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知多星ゴヨウ  作者: MIROKU
二年
71/100

帝都を覆う混沌30 ~無の境地~



 蘭丸の気迫に空気までが張り詰めた。魔性の顔からも妖艶な笑みは消えている。


 蘭丸と魔性、両者の間に凄絶な殺気が満ちた。


 生か死か。


 夜の中の二人は動かない……


「ーーお待ちなさい!」


 静寂を突き破ったのは慶安夜話のヒロイン、ねねだった。


 美人だが、性格に難のある謎の女であった。


「ねね、帰れ」


 蘭丸は静かに言った。シリアスやってた空気が、ねねのせいであっという間に緩んできた。


「そうはいきませんわ! わたくしは蘭丸様の妻、夫を支えるのが妻の務め!」


 ねねは鼻息荒く主張した。美人だが仕草は残念だ。人気No.1のねねだったが、彼女のおかげで作風は時に大きく乱れた。


 蘭丸の最大の助力者であったけどーー


「いつ妻になったんだ……」


 蘭丸はため息をついた。ねねは蘭丸の押しかけ女房気取りで、勝手に彼の部屋に住み着いていた。


「帰れ、帰れ。年増女よ、我と美丈夫の邪魔をするな」


 屋根の上で魔性ですらが罵詈雑言を吐いた。女としては好ましい男との時間を邪魔されたくはないのだろう。


「かっち~ん……」


 ねねの額に青筋が浮かんだ。


 十五で嫁に行くとされた江戸の頃は、二十を過ぎれば年増、二十五を過ぎれば大年増と言われていた。


 ねねの外見は微妙な、二十才前後ほどだろうか。妙齢という言葉は、このようなところから生まれてきたのか。


 なんにせよ、ねねの怒りは瞬時にマックスだ。


「ーー大江戸ブラスト!」


 ねねは両目から赤い光線を発して、屋根の上の魔性を攻撃した。


 魔性は背に生えた羽で夜空に舞い上がった。


 ねねの放った大江戸ブラストの一撃は、武家屋敷の屋根を一瞬で破壊した。蘭丸は青ざめ言葉もない。


「仏法天雷!」


 ねねの右手に光球が出現して光を放つ。


 同時にねねの全身も骨が透けて見えた。


 一瞬の後には、ねねは光球を夜空の魔性に向かって投げつけた。


 それを避けた魔性は地に降り立ち、ねねと取っ組み合いのキャットファイトを開始した。


「あああ……」


 蒼白になった蘭丸は、右手に紅を提げて女の闘いを呆然と眺めるしかなかった。


 ねねがスーパー逆水平から投げっぱなしジャーマンで魔性を放り投げる。


 魔性は壁を蹴って三角飛び、真空飛び膝蹴りでねねを襲う。


 ねねのマウスピース(なんだって?)が夜空に飛んだ。


「ゆ、許せませんわ…… こうなったら、大江戸バスターで!」


 ねねの言う大江戸バスターとは「キ○肉バスター」とほぼ同じ技だ。


 首折り、背骨折り、股裂きをミックスしたこの技は実際のプロレスでも用いられることはある。


 しかし、その大江戸バスターを全裸の魔性にかけるとは。


 絵面としてはいかがなものか、間違いなく十八歳未満お断りだろう。


 作者は運営という名の天の代行者より、三度の警告メールをいただいている。


 次は突然の消滅かもしれぬ。


 最期かもしれぬと悟った時、蘭丸は微笑した。


「楽しかったぞ!」


 蘭丸は紅の峰を返して、踏みこんだ。


 ねねは、ジャンプ強パンチ→しゃがみ強パンチ→キャンセル強波動拳で魔性を気絶させ、近寄ってスーパーアーツである大江戸バスター(※レバー2回転+パンチ)をしかけようとしていた。


「おおお!」


 無の境地へ到った蘭丸の剣(峰打ち)が、ねねへと炸裂せんとした。





 蘭丸は思う。


 女性の元気で明るいパワーが、病魔をも吹き飛ばしてくれるのではないかと。


 それを信じたい蘭丸であった。

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