてかわそうとするも間に合わない。輪は益荒男の右胴に当たると魔方陣を簡単に撃ち破り、そのまま益荒男の右胴の広範囲を切り裂き、そのまま、猛スピードで宙を飛んで行った。

「物理防壁が弱体化されている。心臓部に癒着したタリスマンに益荒男の霊体が多分に

残されていたんだ。その結晶が破壊された以上、幾ら神話の存在だとしても、この世界

の理に逆らってまで、存在することはできない。

うさぎちゃんが転送用のドアを破壊してくれたおかげで、仮に手弱女が翻心して、益荒男を助けに戻ろうとしても、その手立ては既に無い。」

アズマルは翠玉に話し掛けた。

「アズマルさん、危険なのは益荒男を若葉で完全に斬った時よ。うさぎちゃんは多分、

憑代と益荒男を切り離そうとするはず。」

翠玉はアズマルに答える。

「けど、心臓は既に破壊されている。このまま放って置いても、益荒男は憑代共に死ぬ。どうしてそんなことを?」

「皇若葉は神の眷属、慈愛の騎士だからよ。

益荒男ごと憑代を倒せば、下手すれば憑代も虚無の世界へ引きずられてしまう。彼は望んであの姿になったわけでは無いから。きっと、うさぎちゃんは憑代の魂だけでも救うつもりなのよ。」

益荒男は右手に雅号の得物であるハンマーを取り出すと、そこに全魔力を注ぎ込んだ。ハンマーは身の丈以上の大きさに巨大化した。益荒男は先ほどまで青黒い禍々しいカラーを放っていたが、タリスマンを破壊され、追い詰められた今となっては身につけていたローブも魔力を失い、色を失くした。

「天晴、見事な剣技であったぞ。そこな魔術士の末裔供もな。よもや道半ばにして、このような場所で命を落とすことになろうとは。

だが、ただでは死なん、死なば諸共、貴様等全員、消し炭にしてくれるわ!」

益荒男がハンマーを振りかぶり、渾身の力で地面を打ちつけようとした瞬間である。

「まずい!」

アズマルの叫び声が鳴り響く。

うさぎは身体変質術を使い、脚力を極限まで上げ、益荒男の手前まで跳んで来ると、ハンマーを下から打ち上げる様に両手で斬りつけた。おびただしい量の魔力が注ぎ込まれたハンマーと若葉が衝突する。衝撃波が周囲に伝播すると、ハンマーが真っ二つに割れた。うさぎがハンマーの術式を斬ったのである。

「完敗だ、愛の戦士よ、情けをかけるな。我を殺せ!」

両膝をついた益荒男はうさぎに向かって言った。

うさぎはその場に膝をつけると、益荒男の左胸部に手を当て、魔力を注ぎ始めた。

「馬鹿な!何をする!?我に魔力が戻れば、どうなるか分かっているのか!?」

「完敗だって言ったじゃないですか?負けを認めたんですよね?なら、命まで取るよう

なことはしません。邪な気持ちでは、貴方は私に絶対に勝てない。私、自信があるんです。主の真解を今、得ましたから。」

うさぎがそう言うと戦意を完全に失った益荒男は大の字になり地面に寝転んだ。

「好きにするが良い!憑代もそれを望んでおる、急に我を受け入れ始めたわ!」

死闘は意外な形で幕を閉じた。


19


凶鳥は低空飛行で、仮面の男を追い掛けている。

「天象必撃、遍く軽輩よ、恐れ慄き給う。」

アニャンは弾丸にを額に付け、詠唱し、祈りを込めるとハンドガンの弾倉に弾を込めた。

「アニャンさんが自然魔術なんて珍しいですね?アニャンさんって、スピードとか技の威力とか結構、簡潔明瞭な魔法を使って、効率を重視する人だと思ってました。」

鶴は多種の魔術武器を巧みに操るアニャンが自然魔術を使ったのに驚いていた。

「こんなのは柄じゃないんだけどね。あれだけ魔法を器用に魔法を使いこなす輩が、一発ならまだしも二発もこんなしょぼい銃の弾丸を食らった。

モヤっとすると言うか、解せないと言うか・・・」

アニャンは明らかに警戒していた。

「奴は我々の攻撃を誘っていると?確かに距離を取れば、反撃されても対処のしようも

あります。」

「あんたとうさぎを襲った男が使った変形魔法もあの男が出所じゃないかと思ってね。

戦闘で瞬間的に使うなら、身体変質術みたいな簡単な魔法で代用が効くし、その方が

よっぽど効率的じゃないか?物質の存在やあり様まで変えるなんて、どうも回りくどいことしてるなぁと・・・」

「憑代に益荒男とか言う霊体を憑依させるためにあの男から授けられた力だったのかも

しれませんね。」

「それなら、やっぱり一番の目的は手弱女とか言う女神と憑代の少女だったんだろう。

制御が面倒そうなあの男神は捨て石にされたのかもしれない。今、駆け足で逃走して

るのだって、転送魔法でもまた使えば良さそうなのに。

あたしよりは鶴、あんたを引き寄せようとしてるんじゃないかね?

あんた、あの男の正体にあらかた気づいんてるんだろう?」

「はい。これから、それを確かめます。アニャンさん、もし私の身に何か起こった時は、

退避を最優先でお願いします。」

「分かったよ。無理するんじゃないよ。」

アニャンは鶴の申し出を承知すると、仮面の男の下半身に照準を定めた。

鶴は凶鳥を地面に水平飛行させた。アニャンは男の死角から、射撃すると弾丸は男の左太腿に着弾し、弾丸に込められた電力が男の甲冑の全身を伝い、男はそのままの勢いで転倒した。

鶴とアニャンは凶鳥から飛び降りると、次の攻撃に備え、身構えた。

「魔術外装に気付いたか。

流石だな、武芸百般の魔術士アニャン・カルゴナ・クニヒト。

カルゴナの戦士を見たら、全力で逃げろ。我々の国ではそんな格言がある程だ。貴公の様な蛮族にどれだけの無辜の民が犠牲となったことか。」

「ご先祖様が何やったかなんて、知ったこっちゃないよ。こちとら、今からそのふざけた仮面を引っ剥がして、お前の不細工な素顔を拝んでやろうとしてるのさ。」

アニャンは皮肉を言って返した。

鶴は右手に持った懐剣で仮面の男に襲い掛かる。仮面の男も短刀を取り出し、鶴に応戦する。鶴は素早く懐剣を振り回す。攻撃を転調するのに虚数魔術を使い、懐剣の持つ手を変えたり、

手品の様に逆手に持ち替え、仮面の男の攻撃を許さない。

鶴が首筋を狙って横薙ぎに懐剣を振り払うと男は短剣で十字に受け止めた。そのままの姿勢で二人の鍔迫り合いがしばらく続く。鶴は仮面に顔を近づけた。

「やはり、お前がその短剣を回収したんだな?」

「この私の正体が誰かまでは気付けても、この短剣が何を意味するかまでは気付けまい。」

「そんなもの、お前が素顔を晒してから、じっくりと聞き出すだけさ。

アニャンさん、今だ!」

アニャンは身構える前に取り出したメリケンサックを装着した右の手拳で男の仮面を力いっぱい殴った。仮面の前面が凹み、大きな亀裂が入った。アニャンが一歩下がると同時に鶴は懐剣と反対の手に持った魔導筆の先端を仮面の裂け目に打ち込み、渾身の力で仮面の一部を剥ぎ取った!

アニャンは仮面の男に向かって、口を開いた。

「やはり、お前は、あの時の重力魔法のヒューマンだったか。あの重力を操るヒューマンの意識が戻ろうとすると、お前はあの場から急いで立ち去ろうとした。私達を皆殺しにしてから、移動して良かったのにも関わらず。そこで、気が付いたんだ。

お前と気絶していた魔術士は同じ場所に存在してはいけない存在ではないかと・・・それにアニャンさんの背中に突き立てられそうになったあの短剣、お前が逃走した際、

あの魔神に受肉した男のいた場所の近くに落ちていたはずのものが、消えてなくなって

いた。短剣は元の持ち主に返ったのではないか、しかし、短剣を使った男は気を失って、

その場に残されている。

そこから、導き出された答えは一つ、仮面の男こそ、うさぎと先生を襲った首謀者の男であり、短剣の持ち主だった。」

仮面の中身は大正門前で昏倒しているはずの水掛望人の影であった。仮面の男の正体は、水掛望人の姿をしたシャドウだったのである。

「残念だ、この短剣に私の素顔を見ても未だ忘我の境地に達しているとは・・・

だが、それも今、この時点をもって終わる。

我が妹よ、全てを思い出せ。」

仮面の男は素早い動きで鶴の顔に懐から取り出した緋色のマスカレードマスクを無理矢理に被せた。鶴の全身は黒色のカラーに包まれるとマスクは鶴から強制的に魔力を吸い上げ始めた。鶴は全身に走る激痛から悲鳴を上げている。

アニャンが鶴のマスクを外そうと手を伸ばすも、マスク自体に虚数魔法がかけられており、手がどこかの別の空間に移動してしまい、直に触れることが出来ない。水掛は鶴を抱き寄せた。

「諦めろ、勝負は決した。痛みはもう引いた頃であろう。」

仮面の男は、鶴に装着されたマスクを外すと鶴の捕食者としての本来の姿であるシャドウがマスクごと引き出された。シャドウは水掛の真横に並んだ。鶴は脱力するも目は開いており、意識ははっきりとしている。仮面の男は鶴の身体を解放した。

「今更、私の正体を知ったところで何になると言うのだ。貴様の指摘のとおり、私はあ

の水掛望人と言う軍の諜報部員として、精巧に作ったコピーを操り、私怨のために暗躍して来た。貴様の指摘の通り、復元魔法でコピーを活動させている間、私の魔力は著しく、減退し、お互いの自我に齟齬を起こすこともあり、オリジナルとコピーは同一の場に存在することが出来ないからだ。

私は自身のコピーの未熟さにずっとやきもきさせられていた。私が秘密裏に雅号に出した偽りの軍部からの指令と私個人から雅号に指令した弔い合戦の指示によって、二柱の魔神カテゴリーを当方の戦力に結び付ける方策に二人の青年将校が辿り着くだろうかと本当に苦心させられた。

計画の一端は結果的には上手くいったのだが、その先がお粗末だった。

益荒男と手弱女は憑代がその能力をコントロールするどころか、逆に自我を操られてる始末だ。あのまま放っていても我らの戦力として機能していなかったことだろう。

私の最大の目的はトリアングルムの霊廟内でのゴトウと貴様の戦いで得た我が妹の生存情報から妹を目覚めさせ、選令門から奪還することだった。

貴様が勝手に手懐けたと思っているその凶鳥大虚鶴と得意の折鶴の闇魔法は本来、我が妹のものだ。我が妹は長きに渡り、貴様の身体に封じられていた。心配するな、晴れて貴様はただのアバターと成り下がった。忌まわしい血は消え失せたのだ。

