帝都を覆う混沌18 ~ナザレ・ウォーリアーズ~
「俺達はネズミを食って生きてきたんだー!」
そう主張するのはカニマルとポークの二人だ。
無論ハッタリだが、それが彼らを恐れさせた。
屈強なカニマルとポークは人々に畏怖されるウォーリアーであった。
戦えば必ず勝つーー
彼らの試合は早々と終結し、その強さゆえに観客を魅了した。
だが、彼らにも転機が訪れた。
聖母様による成敗である。
「聖母ラリアットー!」
聖母様の細腕一本でカニマルは吹っ飛ばされ、リング外の壁に激突した。
「タワー・ブリッジー!」
聖母様がポークの巨体を担ぎ上げて、伝説の技をしかけた。ポークはたまらずギブアップした。
「これからは世のため人のために尽くすのですよ」
「「はあーい!」 」
聖母様に諭されて、カニマルとポークの二人は道を正した。
召命を得たのである。
罪の世界に生きてきたカニマルとポークの二人は改心し、「ナザレ・ウォーリアーズ」を結成しーー
世のため人のため、聖母様のために戦い続けた。
そんな彼らも混沌の渦に巻きこまれた。
混沌の精神侵略に耐えるカニマルとポーク。
彼らを最後の最後まで支えたのは、持って産まれた「男」の部分である。
「ノ、ノォー!」
リングの上でカニマルは必死に耐えた。彼に腕ひしぎ十字固めをしかけているのは、細面の美少年であった。
この美少年は姦物である。妻子ある男性を誘惑し、男道に走らせた魔物のごとき精神性を有していた。
「ほら、ギブアップしないとあんたの腕が折れちゃうよ」
美少年はカニマルにギブアップを勧めた。彼の中性的な容姿に、観客の女性陣は皆、狂喜乱舞していた。混沌の渦に飲みこまれているのだ。
「ノ、ノォー!」
「カニマルー!」
必死に耐えるカニマルと、リングサイドから観戦するポーク。
彼ら二人は聖母様から召命を得て変わったのだ。
男は命を守る、と……
「しょうがないねー」
美少年は無慈悲にカニマルの腕を折った。カニマルの腕回り50cmのたくましい腕の肘が、逆に曲がっていた。
更に美少年はカニマルの巨体をリフトアップし、場外へ放り投げたではないか。
「カ、カニマルー!」
カニマルに駆け寄ったポーク。
美少年を称える女子の声。
世界は混沌に満ちていた。美少年は男を誘惑する悪しき存在だが、なにゆえ人々を魅了するのか。
「あ、あなた達……!」
駆けつけた聖母様は、横たわるカニマルの汗ににじんだ額を撫でた。
「うわ、油すごい」
「聖母様、俺は……」
「何も言わなくてもわかるわ」
聖母様の微笑にカニマルもポークも満足した。
命を懸けて歩んできた道に間違いはなかったと。
「……許さないわ、よくもわたくしの可愛いペットを……!」
聖母様は立ち上がり、リング上の美少年をきっと見据えた。
不覚にも美少年は胸が高鳴った。
「悔い改めなさい、姦物!」
聖母様は修道服を脱ぎ捨て魅惑のリングコスチュームを披露した。
そしてロープに手をかけて飛び越え、全身に闘志を満たしてリングに立った。
美しくも勇ましい可憐な立ち姿であった。




