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知多星ゴヨウ  作者: MIROKU
二年
85/100

帝都を覆う混沌44 ~王者の剣に斬れぬものなし~



   ******



 超重量の鋼鉄が激突した轟音が、機械の要塞に響き渡った。


 ゴヨウの乗るヘッドガンはエアロボットの体当たりを受けて、要塞の壁まで吹っ飛ばされた。


「ぐう、う……」


 ゴヨウはヘッドガンのコックピット内でうめく。コックピットのシートは衝撃を大分緩和したが、それでもゴヨウは揺さぶられ、吐き気を催すほどだ。


 ヘッドガンの外装もひどい有り様だ。ガンランチャーもプラズマキャノンもエアロボットには通じず、今の体当たりで砲身が折れて吹き飛んだ。


「……パーティーやろうぜ、ブルックリン」


 ゴヨウは蒼白ながら笑みを浮かべた。


 帝都を覆う病魔を討つべく、死の世界での戦いを経て、ヘッドガンと共に鬼道界にまで次元を越えてやってきたゴヨウ。


 が、それも限界かもしれぬ。


 機械でありながら自己修復能力も持つヘッドガンも、完全破壊されては再生も不可能だ。


“了解”


 ヘッドガンのAIブルックリンは淡々とーー


 それでいて、どこか愉しげに答えた。


 機械ですら踊り出すという伝説のワインを燃料の代替品として用いたからか、ブルックリンも窮地にあってもハイテンションだ。


「ありがとうな」


 ゴヨウはコックピット内の計器類の一番端にあるカバーを開いた。


 カバーの下から現れた赤いボタンは、自爆用スイッチだ。


 敗北を悟ったゴヨウは、エアロボットを道連れに自爆する覚悟であった。


「ブルックリン、楽しかったよ」


“私もです、ゴヨウ。数百年ぶりに起動し、未来のために果てるなら本望です”


「ああ……」


 ゴヨウはレバーを操作し、ヘッドガンをゆっくり前進させた。


 前方からは、三本のパワーアームを振るわせたエアロボットが、ヘッドガンを破壊すべく近づいてくる。


 その姿は、三本のアームを持つショベルカーのようだった。


 ゴヨウの狙いはエアロボットにできるだけ接近し、自爆の威力で最大限のダメージを与えることだ。


 勝てずとも、一矢報いる。


 それがゴヨウの覚悟だ。すでに死を受け入れていた。


 古来より男たちは、そうやって女子どもをーー


 命と未来を守ってきた。


 今もまた、病魔から未来を守るために、ゴヨウは死のうとしていた。


 彼が死んでも、後を継ぐ者は必ず現れる。



「……男は最高だー!」



 ゴヨウがペダルを踏んで加速しようとした時、空間に亀裂が入った。


「そんなことをしちゃダメよ!」


 次いで機械の要塞に響いたのは、女性の声だった。


 空間の亀裂から、機械の要塞の床へ舞い降りた小さな人影は、肌の露出の多い異国情緒あふれる衣装に身を包んでいた。


 その彼女は、高さ十メートル近いエアロボットの前に立ちふさがった。ゴヨウとヘッドガンを守るかのように……


「バ、バカ! やめろ!」


 ゴヨウの覚悟も霧散した。たおやかな女性の艶かしい後ろ姿に見とれつつも。


 女性は両手で印を結んだ。呪文の詠唱と共に彼女の魔力は高まり、再び空間に亀裂が生じた。彼女は異空間より何かを召喚しようとしていたのだ。


「ーー出でよ、死した勇士たちの主よ!」


 女性の呼びかけに応え、巨大な姿が異空間より現れた。


 それは武装して騎乗した王のような、威厳あふれる超神であった。


 高さ五メートルを越す超神は右手に剣を握り、エアロボットに突撃した。


「うわ!」


 ゴヨウの叫びも一瞬だ。


 次の瞬間には、エアロボットは三本のパワーアームも四角いボディも、横一直線に一刀両断にされていた。


 超神の姿は瞬きする間に消え失せ、エアロボットの巨体は機能を停止していた。三本のパワーアームが要塞内の床に落ちた。爆発しないのが不思議であった。


「ーーゴヨウ先生、ダメですよ。死ぬにはまだ早いです」


 女性がゴヨウとヘッドガンへ振り返る。


 二十歳前後の美しい女性だった。どこかで会ったような気がするが、あいにくゴヨウには思い出せない。


 女性はクスッと笑った。


「ハードゥですよ、ゴヨウ先生」


 ハードゥと名乗った女性は、コックピットから身を乗り出したゴヨウを見上げて微笑していた。


 しかし、ゴヨウが知るのは「地然星『混世魔王』ハードゥ」だが、こんなお色気満載の美女ではなかった。


 一体、何があったというのだ。

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