帝都を覆う混沌24 ~始まりの終わり~
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「さらばだ我が友よ」
宇宙最古の生命体「開拓者」であるカーレルは、ゴヨウに別れを告げた。
彼は「開拓者」の内では最も幼く、非力で無知なのだという。
早く仲間の元に追いつきたい、とカーレルはゴヨウに言った。
「これを授けよう、汝が成し遂げた行いを忘れぬように。我は人々の記憶の中に刻まれ、命ある限り語り継がれていく。それこそが我らの永遠の証」
カーレルはゴヨウの手のひらに、光り輝く何かを渡した。
それは赤ん坊のようであり、光りの玉のようであり、原初の地球のようでもあった。
「有限生命体も見上げたもの」
そう言ってカーレルは笑顔を見せた。宇宙最古の生命体の見せた、親しみの笑顔であった。
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帝都の時は動き出した。
誰も、何者も、混沌の意識下への侵略を覚えてはいなかった。
混沌と戦ったゴヨウですらがーー
「ーーこれあげるわ」
はにかんだバレンタイン・エビルが差し出したのは、小さな包みのチョコレートだ。
「お、俺に?」
ゴヨウは心臓がドキドキした。童貞だから仕方ない。
「い、言っておくけど義理だからね、義理!」
頬を赤らめ、ツンツンした様子のバレンタイン・エビルがなんと可愛らしいことか。
ゴヨウはもう死んでもいいとすら思った。
それほどの満足だった。
「あ、チョウガイ様!」
バレンタイン・エビルは百八の魔星の守護神チョウガイに駆け寄っていく。
そしてゴヨウに渡したチョコレートより、ずっと立派な包みをチョウガイに差し出していた。
「う、受け取ってください!」
「う、うむ」
うつむいたバレンタイン・エビルと、照れ隠しに咳払いしながらチョコレートを受けとるチョウガイ。
その光景自体は微笑ましいが、バレンタイン・エビルに好意を抱くゴヨウにはたまったものではない。
(うー、宇宙がー!)
白目を剥いてのけぞるゴヨウ。嫉妬も多分にあった。
しかし、好意を抱くバレンタイン・エビルの幸せは祈る。
そして、父のように尊敬するチョウガイの幸せも祈る。
それが男の生きざまである。
が、彼の報われぬ思いはどうすればいいか。
「混沌めへえー!」
ゴヨウは再び混沌との戦いに臨んだ。八つ当たりに近い闘志を胸に、彼は死をも恐れず死線に踏みこんだ!
「速き風よ!」
ゴヨウは右手を高く掲げた。途端に周囲の風が渦を巻いた。
「光と共に解放されよ!」
ゴヨウの右手が光って唸る。
圧倒的な暴風が吹き荒れ、混沌の尖兵たるマンクロイを飲みこんだ。
闇の僧兵たるマンクロイの体は突風に巻き上げられて、悲鳴と共に数十メートルの高みから大地へ落ちた。
今のゴヨウは風の勇者であった。
鳳凰の羽ばたきのごとし風を操り、全てのものを吹き飛ばすのだ。
混沌の尖兵アフロディアもまた、ゴヨウの前では力を封じられた。
「気流……! この空気の流れは貴様が造り出したのか!」
美しきアフロディアの周囲は、ゴヨウの産み出した気流に包まれていた。
この気流は今は相手の動きを封じるだけだが、嵐と成った時には全てを吹き飛ばすのだ。
「そうだ、気流が嵐と成った時、あんたの最期だ」
「ふふふ、面白い」
血の気の引いたアフロディアだが、彼は不敵な笑みを見せて右手に握った白い薔薇を高く掲げた。
「この白薔薇は君の血を吸い上げて深紅に染まるだろう……」
アフロディアの決死の覚悟、敵ながら天晴れだった。
ならば、とゴヨウも覚悟を固めた。
守るために戦い死すならば、たとえ破れても本望であった。
「さあ受けろ知多星!」
アフロディアの右手の白薔薇が放たれた。
「吹き荒れろ嵐よ!」
ゴヨウの雄叫びと共に嵐が生じて全てを吹き飛ばした。
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ゴヨウの戦いは続くーー




