帝都を覆う混沌11 ~剣神タケミカズチ奮闘す~
「幽霊の酒場」に活力が満ち、ゴヨウが宇宙の始まりを知った頃ーー
時の止まっていた帝都では、ごく少数の力ある者だけが活動していた。
「ーーミラクルよ、次元の乱れを解明するために、混沌の渦に飛びこむのです」
「イエッサー!」
厳かな顔で命を下す聖母様と、明るい笑顔で了解する戦乙女ミラクル。
八頭身美人の戦乙女ミラクルの笑顔は一級品だ。
だが心配である。幾多の戦いにおいて、文字通りの奇跡を起こした戦乙女ミラクル。
だが、その反動は必ずやってくるのだ。それを思うと聖母様は頭が痛いのだ。
それでも、この混沌の渦を解明するには彼女の力が必要かもしれぬ。
「おまかせください、聖母様! わたしがついています!」
戦乙女ミラクルの隣では、相棒の戦乙女マジカルが鼻息荒く応えていた。
ミラクルと同じく八頭身のマジカルは、理知的で涼しい目元のクールビューティーな女性である。
だが、彼女はドジっ子だ。
魔神の眷属だけにその力は高いが、ドジも凄まじいのだ。
戦乙女ミラクルとタッグを組んで異界の魔導師軍団を退けたが、ドジがやたらと目立つ。
「大丈夫です、聖母様!」
戦乙女フェリーチェも優雅に微笑んだ。彼女は「大宇宙の大いなる意思」の分身にして、代行者だ。
戦乙女フェリーチェは「やる時ゃマジ」、「異常に強い」、「ギャップが魅力的」と三拍子揃っている。
だが、ミラクルとマジカルに引っ張られたフェリーチェは、たびたび本来の崇高な精神性を失い、子どものような性格になってしまう……
「と、とにかく頼みますよ」
聖母様に見送られて、ミラクル、マジカル、フェリーチェの三人は魔法のホウキにまたがって出陣した。
「混沌の中心!」
「ワクワクもんだあ!」
「計算通りだし!」
まるで遊びに出かけるかのような、フェリーチェ、ミラクル、マジカルの会話。聖母様は目をむきそうだった。
地下の異空間では剣神タケミカズチが「地の龍」と戦い続けていた。
地の龍が暴れる時、この国には大地震が起きるのだ。
それを阻止するためにタケミカズチは孤独な戦いを続けている。
そして地の龍は大地の命であり、滅ぼせば、あらゆる命も死に絶える。
滅ぼしてはならぬ。
負けること許されぬ。
使命を背負い戦い続けるタケミカズチだが、今日は劣勢も劣勢だ。
彼は地の龍の九つの首から同時攻撃を受けて、満身創痍であった。
(ダメかもな)
そう思ったタケミカズチだが、彼の脳裏には一人の女性の顔が思い浮かんだ。
異国の超級女神、聖母様である。
つい今しがた聖母様はミラクルらに命を下したが、タケミカズチは無論そんなことは知らない。
「へへへ……」
タケミカズチは大太刀を手にして立ち上がった。
刃渡り二メートルを越すこの大太刀は、鹿島神宮の神宝とそっくりであった。
タケミカズチは地の龍を前にして、大太刀を構えた。
「俺の命なんかくれてやるぜ!」
叫ぶと同時に、タケミカズチの手にした大太刀が光輝いた。




