帝都を覆う混沌10 ~命の恵みと喜び~
「こ、これが命……」
チョウガイを見つめるルシアンナは泣き笑いの表情だ。
彼女ならばわかる。一度死して肉体を失った身だからわかる。
命というものが、これほどに尊く、暖かく、柔らかく、素晴らしいものであることを。
それは生ある者には決して理解できぬ喜びだろう。
目をみはるチョウガイの前で、ルシアンナは自分の髪を撫で、そして豊かな胸にも手を添えた。
「うわあー、感激ー! おっぱいあるよー!」
「う、うむ」
チョウガイは咳払いをした。彼は色気には弱かった。そんなチョウガイを見つめてルシアンナは愛しそうに微笑した。
「さあ、命のお裾分けだよ!」
ルシアンナは頬を濡らす涙に両手をつけて、そして店内へと涙のしずくを飛ばした。
店内の骸骨たちがルシアンナの涙のしずくに触れた途端、あちこちで光が生じた。
「うおおおお!」
骸骨たちの歓喜の声が店内に響き渡った。
「お、俺の上腕二頭筋があ!」
「ベンチプレスで鍛えた大胸筋が!」
「彼女に自慢するために鍛えた腹筋が!」
「俺の×××が!」
骸骨たちの歓喜の声。彼らはルシアンナの涙のしずくによって、己の肉体の一部を取り戻したのだ。
店内にはデビットもいたが、彼もまたルシアンナの涙のしずくによって、両拳のみ肉体を取り戻した。
「俺は…… 俺はまた戦えるのか……!」
デビットが取り戻した肉体は両手のみだが、それでも彼は満足そうだ。
男の本能とも言える「戦う魂」を取り戻したデビットは、暗い眼窩にギラギラする輝きを放たせた。
「ありがとう…… あんたは何者なの?」
涙の跡を乾かせて、ルシアンナはチョウガイに向かって輝かしく微笑んだ。
「ーーただの通りすがりだ」
チョウガイもまた微笑した。ルシアンナのおかげで、チョウガイも暖かい感情を取り戻したのだ。




