帝都を覆う混沌33 ~渦の中心~
“カウントは九回裏ツーアウト、2ー3。それでも私はまだバッターボックスに立てる”
ヘッドガンの人工知能「ブルックリン」は搭乗したゴヨウに告げた。
最期の最期まで自分はやれる、と。
たとえ待ち受けるのが敗北や死であろうと。
“確率なんてクソ食らえでしょう!”
ブルックリンは口が悪い。酔っているような口調だ。
実際、燃料にワインを代用品として使用しているから仕方ないかもしれない。
“死ぬ時はスタンディングモードで!”
それがブルックリンの最初で最後のリクエストだった。
「よーし! 男は立って死ぬんだ!」
ゴヨウはコックピットで叫ぶ。様々な意味が含まれていた。男と女の闘争においても、男は立たねばならぬのだ。
たとえ目の前に死が迫っていようとーー
“BーMAX発動!”
ブルックリンが叫ぶと同時にヘッドガンの全身が蠢いた。
全長十メートルほどの戦車形態だったヘッドガンは、その形を変えていく。
真の姿は人形に限りなく近いのだ。
その変形の妙をとらえて、破裂とも称されるヘッドガン。
今やヘッドガンは真の姿を現し、人形となって混沌の渦の前に立つ。
「いくぞ!」
ゴヨウはヘッドガンに搭乗したまま、混沌の渦へ飛びこんだ。
戦況を眺める天なるものは、お茶を飲みつつ考えた。
この国に侵入しようとする邪神を食い止めるのは、新たなる武神フツヌシである。
元は邪神であった存在が、まさかこの国を守るために戦うとは。
「うん、やっぱり私の目に狂いはなかったわ~」
天なるものは女性の姿をしていた。邪神だった存在は、天なるものによって別の存在へ生まれ変わったのだ。
新たなる武神フツヌシは、炎をまとった双剣をふりかざし、邪神ーー新たなる邪神は、巨大なブーメランを手にした、褐色の肌を持つ少年だったーーと異空間で戦っている。
この国に地震が起きるのを防いでいた剣神は、今はパワー切れだ。
「地の龍」はまだ余力を残して暴れている。病魔に加えて地震までもが帝都を襲ったら、その混乱は絶望的だろう。
すでに聖母様から戦乙女ソード、戦乙女ビューティーが地の龍に備え臨戦態勢でありーー
地震と共に想定される水害には戦乙女アクア、戦乙女マリン、戦乙女マーメイドが待機している。
帝都は未だ油断できぬ。
病魔の蔓延する帝都に大地震が起きれば、大きな絶望が待っている。
「やるしかないわね」
天なるものも、その美しい面を引き締めた。




