氷2
陸の孤島アイルは東に山脈、南に森、北は山に繋がる『氷龍の洞窟』があり唯一拓かれた陸路は東だけ。
そういった環境でも東、西、南、それぞれに商業用の道があり、もっぱらは商業で成り立つ権力から離れ商人の集う都市となっていた。
ゆえに、荷物を狙う盗賊もたびたび現れる。だから傭兵業が盛んになる。そうして栄えた傭兵業がますます都市の自律性を強めてついには自由都市などと呼ばれるようになった。
「邪魔だ邪魔だ! 女どもが並んでんじゃねえ!」
いかにも荒くれ、と言った男が腕を捻られて変な方向に曲がるまで十秒もかからない。怒りっぽいのもアルコの特徴だが、空気を読まずに堂々と、というわけでもない。
なにせ自由都市、すなわち皇帝の権力の外にある場所。傭兵をしているアルコだからこそ、傭兵なんてのが国から守られないような、かよわい存在だと知っているのだ。
とことん実力主義の世界であるため、態度が悪いだけで殺されても仕方ない。
「ケーキに汚ぇ声聞かせてんじゃねえ……」
大口を開けて苦痛を叫ぶ男に、次にアルコは拳を口に突っ込んで殴り抜けた。あとは、腕が曲がって歯も折れた男が無様に逃げ去っていくのみである。
「全く……」
アルコは男に呆れて、ケーキはそんなアルコに呆れて、あと二人は過保護さというかアルコの態度に引いていた。あまりに野放図な生き方は理解されないものである。
「で、これから『氷』を手に入れたいわけだが、お前大丈夫なのか?」
アルコが声をかけたのは左腕を庇うロッコンにである。応急処置と止血は済ませたが、顔色は悪く、本調子からはかけ離れている。
「うーん……フラフラ~」
ロッコンはそう気丈におどけてみせるが、体調が悪いのは見るからに明らかであり、歩くのもドラッグに傍に立ってもらっていないと弱々しさが目立つほどである。
「あの、大丈夫ですか?」
「いや~不甲斐ない……、麻痺毒でも塗っていたのかもしれないねぇ……ビリビリ」
などと言いながらも、ロッコンは既に腕をグルグル回して自分の調子が戻ってきた風に見せる。弱っていると他人から思われることも、心配されることも本意ではない。
「まあ一泊はするだろう。到着で一日、明日『氷』を獲得してもう一日、明後日に出発……二泊三日だ。それで治せ」
「オッケーヨユーヨユー。ってか今日『氷』取りに行くかと思ってたよ」
「そのつもりだったよ」
「……それは」
「どうした傭兵、ヘラヘラしないのか?」
ロッコンとアルコの間に微妙な空気がまとわりつく。険悪な空気なのは当然だが、アルコの責めるような物言いにはドラッグも、ケーキもアルコに対して嫌悪の視線を向ける。
が、それにはアルコも引かない。心では滂沱の涙を流しているがぐっとこらえる。こらえて言う。
「敵の攻撃を受けて動けなくなるようなやつは足手まといだ。が、誰だってそんな時くらいはある。休むのも当然。それでも予定通りにいかなかったのとなんか隠しているやつが一緒にいるんだから苛立ちもする」
一息に言い切ったようで、まだアルコの言葉は続く。のだが、それを遮ってロッコンが重い口を開いた。
「……暗殺術を学んだ。拷問や狙撃、嫌われそうなことは色々と。その時の癖だよ。喋り方に色つけとかないと」
「……そう。……あー、やっぱどうでもいいわ。隠し事されるのは腹立つけど重苦しい話されても面倒だからな。とりあえず今日はとっとと寝よう。寝るぞ」
自分から問い詰めておきながら。三人から呆れるような目で見られるが、この自分勝手さが彼女の在り方である。
ロッコンの方も少し陰のある雰囲気というか、只者ではないというのはみんなわかっていた。しかし、その闇の深さや素性を隠す様はますます持って怪しい。
けれどそれを正直に話したということは、ケーキにとって少しだけ、心温まることだった。
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宿に泊まるということは、だいたい二人一部屋になる。現状四人パーティになっている彼女たちの部屋割りは、アルコ・ケーキ組とロッコン・ドラッグ組になるのは当然である。
「私、一人部屋でいいです」
「いやいやいやケーキ、そういうのは良くない。協調性だ協調性。こういう時は空気を読んでだな」
「」