感謝してもらいたいくらいだ。妹は貴様を捕食し、合一したわけではない。我が一家はアバターを通じ、選令門の魔術士に追われる身にあった。妹はお前の肉体に隠され、育てられていた。魔術士の手に落ちるのも早かったが、素性がバレることは決してなかった。貴様達魔術士は我ら捕食者を下等な種族と蔑み、根絶せんとしているが、我々からすれば全く逆の主張である。

捕食者の中でもシャドウは主により近い旧世代の高等な文明を生きた種であり、その捕食対象がアバターであっただけだ。現に、この世界ではタブーの仕様である魔術外装を巧みに操れるのは現段階で我々シャドウのみである。貴様達魔術士が保護せんとするアバター共は己の利己的な欲求のために、誰もが魔術外装を身に付け、魔術文明を享受することを望んでいる。

真の姿を取り戻したのなら、貴様もそれを理解出来るはずだ。

さらばだ、魔術士諸君、お互いの健闘を称え合い、以後、我々に手出ししないで頂くとしよう。」

水掛はシャドウとして分離した鶴であった何者かの手を取り、転送魔法にてその場を立ち去った。

鶴はその場に立ち尽くすと、魔力を失い、魔法を奪われた現実を未だに受け入れられないでいた。

「ごめん鶴、あの男の虚数魔法を前にして全く身体が動かなかった。あたし達、命があっただけ、めっけもんだよ・・・」

アニャンは肩を落とした。

鶴は何も答えなかった。自身が何者であるかすら、分からなくなってしまった。大正門の騒動を受け、街の中心街から逃げ出す人や緊急車両のサイレンで喧騒としていたが、忘我の境地にある鶴の耳に雑音は一切入ってくることは無かった。












後篇 遊戯世界への誘い



cast a spell. (詠唱せよ)

release a sorcery system,Magia.(マギアシステム解放)

user authentian...user ID "crane",OK.welcome to Magia system.(ユーザー認証中、ユーザーIDクレインを認証しました。ようこそマギアシステムへ。)

player word aptitude. to Japanese.(適性言語を以後日本語へ変更)


「了解」


空いっぱいに広がる黒煙、外は真夜中であるが、星一つ見えないほどに暗い。漆黒の大地に黒い人型シルエットが溶け込んでいる。遠くで爆発音が響き渡っており、騒々しい。ここは戦地のようである。

黒色の影のような戦士は幾何学模様に赤く発光し始めた。戦士は全身を黒色のタイツスーツ、頭部は黒色のフルフェイスヘルメットに身を包んでいる。ヘルメットのライナー部分の液晶の内側にログが表示されている。

「いよいよ始まりますね。」

「ああ、これがうまく行けば、我々は人類の歴史的瞬間に立ち会うことになる。

人工的魔力機構の展開と制御、魔術の汎用化によって、魔術の恩恵を得ることこそ我々ノーマルアバターの悲願、文明史の進化の証だ。

遂にここまで来た。頼んだぞ、主の御加護があらんことを・・・」

若くて美しい研究者と白衣に身を包んだ聡明そうな科学者は大型モニター越しに黒い戦士を見守っている。


「すごい、しっかりと魔力を感じます。暗視モードのおかげで、私からは外の景色がはっきりと見えます。」

「改めて説明する。ここは仮想空間でも何でもない。目に見えるものは全て虚像ではなく真実だ。それは絶対に忘れないように。決して、気を抜かないでくれ。」

「了解。」

「本来の目標地点から少し離れた地点に君を落とした。相手は管理権を持つ化物だ。迂闊に目標に近づけば、あっという間にこちらの位置を察知される。探索作業中の選令門の魔術士も高難度のミッションに選抜されただけあって、相当切れるはずだ。」

「はい。私もこんな計画があることを全く知りませんでした。私が学生の頃も計画はずっと実

施されていたのでしょうね。」

「君の場合は優秀でも意図的に選抜されなかったのだと思う。」

「そうですね。私は生まれも育ちも悪いですから。きっと信用なんてされてはいないでしょう。」

「それは違う。確かに選令門にとっては、君は危険な存在だ。連中は優秀な君が長くこの世界に潜行すれば、アバター世界の秘密にいとも簡単に近づくことを恐れたのだろう。君なら時間を掛ければ、必ずキューブを回収してきたはずだ。」

 管内無線で男の研究員の声が聞こえてきた。

「熱源から目標の正確な座標が取れました。現在位置から北西に約五キロの地点です。座標の詳細なデータを転送します。」

 戦士のヘルメットのライナーの内側の液晶に地図画像が転送されてきた。

「結構、距離がありますね。」

「魔法を使って、敵に決して見つからないようにステルスで目標まで近づくんだ。どの魔法を使うかは君の判断にゆだねる。ただ、君は目標が消滅するまでは手出し無用だ。ここには馴染みの者も何人かいるだろうが、現段階では君以外のプレイヤーは全て敵と認識してくれ。君自身が無事に帰還することを最優先に考えるんだ。」

「了解。」

戦士の身体は地表から五十センチほど浮き上がると高速の超低空飛行で目標に向かって飛んで行った。



紀元暦(仮称アース界年表)   皇一族記録


850年頃(詳細不明)

 明仁導師が平安京に現れ、怪が起こした凶事から民衆を救済する。

900年頃(詳細不明)

 明仁導師、四人の弟子を取り、秘伝の伝授を始める。

905年頃(詳細不明)

 明仁導師、高弟の一人、源こと皇源流斉に奥義光波を伝授する。

同年

 明仁導師が隠遁、姿を消し、皇源流斉と高弟の一人、皇剣吾が平安京から旅立つ。

 皇源流斉・剣吾がアマテラスと接近、凶星と初遭遇、これを退けることに成功する。

 凶星の呪いを受けた皇源流斉・剣吾の二人が帰京する。

910年頃(詳細不明)

 皇源流斉、皇異忍団を結成。

以後、為政者の守護者として、暗躍。


以下略


1999年

 皇翔吾が光波秘伝を継承する。

同年

 皇翔吾が楓忍隊の奇襲を単独で撃退する。

2049年

 凶星が再度襲来、皇翔吾の敗北、死亡により秘伝伝承者が途絶える。

 異星人による侵略により、大破壊により、多数の国が亡びる。

2113年

 新世界政府である世界統一戦線の樹立、凶星への本格的な反抗が始まる。

2120年

 皇諒が光波秘伝を伝承。

異世界人が旧ロシア連邦勢力圏と接触、後に皇諒の尽力により、凶星の手により精神汚染を受けた電脳の大賢者マルボラを開放、以降マルボラと異世界人は世界統一戦線を支持し、マルボラがアース世界のマザーコンピューターとなり、管理を始める。

皇諒が世界を旅し、八人の星の勇者を集め、凶星を撃滅する。

2130年

 皇諒の実子皇四兄弟の三男皇ノエルが欧州の暗黒街の黒幕パルッチョが企図した世界統一戦線首都への大規模テロを制圧。

2300年

 四人の超人類が皇一族を絶滅させると超人類の破壊行為により、文明の大崩壊が起き、人類が絶滅する。


 一枚のレジュメを見た青年は絶句している。年齢は十代後半と言ったところうだろうか。小柄で痩せぎすの体格をしており、色白で米粒みたいな形をした細面の輪郭に特徴のない顔に大きな丸眼鏡を掛けており、その眼鏡が顔のサイズにおらず、ずれてくるのか、何度も右手で眼鏡の右側の弦を指でつまむと、位置を直していた。科学者はレジュメから目を離すと、向かいに座っている男に話しかけた。

「こんなことが、本当に起きるんですか?」

「これは、本当にざっくりとした記載に過ぎないけどな。ちなみに俺がこの目で見て知っている史実はここに書いてある内容だと二千百二十年の記録までだな。」

「僕はゲームメイカーなので、大抵のことには驚きませんし、こうしたものには大分免疫があるんですけど、やっぱりと言うか、結局は根源世界でも人類は滅びちゃうんですね。残念だなぁ。」

「俺は二千百三十年の段階で千二百年以上も生きてるんだぞ。そこから先のことまで責任なんて取れるか、知ったこっちゃない。凶星による禍だけ取っ払われれば、後は何だっていいんだよ。」

 青年と相対している年齢不詳の屈強の男はテーブルの上に置かれたマグカップ内のホットコーヒーを一気に飲み干すとぼやいた。

 ここはポラリス市内の鉄道駅構内にある全国的にチェーン展開しているカフェの店内である。二人は遅い昼食を共に摂っていた。年齢不詳の男は有名なスポーツブランドの上下黒色のジャージを着て、座席にふんぞり返ると気だるそうに四角張った顔に生えた無精ひげの生えた顎を撫でていた。

 青年はその様子を怪しんで見ていた。男は科学者の不審がっている視線に気づいたようである。

   「何だ、君は俺のこと疑ってるのか?」

   「そんなことはないんです。ただ、目の前にいる人が本当に伝説の剣豪、皇剣吾だとは

中々受け入れられなくて。すみません。」

「サムライの格好して、この街をウロウロしてる方が、俺はよっぽど不審だと思ってこ

の格好で来たんだがな。スーツみたいな正装はよっぽどのことじゃないと着ないしな。まぁ、普段着だよ、普段着。」

「そう言われると納得です。

話を本題に戻しますけど、僕のこと、一体どうやって探し出したんですか?」

「いろいろと伝手があってな。それに俺も君と同じで、どちらかと言えば、根源世界に

近いところにいるから。ここでは、アバターの形を取っているけどな。」

「困っているんだろう?付き合ってる彼女が消えたとか。君の国の警察機構ではまとも

に事件として、取り合ってくれなかったのか?」

「僕はゲームメイカーです。ここは僕達からすると借りぐらしの世界みたいなものです。勝手気ままに生きられるまるで別荘のような箱庭世界です。彼女のミカ・クルーエルも僕には及びませんが、僕が創り出したゲーム世界の中でなら同等の管理権を行使できます。

