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知多星ゴヨウ  作者: MIROKU
二年
54/100

帝都を覆う混沌13 ~捨心~



 全ては混沌カオスの海に飲みこまれ、原初へと戻るのか。


 宇宙創成から数十億年を経て形成された秩序コスモは、混沌カオスによって無へと帰すのか。


 いや、それを防ぐためにゴヨウは戦いに向かっているのだ。


 秩序コスモの存在する意義を守るーー


 それでこそ宇宙の意思に選ばれた守護者ガーディアンだ。


 そしてゴヨウの意識は時空の狭間をさ迷っていた。


 彼はカーレルの側で宇宙創成の歴史が刻まれた書物を読んでいたが、それはただの本ではない。


 大いなる宇宙の力、コズミックフォージの一部なのだ。


 それを読むということは、その歴史を体感するのと同じ事。


 ゴヨウは生命の誕生と進化を、身を以て疑似体験していった。


 体感時間では数億年を経ていた。


 しかし、時間の流れなど混沌カオスの渦ではほとんど意味のないことだ。


 現にカーレルはゴヨウの隣で黙々と書物に目を通している。


 カーレルの一秒がゴヨウには数万年だ。


 さて、ゴヨウは♂のカマキリに産まれて、♀のカマキリに食べられる体験をした。


「男はつらいよー!」


 意識の中で泣き叫ぶゴヨウ。


 すると次は動物の♀に産まれる疑似体験をした。


「だ、ダメだ…… 俺が女になったら…… 遊んでしまう……!」


 途方もない疑似体験を経て、ゴヨウは女性は偉大だなあと思った。


 彼がもしも女に産まれていたら、男の時よりも苦労が多かったようだ。


「男でやるんだ!」


 その決意によってゴヨウの輪廻は決定された。


 ゴヨウの魂は天の機を知る宿星「天機星」として、幾度となく生まれ変わることになった。


 ゴヨウの意識は次々と疑似体験を重ねていく。


 数億年の体感時間の果てに待つは、意識の消滅か、あるいはーー



   **



“感情を捨て去り、機械マシーンになれ!”


 師であるオウシンの声が、リンチュウの魂にこだました。


 リンチュウもまた混沌カオスの渦の中で、自我を保っていられた一人だ。


 大抵の人間は、混沌カオスの渦の中にいる事すら気づかない。


 止まった時を自覚してはいない。


 全ては結果だけが残り、結果を許容して生きている。


 世紀末の予言は外れたのではない。


 その破滅を食い止める何者かがいたのだ。


 人間の認識できない世界の、誰かが破滅を食い止めたのだ。


 ーーリンチュウ、己を捨てろ!


 オウシンの厳しい指導。


 標的を手でつまんで持ち上げたオウシンへ、リンチュウは銃を構えて狙いを定める。


 ほんの僅かでも狙いが外れれば、銃弾はオウシンに当たり、下手をすれば命を奪う。


 オウシン、リンチュウ共に命がけの修行であった。


 たからこそ彼らの魂は宝石のごとく輝いていた。


 この輝きは命を懸けて明日を切り開く者が持つ心ーー


 勇気の光であった。


“できると信じ、繰り返せ!”


 オウシンが言うには、心理的な動揺こそが技を鈍らせる最大の要因だという。


 感情を捨てろとは、動揺を捨てろということであり、人間性を捨てろということと同義ではない。


 剣豪、柳生十兵衛三厳も著書にて次のことを記している。



“剣の一位はすなわち捨心しゃしんなりと心得べし。


 捨心なれば、心いずこにもなし。


 この無心のままに五体を任せ、彼我ひがの勝敗にかまうべからず。


 一滴の水も心に残すべからず。一滴の水残れば、邪心生ず。


 邪心、いかでか円満鏡裡の光明を放たん”

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