カピバラ、温泉宿で客をもてなす
「帝都」では、ハロウィンの女帝レディー・ハロウィーン(十代後半の欧州系美少女)が、秘密結社「血のバレンタイン」の刺客と戦っていた。
近年ではハロウィンがバレンタインの経済効果を上回っている。
世界を統べる「完璧商人」たる彼らは、人の目の届かぬ世界で戦いを繰り広げている……
「テック・セッター!」
レディー・ハロウィーンがクリスタルを掲げれば、光が彼女を覆い変身させた。
レディー・ハロウィーンは先祖から受け継いだクリスタルの力によって、「宇宙翔ける騎士」に変身するのだ。
「ボル……! テッッッカアアアアッー!」
レディー・ハロウィーン、いきなりの最強攻撃。
両肩の粒子砲「ボルテッカ」を発射し、刺客を消滅させた。彼女の悪いくせだ、初手に最高の技を出すのは。後が続かない。
なお、レディー・ハロウィーンの侍女フランケン・ナースはバレンタインの準備をしていた。
欧州系のスタイルのよい長身美人ナースの彼女が誰にチョコを渡すのかは不明だ。大勢に配る気かもしれない。
戦死した後に人造人間として復活した彼女は、頭部に左右一対の電極を持ち、肌は土気色で全身に無数の縫合痕が刻まれているが、穏やかな微笑(と豊かな胸)に魅了させられる者は多い。
とある温泉宿では、浴室からカピバラを見る事ができた。
カピバラたちは古い映画の、土曜の夜のフィーバーのように踊っていた。
浴室の窓から見えるカピバラ達の躍りに子どもたちは大興奮。大人は怪訝な眼差しで見ていた。
ディナーショーはさらにすごい。
ーーんっ、んっ、んんんん、ンーンンンー
ディナーショーの主役はカワウソだ。某水族館でもカワウソの赤ちゃんが産まれた関係で、一時的に人気が高まっているのだ。今年もカワウソ総選挙が行われるに違いない。
「カワウソさん、すごーい!」
ディナーショーに参加した子どもたちは大興奮。ステージではカピバラが投げたリンゴを、カワウソが手にしたレイピアで突き刺して受け止めた。
「……本当にカワウソか?」
眉をひそめるのは、御存知「百八の魔星」の首領、天魁星だ。
長い銀髪の美人である天魁星は、珍しく浴衣姿でディナーショーを眺めている。湯上がりの火照った顔がセクシーだ。
「さあ……」
隣に座った天威星は、さほど興味はないらしい。長身スレンダー美人の天威星は、手酌でワインをぐいぐい飲んでいる。
「カワウソすげー!」
と子どものように喜ぶのは天殺星だ。百八十センチを越える大柄な彼女は、浴衣のサイズが合っていない。
胸元ははだけて谷間がのぞいているが、本人は気にした様子もない。敵の撃破数は魔星一の彼女だが、今は純粋にディナーショーを楽しんでいる。そういう純粋さを天魁星は気に入って、側に置いていた。
なお、この温泉宿の名物であるカワウソもカピバラも、ただ者であるはずがない。
カワウソ、カピバラの姿をしていても、彼らの正体は宇宙の果てからやってきた超生命体「アニマトロン」である。
機械と生物の融合した存在である彼らは、地球を狙う「UMAトロン」のカパーンやツチノコンらと戦っていたが、最近ではその力を恐れた地球人の「アニマトロン狩り」によって数を減らしていた。
やむなく、この温泉宿で隠れ住んでいるのであった。カワウソにそっくりなカワウソン、カピバラにそっくりなカピバラン。彼らに安息はあるのか。
メイド喫茶の広大な地下室に殺気が満ちていた。学校の体育館よりも広い空間に、巨大ながらも見目麗しい姿が足を組んでイスに腰かけている。
これは最近出番がないために、怒りのあまり巨大化した吸血鬼の姫ペネロープであった。
「失礼いたします!」
メイド服を着た欧州系の少女たちが数人がかりで、巨大な「午後の緑茶」のペットボトルを運ぶ。彼女たちはペネロープに仕える狼女である。かよわい女に見えても、人間をはるかにこえる身体能力に加え、獣人形態へ変身することもできる。
「うふふふ…… わたくしの出番ないわねえ…… こうなったら無理矢理にでも登場しないと……!」
深紅のミニドレスに身を包んだ妖艶なペネロープ(身長約十メートル)は午後の緑茶を飲みながら、怪しい笑みを浮かべるのでした。めでたし、めでたし。