帝都を覆う混沌43 ~レディー・ハロウィーン、混沌(カオス)に挑む~
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ハロウィンの夜乱れる時、美神の姿あり……
それは古の伝説だ。
かつてハロウィンの夜は「この世」と「あの世」が繋がる夜とされていた。
現世には悪霊や妖魔が現れる夜だったのだ。
人々は恐怖を緩和するために仮装をした。彼らの仲間に扮する事で、見逃してもらえるかもしれないと思ったからだ。
これは「ゾンビが恐いなら自分もゾンビになればいい」という心理に近いだろうか。
だが、ハロウィンの夜には人々を守るために悪霊を打ち払う存在がいた。
美神とも武神とも、更には魔女とも称された存在は人知を越えた力を持ち、ハロウィンの夜に現れた悪霊や妖魔を打ち倒した。
その末裔こそ、ハロウィンの女帝「レディー・ハロウィーン」なのだ。
レディー・ハロウィーンは侍女フランケン・ナースを連れて、夜の帝都に繰り出した。
以前はおびただしい人の波に呑まれていた歓楽街も、まるでゴーストタウンのごとく、行き交う人々の影もない。
これは病魔による外出自粛令の影響もあるが、それよりも混沌の侵食ーー
無数の次元が重なりあった虚無が生じている事が、人々を寄せ付けぬのだ。
今この繁華街で出会う者は、人間とは限らぬ。
「やってくれんじゃないの混沌」
魔女の仮装をしたレディー・ハロウィーンは、ホウキを手にして繁華街を見回した。
飲食店も風俗店も全てシャッターが閉まっている。これは自粛要請のみならず、彼らも感じているのだ。
魂が危機を感じ取っているのだ。
人ならざる者達が、夜の中を蠢いていると。
レディー・ハロウィーンは血の中の記憶を思い起こした。
彼女の御先祖たちもまた、ハロウィンの夜には町中に現れた悪霊や妖魔を討ち滅ぼした。
一般市民にとっては終わらぬ夜の中を、人々を守るために戦ったのだ……
「む!」
「お嬢様!」
レディー・ハロウィーンとフランケン・ナースは同時に身構えた。
空間が歪む。現世と異なる空間が混じりあう。
時間の流れさえ一定ではなくなる。
めまいがするような、それでいて心地よいような感覚に二人は襲われた。
目に映る光景は、帝都の無人の繁華街だが、ここはすでに「魔空空間」であった。
「いくわよ!」
レディー・ハロウィーンはホウキを宙に放り投げ、そして飛び乗った。
波に乗るサーファーのように、レディー・ハロウィーンはホウキをサーフボードのようにして宙を飛ぶ。
目指すは魔空空間の奥に潜む敵だ。
「はい!」
フランケン・ナースは背に負っていた四連ロケットランチャーを前方に向けて構えた。
映画やゲームでも使われた、いぶし銀のロケットランチャーだ。
ロケットランチャーが火を吹いた。フランケン・ナースのミニスカートがはためき、艶かしい脚線美が現れた。
「出てきなさいよ、混沌!」
レディー・ハロウィーンはホウキに乗ったまま、両手に光輝く弓矢を出現させた。
これも彼女の行使する術の一つだ。
天使の力を借りて放たれる降魔の矢はーー
「エンジェル・アロォッー!」
レディー・ハロウィーンは魔空空間に潜む敵に向け、無数の光の矢を射ちこんだ。