僕はこの世界の管理権も幾らかですが所有しています。なので、僕も彼女もいくらで

も、自衛の術を持っています。選令門の魔術士が使うくらいのレベルの魔術なら簡単に

扱えます。

けど、ミカはどこかへ消えていなくなってしまったんです。」

「何か、思い当たる節はあるのか?」

「Pって言うんですか。この世界には我々みたいな普通の人間にしか見えないアバター

以外にも捕食者(プレデター)と呼ばれる亜人種がいるみたいですね。僕はその捕食者か選令門の魔

術士が彼女の失踪に関わっていると考えています。」」

「その理由は?」

「今説明した通り、僕達はアバター世界での虚数魔法のような上級の天智魔法でも、簡

単に使いこなせるんです。主がどうのこうのとか、真解の縛りも全くありません。

行ってしまえば、皇さんもそうでしょうけど、僕達はこの世界で言う『主』とやらに

近しい存在に当たります。なので、僕達に敵意を持って近づくものが仮にいたとして

幾らでも対処のしようがあります。それでも、彼女は僕の前から消えた。

正確には消えたではないですね。この世界にいるはずだと思ってやってきたら、ここにもいなかった。けど、確実にここにいた記録や形跡はあるし、今もこの世界に留まっているはずにも関わらず、何故か見つからない。いや、実は彼女、ものすごくクセが強くて・・・メンヘラと言うか、構ってちゃんというか。ずっと、機嫌が悪いみたいで、口もきいてくれないんです。すぐにどっか行っちゃうし。彼女は僕から少しでも遠くへ離れようとするので、手間がかかるんです。

けど、行動パターンは分かりやすいし、管理権限の少ない勝手がきかないゲーム世界は見知らぬ外国を歩き回る様なものなので、普段はあまり遠くへもいかないんです。今回も、この世界にとどまっているのは間違いないのですが、手を尽くしても見つからない。正直、心配しています。」

青年はため息をついた。確かに憔悴しているようだ。

「確認するが、君はただのストーカーとかじゃないだろうな。ミカ・クルーエル、確か

五分(イーブン)五分(イーブン)』の能力者だったか。異能の巫女ってのは君の言う通り、俺の知ってる限り

でも、情緒不安定気味な女の子しかいないから。まぁ、言いたいことは分かるよ。俺も

長いことそういう子に振り回されてきたし、すげぇ、美人の子も多いんだよ。あっ、因みに俺がそんなこと付き合ってたのはこの辺の時代ね。」

皇剣吾はレジュメの905年辺りを指し示した。

「俺だったら、君の心配事を取っ払ってやれるかもしれないぞ。この世界に存在する魔法ってのはあんまり使えないが、ご存じの通り、腕には自信があるからな。」

「全く、心配なんてしてませんよ。それよりも、僕は感動してるんです。ゲームメイカーからすると、世界の防衛力であるレジェンドそのものの皇一族の方にお会いして、こうやってお話しできるなんて、今でも信じられないです。

 是非、お願いします。ミカの捜索に協力してもらえますか?」

「分かった。けど、俺は人探しとかそういうの得意じゃないぞ。君と違って、ゲームメイカーでもないし。このアバター世界ってのはどっちかと言うと専門外に近い。

 彼女はこの世界にとどまってるのは分かってるんだろう。もしかして、大体どの辺にいるとか宛があるのか?だとしたら、どうせ管理権の及ばない場所で入っていけないとかそう言う類の理由なんだろう?」

「さすがです。鋭いですね。全くその通りです。選令門のごく一部の魔術士達はアバター世界の外側の理、ゲーム世界の構造について既に知っています。けれども、ゲーム世界を開拓できていない状況にある。だから、僕みたいなゲームメイカーは倫理観や宗教的な観念に災いを及ぼすみたいな意味合いで世界の秩序を乱す恐れのある存在として相当警戒されているんです。特にこの世界ではその傾向が顕著ですね。ポラリスなんかは特に居心地が悪くて、普段はこんな国には寄り付かないんですけど、彼女を探すために仕方なくって感じでして。」

「じゃあ、ポラリスにいるのが濃厚って感じなのか?確かに、俺もこの国に来てみて分かったんだが、ここは情報統制が厳しすぎるな。上位世界にかなり近いにも関わらず、分かりやすいくらい為政者が意図して民衆を近づかせないようにしている。」

「正直、捕食者側絡みだったら、ミカは相当ヤバい状況にあると思います。隠蔽体質の強い選令門でもヤバいのは一緒ですけど、ミカにも防衛手段がありますから。

 シャドウって言う捕食者の特異な形態の奴はウィルスみたいな情報体で、アバターへの感染力が極めて強い。一度感染してしまったら、僕の持っている管理権の範疇では、感染状態を解除することはできないんです。いろいろと調べたんですけど、選令門の魔術を以てしても、相当限られた手段でしか、除染できない。」

「じゃあ、君の彼女が捕食者の毒牙にかかる前に、彼女の無事を確認しなきゃいけないわけだな。」

「出来れば穏便な手段で、選令門と接触を持ちたいんです。けど、ゲームメイカーの僕にはそれが難しい。」

「さっき言った伝手ってのは正にその選令門の魔術士のことなんだよ。魔術が幅を利かせてるこの世界では連中と強いコネクションがあったほうがいろいろと便利なんだ。

 今度、選令門の研究施設ではゲーム世界への探索を計画している。そこに君をねじ込ませるってのはどうだ。」

「僕達ゲームメイカーは並行世界間に限らず、単独の世界でも時間遡行だけはできないんです。けど、虚数魔法と言う手段を使えば、それよりももっと複雑な仕組みで手間もかかる現実改変はできるんです。不思議ですよね。

 選令門の内部に入って、そのゲーム世界のデータさえ得られれば、ゲーム世界の内容どころか、関係者の記憶や、探索作業のルールすら、多分、僕の管理権で書き換えられます。」

「すごいな、そんなことまでできるのか。」

「この世界全体の摂理をいじって改変させるわけじゃないですからね。極めて小規模の範囲内での現実改変なら可能です。僕は百パーセントの管理権をもっている自作のゲーム世界を五つ持っています。

ミカの協力を得て、初期に作った習作を使うつもりです。この世界なら、単純なルールで、アバター世界の、特に魔術文明で繁栄しているポラリスなら親和性が更に高い。僕自身も転送先でうまいこと立ちまわれますし、選令門の魔術士達が転送されても疑いを持たずに、探索を進んでしてくれると思います。」

「そんなに、うまいこといくものかな?この世界の住人は普通の人類とは違う。内側の世界の仕様に特化した進化をしている。以外に柔軟な考え方をしている者も多い。甘く見ない方がいい。」

「僕も、選令門の魔術士と共にゲーム世界の探索に同行します。彼女はきっと選令門の中にいます。選令門が感知するゲーム世界の中に逃げ込んでいる可能性もある。僕が、選ぼうとしている世界の中で、管理権を持った外部からのプレイヤーが動き回っている痕跡があるんです。もし、ミカがここにいるとしたら、狙いは間違いなく、『パラドクスキューブ』です。」

「パラドクスキューブ?何だそれは?」

「ゲーム世界の中側に存在する物体を外の世界に持ち出すことのできるアイテムです。大抵は一度使用すると消滅してしまったり、持ち出せるものに制限があったりするんですが、各世界に一つしかない特別なキューブは複数回使用可能なものがあったり、ゲーム世界を仮想世界と捉えて外側の世界を仮に現実世界と見立てたら、外の現実世界ではあり得ない効能を持ったアイテムを持ち出すことも可能なんです。

 例えば、不老不死の霊薬や世界そのものを消滅させてしまうような兵器等です。」

「そんなめちゃくちゃな話、現実にあり得るのか?」

「理論上は可能なんですが、そういった状況は今まで一度たりとも発生したことはありません。無数にあるゲーム世界の中の共通ルールみたいなものがあって、その中に世界の防衛力と言えるものがあるんです。皇さんならご存じでしょう?」

 皇剣吾はにやついている。

「気恥ずかしいな。何故かは知らないが、俺と源流斉の二人がその防衛力とやらなんだろう?」

「無敵のお二人ですからね。世界に無秩序なことが起きると自然発生のように発現するそうですね。皇さんが私の目の前にいるっって言うことは既にこの世界でそう言うヤバい出来事が起きつつあるってことなんでしょうから。」

 青年の表情が曇った。

「逆を言えば、俺が来たってことは世界が救われるってことの裏返しでもあるわけだろう?彼女のことは心配だろうが、何とかなるさ。

 そう言えば、まだ、名前も聞いてなかったな。君は何て名前なんだ?」

「僕の名前はエドハリ・リュウと言います。

 皇さん、情報共有しませんか?僕からも伝えたい情報があります。皇さんにも関連することです。」

「七面倒なのは嫌だぞ。俺は君とは違ってアナログタイプの人間だからな。どうせ、魔法を使って、共有の記憶みたいなのを送って来ようとしてるんだろう。」

「バレちゃいました?分かりました、さっきみたいな資料をペーパーのレジュメにしてお渡しします。

僕は剣吾さんに会うのは初めてですが、源流斉さんとは間接的には会ったことあるんです。僕が作ったあるゲーム世界の中にいた皇一族の方々とは面識があります。剣吾さんにはその人達のことを知って欲しいから。どの人も物凄い英雄や戦士達です。」

「おっ、ちょっと楽しみだな。で、剣術は誰が教えてるんだ?」

「僕が知っている人は葵流剣術の遣い手でしたね。少女で槍の名手もいました。」

「葵流!?競合してる流派じゃねえか。」

「きっと、よっぽどの危機が訪れないと、剣吾さんは現出しないんですよ。僕は剣吾さんに見た目そっくりの剣の達人がいるのも知ってます。別人でしたけどね。」

「なんだそれは?じゃあ、その資料を見せてもらおうか。」

 エドハリは手持ちのビジネスバッグからA4サイズの上白紙を取り出し、テーブルの上に置くと、紙の上に手をかざし、詠唱し始めた。すると、白紙の上にプリンターのように印字し始めた。


亜永立神聖帝国歴        出来事

1年

始まりの三賢者と初代皇帝アドルによる建国

5年

大魔導サンが離反、火星へ移住する。

22年

聖導師グイネスが教団を設立、帝国への内政干渉を開始する。

30年

大賢者マルボラが滅私し、マザーコンピューターとして始動する。

50年

初代皇帝崩御、二代皇帝イリアス即位

255年

大陸東部の未統治地域十三支族が蜂起、革命軍を結成する。

300年

革命軍統治地域から多数の労働移民が火星への宇宙移住を開始する。

380年

帝国特殊兵器アームズの兵器開発責任者であった科学者エドハリがミカ・クルーエルと共に革命軍統治地域へ亡命、後に革命軍首都内の研究施設にて、対アームズ兵器である十種の限定特殊兵器の製造に成功する。


