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知多星ゴヨウ  作者: MIROKU
二年
94/100

混沌(カオス)の追憶 ~はぐっと球団・完結編~



 蔵井譲二は控室へと戻っていた。


 そしてロッカーから愛刀の備前長船景光を取り出すと、刃を抜いた。


「許せ……!」


 蔵井譲二は目を閉じた。


 部下の活躍に、彼は応える事ができなかった。


 デスマッチ野球を提案し、そのせいでエールらにも迷惑をかけた。


 人は自身の行いというのはなかなか見えない。己の顔を、己の目で見る事ができないように。


 己の姿は他者に反射して初めて見えてくるのである。


 力と恐怖で統率されていたアスクライ球団。


 それは蔵井譲二の傲慢、罪でしかない。


 今となっては、そう思う。


 だからこそ、蔵井譲二は自分が許せなくなった。


 そんな自分に尽くしてくれた部下への詫びーー


 試合に勝利できなかった責任を、蔵井譲二は自身の死で償おうとしたのだが……


「やめてよ!」


 控室に飛びこんできたのは戦乙女トゥモローだった。彼女は蔵井譲二から備前長船景光を取り上げた。


 蔵井譲二には奪い取る気力もない。ただ目だけはギラギラさせていた。


「じ、邪魔を……」


「ジョージ、切腹しても意味ないよ~」


 トゥモローの後ろから現れたのはアスクライ球団最高顧問のドクタートラウマだ。


 かつて蔵井譲二はドクタートラウマの助手だった。


「社名を変更しようよ」


「何い?」


「アスクライからアスアカルイにね。縁起がいいだろ?」


「何を言って……」


「ねえ、がんばろう!」


 戦乙女トゥモローは蔵井譲二に言った。不思議だ、彼女に元気づけられると半死半生だった蔵井譲二ですら活力が内から沸き上がってくる。


「社長ー!」


 その時、控え室には社員一同が雪崩れ込んできた。負傷退場していたチャラリートン、バップル、ダイアン、リストールーー


 更に最期まで試合に参加したゼロス、シンシン、タクマ、ビスィンの姿もあった。


「こうなったら明日に向かってぶっ飛びウェーブを作るしかないわね!」


 美魔女バップルはニヤリとした。女性は男より傷つきやすいが、強くたくましい。


「五分で充分だ!」


「社長、やりましょう!」


「ハリーは僕のだ!」


 ダイガン、リストール、ビスィンも蔵井譲二に詰め寄った。


 ビスィンだけは無関係なことをつぶやいているようだが、彼なりに社長を元気づけようとしているのだろう。


 また美少年のビスィンは後に、美少年のアンリーと美少年ユニットを結成ーー


 世の腐女子に鼻血を吹かせまくった。


「お前たち……」


 蔵井譲二の心身に新たな活力がみなぎった。


 明日あす暗いと絶望するより、明日あす明るいと勇気を秘めて行動する事の尊さを蔵井譲二は知った。


 そして過去を償うためにも……


「……みんな、私についてきてくれるか」


「はい、社長!」


 控え室には活気が満ちた。


 アスクライ球団ではなく、アスアカルイ球団の新たな旅立ちであった。


「終わり良ければ全て良しだね」


 ドクタートラウマはニコニコしている。憎めないが侮れない人物だ。


「パパ……」


 戦乙女トゥモローは小さくつぶやいた。


 彼女は未来から来た蔵井譲二と戦乙女エールの間に産まれた娘なのだ。


 敵対していた戦乙女エールと蔵井譲二の間にどんなロマンスがあったのかーー


 それはこれから作られるのだ。


「さあ、行くぞみんな! 未来フューチャーバックるんだ!」





「ーーさあ、行こうみんな! 明るい明日トゥモローへ!」


 ハグっと球団の今日は終わった。そして明日トゥモローが待ち受けるのだ。



   **



 帝都の喫茶店では、ゴヨウがミルキーローズと戦乙女セレーネと久しぶりに会っていた。


「ーーでさあ、トレーニングジムも二ヶ月以上も閉鎖されてたのよ」


「傲慢と変転とゾンビ観ましたよ。美術が凝ってていい映画でしたね」


 ゴヨウはミルキーローズとセレーネの話を同時に聞き、そして理解する。


 両手に花というわけにはいかない、これが彼の男道だ。


 もてるわけではないが、ゴヨウは女性の輝かしい笑顔を見るだけで満たされる。


「今はどうなの、普通にやってるの? あれはゾンビ映画としては異端だけど良い映画だよね」


 ゴヨウはミルキーローズとセレーネを相手に、二つの話題で盛り上がる。


 病魔の脅威は薄れても、危機が去ったわけではない。


 今は束の間の安らぎだ。

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