表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大会  作者: 陽田城寺
1/13

 エルディーネ大陸を統べるニヨル帝国を訪れる者の目的は決まっていた。

 大会と銘打たれた皇帝の気まぐれな娯楽、しかしてその報酬は王位継承権。

 近海でも最も大きな大陸、最強の国の王位をめぐる争いに参加できる――そんなうまい話に見合うほどの危険が伴っていた。

 大会。大陸に存在する七つの秘宝を集め皇帝へと献上する早い者勝ちの争奪戦。


 船が海を往く。

 白波を立てながら青々とした空と海に挟まれて、さながら絶好の航海日和か、あるいは旅立ち日和か。

 船はそれほど大きくなく十数人も乗れるものではなく、また長距離の航海ができる代物でもない。ただ小ぶりな船に似つかわしく、乗客はたった二人でそれ以外は数人の船員がいるだけであった。

 これは定期的に出される特別な船で、この船に乗る者は料金を払わない。

「お客さん、見たところ二人だが本当に行くのかい? 嘘吐いて定住、なんてできないからね」

 乗組員が声をかけるその相手は乗客の二人だ。

 一人は見るからに目立つ大きな剣を背負った女で、左頬についた丸い傷跡と赤銅のような髪色が特徴的だ。表情は柔和で人当たりが良さそうだが、どこか険しい雰囲気は歴戦のものであった。

 もう一人はそれよりずっと小柄な、ぼろを纏った大荷物を背負う少女。上下一体となったボロキレのような衣服は頭まですっぽりかぶっているが、僅かに見える顔は幼く、人前になれない子供のように表情が硬く、口は結ばれ、不機嫌そうに無表情に努めていた。

「これでも私は修羅場をいくつも潜っているんだ。あまり舐めてくれるなよ」

 言葉は強いが女は飄々と笑い、その態度は余裕に満ちている。嘲られたと受け取ってややムキになったのは事実だが、いちいち腹を立てるほど女も場慣れしていないわけはない。

 多くの死者を生み、大会参加者同士での死傷者も出ている無法な個々人の戦争、それに参加するというのに自信たっぷりの様子はまさに無謀か、あるいは勇者かと言ったところ。

 それに随伴する少女は小さく溜息を吐いた。少女は奴隷で、特に主に意見するところも何もない。

「にしても今日はあんたら二人だけ。昔はこの船にも多く人間が乗っていたのに、だぜ? それだけ過酷ってことだ。一部じゃ陛下の戯れで王位継承権なんて嘘っぱちだとも言われてるくらいだ。おっとこれ、内緒な」

 乗組員も女の態度に気をよくしたか飄々と楽しげに語る。なにぶん昔は多かった乗客が少なくなったということで暇なのだろう。

「仮に王位継承権がなくても、それだけの武勲を立てて陛下と謁見できれば富も名誉も地位も手に入る。そういうのが目的の奴だって多いだろうさ」

「はー、現実を見ているんだなぁ。ともかく検討を祈るよ。魔獣も人間も敵ばっかりだからな。気ぃつけて」

「はいはーい」

 船員が去るのを見送ると女も僅かに溜息をついた。飛沫を上げて航行する船はやがて緩やかに波に寄り添うように流れ、静かに港に着いた。

 エルディーネ大陸、大きさ、自然、属する国家など世界でも有数の大陸であり、特に有名なのはここを支配するニヨル帝国。

 降りる二人を見送る乗組員たち、歓迎する一人の役人。

「傭兵『魔人殺し』のアルコ・チーラ様とその所有物ケーキ。ようこそニヨル帝国へ。私は帝国で大会役員をしているエリゴスと申します」

 港町で商人と船員が入り混じる活気あふれる市場の中で、ただ一人舞踏会を抜け出してきたかのような正装に身を包んだ初老の男性がいた。

「これはこれは、初めまして。では早速」

 二人の女がついに上陸した。

 大会には面倒な手続きも参加資格もない、この島に来たその時点で、既に二人は大会に参加したとも言える。

 何より、この船を使ってここに来た以上、大会には参加する決まりになっている。

「ええ。お二人の上陸を確認しましたので、参加なさるということで上には報告します。……一応の確認ですが、大会に参加しない、ということはないですよね?」

 言いながらエリゴスは懐から武器を取り出した。取っ手の付いた刃、ジャマダハルと呼ばれるようなものだ。敵意はないものの、自分の言葉に対立する意見を出せば殺すと言葉以上に体現していた。