以下略


390年

帝国騎士スメラギが白銀騎士団団長に就任直後に七代皇帝ソレス暗殺事件が発生、首謀者として、帝国騎士スメラギが浮上、冤罪を避けるためにスメラギは逃亡、後に皇帝暗殺計画の首謀者を炙り出すために対抗作戦として先んじて行われた皇帝による自作自演であったことが判明、マザーコンピューターマルボラを担ぎ上げようとした教団指導者が暗殺計画の首謀者であったことが判明、逃亡先から帰還したスメラギによって、断罪され、皇帝暗殺が阻止される。

391年

帝国騎士スメラギが革命軍の軍閥の大物リー大家と衝突、革命軍の帝国へ大規模侵攻を未然に防ぐことに成功する。

392年

帝国騎士スメラギが帝国を離れ、崩壊状態にあった隠密部隊『皇異忍団』を再結成する。

皇一族の敵性因子『ゴースト』の襲撃、スメラギによって撃退される。

帝国騎士スメラギが葵流剣術秘奥義『孤影』を伝授される。

393年

帝国依頼により皇異忍団が革命軍首都で自我によって離散、行方知れずとなったエドハリ製造の八種の限定特殊兵器の発見、殲滅を実施する。

同年

スメラギが失踪したエドハリの妻ミカ・クルーエルの捜索のため、帝国内からゲーム世界『オーガスト』への最初の転送を開始。

395年

スメラギがゲーム世界『オーガスト』から、パラドクスキューブを持って帰還。

397年

帝国内特別監獄施設からS号文書『封人』が異世界人の主導のもと脱獄。

スメラギが封人捜索のため帝国で開発したゲーム世界管理システムを基に作成した歴史記録観測装置を用いて、封人を発見するも確保に失敗。スメラギが観測作業の過程で装置使用の弊害で微細の歴史修正効果が発生することを突き止める。

スメラギが帝国白銀騎士団の団長として帰還する。

同年

帝国騎士スメラギと妻である同族の娘皇桔梗の間に双子が誕生する。

帝国黒騎士隊幹部ウラベの造反により、帝国内に仮死ウィルスが蔓延、パンデミックが発生する。皇桔梗が人質に取られるも、奪還に成功する。

400年

帝国騎士スメラギを頼り、未把握のゲーム世界の王が亡命、追手によって、逃亡中の封人が惨殺され、所持していたパラドクスキューブが奪われ、追手が帝国に到着する。

 

以下不明

 

皇剣吾はレジュメを見て、黙り込んでしまった。真剣な表情をしている。

「いゃあ・・・この反応はちょっと怖いな。」

「これは君が一人で創った世界なのか?」

「剣吾さんが人として認識している存在だけをゲームメイカーと定義するなら、僕一人で、作り上げた世界です。手間暇もかなり掛かってます。ゲーム世界内の複雑なシステムの維持管理や自由意思を持っているモブキャラクターの数が多い場合なんかはゲーム内に管理権とゲーム拡張機能を持たせた優秀なAIのプレイヤーを設置しています。こういったプレイヤーは僕より劣る管理権を持っているだけで、僕と同じゲームメイカーです。剣吾さんは当然承知されているとは思いますが、『ゲーム世界』と言っても、テレビゲームのような仮想世界でなんかじゃなく、まごう方なく現実に存在する世界ですから。彼らも極小世界の創造主の一種なんです。」

「その世界で生きている連中は人工知能が神様だなんて思いもしないだろうな。」

「このアバター世界の住人はきっとそうした現実を受け入れないと思いますよ。誰だっ

て、自分が生きている場所こそが世界の中心だと思っていますから。それは万国共通で

すよ。けど、厳密に言えば、情報そのものの存在であるアバターは元々の仕様でそうし

たことに気づかないようになっている。そう言ったルールの壁を越えられる者こそが神

に近い存在なんでしょう。」

「じゃあ、俺達も神様なのか。」

 皇剣吾は呆れた様子で笑っている。

   「怒らないで下さい。僕みたいな軟弱者からしたら、剣吾さんみたいな存在こそ正に神と言う名にふさわしいと思いますよ。」

「俺はお前の言うゲーム世界をものすごい年月旅しているが、それでもここは非現実な

んだって気しか湧いてこないぞ。」

「それは剣吾さんも僕と同じく元が根源世界の人間だからですよ。僕も皇ノエルさん越

しに源流斉さんや、剣吾さんを見ている感じです。ノエルさんの真に覚醒した姿は見た

ことないですから。けれども、面影があるから分かります。皇一族かぁ、本物はやっぱ

りすごいです。」

「帝国騎士スメラギか、こいつもいろいろと苦労してるんだろうなぁ。」

エドハリは目をうるうるさせ、深く何度も頷いている。

「彼は僕が創ったゲーム世界の一つ『オーガスト』のグランドクエストを唯一クリアし

た大英雄です。クエストクリアでゲーム世界間を越境したのは彼だけです。けど、剣吾さんは未だ会ったことないんですよね。」

「きっと、まだ出会う運命にないってことなんだろうな。」

「このアバター世界にも遂に現れたんです。世界の防衛力たる皇一族の一人、皇若葉、

彼女は選令門の魔術士を憑代にして現れました。防衛力はゲームメイカーの管理権の枠

外で自然発生するものなので、僕もまだ見たこともないんです。

剣吾さんの手引きで彼女に会えそうですか?」

   「宇宙技術開発機構の研究者小春陽介博士の娘、小春うさぎ、彼女こそがその憑代だ。選令門は彼女を介して源流斉を取り込もうと画策している。」

「ゲーム世界へ彼女を送り込み、目覚めさせるつもりですね?それなら、僕が一役買いますよ。」

 エドハリはいやらしい目つきで剣吾を見た。

「俺には管理権はないからな。連中は図々しい。目的のためなら、魔術士は神をも取り込むだろうさ。」

「帝国騎士スメラギは一体どこへ行ったんだ?」

「同じ皇一族によって消されてしまったとか。何故か生死は不確定なんですよ。

時の管理者なら、どうなったのか知っているかもしれないですね。」

「時の管理者、『終始を知る者』か。ゴーストの仕業だとしたら、皇若葉の命も危険に晒されるかもしれないな。」


                1


「診断の結果は良好だ。身体的な異常は魔力回路の喪失を除けば、全くない。メンタル的なケアは今後も必要だがね。」

真仲介慈は鶴に病理診断の結果を告げた。ポラリスでの襲撃事件発生後三ヶ月が経過した。鶴はポラリス市街地戦で月光卿の攻撃によって魔力喪失後、すぐに選令門の緊急医療センタ

ーにて治療を受けた。

身体的な外傷は短期間で癒えたが、欠乏した魔力が戻ることはなかった。うさぎがドナーとなり、魔力換装を試みるも、魔力適性が完全に消失してしまった鶴に効果は全く無かった。

鶴は魔力適性を持たないノーマルのアバターになってしまったのである。

真仲介慈は選令門の医学博士であるため、鶴の担当医を志願し、治療に当たってきた。

「力になれなくて、本当に申し訳ない。翠玉君とアズマル君の尽力で、高危険度の敵戦

力の逃走を許したことに関する責任は一応、免れた。これには私も微力ながら、協力さ

せてもらった。君の現在の境遇を鑑みてのことでもある。君には間もなく、辞令が出る。次の異動先は追って通知する。」

「私は選令門から追放されるんですね。」

「魔力無き者に魔術士を名乗る資格はない。こればかりは私もどうすることもできない。この街で魔力を持たない者は社会的な意味で死を意味する。

君のためでもある。治療は今後も続ける。私が君を必ず元の姿に戻す。また、選令門へ帰って来るんだ。」

「分かりました。処分なしで済んだのは先生な仲間達のお陰です。辞令に異議の申し立

てをするつもりはありません。」

鶴の返事には心が全くこもってはいなかった。



遡ること一月前のことである。翠玉は閉店後のサンセットにて、うさぎとアニャンと会食の機会を設けた。二人に近況報告と相談事があったからである。翠玉は鶴の近況と魔力適性の喪失に回復の見込みがないことを説明した。

「あたしがあそこで鶴の魔力を奪った仮面を破壊出来てたら、また違った結果になっていたのかな・・・」

 アニャンはかわいい後輩のピンチに際して、何もできなかった自分を悔いているのだろう。

「私がアニャンさんの立場だったとしても、仮面の破壊はしなかったと思います。敵の想定内で安直な判断で動けば、返討ちにあっていた可能性が極めて高いと思います。

敵はシャドウ化した鶴の回収が絶対条件だったようなので。

人命最優先ですから、仕方ないですよ。アニャンさんが生き残ってくれたからこそ、事の真相が明らかになったんですから。」

翠玉はアニャンを優しく慰めた。

「魔力回路の移植とかは出来ないのかい?私はいつだってドナーとして協力して良いと思ってるんだよ。上手くいけば、うさぎの魔力換装の力を使えば、前と同じとはいかなくても、並の魔術士のレベルまでは元に戻せるんだろう?」

「それは、無理なんです。魔力回路の移植は一代限りにしか発現しない特異な術を持つ

者が次代へ伝承するために行われる技法ですが、それは魔力適性を持つ者同士だからこ

そ、可能なことなんです。鶴は敵の攻撃によって魔力適性を全て失ってしまった。だか

ら、他人から魔力を持ち寄って補うようなことは出来ないんです。」

「かわいそうに、魔法とは縁のない者になっちまったんだね・・・あいつから、魔法を

取っちまったら、一体何が残るって言うんだい?

あたしみたいな単細胞とは違うんだ。生きてれば何とでもなるとは思わないか・・・はぁ、やらかしちまったよ。真実かどうかも分からないあの男の論法に丸め込まれちまった。水掛とか言うコピーの男の意識は戻ったんだろう?そこから何か分からないもんなのかい?」

「水掛望人は患部である右腕から胸部の一部を切除した結果、重傷でしたが一命は取り

留めました。捜査機関の取調べにも素直に応じています。彼はおそらく亡命を望んでい

るんでしょう。水掛と雅号、そして消えた後藤紀についての関係性や襲撃の背後関係に

ついてもあらかた判明しました。雅号の生まれ故郷であるバスク公国は捕食者pとそれ

に呼応するエキストラの支配圏の国家ですが、トリアングルムとポラリスでのテロ活動

について、非公式ながら声明を発表しました。いつもの通り、我関せずの姿勢です。国

家が把握済みであるが、指揮下にはない武装集団による独断の犯行だと。そのスタンス

から謝罪の姿勢を見せたんです。

ある一面では当たってるんですよ。極一部の青年将校達の単独行動な訳ですから。我々、

世界統一戦線連合国はバスク公国への武力侵攻は見合わせました。そもそも、戦争行為

にお互いの陣営が踏み切るなんてことは非現実的な政治判断ですから。」

世界統一戦線連合国は魔術士陣営の最大国家である都市国家ポラリスとその衛星国家、ノーマルアバターとエキストラによって構成された先進国や新興国を中心とした国家群から構成された世界最大の連合国家である。

それに対し、捕食者が構成した国家はシャドウやヒューマンが混成した大国バスク公国やシャドウの支配地域であり、幽玄山脈を中心地とした丘陵地帯に独自の文明を発展させた未知の国家UK(アンノウン)指定国なるものが存在するUK指定国は国土面積や人口等のデータが判明しておらず、連合国が飛ばした衛星やポラリスの魔術探査においてもその詳細が判明しない有様なのである。

厨房から派手に食器が割れる音がした。

「あいつ、またやらかしやがった・・・何枚割ったら気が済むんだい!

