帝都を覆う混沌38 ~鋼鉄の電気騎士~
死の世界で病魔と戦う人々。
彼らの戦いも大詰めだった。
「わし一人が千歩進んでも世の中は変わらぬ…… 万人が一歩を進んで世の中は変わるのだ……」
満身創痍のソンショウは凄絶な笑みを浮かべながら、最後に残った巨人を見つめていた。
闇の世界の荒野、そこに最後まで倒せなかった巨人がいた。
人間に似ているが、その背からは長く禍々しい一本の腕が生えていた。
ソンショウの召喚した龍は他の巨人を蹴散らしたが、その巨人だけは倒せなかった。
ソンショウの周囲では戦い疲れた男女が集まっている。
地上の未来を守るために死して肉体を捨てた彼らは、この死の世界で、病魔そのものを討たんと奮闘していたが、それも限界だ。
「あ、ありがとうございました……」
ソンショウの傍らに座り込んだ少年が礼を述べた。
少年はソンショウから受け取った剣をーー
ソンショウいわく「武徳の祖神の加護」を手にして戦ったが、それも限界だ。
「なあに、わしは何もしとらんさ……」
ソンショウは疲労した顔に苦笑を浮かべて、背中に腕を生やした巨人を見上げた。
すでに巨人はソンショウらを踏み潰さんと近くまで歩み寄っていた。
「わしらが力尽きようと」
「あとに続く者が必ず現れるからなあ!」
ソンショウと少年は揃って巨人に敵意を向けた。他の男女もだった。
敵わずともかまわないという気持ちで、彼らはこの病魔との戦いに臨んだのだ。
ーーグワア
巨人が足を持ち上げソンショウらを踏み潰さんとした。
ソンショウの側に少年のみならず、無数の男女が身を寄せあった。
最期を覚悟したのだ。
「ショウコ様……!」
ソンショウは夢中で心に思い浮かんだ女性の名を呼んだ。
その時だ、闇の世界に光が差し、巨大な姿が荒野に屹立したのは。
巨人も注意をそちらに向けた。ソンショウらは力なく巨大な姿を見つめた。
それは十メートルを越す鋼鉄の電気騎士であった。
「バ、バカな…… 百八の魔星の最高機密が…… 数百年ぶりに!」
ソンショウの声も体も震えていた。




