帝都を覆う混沌48 ~レディー・ハロウィーン、レジャー大帝GWを撃退す~
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レディー・ハロウィーンとレジャー大帝GWの戦いはーー
まだ始まっていなかった。
「お嬢さまあ~、助けてくださ~い……」
フランケン・ナースは相変わらず逆さ吊りになったままだ。
足首をレジャー大帝GWーー
混沌の波動を受けて人ではなくなり、サメとタコが合体したかのような異形の物に足首をつかまれ逆さ吊りにされたままだ。
レジャー大帝GWの触手の一本は、フランケン・ナースの足首をつかんで離さない。
何がなんでも離さない。
ミニスカートのナース服を身にまとうフランケン・ナースは、スカートがめくれぬようにおさえている。
「離しなさいよ!」
レディー・ハロウィーンはレジャー大帝GWを威嚇した。美人が怒ると般若のごとき恐ろしさだ。
「やなこったー!」
レジャー大帝GWのサメにそっくりな顔には執念があった。
昨年は十連休で過労死寸前まで追いこまれたかと思えば、今年は利益90%激減……
いかに混沌のもたらした病魔の影響とはいえ、レジャー大帝GWも気が変になりそうであった。
様々な負の感情が混じりあったレジャー大帝GWの心は暗黒だ。
暗黒ゆえに混沌の波動を受けて人ではいられなくなった。
そんなレジャー大帝GWであるのに、フランケン・ナースをつかむ触手には鋼のような意志が宿っていた。
レディー・ハロウィーンはいぶかしんだ。ただ単にレジャー大帝GWがスケベだというわけではないようだ。
「俺はあっ!」
レジャー大帝GWがサメに似た顎を開いた。何かを言おうとしているのだ。
「君の事が!」
とレジャー大帝GWが後を繋げようとした時、フランケン・ナースはさらりと言った。
「好みじゃないので」
「うわあああ!」
レジャー大帝GWはフランケン・ナースの手加減なしの返事に取り乱した。
その途端にフランケン・ナースの足首から彼の触手は離れた。
「は!」
フランケン・ナースは空中で身を反転させーースカートがめくれないようにしたのは流石であるーー、優雅に着地した。
「ナースの怒りパーンチ!」
フランケン・ナースの右拳がレジャー大帝GWに炸裂した。
怪力を誇る人造人間のフランケン・ナース(生前は人間だった)の、乙女の怒りがこめられた拳は、一トンを優に越えるレジャー大帝GWの巨体を十メートルあまり吹き飛ばした。
「今だわ!」
レディー・ハロウィーンはホウキに乗ったまま印を組む。それはトールハンマー発動の瞬間だった。
「焼き尽くせえ!」
レディー・ハロウィーンは右手をレジャー大帝GWに向かって突き出した。
彼女の開いた右手から凄まじい閃光がほとばしり、レジャー大帝GWを襲った。
「むっはー!」
閃光がレジャー大帝GWを包みこむかと見えた瞬間、その巨体は消えた。
「に、逃げられた!?」
レディー・ハロウィーンは驚愕した。レジャー大帝GWは空間跳躍によって逃げ去ったのだ。
以前の彼にはなかった能力だ。混沌の波動を受けて人ではいられなくなったレジャー大帝GWは、もはや倒す以外にない敵なのか。
レディー・ハロウィーンの美しい顔には憂いの表情が張りついたままだ。
その憂鬱を晴らすために命をかける男達は少なくないだろう。
「お嬢様~、帰りましょう」
フランケン・ナースは言った。かつてはゾンビ・ナース、更に生前はキラービーと呼ばれたボディーガード。
そんなフランケン・ナースは、レディー・ハロウィーンと対照的に穏やかな微笑を浮かべている。
一度死して蘇生した彼女だからこそ、笑顔の効用を誰よりも深く理解しているのだ。
笑顔こそが他者を救い、己を救い、そして苦しむ者をも救うのだと……
「……そうね」
レディー・ハロウィーンはホウキから、繁華街の通路に降り立った。
魔空空間は晴れ、そこは元の夜の繁華街だった。
明日になれば、人々の活気で満たされるのか。
彼女達の戦いは病魔を打ち払い、人々の平和を作るために役立っている事だろう。
「ところで貴女…… 胸が大きくなってない?」
「そうなんですよ、お嬢様~ なんでこんな誰得な事になってるんでしょ~」
フランケン・ナースの言葉に、レディー・ハロウィーンの額には青筋が浮かんできた。
これも混沌の波動なのか。
未だ危機は去っていないのだ。




