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大会  作者: 陽田城寺
6/13

真珠3

「お二人とも『鱗』を持っているんですか!?」

 アルコがチェックインしたところよりも小さな宿屋、けれど最初の港町でアルコとケーキが泊まったところより大きなそこは、ベッドが二つあって部屋の窓から日の光が入ってくる。全くいいところだと、正直思ってしまった。

 ドラッグは懐の袋から赤銅の欠片を二つ取り出して見せた。見る人は錆びた鉄片のように思うかもしれないが、確かにこれが火龍の鱗であるという。

「……ま、戦ってないんだけどね」

「落ちてるの拾った~ニヤニヤ」

 なんでも火龍はかなり気性が荒く、しょっちゅう火山近くで暴れまわっては体から『鱗』を落としているという。それを拾うのに危険は伴うが、もはや『蜜』や『氷』より入手が簡単であるという。

「私、まだ持ってないです……」

「あ、じゃあ『真珠』終わったら一緒に行く? 手伝うよ」

「いえ、そんな!」

「遠慮しないナーイ」

 小さなケーキの頭をぐしゃぐしゃとロッコンがなでる。なでるというかかき回す。むしろ頭をひっつかんでぐるぐる回す。

「やーめーてーくーだーさーいー」

「かわいい」

「やめんか」

 ビシッとドラッグが叩いて、ロッコンが叩かれた頭を抑えて、回されていたケーキが髪の毛を整える。あっという間にケーキは二人と馴染んでいた、というか。

「もしかしてお二人って傭兵ですか?」

 ふとした疑問にロッコンが先んじて答える。

「イグザクトリ~」

「私ら二人ともそうよ。秘宝を集めようとする奴が護衛雇ったりするから、『大会』参加意思がなくてもこの大陸に傭兵が集まったりするの。私もロッコンもそれだったんだけど」

「ロッコンは雇い主が死んで~、私は人探しに夢中~」

「人探し、ですか?」

「イグザクトリ~。エイム、っていう男。昔一緒に傭兵したんだけど、めっちゃ感謝してるからも一度会いたいの。この大陸にいるっていうから、ついでに『大会』にもね~」

「エイム、ですか」

「知ってる?」

「いえ、初耳です」

「なんだぁ」

 するとロッコンは興味を失った風にベッドに座って、クロスボウを磨き始めた。

「あいつ変わり者だよね。でも傭兵って危険だから、死ぬ前にもう一度会いたい奴がいる、なんてのもロマンチックで良いと思うんだ」

 ドラッグはそんな風に、小さな笑みを浮かべる。出会って間もないという友の恋路を応援するような面持ちに、ケーキも少し応援したい気持ちになった。

 ああ見えて意外とセンチなのかもしれない。女性らしい一面、とでもいうのか。

「ロッコンさん、その人が好きなんですか?」

「好き……かどうかはわかんないけど、死ぬまでに会いたいな~」

「ロマンチズムですね」

「ロマンチズムだ」

「ロロ、ロマンチズム?」

 当のロッコンはまるでその気はないらしいが。



「『真珠』拾い大会は明後日の朝、引き潮の時に開始される。参加者は恐らく数百人、全員が海岸に並んで、司会の合図とともに動き出す」

 昼に買い物や食事を済ませ、夜改めて宿屋で三人が揃う。

 話の内容は情報共有、ケーキが知らない情報を二人から聞くというものだ。

 が、何故かロッコンはケーキの隣に座っていた。説明する側ならドラッグの隣に腰掛けるべきなのに、一つのベッドをドラッグが占有するみたいになっていた。

「ここで重要なのは引き潮で砂浜が大きく増えても、『真珠』が浮かぶのはまだ足のつかないくらいの海ってこと。だから私達はボートを砂浜に引きずって、それを漕いで海を渡るの」

「そうなんですか」

「ソッソッそうなのか~!」

「ロッコンにはもう説明したはずだけど」

「さ~?」

 ケーキが隣で大丈夫かこの大人は、と呆れる。同様にドラッグもふざけた態度にため息を隠しもしない、が、めげずに顔を上げて再び口を開いた。

「泳ぐ人や特殊な技で『真珠』を集める人もいるだろうけど、『真珠』は多い! 人数の多いボートが早く沖に出て力いっぱい漕げば一つや二つ、三つくらいは手に入る! さらに私の魔法は『真珠』拾いに適している! 急いで漕ぐ! それだけで勝てる! のよ! たぶん……」

 言葉尻は弱々しいが、入手難易度の最も低い『真珠』ならば、その方法で入手することは可能のように思える。

 が、再びドラッグは拳を強く握り言葉を強めた。

「私達の敵は二種類! 一つは同じ『大会』参加者! もう一つは『宝石商』!」

「宝石商、ですか?」

「そう、宝石商。『大会』で一番入手が簡単という『真珠』だけど、この真珠は高値で取引されるから元々競争率が高いの。そのうえにシーズンごとにしか手に入らないから一度取り逃すとまた参加しないとダメだから、他の秘宝を先に集める人がいるくらいの難易度なの。正直『鱗』や『氷』の方が簡単だと思う」

 ドラッグの言葉は確かな説得力があった。凶暴な火龍の『鱗』を二人が先に集めているのもそういう事情があるから、と知れば納得ができるし、理由もあった。この二人が見るからに奴隷であるケーキを頼るのも、それだけ『真珠』取得に熱意があるから、というわけだ。