輸入雑貨でうちの食器は結構値が張るって何度注意したら分かるんだ!

またそれにしても、何で、あんなのをここへ寄越したんだい!?」

いらついたアニャンは厨房にいる新入りに檄を飛ばした。

「許せ!慣れないこと故!」

店のユニフォームに身を包んだ益荒男が厨房から顔を出した。

「以前に、説明した通りです。彼がここに来ることを望んだんです。

捕縛してから十日足らずの内に脱獄すること五回、死者こそ出ませんでしたが、数多

くの監守職員が負傷しました。どこの鑑別施設も受け入れを拒否しました。

ポラリスでは主に近い高位の存在を政治犯として処遇するのも判断に困るそうで、公

式な裁判が開かれるかどうかもわかりませんし、それ以前に移送すら難しいと。

それで、魔力を与えて存命させたのは誰かと言う話になりまして・・・

まぁ、責任の持って行き場と言うか、厄介ごとのたらい回しと言うか・・・

本当に申し訳ありません。」

翠玉はバツが悪そうにアニャンに謝罪した。

「あたしは善意で、あんた達に協力しただけなんだけどね。やらかしたのはうさぎだし、

監督者責任ってやつか・・・それであんたや鶴の処分が軽減されるって言うんなら、幾

らでも厄介ごとは受け入れますよ。」

アニャンは諦めた様子である。

「私や鶴のこともそうですけど、先生のこともですよね?」

翠玉は下卑た笑いでアニャン問い掛けた。

「何、ニヤついてるんだよ。公然の場で愛の告白をした挙句、惚れた男にキスするよう

なハレンチ娘にゲスの勘繰りみたいなことはされたくないもんだね。

鶴の手前、浮かれた態度取れませんってのが、さっきからあんたの顔にありありと出

てるんだよ、この幸せ者め!

アズマルとはよろしくやってるんだろう?」

「はい、おかげさまで。私も結構いい歳なのに、何やってたんだろう、もっと早く行動

に起こしていればと後悔してます。アニャンさん、アズマルさんのこと、よく悪し様に

言いますけど、アレって見込みがあることの裏返しですよね?

彼って魔術士としても一流ですから。素直になれない的な、違います?」

「んなわけないだろ!」

アニャンはコンマ数秒で否定した。また、厨房から派手に食器が割れる音がした。

「許せ、慣れないこと故にな。」

益荒男はまた厨房からひょっこり顔を出し、頭を下げた。

「アニャンさん、職場の先輩としてよく言って聞かせるんで!」

厨房からうさぎの声が聞こえた。

アニャンは長くため息をついた。

「今日はアニャンさんに見て欲しい資料があって、お持ちしたんです。一度目を通して

もらえますか?」

そう言って、翠玉は厚さ一センチほどのA4サイズの資料を取り出した。


「第二喪失技術による補完技術の魔術的転用?要約すると、ロストテクノロジーを活用

して、魔力を生成、それを蓄積する装置にしたり、機械化する技術をうたった論文ってことかい?」

アニャンは冊子を一読し、翠玉に返した。

「はい、その通りです。あくまでもこれは骨子に過ぎませんけど。この論文は真仲博士

の研究室に他国から持ち込まれたものなんです。

うさぎちゃんのお父さんと先生は魔術の軍事転用について、広く共同研究してますか

らね。博士はこれを私に渡して、どう思うかと意見を求めて来たんです。

博士は多くは語りませんが、私は直感ですけど、鶴に関係してることだと受け止めま

した。鶴の同僚且つ親友としてどう思うか?その判断を仰ぐのに取り敢えず、目を通さ

せたと言うところでしょうね。

それと、同じ研究室の一員として、学識や度量を試されているんだと思います。父と博士は面識ないにも関わらず、人事のことで色々圧力かけられているようなので・・・」

「相変わらず、子離れ出来ない親父さんだねぇ?後継者なら紅玉君がいるじゃない

か?彼じゃダメなのかい?」

「うちは代々巫女を家長とする家系なんです。父は仕方なく司祭になったんです。だか

ら、嫌な思いもたくさんしてきたんじゃないかな?博士は鶴と私を立派な学者になれる

よう、鍛え上げた上で、父に私の将来を拘束しないように抗弁してくれるつもりなんで

す。父は鶴も博士も両方共に毛嫌いしてますから。

鶴とアニャンさんが先生のことを高評価するの、ようやっと理解出来ました。多くは語らないけど、ものすごく優しいひとですよね。

「高評価って、あんたその言い方・・・

けど、先生らしい行動だと思うよ。先生のあんたへの試験については私がどうこう言

える立場じゃないし、勝手にやってくれって感じだけど、この論文、普通に考えたら、

眉唾ものだろ?第二喪失技術って要は電力のことだろ?

もろに実在する資源に頼り切った技術・・・旧人類を滅ぼした元凶みたいなものじゃ   ないか。要はこれをわざわざデジタル化して再現してアバターが使える技術にするってことだろう?そんなことして何の意味があるんだい?あたし達アバターは情報の波間に生きるもの、波に現れた起伏みたいな存在に過ぎないのさ。

あたしにはナンセンスなこと考える奴がいるんだなぁくらいの感想しかないけどね。」

アニャンの言い分は最もである。人間が物質としての肉体を確実に所持し、旧人類がこの世を支配していた時代、人間を進化させ、また、堕落させ、自滅の道へ追いやったのが、電力を主体としたエネルギー問題なのである。人間は電力の供給のために有限の資源を奪い合い、自らの文明を加速度的に進化させると同時に衰退させたのである。

デジタル世界の中で生きるアバター達にとって実在する自然エネルギーの再現に何か意味があるかと言えば、一見して人類の歴史研究の一環以外に用途は考えられないのである。

「私達魔術士の関知しないところで、主がいる外側の世界について確定的に何か分かっ

ていることがあるのじゃないでしょうか?

この研究は人類の罪の再現、それ以外に隠された目的や意図があるんだと思います。」

翠玉は神妙な表情でアニャンに語った。



鶴が異動して一月が経った。鶴の異動は形而星間研究機構と呼ばれる第三セクターへ出向と言う形で行われた。形而星間研究機構は選令門が遥か西方に位置する連合国の小国エスタフに複数の民間企業の出資の元、作られた技術開発企業である。

物理学を哲学的アプローチから研究、アバターシステムの解析と魔術の新規開発を行っているが、エスタフに派遣されている魔術士は一人としていない。この国では魔法適性を備えている者は一人もいないのである。

その理由として生来魔法適性がある者を選出しない歴史的背景が挙げられる。エスタフには選民思想を嫌い、魔術を宗教的思想と結びつける国民性があり、魔術は異端的なものとされ、遠ざけられてきた。

連合国の世界統治のための施策として、この第三セクターは置かれた。現段階では金にならない研究対象であることから、選令門の中でも島流し的な閑職であり、左遷先の最たる配置場所なのである。

鶴は、そこの技術開発部門のアドバイザーとして赴任した。世界最高峰の学術機関、選令門からの出向とあり、鶴は左遷と言っても若くして、高待遇で迎えられた。部長と言う肩書は人事権や様々な決裁権のある要職である。

しかし、実情は違っていた。魔術士として蔑視され、窓際に置かれ、その仕事と言えば、他愛もない書類のチェックや変わりのない研究内容の視察であった。

哲学と物理学の融合、聞いただけで短期的な研究で結果が生まれるものではない。鶴の心の中は空であった。ただ、確信していることが一つだけある。自分がポラリスへ還ることはない。  

見知らぬ土地で、変化のない毎日を繰り返しながら自分は死んで行く。いつしか、魔法世界

にいた頃を思い出すことすらしなくなった。過去を思い返すだけで苦痛になるからである。そんなある日、翠玉から一通の手紙が届いた。


「お久しぶりです。体調はどうですか?ずっと連絡をしようと思っていましたが、入院

中、アニャンさんやうさぎちゃんが面会を控えたと言う話を聞いて、私自身、あなたと

どう接したら良いか、迷っていました。

身体の傷は癒えて、新しい異動先での勤務にも慣れ始めた頃だろうと思い、この手紙

を書くことを決めました。

あなたに今、起きている不調や苦しみを共有してあげられる人は周りにはきっと一人

もいないと思います。頑張れと声をかけられることすら、辛いことなのでしょう。

あなたの気持ちを理解したと言うことさえ、失礼になってしまいますね。ただ、どう

してもあなたに伝えたいことがあります。それは、あなたの身近にいる全ての親愛なる人達が、あなたの身を案じ、あなたが私達の元へ以前と変わらぬ姿で帰ってくることを信じて疑わないと言うことです。

真仲教授も今の勤務先を斡旋するのに相当な苦心をしていましたし、私も意見を求められました。お願いです。希望を捨てていないなら、同封の資料に一度目を通してもらえませんか?今のあなただから出来ることがきっとそこには書かれているはずです。

あなたの今後のご活躍を期待しております。主の御加護あらんことを。」


鶴は翠玉の手紙を読み終えると、同封されていた「第二喪失技術の補完技術の魔術的転用」と書かれたレポートを一読した。

論文の著者はアンリ・マックスハート、どこかで聞いたことのある名である。このレポートは真仲介慈が鶴に手渡した資料に翠玉の独自の解釈が書き加えられたものであった。翠玉は魔術に関しては一流の魔術士としての学識を備えている。その翠玉からして、この論文には辛辣な評価が付けられていた。

理由は簡単である。そもそもの論文の著者に魔術的な素養がないのが丸わかりだからである。魔術に関する誤解や技術的展望が安直であり、実用化にあたり、生じるであろう問題点すら把握出来ていないのである。

先生も翠玉も何を考えているのか理解出来ないと言うのが本音であった。ただ、翠玉がこの論文全体を通して、ただ、一点だけ高評価し、研究の妥当性を示す箇所があった。

それはレポートの中にこう記載されていた。

「本論文には理論的脆弱性が散見され、当学院では支援すべき研究対象と評価するに値しないと判断せざるを得ないが、魔力を別エネルギーにて置換、魔術を模倣し代替すべき汎用性の高い技術開発を行うことは促進すべきものと本職も考える。

電力が魔力に準ずる高エネルギーとして実用化且つ効率的な活用が可能なことを詳細に示すことが出来れば、研究対象として、再考の余地は大いにあるものと考える。」


「翠玉、ごめんね。心配してくれる気持ちは嬉しいけど、こんなもので挑発されても、私の心に火が灯ることはないよ。」


鶴はレポートをデスクの大引き出しの奥にそっとしまった。



翠玉からの手紙が届いてから数日後のことである。研究施設で労働災害事故が発生したと報告を受け、鶴は現場検証の立会いのため、現場へ向かった。

ごく簡単な魔力発生装置の開発実験中の火災事故とのことであった。要はボヤ騒ぎである。火器を用いた実験にも関わらず、責任者は不在であった。責任者の代理として、エマ・ステ

インと言う名の主任が消防局と対応していた。

エマは若い女性研究員である。エマは逆三角形の小顔にアーモンド型の美しい瞳、小さくて高い鼻、口角の上がった小さな口、髪はストレートロングの栗色で片側に流している。万人が見て、かわいいと言う女性である。

「ご心配をおかけしています。私はこのラボで主任をしているエマ・ステインです。はじめまして、折原部長。マックスハート主席は大抵、不在でして大変申し訳ありません!

