ヒーローショー
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帝都の日曜日朝のスーパーヒーロータイムでは、9月から「柳生十兵衛セイバー」が放映される。
「ようやく俺らしくなったな!」
十兵衛は浮かれていた。彼は長年「柳生十兵衛シリーズ」を務めている武人であり文化人でもあった。
兵法の達人にして、書にも優れる。
そんな十兵衛だからこそ「柳生十兵衛セイバー」が楽しみで仕方ないのだ。
「さあて、今日もやるか…… 子どもの未来を守るためにな!」
本日は某遊園地にてスーパーヒーローショーである。
「魔進剣隊キラ忍者」、「柳生十兵衛ゼロワン」、「ヒーリングっと戦乙女」、全てのショーが開催された。
これも未来のためにであった。
女性が命の象徴ならば、子どもは未来の象徴である。
男は命と未来を守るのが使命なのだ。
キラニンジャーショーが終了すると、柳生十兵衛ゼロワンとヒーリングっと戦乙女の合同ショーが行われた。
舞台はなぜか四角いジャングル……
リングの上だ!
「さあ来いいい!」
ヒーリングっと戦乙女の敵幹部の一人、グアイワルーがリングの上で吠えた。
身長は百九十センチ前後、体重は百キロ以上だろうか。グアイワルーは自粛の空気を吹き飛ばす勢いだ。
「いくぞおおお!」
十兵衛はトップロープに手をかけて飛び越え、リングに立った。
グレース、フォンテーヌ、スパークルの戦乙女三名は、暑い上にマスク着用なので熱中症の恐れがある。
敵幹部の美少年ダルイゼーと美女シンドイーワも、やる気はなさそうだ。
だからこそ、まさかのプロレス展開だったが、幼児のお父さん方は少しだけ興味深げだ。
ーーカアーン!
ゴングと共に踏みこんだ十兵衛。
疾風のような速さでグアイワルーに右ローキックを放つ。
ーーパアン!
グアイワルーの左太股に炸裂した十兵衛の右ローキック。グアイワルーは目をむいた。
「このお!」
グアイワルーは体格差を活かして十兵衛に組みつこうとする。
十兵衛はグアイワルーのタックルを避け、ロープに飛んだ。
そしてロープの反動を利用して跳躍しながら、体を前方に回転させーー
十兵衛はグアイワルーの背後に飛びつきながら組みついた。
「ぐおお、こ、これは!」
グアイワルーはうめく。彼の腰に乗った十兵衛は、内腿へと足を絡ませーー
更に両腕は下方から上へと押し上げられている。
グアイワルーがパワーで返そうとしても、力の入りにくい体勢なので難しい。
いや、それよりもこの技の方が問題だ。
この技こそ伝説の正義商人、戦争マンの必殺技ーー
「パロ・スペシャルだ!」
十兵衛はパロ・スペシャルでグアイワルーを攻めた。
グアイワルーは全身の力を振り絞って、パロ・スペシャルを跳ね返そうとする。
リングを囲んだパパさん方の興奮の熱気が、会場を包みこむ。
正義商人の熱き闘いの物語は、四十才前後の男性には青春の一ページだ。
「さ、行きましょ」
そんなパパさん方を放っておいて、ママさん方はお子様を連れて食事に行ってしまいましたとさ。めでたし、めでたし。




