帝都を覆う混沌34 ~暗き世界に光あり~
暗い世界だった。
果てしなき荒地に暗い空。
ここは死後の世界であった。
「はあ……」
その暗き世界で少年は震えていた。
自分がどうやって死んだのか、それは覚えていない。
少年の内心の震えは止まらない。
彼の魂ですらが感じている。恐ろしい存在が地上に蔓延していることを。
そして今も、この暗き世界に混沌が現れていることも。
地平線の向こうから異形の巨体が現れた。
それは人間に似ているが、非なるものであった。
「善き癒し」の戦乙女らが戦っている、帝都を蝕む悪しき空間の一部であった。
混沌の波動は、死の世界にまで届いているのだ。
「は、はわあああ!」
情けない悲鳴に少年はしりもちついた。歯がガチガチと鳴り、涙すらこぼれてくる。
自分はなぜ死んだのか、それが理解できた。混沌の波動によって生じた病によって死んだのだ。
地上にいた頃の少年は老人だった。
「ーー耳をふさげ」
少年は男の声を聞いた。慌てて耳をふさぐと、暗き世界を照らし出す光が走った。
それは巨大な雷であった。
雷は地平線に現れた異形の巨体を焼き尽くした。
「立て、まだまだ来るぞ!」
男の声に少年は勇気をふりしぼって立ち上がった。
暗き世界の果てより、異形の巨体がいくつも現れている。
「案ずるな、俺たちには仲間もいる」
男の声は真実だった。
少年が見回せば、周囲には武装した男女数百人が地平線の彼方を見つめていた。
彼らから伝わるのは、戦う意思ーー
地上に残った生きる人々を守ろうとする勇気であった。
死して肉体を捨て概念世界に飛びこみ、病魔そのものを討つーー
そのために命を散らした者達が、ここに集結しているのだ。
「さあ、地上のためにやるぞ!」
男は叫んだ。
凛々しい青年は百八の魔星の一人ーー
病魔を鎮めるために即身仏となった天間星「入雲龍」ソンショウその人であった。