事故自体は本当に大した事故じゃないんです!予想に反して、燃え過ぎててしまったと言うか・・・」

エマはバツの悪いのかそうでないのか、判別の出来ない愛想笑いで自分の失態を誤魔化そうとしていた。

鶴のエマに対する第一印象は「癇に障る女だ。」ただ、それだけであった。そして、事故状況の詳細が判明する程にその苛立ちは倍加していった。

聖水が入っているであろう小瓶がクロスが敷かれた卓上に置かれ、そこには理論的にいくつかの蝋燭が刺さった燭台が置かれている。激しく燃え上がった蝋燭の炎がクロスに燃え移ったのが火災の原因であった。

「これは何の実験?火成魔術の真似事か何か?」

鶴はエマに詰め寄った。

「魔力発生を確認するための聖水の触媒効果の実験とか何とか・・・

正直、よく分かりません・・・」

エマはしどろもどろになりながら回答した。

「この聖水の出所はどこ?まさか、中世の出典不明の魔術書か偽書でも模倣して、錬金

術の真似事でもしようとしたんじゃないでしょうね?聖水の起源や精製方法についても、何も知らないのかしら?

魔力適性のある者が正規の術式を施さなければ、魔力を帯びた人工物はまず発生しないわ。それに聖水は特別な環境下でしか自然発生しない。地勢学的にきちんと説明のつく地脈の霊的功能と言ったら良いのかしら。

要はアバターに直接的な影響を与える力や作用、こうしたものは人類がアバターに変質する遥か前からきちんとした知識として説明出来るものなのよ。

上っ面の知識だけで魔術を模倣しても、魔力を正しい形で発生させることなんて出来ないの。」

鶴はエマの無知っぷりに苛立ちを隠せなくなっていた。魔法を馬鹿にするものを許せないのである。

「けど、結果的に炎は出ましたよね?予想通りにはいかなかったけど、魔力が発生した

のではなければ、あの炎はなんだって言うんですか?」

エマは小馬鹿にされたことに腹を立てたのか、食い下がった。

「あれは燭台に刺さった蝋燭の・・・」

 鶴がエマに何か言いかけたその時である。

「失礼しました!そこから先は私が彼女に説明します!」

暗めの藍色の髪を肩まで無造作に伸ばし、青白い顔をした痩せ型の若い男の研究員が鶴の話を遮った。男は白衣をだらしなく羽織り、パッチリとした目に丸形の金属フレームのメガネを掛けている。

「この燭台に刺さった蝋燭、これ自体が魔法によって精製されたものなんだよ。ただ、

その魔力の功能的にはごくわずかなものでね。

例えるならば、同じ製法で作られた商品でも成分にバラツキが生ずることがあるだろう?商品なら欠陥品としてはじかれてしまうようなものさ。

そうした不良品を機械の不具合によるものと片付けてしまうのは簡単さ。ただ、連続性の中の突発的な事故や変質について、真剣にその原因について考えた馬鹿な学者が大昔にいたのさ。

その学者はきっと神に選ばれたものだったんだろう。人智の及ばない何か、それについて宗教や哲学の枠を超えて、初めて理路整然と世の迷える子羊達に説明して見せた。

 その人は真解システムの最初の提唱者であり、人類の正体が情報そのもの、つまりアバターであることを明かした人物、大賢者カミュ=サマセットさ。

あぁ、大分話が脱線してしまったね。ただ、この実験の失敗を説明するのに必要なことなので、そのまま聞いて欲しい。そのサマセット博士が提唱した「不連続と不均衡」

の法則と言うのがあってね。

あらゆる物理法則がある回数以上の連続行動を起こすと確実に不均衡、バランスを崩す現象、分かりやすく言うと不具合を起こすことを発見したのさ。一定回数を迎えたらと言うよりは一回目からある規定の回数を迎えるまでの間に必ず不均衡を起こすと言うことをね。もっと端的に言うならば、万物は有限であることを解明してみせたのさ。」

研究員の長い話が続きそうなところで、エマが質問した。

「そんなことどうやって説明するんですか?」

「恐ろしいスピードで天文学的数字まで数えられるカウントマシンをたくさん作って一つずつその機械がぶっ壊れるまで一から順に数えたのさ。そして、そのすべての機械が同じ数字でカウントを止めた。

その機械が単純な構造だったために世界中の人々がその法則の証明を信ぜざるを得なかったんだ。サマセット博士はその後、恐ろしい数の天才的な学説を発表した。

結果、世界は彼の言うことを盲信した。その最期の学説が人間の存在がただの情報の集積、つまり我々がアバターであると言うものだったんだ。

我々アバターはカミュ博士の荒唐無稽とも言える学説を真理としていとも簡単に受け

入れた。彼の死後、長い時を経て分かったことではあるんだけどね。

救世主の如き人類の精神的支柱が顕現する時、我々アバターは主の設定した仕様によっていとも簡単に与えられた真理に順応してしまう。

これもまた「進化の規定値」と言って、説明のつくものなんだけど、話が長くなるので、この辺にしておこう。

話を戻すと、実験が失敗した理由なんだが、燭台に刺さったあの蝋燭に原因があったのだよ。この実験は魔力の干渉を極力避けた状態でエネルギーとして、魔力を発生させられるか試すための実験なんだよ。

あの蝋燭は大手企業によって大量生産されたものの中から不良品として、廃棄されたものを解析し、可燃性が強く精製されたものを抽出して、持ち込んだものだ。

よく、燃える個性を持っているイレギュラーな存在と言ったところかな?この個性こそ、主が与えた存在意義、この蝋燭に与えられた真解なのさ。

真解システムは主が作ったイレギュラーな状態を制御し、自由自在に使えるようにする魔術の根幹だ。それを使用できるのは極一部のアバターだけ、主に寄り添い、その意思を理解する者達なのさ。

我々は魔力を一切持たないノーマルのアバター、そのただのアバターが魔術によって魔力を発生させることがどれだけ大変なことか。君には未だ理解できないだろう。

元魔術士の折原部長ならば重々承知しているでしょうけどね。魔力適性のない者からすれば、魔術とはこれほど縁のない世界なんですよ。世界のあらましまで全く知らずに生活している者も多い。

それでも社会が上手く回っているのも主の意思によるものなのかもしれませんが。私は魔法が万民に身近なものになって欲しくて、こんな馬鹿馬鹿しい実験をしているわけです。ただ、魔力の汎用化は我々がパイオニアになることがなかったとしても、近いうちに誰かが絶対に成し遂げると思いますよ。」

「どうしてそう思うんですか?」

鶴は研究員に問うた。

「アバターが爆発的に増加しているからです。それと共にこの世界が加速度的に拡がっている。

アバターの文明が衰退する前兆です。魔術は人類に不必要なものとして淘汰されるかもしれない。これは兄貴の受け売りですけどね。」

「マックスハート・・・」

鶴はその名前を思い出した。翠玉が送ってきたレポートの中にあった論文の著者である。そして、その名は同時に選令門の天智魔法の一種、時空観測の権威であるマックスハート家であった。

「あなたのお兄さんは選令門の大魔導師、ウィリアム・マックスハートさんではないですか?」

鶴は研究員に尋ねた。

「ウィリアムは私の兄です。私は魔法が全く使えない一家のはみ出し者なのです。残念ながら、私は弟の方のアンリ・マックスハートです。あなたをここへ呼んだのは私です。

 我々の研究にはあなたの知識と経験が必要です。パートナーとして、御協力お願いします。」

アンリはそう言って、あ鶴に右手を差し出し、握手を求めた。



翠玉が店にやって来た夜のことである。うさぎは音聞可奈の寮室で無駄話をしていた。

「うさぎ、あんた噂の転校生見たんでしょ?クラス同じなんだからさ。噂通り、めちゃ

くちゃイケメンだった!?」

「まぁ、イケメンと言えば、確かにイケメンかな・・・」

「歯切れが悪いなぁ。」

「正直、あんまりタイプではないんだよね。一言で言うと渋いって言うのかな。言葉や

態度に出てるわけではないんだけど、顔からハードボイルド感を醸し出してると言うか。」

「おっさんぽいのか・・・うさぎ的には結局、残念君なのね?」

「見方によってはめちゃくちゃカッコいいと思うよ。けど、彼はとても無口なの。何考えてるか正直言って、よく分からない。」

うさぎのクラスに編入生がやって来たのは今朝のホームルームのことである。編入生の名は枝戸張理宇(えどはりりう)と言う。枝戸張はポラリス市内にある高校から選令門の選考試験を突破して来た異色の経歴の持主だそうだ。転校初日と言うこともあり、彼と親しく付き合う者は未だいない。

うさぎも選令門に来てまだ、日が浅く、周りの子の顔色を伺い大人しくしている。自分のことで手一杯で編入生のことなど意識していないのが実際のところである。ホームルーム中、枝戸張は自分の挨拶もそこそこにある人を探していると言った。

「で、彼は誰を探してるの?」

「ミカって名前の若い魔女だって。クラスの子は誰も思い当たる節はなかったみたいだけど。」

「何だ、転校して来て早々に、女の話かい?ナシだな、そいつは。」

可奈は途端に興味を無くしたようだ。

「うちのクラスには今度、新しい先生来たよ。体育の先生で、スメラギって名前のおっさんの先生。」

「スメラギ?」

謎の転校生と教師、うさぎの周りがざわつき始めていた。



アンリの研究は鶴の助言によって加速度的に進展した。アンリの研究は魔力の種火となるようなエネルギー源の着火に苦心していたが、鶴の考え出した一つの方法によって、その問題はいとも簡単に解決した。

