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大会  作者: 陽田城寺
8/13

真珠5

 海が割れた。否、圧倒的な剣技でアルコが海を割ったのだ。

「デカブツが調子に乗ってるんじゃねーぞテメェー!」

 親バカヤンキーよろしく、割れた海を真っすぐに駆け抜けるアルコ、その先にはちょうど倒れたランニングマンとギョブの二人がいる。

 同時に、滝のようになった海には『真珠』がいくらか落ちている。ちょうどアルコの目的は、ケーキ以外全て果たせるわけだ。

「おお!? 化け物が! 来い!」

 ギョブは棍棒を構えアルコを迎え撃とうとする。両手で持った棍棒を頭上に掲げ、まっすぐ来たらまっすぐに叩きつぶすという単純ながら最大限の力が発揮できる形。

 だがアルコは止まらない、速度も落とさない。あまりに真っすぐすぎる二人の戦いは、やがてギョブの射程範囲にアルコが入り……。

 振り下ろした棍棒は、止まった。否、アルコの剣がそれを止めていた。

 重力とトロールの力と巨大な棍棒の一撃を、ぴたりと剣で止めていたのだ。

「ば、馬鹿な!」

「装備強化魔法だ、デカブツ」

 吐き捨てながら、剣を振るうとギョブが尻餅をつく。自分をも勝る圧倒的な力の前に無様に倒れるしかない。

 一方でアルコは倒れているランニングマンを担ぎ、そのまま耳元で大声を出す。

「おいお前、生きているか?」

「……なんとか、な」

「何故ケーキを助けた! 無法の『大会』で! 『真珠』を先に奪うだけで、あの瞬間にケーキを殺すこともできたはずだ。挙句、溺れているケーキに『真珠』を渡し、命を助けた! 何故か死ぬ前に答えろ!」

 容赦なく、アルコは尋ねる。その理由が心底知りたいから、ただそれだけの理由で。

 ランニングマンの傷は深い。だが、それは死ぬほどではない。しばらく、長い間の治療は必要だろうが。

「……参加者を募り、多くの者が集う大会で、ルールがなくとも、『スポーツマンシップ』はある。ぐふっ! ……俺は、ハァ……! 卑怯な真似や少女を犠牲にしてまで得る勝利に……意味はないと思っている……!!」

 血を吐きながら、充血した目を、自分を担ぐアルコに向けながら、はっきりと答えた。

 何の役に立つのか、スポーツマンシップ。ギョブが聞けば馬鹿馬鹿しいと笑うかもしれない。ロッコンでも、ドラッグでも、ケーキでも。

 だがアルコは笑わない。

「お前は気持ちの良いやつだ。そういう奴は生かすに限る」

 落ちている『真珠』を一掴みし、そのままアルコは踵を返して岸まで戻ろうとする。

 だが、ずぅんと巨大な影が二人を覆う。ギョブが立ち上がり二人の背後を取ったのだ。

「て、テメェら……叩き潰すぞ」

「いいぞやってみろ! その瞬間お前の体は八つ裂きになっているだろうがな!」

 振り返りもせずにアルコは大きく啖呵を切った。剣を持つこともせず、ただ立ち止まることでその意志を示した。

「私としては、とっとと上陸して尻餅ついた時の傷でも手当してもらうのがオススメだがな!」

「ほざけっ!」

 ギョブは棍棒を思いきり振り上げた。両手で持った特製の巨大棍棒、それを天高く振り上げる、その動き。

 同時に、ギョブの顔面に三発の矢が刺さり、手首は音を立てて千切れ棍棒ごと後ろに吹き飛んだ。

 瞬間、矢を放ったロッコンと手首に攻撃をしていたアルコの目が合う。

(攻撃の瞬間にこのデカブツに正確な射撃。私を助けようとしたのか、あの距離で、揺れる船の上で)

(……既に攻撃をし終えていた。私が助ける前からギョブを倒していたのか、魔人殺し……)

