レディー・ハロウィーン、幻影マンを導く
「カピー!」
遠い宇宙から来た超アニマル生命体「アニマトロン」のカピバランは吠えた。
何だか知らんが、宝くじのCMにカピバラが登場しーー
あまつさえ「カピー!」という間違った雄叫びを上げる様は、元ネタここだろうと、感慨深いものがあったのだ。
「あ、ここにいた!」
十才くらいの女の子が現れ、カピバランの側に来た。
「もーう、ちゃんとおりこうさんにしててよ!」
「あなたたち、ご飯よ~」
カピバランと女の子を呼ぶのは、割烹着姿の婦人である。美人である。女の子の母親だ。
ここは未亡人の美人女将が経営する小料理屋である。
地球人のアニマトロン狩りから逃れたカピバランは、今ではこの店の客引きであり、マスコット的存在であった。
「……は!」
女の子に従って店内に戻ろうとしたカピバランは、異様な気配を感じて振り返った。
庭の隅の暗がりにいたのは、謎のUMAトロンのアマビエンだ。
アマビエンは、謎のUMAトロンであるモスマーンと同一の存在である。
伝承によれば妖怪アマビエは疫病を予言し、UMAのモスマンも事故を予言した。
それは人々を平和へと導く、大宇宙の大いなる意思の顕現ではないか。
そのアマビエンは、カピバランを見つめながら、ハンカチを噛みしめ、引きちぎらんばかりにうめいている……
「な、何! どうしたんだよ!」
カピバランは慌ててアマビエンをなだめるが、何の答えもなかった。
超越の存在であるアマビエンは、カピバランに嫉妬しているようだ。
ーービ、ビエ~……
「いや、ちょっと待とうよ!」
カピバランは慌てる。彼の女難は尽きる事がないのだ……
*****
人知を越えた力を持ち、人の世の経済を司る存在……
人は彼らを「正義商人」、「悪魔商人」、「完璧商人」と呼んだ……!
完璧商人始祖である幻影マンーー
「夏の誘惑」は、己の居城で体育座りしていた。
夏だというのに、人々から活力は失われている。それがたまらなく悲しいのだ。
なぜなら「夏の誘惑」は、夏を司る商人だから。
彼とは敵対する商人「蝶人バーベQ」も、夏がメインの活動であるから、いずこかで意気消沈していることだろう……
ーーバァン!
その時、扉を開いて姿を現したのはレディー・ハロウィーンだ。
妙齢の欧州系美人のレディー・ハロウィーンは、キャミソールにハーフパンツという姿だ。
ピーチ・○ョンの女性モデルという噂もあるレディー・ハロウィーンは、身長百六十センチ前後の細身の美人である。
その、きつめの眼差しが、まっすぐに 「夏の誘惑」を見つめている……
「何をやってんのよ! あんたは完璧商人始祖の一人でしょ!」
レディー・ハロウィーンの一喝が 、「夏の誘惑」の憂鬱を吹き飛ばした。
彼女はレジャー大帝GWを救えなかった。
普段は敵対している正義・悪魔・完璧の三属性の商人達だが、その根底には、人々の笑顔と平和の実現という理想があるのだ。
「……俺を侮るか、レディー・ハロウィーン!」
「夏の誘惑」は、体育座りの姿勢から立ち上がった。
その瞳には炎に似た決意が燃え上がっている。
病と天災に人々の活力は奪われてしまったが、それを越えて、笑顔と平和を造り出す事こそ商人の使命ーー
レディー・ハロウィーンと「夏の誘惑」の使命なのだ。
「いくぞ、レディー・ハロウィーン! 我こそ最強の商人だ!」
「夏の誘惑」は、勇ましくレディー・ハロウィーンに突き進む。
その顔には微塵の迷いもない。
「フ、そんなセリフは私の首を獲ってからにしなさいよ!」
レディー・ハロウィーンの顔にも笑みが浮かんだ。
きつい、厳しいと言われるレディー・ハロウィーンだが、彼女の厳しい愛によって「夏の誘惑」は立ち上がったのだ!
「カレイド・スコープ・ドリラー!」
「夏の誘惑」は左腕にそなえられたドリルでレディー・ハロウィーンを襲った。
「はあ!」
レディー・ハロウィーンは踏みこみながらドリルを避け、「夏の誘惑」の右膝を踏み台にして跳躍した。
そして空中で右後ろ回し蹴りを放つ。
レディー・ハロウィーンの放つ蹴りは、究極のキックと呼ばれるーー
「昇天!」
レディー・ハロウィーンの右後ろ回し蹴りが、「夏の誘惑」の延髄に炸裂した。
崩れ落ちる「夏の誘惑」。
だが、負けて尚、彼の顔には満足があった。
全身全霊を尽くした果ての、清々しいまでの完敗であった。
「一瞬の隙、私の目は逃さないわ!」
着地したレディー・ハロウィーンは、「夏の誘惑」にウインクした。
女性の明るさ、そして生命力は全てを救うのだ。
*****
ところ変わって、北の大地ーー
サンタさんのログハウスでは、精神マンと眼マンが言い合っていた。
「ニャガニャガー、海ですよー!」
完璧商人始祖の一人、精神マンは海に遊びに行こうと主張していた。すでに水着と浮き輪も用意していた。
「シャババババー、山だー!」
すでにリュックを背負った登山スタイルの眼マン。
彼もまた完璧商人始祖の一人だが、とにかく昔から精神マンとは仲が悪かった。
今では二人揃ってサンタさんのトナカイ役を務めているがーー
「…………海」
サンタさんはーー
完璧商人始祖の一人である白銀マンは、腕組みした尊大な態度で二人を眺めていた。
「海……!」
白銀マンは鼻血をダラダラ流しながら行き先を決定した。白銀マンの脳裏には、海で遊ぶ水着姿のうら若き乙女達の姿が思い浮かんだ事であろう。
奇しくも今、海にはレディー・ハロウィーンと侍女フランケン・ナースが向かっていた。
細身でスレンダーなレディー・ハロウィーンと違い、長身グラマラスなフランケン・ナースの水着姿を見られたなら、男として本望であろう。
「ニャガニャガー、海ですよー!」
「シャババババー、くそー!」
喜ぶ精神マンと悔しがる眼マン。
それには構わず、白銀マンはさっさと身支度して海へと出かけるのであった。めでたし、めでたし。