アンリ率いるエネルギー開発室の研究員全員に魔力適性の有無を調べるための簡易的な儀式を行ったのである。その結果、研究所のあるエスタフで生まれ育った者数名に魔力適性の兆候が現れた。

その中で一番の適性を持っていたのは、一見して無能と思われていたギャル研究員のエマであった。

「おそらく、彼女はエスタフの土地神ヒクスの加護を受けているのでしょう。それと、この土地の自然に慣れ親しんでいることも要因の一つだと思う。」

魔術士であった頃の鶴は主のことを神と呼ぶことはなかったが、場所が違えばそれは別である。ここでは豊穣の神ヒクスが厚い信仰を受けている。エスタフでは偶像崇拝は普通に認められている。神話ではヒクスは男神であり、何人もの妻を持ち、美女に弱かったと言う。

ただ、エマ一人では常時、魔力を発現させるにはまだ、力が乏しい。鶴はアルバイトで若くて綺麗なモデルを臨時職員として数人雇い、彼女達にも儀式を試みたところ、いずれも若干の適性を持っていた。

男神の分かり易すぎる女性贔屓に助けられ、数人の女子職員を魔術によってヒクス所縁の聖遺物と連結させたところ、魔力の種火は簡単に発現するようになった。後はこの種火を電気とどう結びつけ、エネルギー転換させるかである。

「私はエマを魔術士として育てた方が、ずっと研究は効率的に進むと思うんだけどな。エマが動力源となればいろいろな魔術が出来るし、魔術士一人いれば錬金術によって様々な魔法精製物が作れる。

人間が日常の用に供している様々な道具や機械ももっと簡単に作れると思うし。アンリ博士はエネルギー源を増幅させるためのハードについては構想も大分練られていて、実験装置もすぐに用意できるのでしょう?」

鶴はアンリに研究経過についての感想を語った。

「折原部長の意見は最もです。けれど、それでは意味がないんです。魔法の代替品として、様々なものを道具として利用したり、作ることはアバターの文明レベルなら簡単に出来るんです。

私の当座の目標は誰もが魔法を使える環境を作ることです。我々ノーマルアバターは魔法を使われた時にその防衛手段を持ちませんし、魔力適性がなければ魔術の恩恵を受けることもできない。けれども、誰もが魔力適性を身に付け、魔法が使えるようになれば・・・実は折原博士に見て欲しいものがあるんです。」

アンリは鶴に手のひら大の金属製の箱を取り出し、上蓋を開けると、その中から小さな電子基板を取り出した。

「これは?」

「電池ですよ。種火が常時点火している状況をこの電池で作り出すんです。そして、こ

の電池から出たエネルギーと高機能の発電機を結びつける。どうなると思います?」

「もしかして、電力ではなく、魔力が発生するんですか?」

「近いけど、正解ではないですね。正しくは魔力の性質を持ち合わせた電力を創り出す。より賢くて、利便性のある魔力を分析して別エネルギーに転換する技術は実は何年も前から存在しています。

しかし、倫理的規制が妨げとなって、実用化されていないだけです。魔力は魔術士だけのもの、既得権益となって一部の人間の特権として牛耳られている。万民の味方であるはずの主が本当にそんな環境を望んでいるのでしょうか?

誰もがその恩恵を受けられるようにすることこそ、主の本意ではないかと私は思っています。折原部長がここへ来たのも主の意志によるものなのでは?」

鶴は何も言い返すことが出来なかった。


私は魔術士としての地位に胡座をかいていたのだ。

小さな世界に壁を作ってその中で正義を振りかざしたり、駄々をこねたり。頭では分かっていたことだが、世界は広い。彼の考え方は素直に尊敬に値する。


鶴の傷心は既に癒えていた。

「これを見てください。」

アンリは化学繊維で織り込まれた黒色の布地を取り出した。

「これで服を作るんです。そして、違和感がないようにうまく加工してからこの電池を

取り付ける。生地の種類を変えることによって、様々なバリエーションの魔力を使えるようにする。最初は原始的な魔法しか使えないことでしょう。おそらく、それすら実現するのはだいぶ先のことになる。ただのアバターがやるならね。」

「擬似的な魔力回路の拡張の実現!魔力適性のあるエマなら効率良く魔力を伝達させら

れるかもしれませんね!」

鶴は興奮している。

「この布地で仕立てた服を着て魔法を使うのはエマじゃない、折原部長あなたです。」

「とても気を遣ってもらってうれしいですけど、私では無理です。

私には魔力適性が全くないんです。確かに博士の理論通りに全て上手くいけば、取っ

掛かりの部分はわずかな魔力、それを特殊な性質の電力に変換することで魔力を再現すると言う手法は可能なのかもしれません。

けれど、私にはノーマルアバターにさえ備わっているはずの魔力すらないんです。残念ながらスタートのエネルギーが魔力である限り、適性のない私がこれを扱うことは出来ないと思います。」

鶴はアンリの意外な提案に驚きはしたものの、落胆はしなかった。自身に天啓の如く、やるべきことが見つかったからである。また、真仲介慈や翠玉が再起の道を示してくれたことにも感謝していた。

「一人でも多くの者に主の奇跡、魔力の恩恵を広めるんだ。多くのアバターが真解を得た時、人類は革新の時を迎える。」

鶴は信じて疑わなかった。



「お前ら、ぶったるんでるな!休むな!走れ!走れ!死ぬ気で走れ!」

皇剣吾は見た目そのまんまのスパルタ教師であった。無造作に分け目をつけた、ツーブロックヘアで、無精髭を生やしている。

年齢は三十代手前といったところだろうか。だらしがない格好をしているから、それなりに歳を取っているように見えるが、身なりを整え、髭を剃れば、もっと若く見えなくもない。

皇剣吾は筋骨隆々で身長は二メートル近くもある。講義の時はお決まりの白色Tシャツに赤色のジャージズボンに茶色の便所サンダルである。

生徒からの評判は極めて悪い。考える間を与えぬ程に全力で動き回らせる。理屈は無く、百パーセント精神論のみでものを語る脳筋男であった。

うさぎ達の講義は一コマ一時間半の時間を取っているが、皇の体術の時間は全て基礎訓練、筋力トレーニングや走り込みに当てられた。厳しい訓練について行けず、倒れ込む生徒は尻を蹴り上げ、襟首を掴んで無理矢理立たせ、走り回らせた。

選令門の生徒中には高い身分の子息も多い。そのような生徒達が結束し、父母会を通じて、事務局に抗議に行くも、何故か事務局は一切取り合わなかった。

皇に歯向かった生徒達は定期考査の時期でないにも関わらず、落第点をつけられ、学内から追放処分を受けることとなった。

追放処分を受けた生徒やその父母達は事務局に猛抗議を行なったが、事務局は講義は講師の自由裁量と言い切り、一切対応に応じない。納得のいかない父母達は報道機関等にタレ込んでみても、全くの無反応であった。

ここに至り、生徒達もようやく皇が抗うことの出来ないアンタッチャブルな存在と自覚した。鬼教師の言うがままにひたすら身体を動かし続けた。

「筋太郎の野郎、マジでナメてるから。腕立て一回ごまかした奴がいる。連帯責任だ!とか言い出して、放課後まで訓練させやがって!

 今日も一人辞めていったんだから。浅井相君って言う大人しそうな男の子。一度も話したことなかったけどさ。

あたしみたいなスーパーアスリートじゃなきゃ、もたないって。

うん?うさぎ、あんた生きてるか?」

可奈がうさぎの身体をさすり、声を掛けるも、うさぎは白目を向いて意識を失っている。あまりの疲労で座ったまま、居眠りしているのである。

可奈が何度か耳元で名を呼ぶとうさぎは目を覚ました。今日は休日、可奈とうさぎはサンセットでランチをしている最中であった。

「アニャンさん、見て下さい!

かわいい妹分のこの惨状を!独裁者筋太郎に抗議してきて下さいよ!」

筋太郎とは生徒達が皇に付けたあだ名である。当初はもっと悪意のこもったあだ名が付けられていたが、どこでネタ元がバレたのか、名付け親の生徒は訓練中につまみ出され、そのまま訓練に戻ることはなかった。

「学校に何言ったって無駄なんだろう?やめときな。

けど、今時、そう言う先生いるんだね?魔術士は命張る商売だからね、昔はそう言う体術をガチで教えるような非生産的なことする指導者もけっこういたんだよ。

それにしても、やり過ぎだけどさ。」

アニャンは他人事と思って、ヘラヘラ笑いながら可奈の話を聞いている。

「あたしもどっちかと言えばその先生と同じ部類の人間だから。訓練の意図が分かるような気がするんだよ。」

「あのしごきに一体何の意味があるって言うんですか?」

「一つは単純に体力を上げさせるってのが目的だろうさ。現に、運動能力が劇的に上がってる生徒もいるんだろう?

あとは、わざと理不尽な試練を与えるってのもあるだろうね。指導者の言うことをしっかり聞いて体現する奴が一番習得率が高くて、物事を器用にこなす。

何の習い事でもそうだろう?真解は忍耐の末に得られることがほとんどだからね。忍耐力も魔術士に必要な立派な素養の一つさ。あとはあんたらをよく観察するのが目的だ ろうね。」

「観察って誰をです?」

「しごきに根を上げず、ついて行ってる奴はどのくらいいるんだい?

文武両道を地で行く奴は優秀な選令門の生徒なら、結構いるもんなんだけど、それでもそれだけ落第者が出るだけその先生はしごいてるんだろう?

