混沌(カオス)の追憶 ~はぐっと球団・一試合完全燃焼3~
戦乙女エールと蔵井譲二は異口同音に叫んだ。戦乙女トゥモローはかたわらのドクタートラウマに向かって苦笑した。
「二人ともよく似てる……」
トゥモローの目元には涙が光った。彼女はエールと蔵井譲二の心意気に魂を打たれたらしかった。
また、エールとしては「仲間達と最期まで戦う」という意識がありーー
蔵井譲二も失った部下達の為に自分達だけで戦うという決意があったからだ。
本音としては、両者とも喉から手が出るほどありがたかったがーー
「二人とも…… バカ」
戦乙女トゥモローは目から涙をあふれさせて、ドクタートラウマと共に観客席から試合を眺めていた。
フラフラのピッチャー蔵井譲二と、足の痛みに耐えるバッターのエトワール。
カウントは2ストライク、3ボールまで来た。
「ぬう!」
ピッチャー蔵井譲二が投げた。球速は勢いあるが、ど真中へのストレートだ。
「はあ!」
エトワールはフルスイングしようとした。
が、足首に走る激痛にバットを振るう事ができなかった。
端から見ればエトワールが見送った形であった。
そして球は微妙なコースであった。観客席も静寂に包まれた。審判もまだ判断しきれていないのだ。
エトワールは蒼白になっている。蔵井譲二も生きた心地すらしない。
そして下された判定は、
「ーーボール! フォアボール!」
この瞬間、はぐっと球団の勝利が決定した。
観客席は、いや球場は大音声に包まれた。
「押し出しか……」
エトワールは大きく息を吐いた。
足首の痛みのせいで、彼女はフルスイングする事ができなかった。
その偶然がなかったら、果たしてどうなっていたのか?
エトワールは偶然を通じて、人知を越えた超越の存在をーー
いや、野球の神様が存在する事を確信した。
「私達は持てる力を出しきった…… なんら恥じることはありません」
戦乙女アンジェは微笑し三塁へとゆっくり歩んでいく。
そう、彼女達は全身全霊を尽くしたのだ。
その充実がアンジェの胸に満ち、そして彼女の瞳から涙をあふれさせた。
「堂々とホームを踏みますわ!」
アキレス腱を切っている戦乙女マシェリだが、彼女はひょこひょこ歩きながら遂にホームを踏んだ!
「う、ううう~!」
マシェリは戦乙女アムールに抱きしめられて泣いた。
長かった試合は遂に幕を閉じたのだ。
スコアは19対18。
熱戦、接戦、超激戦の果てに勝利を得た感動にマシェリは涙をこらえる事ができなかったのだ。
「……は!」
エールが気づいた時には、ピッチャーマウンドの蔵井譲二の姿が消えていたーー




