表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
知多星ゴヨウ  作者: MIROKU
二年
99/100

混沌(カオス)を越えて

 百八の魔星の守護神チョウガイと、筆頭軍師の天機星「知多星」ゴヨウは、揃って帝都の夜空を見上げていた。


 超時空要塞「梁山泊」は相も変わらず、帝都上空に漂っている。


混沌カオスの災禍、未だ収まらず……ですね」


 ゴヨウは珍しく軍師の礼装を身にまとい、羽毛扇を手にしていた。


 外見が若いので今一つ決まらないが、彼はすでに二十代半ばを過ぎている。


 ちなみに童貞であった。


「どうでもいいじゃん、そんな事!!」


「誰と話しとるんじゃ」


 チョウガイはゴヨウをいぶかしんだ。彼は長ラン姿の凛々しい青年の姿をしていた。


 その腰には、伝説の聖剣の一つ、黄金の剣を提げていた。


 チョウガイの持つ黄金の剣は、不動明王の持つ降魔の利剣に等しい。


 そんなチョウガイは、ゴヨウが恋する女性「バレンタイン・エビル」から告白され、まずは友達から始めていた。今ではLINEで頻繁にコミュニケーションを行っている。


「……お、お、おお」


 ゴヨウは羽毛扇で顔を隠し、泣きそうになるのをこらえた。


 バレンタイン・エビルのチョウガイを見つめる顔のまぶしさ。


 恋する女性は美しかった。


 それは正しく真実だったが、この悲しみをどうすればいいのか。


「ゴヨウ、気張れ!! 今は世界中が『大いなる災い』に覆われておるのだぞ!!」


 チョウガイの一喝がゴヨウから悲しみを少しだけ吹き飛ばした。


 そう、今や世界は「大いなる災い」に覆われていた。


 世界中に広まった病魔によって、人界は恐怖と不安に包まれていた。


 それはゾンビ映画で表現されるような終末の世界のごときだ。


 そして恐怖と不安の中で、人間は変わっていくーー


 病魔のもたらす「死」を眼前に突きつけられて、変わらぬ人間など、そうそういるわけがない。


「それでも人間は……」


 ゴヨウは言う。


 死を覚悟した者達が、子どもの未来を守らんと、魂を輝かせて、積極的に行動していると。


「悲しいが人間は……」


 チョウガイは言う。


 病魔への不安から生じた死への恐怖に怯えた者達が、欲望のままに、畜生にも劣る所業に及んでいると。


 言うなれば世界は混沌カオスのもたらした病魔をきっかけに、白と黒の世界に真っ二つに分かれたのだ。


「俺なんかは早々と真っ黒になりそうですがね!!」


「おい、ゴヨウ……」


「オ、オホン…… まあ、もうじきハロウィンですから」


 ゴヨウはのんびり言った。そう、もうすぐ世間はハロウィンなのだ。


 そうなれば、彼女が動き出す。


 「概念」と「存在の意義」を守る「守護者ガーディアン」の一人である「レディー・ハロウィーン」が。


 「向こうの世界」からやってきた悪霊や妖魔から、人々を守ってきた者の末裔ローレンがハロウィンには活躍するはずだ。


「性格はきついがな」


 チョウガイは夜空を見上げ、つぶやいた。彼はレディー・ハロウィーンの双子の妹、バレンタイン・エビルから話を聞いていた。


「……あ、ががが」


 失恋の痛みを思い返してゴヨウはうめいた。ちょっとおかしい人になりつつある。


 そんな彼を慰めるのは、地然星「混世魔王」ハードゥやシルキーローズ、戦乙女ピュアセレーネといった女性達である。


 捨てる神あれば、拾う神ありーー


 拾われるのにも資格が必要ではあるのだが。


   **


 深夜の高速道路を「レディー・ハロウィーン」ローレンはノーヘルで疾走する。ヘルメットの代わりに魔女の帽子をかぶっていた。


 魔女のコスプレをしたローレンの脚線美が艶かしい。


 ローレンは混沌カオスの闇と、人知れぬ戦いに臨んでいるのだ。


「いくわよー!!」


 ローレンはバイクで跳躍した。


 宙を飛んだバイクの着地点には、魅惑の女性型人造人間「フランケン・ナース」のゾフィーが待ち受けていた。


「はい、お嬢様あ!!」


 ゾフィーはローレンの乗ったバイクを肩で受け止めた。衝撃にゾフィーの体が数メートル、引きずられるように前に出た。


 ゾフィーはローレンの侍女にしてボディーガードだったが、戦死した後に人造人間フランケンシュタインとして甦った。


 土気色の肌の全身には、無数の縫合痕が刻まれている。頭部には左右一対の電極を生やしたゾフィーは、長身巨乳美女として帝都では有名であった。


「来たわよ!!」


「了解です!!」


 ローレンとゾフィー、彼女達の前方には混沌カオスの闇がーー


 人間の悪意から産まれた闇が広がっていた。


「「トールハンマー波動砲、発射あー!!」」


 ゾフィーはバイクのスタンド付近から飛び出した引き金を引いた。


 バイクのライト部分から闇を切り裂く閃光がほとばしった。


 ローレンとゾフィーは心と心を合わせ、虚無を突き破る明日への光輝く一撃を放ったのだ。


   **


「チョウガイ、これが運命さだめだ」


 混沌カオスの重鎮、ネロは雷鳴剣を手にしてチョウガイを見据えた。


 暗き空の雲の彼方に、無数の稲光が交差する。


 帝都郊外にネロは己の軍勢、数百人を率いて現れたのだ。


 それを迎え撃つべく、百八の魔星の先陣を切って現れたのは、守護神チョウガイと知多星ゴヨウである。


「わしもお前も同じ宿星に産まれた…… 戦う事が我らの運命さだめ


 チョウガイは黄金の剣を手にしてネロを見据えた。闘志は充分だ。


「そうだ、四千年の時を越えて我らは戦う!!」


 ネロの持つ雷鳴剣が輝き、暗き空から数体の雷龍が舞い降りてきた。


 万を越える軍勢すら翻弄する雷龍の群れが、チョウガイに殺到する。


「今こそ決せよ、明星は天に一つでいい!!」


 チョウガイは黄金の剣を振るった。光輝く一閃が暗い世界を切り裂いた。


「ーー速き風よ!!」


 マントを羽織ったゴヨウ(普段とは比較にならぬ凛々しさだ)は、右手を高く掲げた。


「光と共に解放されよー!!」


 ゴヨウは右掌を混沌カオスの軍勢へと突き出した。


 途端に生じた暴風は混沌カオスの軍勢数百人を飲みこみ、上空高く吹き飛ばした。


 それはまるで鳳凰の羽ばたきのごとし凄まじさだ。


 悲鳴と共に、混沌カオスの兵士数百人は、数十メートルの高さから大地へと落下していく。


「いくぞ、混沌カオス!!」


 ゴヨウは自身の聖剣「花鳥風月」を手にして、跳躍した。


 花鳥風月に秘められた天地自然の力を借りて、ゴヨウは暗き空の高きまで飛び上がった。


 そこに屹立する巨大な人影こそ、宇宙の彼方よりやってきた混沌カオスであった。





 この宇宙の真理は、ゴヨウには未知のものだ。


 だが、やがて彼は多くの謎を知り、宇宙の正体を知るだろう。


 なぜならば、ゴヨウは天の機を知る宿星ーー


 天機星「知多星ちたせい」ゴヨウなのだから。



〈了〉

※ありがとうございました!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