超ロボット生命体、親子を守る
バァン!と勢いよくドアを開いて出現したのは、頭部が馬で胴体が亀という奇妙な生物であった。
「馬ー亀ー!」
バァン!と奇妙な生物はドアの向こうに引っ込み、姿を消した。
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昼の温泉宿に悲鳴が走った。
駐車場で逃げ惑う人々の前に姿を現したのは、UMAトロンのバカメンだった。
「バーカメー!」
八メートルを越える巨大な機械戦士形態へトランスフォームし、人間を見下すバカメン。
元々はアニマトロン側であったが、地球へ来た時にスキャンに失敗し、馬と亀の両方の特徴をあわせ持つ奇妙な外見になってしまった。
それゆえにアニマトロンの女性陣から嫌われ、やむなくUMAトロンに下ったバカメン。
彼の今の目的は、地球政府と協力してのアニマトロン狩りだ。この温泉宿には大物が潜んでいたのだ。
それはアニマトロン副官カピバランと、総司令官カワウソンであった。
「この卑小で非力な脊椎動物どもが!」
バカメンは逃げ惑う内に倒れた親子を踏み潰さんと、右足を持ち上げた。
その時だ、一台の車が狂ったような勢いで駐車場内に突入したのは。
「待ちやがれー!」
突っ込んできた車は一瞬で機械戦士形態へ変形した。
「コノヤロー!」
六メートルを越す機械戦士は、勢いを保ったまま側転し、更に後方宙返りをしてバカメンの頭上に襲いかかった。
走ってきた勢いに、側転と宙返りの運動エネルギーを加えたヘッドプレスーー
機械戦士の踏みつけ攻撃に、バカメンの頭部は轟音と共に、胴体に半ば埋まった。それほどの破壊力だった。
バカメンに奇襲をしかけたのはアニマトロン副官のカピバランだ。
カピバラは群れで行動するが、危険が迫った時、わざと敵に食べられる役を担う個体がいる。
敵を満腹にし、仲間や子供を逃がすためだ。
そのような役割を担う個体がカピバラの群れにはいる。
カピバランもまた、その精神性はカピバラに似た。
「お、おお……」
バカメンの馬に似た頭部は、亀のような胴体に半ば埋まっている。激しく火花が散っていた。
「相手が悪かったな!」
次いで場に現れた八メートルを越す機械戦士こそ、アニマトロン総司令官カワウソンだ。
カワウソンは手にしたハイパーメガランチャーの引き金を引いた。
一点に収束された光線がバカメンの心臓部を貫いた。バカメンは胸に大穴をうがち、そして前のめりに駐車場のアスファルトの上に倒れた。
人々が恐怖と不安から立ち直った時には、カワウソンとカピバランの巨体は消えていた。正しく風のように現れ、風と共に去っていったのだ。
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バレンタイン当日、フランケン・ナースは頭部の電極を激しく点滅させながら、親友である異星人女戦士アナスタシアに手作りチョコレートを手渡した。
「あ、ありがと……」
はにかむアナスタシア。彼女はフランケン・ナースとスキーに行った時、嫁に来い!と求婚していた。まだ返事はもらっていない。
「……アナスタシア、カナダに移住しましょう」
フランケン・ナースはうつむきながら言った。
「え、カナダに移住? 旅行じゃなくて?」
アナスタシアにはフランケン・ナースの意図がわからない。彼女はカナダでは同性婚が認められている事を知らぬのだ。
宇宙の戦神と称される美しきアナスタシアも、宇宙全体よりも広くて深い女心に気づけるだろうか。女心こそ真のミステリーなのだ。
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再び馬と亀の融合した生物がドアを開いて姿を現した。
「まだだ、まだ終わらんよ! 次回はバレンタインの追憶編だよ!」
奇妙な生物はドアの向こうに消えていた。