「『大会』参加者は『真珠』を一つしか拾わないでいい。けど宝石商は可能な限り拾うし、この真珠集め大会に限っては暴力や殺人をしてでも奪い取るし、独占しようとしている。妨害だってしてくると思う。今回は私は『真珠』を拾うことに集中したいからボディガードにロッコンがいて、もう一人くらい近接戦できる人が欲しかったのも事実。……三人で『真珠』を手に入れよう」

 ドラッグの表情は真剣そのもので、向かい合うロッコンとケーキを一心に見据えていた。彼女が『大会』に向ける気持ちの強さと、信頼するという覚悟。

 見ず知らずの奴隷と金で雇われる傭兵を信頼する、その無謀めいた覚悟は悪人ならば笑うだろう、だが二人は笑わない。

「私も全力を尽くします」

「同じく~」

 さてロッコンはどういう心持ちなのかわからないが、ケーキの真剣な表情を見てドラッグは満足そうにうなずいた。

「さ~て、今度こそ『真珠』をゲットして『大会』を一歩進めるわよ!」

「おー!」

「お、おー……」

 妙に張り切って腕を突き上げるロッコンに合わせてケーキも腕を上げて戸惑いつつ合わせた。それをドラッグが見て満足そうにうなずき、ベッドに寝ころぶのだからこれが正解だと胸を撫でおろす。

「……きっと損はさせない。私の魔法は今回の戦いに最も適している」

 彼女はそれだけ言って、ベッドの上で寝息を立て始めた。

 ロッコンと残されたケーキは、微妙な空気に困った表情を浮かべ手を揉むが、ロッコンも同じようにごろんと倒れた。

「ガガガッがんばろうね~」

「あ……ががが頑張ります」

 なんて合わせてみると、奇妙なほど表情を笑顔で固めていたロッコンが、珍しいくらい柔らかな笑顔を浮かべた。

「……ロッコンさんって本当に強いですよね。私、ちょっと感動しました。初めて会った時」

 複数のならず者に囲まれた時、ロッコンの矢はケーキの頬を掠めるほどの距離でありながら、確かに背後に迫る刺客の頭を貫いた。誤射もなく、一撃で敵を仕留める。普通の射手では到底できない、誤射を恐れて威嚇で納めるような攻撃を、堂々と決めたのだ。

「只者じゃないですよね」

「フッフッフ~、只者だと思ってた?」

「いえ変人ですけど……」

「変!? 私が!?」

「え? はい」

「そんな……」

 本気でショックを受けた風なロッコンであるが、まさか自覚がなかったとは思わずケーキも言葉に詰まる。仲間なのに傷つけてしまったのかもしれない、なんて。

 初めてできた、自分で作った仲間という存在、ロッコンのように変な人でも、ケーキは大変うれしく思ったし、彼女を励ましたいと思った。

 が。

「ま、いいや」

「いいんですか!?」

「変とか変じゃないって人それぞれだからカラカラ~」

 言いながらロッコンもベッドに横になる。と言ってもベッドに対して垂直になっているので、だらんと足を垂らしている。

 ケーキと二人で寝るような形だから、寄り添わないとこうなるが。

「あの、寝られますか?」

「くっついて寝ていいの?」

「私はいいですけど」

「臭そうだなー」

「じゃあいいです」

「冗談冗談! ギュ~してあげよう」

 もそもそ、ベッドの上で二人が動く。やがてベッドと平行になる形で寝転がる二人は、ロッコンが、アルコがするように背中からケーキを抱きしめる形になった。

 複雑な気持ちだった。家族にもされたことがない、アルコにだけされていたような姿勢で眠るというのは。

 けれどロッコンは非常に適切な距離だった。抱きしめているがアルコのようにぎゅうぎゅう抱いて匂いを嗅ぐでもなく、軽く添い寝するように傍にいてくれて、暖かくて、けれどほっそりとしていて。

 何よりロッコンは、アルコと違って酒や肉の臭みがなかった。ただ素朴なまでの女性の香りが爽やかに香る。

 化粧っけもなければ質素であるのだろう、ロッコンという人は法外に変わった人間であるが、その在り方は清貧を語る聖職者のように美しいのかもしれない。

「あの、ロッコンさん」

「エイムに会いたいよ~」

「聞いてます?」

「なに?」

「いえ……えっと、掴みどころがない人だなって」

「お胸とお尻が小さいと?」

「……いえ、そういう掴むではなくて」

「スリムってこと?」

「いやそうじゃないですってば」

「ありがとう」

「え? えー……感謝されるようなことは」

「寝よう」

「は、はい」

 ロッコンはそれきり静かになった。顔を合わせることもなかった。

 けれど――最後の寝ようという言葉は、妙に低く静かで、普段の無邪気な様子とは違う、強いて言えばロッコンの香りに近い雰囲気があった。

 変な人だ、とケーキは思う。だが只者ではないのも事実であった。

 まるで今までのふざけた子供のような態度が、全て演技であるかのような。




 一方のアルコは酒場に入り浸っていた。

「ケーキィィィィイイイ! ケーキイイイイイイイイイイ!!」

「なんだこの女! 用心棒を全員叩き潰しておきながら酔っぱらって暴れてやがる! ほらケーキなら沢山持ってきてやっただろう!」

「うるせー! 私のケーキーーーーーーーーー!!」

 魔人殺し、酒に溺れる。テーブルは倒れ屈強な男も女も傍で叩きのめされているが、酒を飲んで暴れている女は泣き叫びながら、そこから動こうとしない。

 ここは『真珠』拾い大会が近い。ここでその時を待てば、必ずケーキに会えるから。

 だから待つ。でも不安で寂しくてたまらないから飲む。

 ダメな大人で子離れができていないのであった。

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