何かの選考か、特定の誰かを観察してるんだろうね。噂の転校生もその中に入ってるのかい?」

「私やうさぎを入れて、二十人程度しか残ってないんです。しごきが全く効いてない子は五人くらいかな。確かに転校生の枝戸張もその中に入ってます!」

「ふーん。」

アニャンにはどうやら何か思うところがあるようであった。





皇によるうさぎ達の体術の指導が三ヶ月が経過した。ついに最初の定期考査がやって来たのである。通常であれば体術の試験課題は基本的な体力検査、武術の型の展示など決まったものであるし、仮に試験が受けられなくても、追試なり救済措置があるはずであり、そもそも落第することもない。

皇は試験前の最後の講義で試験の結果次第によって、選令門から追放処分をすると断言した。半信半疑に思う生徒はいても、ここまでのしごきと言動から、有言実行でいくことは間違な

かった。

「今日は体術の定期考査を行う。試験内容をこれから説明する。これからお前達にある

ゲームをやってもらう。

このゲームは拡張型現実の多人数参加型ゲームでな。イメージ的にはよくあるMMOなんだが、ただ、お前達が思い描いてるみたいな魔法と剣の甘っちょろいネットゲームなんかじゃない。

それだけは断言する。結果によっては追放処分もあり得ると説明したが、その理由はこのゲームにある。

ゲーム内の行動によってアバターのコードが書き換えられたり、不正なアクセスによってアバター存在そのものが消えたりする可能性があるからだ。ゲーム内の行動や試験中に起きたイレギュラーの内容によっては、死ぬこともあり得るってことだ。

ここまで、俺のしごきに文句も言わず、耐えてきたお前達を救ってやりたいのは山々だが、残念ながらこの世界の中でこのゲームを完全に制御できる者は誰もいない。

お前達にはこのゲーム内の時間で一日だけ生活してもらう。

と言うか、今のアバター世界の科学技術では向こうの世界に一日だけしか滞在出来ないと言うのが現実だ。

生きて帰って来れた者は漏れなく全員合格とする。

現実世界ではたったの一時間だ。試験自体はすぐに終わる。一応、試験だからお前達の行動によって、点数は付けるからな。

お前達の目的はゲーム内の観察だ。死にたくなければ、ゲーム内で無理な行動は絶対にするな。

弁解するようで何なんだが、お前達はこのゲームのプレイヤーたる資格を得た選令門の選ばれし者達だ。今までの俺の講義はお前達の職業人として、これから課すミッションをこなせるかどうかの精神性を試すことを目的としていた。

お前達がこれから行くゲームの世界はこの世界に直結する実在する現実世界だ。

向こうの世界をたくさん観察して、一つでも多くの情報を持って帰れ。

無事を祈る。」

皇の説明を聞き、生徒達のほとんどが驚愕していた。予想外の展開に目を輝かすうさぎ、頭を抱えた可奈、そして謎の転校生枝戸張理宇は目を瞑り、思案に暮れていた。



うさぎ達は選令門の研究エリア内にある鉄筋コンクリート建ての作業棟の地下へ案内された。そこは様々な多数の電子機器と寝台が無造作に設置されて床上にはコードが足の踏み場もな

いほどに張り巡らされている。

白衣を着た研究員が三十人近くおり、うさぎ達が来るのを待っていた。

その中にうさぎの父である小春陽介がいた。陽介はうさぎを見つけ、近づき、声を掛けた。

「おお!うさぎ!久しぶり!皇さんの話でお前も被験者の候補の1人に入っていると聞

いていたが、本当に選ばれるとは!」

「お父さん!何でこんなところに!?」

「時間がなさそうなので手短に説明するよ。うちの研究所は宇宙開発を主で行なっているんだが、他にも色々な分野に研究を進めていてね。

今回のテストもその一環で行われるものなんだ。皇さんがこの話を持ち込んだのはポラリスでのテロ事件の少し後のことだ。

彼は虚数魔法のような魔術を使って我々に近づいた。研究員の記憶を改竄したり、彼自身が研究員の一人として数年前から在籍し、持ち込んだゲームを何年も前から研究していたかのような虚構の事実が作り上げられていた。

そのことに気づいたのは真仲博士だった。私も上手いこと騙されてしまっていた。

真仲博士はスメラギさんに問いただした。お前は何者だと。スメラギさんは簡単に正体を暴露したよ。むしろ、誰かが気付くのを待っているようだった。

彼は自身が外の世界からやって来たこと、我々がいる世界はゲーム世界と呼ばれるものの一つであり、外側からこの世界に上位的な立場から干渉することが出来ること。

ゲームメイカーと呼ばれるゲーム世界を創造する能力を持った者を捜しに来たこと。それに、外の世界からの来訪者が紛れ込んだことによってこの世界に誤謬と小さな綻

びが生まれ、世界が危険に晒されること。

それと、うさぎ、君を殺しに暗殺者がやって来るかもしれないと言う話だ。

世界がどうのこうのと言う話はピンと来ないが、娘が危険に晒されると分かれば父親し

て私は黙って見過ごすわけにはいかない。

真仲博士と私は彼に協力することを決心した。彼の話だと暗殺者はどこから現れるか全

く分からないらしい。

彼は暗殺者探しに協力すると言ってくれた。あと今回の試験についてだが、この世界の科学技術を用いて他のゲーム世界を観測することができることが分かったことから、彼の全面協力で実験を行うことが決定したんだ。

試験の説明はこの後だが、私が君達をしっかりサポートする。無理をしなくていい。健闘を祈る。」

陽介は神妙な表情でうさぎに語った。


10


生徒達には試験の説明が一通り行われた。要旨については以下のとおりである。


1 今回の試験で行われるゲーム世界内への転送システムは天智魔法の一種である観測術を基

に形成されたものであり、転送先は正確に座標指定出来ず、概ねの予測地点に転送される。観測術は魔術を用いてアバター世界の外側の世界や高度の技術を要する天体観測を魔力で

行おうとする魔術である。最先端技術の特殊な術式を用いれば、科学技術と合わせアバター世界の外側の淵くらいまでなら既に観測することが出来るのである。

2 ゲーム世界内では時の流れが早く、現実世界の二十四倍の速度で時が流れている。

現実世界からゲーム世界に干渉することが困難な理由の一つにこの時間が挙げられる。

なお、体感時間は同じであるため、身体機能は現実世界と全く同じである。

3 アバターは情報そのものの存在なため、転送システムに順応しやすいが逆を言えば転送先の世界で物理法則に反する行動に引っかかりやすく、禁止コードのようなものに抵触することがあるらしい。

その一つとして生徒達の最大の特技である魔法が挙げられた。転送先の世界に魔法と近似した技術が存在した場合、おそらく魔法は簡単に使うことは出来ず、外側の世界から処理をして初めて使用可能な状態になる等の不具合が高確率で発生するとのことである。

生徒が一番危惧したのはこの点であった。皇が厳しい訓練を課したのもこれが理由である。得意な魔法を禁じられた状態で予測のつかない異世界に拒否反応を起こさず、効果的な探

査ができるような精神的にタフな生徒だけを集めるためにふるい落としをしたのである。

4 ゲーム世界から持ち出せるものは情報だけであるが、ゲーム世界で身に付けた技術や記憶は持ち出せるとのことであった。

記憶を持ち出せることは予想の範疇であったが、ゲーム世界の言語や得意な技術まで持ち出せるのは彼らがアバターと言う存在だからだろう。

5 ゲーム世界内で死ぬと現実世界ではログアウトの状態になって目醒めることになるが、ゲーム世界内での活動データは全てリセットされてしまうこと、そして、二度とその世界には転送できなくなる。


現実世界から強制シャットダウン等の不正ログアウトがされた場合、プレイヤーは精神的な死に至るため、今回の試験に際して、情報漏洩防止のための保秘義務についても合わせ誓約書を提出することが義務付けられた。

また、試験を回避しても点数は付かないが、体術の単位は与えられることも明らかになった。退校処分になった生徒も後に復学が認められるとのことである。

試験前の説明と誓約書の取り交わしが行われた後、うさぎは皇に別室へと呼び出された。

「小春うさぎ、こうやって、顔を付き合わせて、まじまじと話をするのは初めてだな。試験が始まる前にお前にだけはは話しておかなければならないことがある。

随分と大掛かりな試験をすると思っていることだろう。

今回の試験は半分はお前のために行われると言って過言ではない。

父親から少しは話を聞いているかも知れないが、間も無くここへお前を殺しに暗殺者

がやってくる。捕食者が来ることも考えられるが、俺は『ゴースト』と言うお前達アバターよりも上位種の敵がやって来ることを想定している。

ゴーストは皇一族と因縁の深い天敵だ。奴らは神出鬼没でなかなか姿を現さず、行動がなかなか予測できない。

だから、俺がこちらからはわざわざ奴らをここへおびき寄せて、俺の手で直接、始末することを決めた。

ゴーストは今のお前が戦うどころか、皇若葉へと覚醒している状態のお前が戦っても、絶対に勝てる相手ではなければ、逃げることも不可能だ。

お前は転送中、全くの無防備になる。お前は知らないかもしれないが、普段、睡眠などでお前が無意識状態になっても皇若葉には意識があり、お前を守っている。

転送中は皇若葉の意識も完全に消えてしまう。奴らはその隙に乗じてお前を殺しにやってくると言うわけだ。

そこを俺が返り討つ。俺は腕には覚えがある。逆立ちしたって奴らが俺を倒すことは叶わない、そのくらいの実力差は確実にあるから安心しろ。

皇一族はこの世界の防衛本能そのものだ。お前ごと皇若葉が消えれば、この世界を著しく危険に晒す。世界を危険に晒してまで、ゴーストを呼び寄せたのには理由がある。

奴らは今、いろんなゲーム世界を渡り歩き、皇一族を殺しまわり、多くの世界を滅ぼしている。この世界に現時点で存在する皇一族は特殊な条件で顕現している俺を除けば、只一人、お前を守護する皇若葉だけだ。

奴らは若葉がこの世界に再度現れるのを待っていた。この世界はそれまでは滅ぼす対象ですらなかったんだ。

大昔にゴーストはこの世界で皇一族を一度殺し損ねている。

連中にとって、今回は満を持してのリベンジマッチと言うわけだ。

突拍子も無い話で普通の奴なら理解し難い話だろうが、その顔を見れば分かる。

お前には若葉が取り憑いている。本能か予兆かは分からないが、これから何かが起き

る。そんな予感はしていたのかもしれないな。さっきも説明したが、ゴーストはゲーム

世界ではなく、こちらの世界に現れる。

奴らの相手は俺に任せろ。必ず、何とかしてやる。

お前は試験に集中しろ。お前には向こうの世界でやってもらいたいことがある。

これが今回の試験のもう半分の理由だ。枝戸張理宇を見張れ、奴の保護が俺の目的だ。

奴に死の危険が及べば、自分の命に代えても奴を守れ。

転送先の世界で死んでもこの世界でお前は死なない。お得意の自己犠牲の精神で気持

ち良く戦え、分かったな。」

皇剣吾はうさぎにではなく、うさぎの瞳の奥に潜む若葉に言い聞かせているようだった。

 うさぎは普通ならば、試験前のどさくさ紛れに突拍子もない説明を理不尽に受けたと感じるところであろうが、皇剣吾の言う通り、若葉を介してこれから起きる様々な出来事がいかにうさぎにとって大きなものなのかを既に肌で感じ取っていた。

 転送試験は間もなく始まろうとしている。


物語は第三章まで続きます!

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