帝都を覆う混沌31 ~未来を守る総力戦開始~
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ゴヨウが訪れてもソンショウの応えはなかった。
ソンショウは部屋にこもり、即身仏の修行を行っていた。
外部からの呼びかけには鈴を鳴らして応えるが、それもなくなった。
ゴヨウはソンショウの修行が終わり、即身仏への成就が成った事を知った。
「ソンショウ老師……」
ゴヨウは涙をこらえた。
世界中に病魔が蔓延する少し前に、ソンショウは突如として即身仏への修行に入った。
その理由が今ならばわかる気がする。
ソンショウは病魔を鎮め、未来を守るために、己を捧げたのだ。
仏陀が沙羅双樹の下で苦しみに耐えたように。
主が十字架にかけられたように。
勇士らが国の未来を守るために、大空の戦場に命を散らしたように……
「……老師、俺はやります!」
涙をぬぐい、ゴヨウはソンショウに誓った。
脳裏には「開拓者」カーレルの声が聞こえてくる。
ーー目に見えぬ道に従って、少年がやがては父親になるようにだ……
今ゴヨウは目に見えぬ道に入ろうとしているのだ。
ソンショウもまた目に見えぬ道に従ったのだ。
大いなる未来のために……
帝都のスーパーヒーロータイムといえば、現在は「ヒーリングっど・戦乙女」、「柳生十兵衛ゼロワン」、「魔進剣隊キラ忍者」である。
そして柳生十兵衛もまた、帝都を守る戦いに臨む。
「死んだ者に分け前はない」
十兵衛は配下の剣隊隊員ーー
俗に言う「裏柳生」らに告げた。
冷酷な発言に聞こえるが、彼の真意を知る者達には反発などない。
どこか愉しげですらある。彼らは、自分達のような無頼漢が、世のため人のために、死に花を咲かせられる事を喜んですらいた。
ある意味では狂人かもしれぬ。
が、まともな者ですらが混沌の波動を受けて、自己欲求を満たすために悪を成している事例もある。
どちらが正しいか、などはどうでもよい。
己を捨てられるか否かだ。
「張孔堂を倒さねばならぬ」
國松は十兵衛の隣で配下の「江戸城御庭番衆」に告げた。
國松の正体は尾張大納言忠長である。
三代将軍家光の弟でありながら、切腹を命じられて果てた。
世間ではそのように信じられていたが、実際には秘密裏に生かされ、江戸城御庭番衆を率いて江戸の治安を守っていたのだ。
その武芸の腕前は十兵衛以上である。
「余も叔父として、甥のために一肌脱がねばな」
國松は不敵に笑った。
すでに死したる忠長だが、家光の子のためにーー
未来のために死ぬのならば本望であった。
「正雪は悪くないのです」
十兵衛は苦々しく言った。暴走し、江戸の市中に火を点けようとしているのは、混沌の波動を受けて暴走した一部の者達だ。
その混沌の尖兵を討たねば、江戸に明日はない。
「ーーいくぞ!」
迷いを振り払い、十兵衛は國松と共に剣隊隊員らを率いて、夜の江戸に出陣した。
男達ばかりではない。
女性陣もまた命がけであった。
鬼子母神様の元に一通の挑戦状が届いた。
差出人は混沌との事である。
鬼子母神様は眷属の天女らと共に、いぶかしみながら封を解いた。
そこには「ババア」と一言だけ書かれていた。
「ババアじゃとー!」
鬼子母神様の怒りのオーラが天を衝いた。
手紙からは僅かに聖母様の神気が漂っていたが、怒り心頭の鬼子母神様には、それに気づく余裕はない。
「おのれ混沌! 殲滅じゃ! サーチアンドデストロイじゃー!」
鬼子母神様の館はにわかに活気づき、混沌殲滅のための準備を開始した。
鬼子母神様の眷属らが総力を挙げて、混沌と共に病魔をも打ち払うかもしれぬ。
子どもの未来を守るために……
聖母様の館では、戦乙女のグレース、フォンテーヌ、スパークルらが聖母様の企みに顔を青くしていた。
「これぞ駆虎呑狼の計…… いいこと、混沌も病魔も打ち払うのよ! 戦乙女も総力戦よ!」
聖母様の神算鬼謀、果たして成るか。
世界中の病魔を退散させることができるか。
宇宙の意思は、世界をどこへ導こうとしているのか……