 そんな物騒なものを堂々と見せられながら、なおもアルコは飄々と笑みを讃えていた。

「参加するに決まってますよ。さ、その物騒なものをしまって……」

 手でエリゴスを制止するような素振りを見せた瞬間、エリゴスはその表情を豹変させた。

 三歩駆けてアルコの胸を貫こうとその拳を突き出す。

 唐突な戦闘の開始にケーキが驚き荷物を置く。が、その一瞬の間に戦闘は終わりを告げる。

 突き出された腕を軽やかに避けながら、アルコがエリゴスの腕をへし折ったのだ。

 激痛に叫ぶ声を前にしながら、アルコはどこまでも冷静に、エリゴスを抵抗できないように残った腕を極めて尋問を開始する。

「血気盛んな役人かと思っていたが、そもそも役人ではないな。誰だお前」

「貴様……思い当たることがあるだろう!」

 もう手も足も出ないだろうに偽エリゴスはなおも凄んで食ってかかる。だがその必死さに対してアルコはむしろ退屈そうに呆れた表情を見せた。

「……そりゃ思い当たることくらいいくらでもあるよ。でも帝国の役人になりかわるような無謀なやつは知らん。こんな弱いのに」

 大会優勝に必要な七つの秘宝は、帝国の総力をもってすれば容易く手に入るとまで言われている。自分に復讐するために、そんな帝国の非戦闘員に成り代わるような刺客となると、アルコにも心当たりはない。

 だが、その答えはすぐに明らかになる。

「ふ、ふふ、銀の星会だ。アルコ・チーラ」

「ああ、あの? あんな小さい組織、お前帝国に叩き潰されるぞ」

 言われればアルコにもその正体はすぐにわかる。魔人を殺してから、魔人を信奉する組織に命を狙われるようになった。銀の星会もその一つで、魔人殺しであるアルコに何度か刺客を送ってきたことがある。だがその程度の組織は規模も強さもたかが知れている。猶更、帝国の役人をどうにかするなど想像できずに混乱した。

「本当に馬鹿だな。ま、とっとと軍に寄越して改めて正式に大会に参加させてもらうが。ケーキ、ロープ」

「はい」

 武器を取り上げ、所持品も軽く確認し、すぐに彼は縛り上げられて御用となった。あっさりとしたものだが、アルコにすればこの程度の刺客が日常茶飯事で、それを撃退するのもまた日常であった。


「銀の星会、ね」

 偽エリゴスを引き渡したのは港にある軍の屯所である。偽エリゴスの引き渡しに応じた軍の者は興味深そうに呟いた。

「最近、ちょっと流行ってるぞ、それ。なんでも本物の魔人が現れたとかで」

「おー、この大陸で何例目?」

 偽エリゴスにも事情聴取にも関心がないアルコも、ようやく興味を示して耳を傾けた。

 魔人とは、そこらの魔獣や魔物とは格が違う、希少な人の形をしたバケモノのこと。数が少ない分、また人語を流暢に介する分それぞれに名前があり非常に危険視されている。

 一方、人でありながら人知を超えた力を得た達人もまた、畏敬をもって魔人と呼ばれることもある。

「歴史書に載ってるような大昔に死んだ五人と、最近死んだテルミナスとバルバローサってのがいて、今も秘宝を抱えているサイア……。あとはその噂の新しい……マクベーだったっけな。ええと、それで」

「九人。マクベー、ねぇ」

「で、十人だ。アンタも含めて」

「はは。確かに」

 軽い世辞のようなものを笑顔で適当に受け答えし、二人は屯所を出た。手違いで役人殺害の疑惑が向けられるのを回避できるならそれでいいのだ。

 二人にとって、いやアルコにとって重要なのは七つの秘宝を集めて大会で勝利を修め、地位を得ること。

 幸せな人生を送ること、それ以外に彼女の目的はなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