 視線が重なるのは一瞬。アルコはランニングマンを助けねばならないし、ロッコンはケーキを助けねばならない。

 だが、突如として海がせりあがり、中から何かが現れる。

 アルコの海割りとは比にならない波と衝撃で泳ぐ者は皆巻き込まれ、ボートのほとんども転覆していく。

 ギョブの巨体さえ転ばされて流れるが――それを足場にアルコはそのせりあがった中から現れた何かを見た。

 貝だ。




「なあ、この女の子どうするよ……?」

「奴隷売買が合法の国で売るってのはどうだ? このナリと若さなら高いだろ」

「宝石商が人間売っちゃおしまいだろ。でも暴れられても困るな。いっそ殺すか?」

「いやまだ子供だぞ」

「でもさっきの身体能力見てただろ」

 ケーキの投げられたボートはかなり大きいものでトップを走っていた。そのため乗員も多く、ケーキの処遇はいまだに決めかねていた。

 人形のようにきれいに眠っている少女一人を中心に、十人もの男女が喧々諤々の議論中、そんなことより『真珠』は? なんて言おうものならますます会議は踊り続ける。

 そんな会議を中断させたのは、木製の広いボートを突き破る鈍い音だった。

「……なんだ今の音?」

 全員の視線が一点に集まる。ボートに突き刺さっていた矢が音の原因だと気付く。

 と同時に今度は音に興味が揺れた。

 鎖を巻き取る派手な金属音と波を立てながら強引に進むボートの水音。

「ロッコン! 無茶よ!」

 次に、全員の視線は矢に繋がった鎖の先。

 鎖を巻き取るクロスボウを持った女が、逆の手で女の乗ったボートを引っ張り先導している様子だった。

「無茶はドラッグに押し付ける! 船員を倒してケーキを助けるのはドラッグ!」

 ――本当は立ったまま船と船を衝突させられると思ったのだが、クロスボウの機能が思いのほか強くて海に投げ出され、こんなことになってしまったのだが、ロッコンは全てをドラッグに任せた。

 だが、同時に海から貝がせりあがった。

「波だ! うお、やべぇ!」

 戦々恐々のボート、前からは巨大な貝から押し寄せる波、後ろからは鎖で高速接近する船。

 どの道、船が転覆するのは免れないのだが。

「な、なにあれ……」

 高速で動き揺れる船の上で戦慄するドラッグは、既に戦える状態ではない。貝はまだまだ出てきて、ようやく上半分というところで既にギョブの巨体がかすんで見えるほどだった。

「……『貝魔王』、実在した、んだ」

「え、なにそれロッコン」

「ドラッグ、転覆する、ケーキをよろしく」

 え、とまた声を出す前に、鎖の勢いでボートとボートがぶつかる前に、前のボートが波で吹き飛んできた。

 ぶつかり、両者が海に投げ出される。海を泳ぐ形になっていたロッコンはその衝撃を躱すことができたが、水中で波の勢いに押し寄せられる。

 ドラッグは船員たち同様に前から飛んできたボードに体を打ち付けられて海に落ちる。その衝撃は意識を奪うほどであったが――しっかりとケーキを抱きしめることに成功していた。

 引き寄せ、掴む魔法。水面に浮かぶ『真珠』を集めるくらいにしか考えていなかった彼女の魔法が無事に仲間との合流を果たす役に立ったのである。

(こんなはずじゃ……)

 命を助けたとか、喜べるはずもなかった。

 作戦通りには何もいかない、役に立ったのはケーキとドラッグだけ。挙句の果てに『真珠』は手に入らず、意識を失うほどの攻撃を受けてこの勢いでは浜辺に打ち上げられて終わり。

 貝魔王ってなんだよ、とか魔人殺しって誰だよ、なんてどうでもいいことばかり考えてドラッグの意識は海に落ちる。


(こんなはずじゃなかったけど)

 クロスボウは鎖の巻き取り機能と海水のせいで、もう一発撃てれば御の字というような状況。

 ただ水中で近くに光るのは例の『真珠』。

 これを掴んでも一つだけだが、これを使えばできることがある。

『大会』参加者なら半ば常識にもなっている『真珠』の、宝石として以外の使い道。

 ロッコンは『真珠』を掴み、噛み砕いた。

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