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知多星ゴヨウ  作者: MIROKU
二年
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帝都を覆う混沌6 ~多くを知る宿星~



(開拓者……)


 ゴヨウは心身に走る震えを止められなかった。


 宇宙創造のビッグバン、それと同時に存在し続けているという「開拓者」。


 この宇宙最古の生命体である開拓者と、混沌の渦で遭遇するとは。


(ま、待てよ)


 ゴヨウの脳裏には素朴な疑問が浮かんだ。


 この宇宙を創造したのは、黄道十二星座の女神と、そしてもう一人の女神である。


 彼女らから詳しい話を聞いたわけではないが、女神らがビッグバンを起こしたという事だろうか。


 ビッグバン=創造なのだろうか。


「んん?」


 数秒の間に混乱をきたしたゴヨウは、腕組みして考えこむ。


 開拓者という超越の存在に遭遇したことよりも、己の悩みにとらわれる。


 その様子がおかしかったのか、ゴヨウを見下ろした開拓者ーー


 カーレルという名の開拓者は苦笑したようだった。


「私よりも宇宙創造の答えの方が気になるか…… なかなか面白い人間だ」


 カーレルの言葉に、ゴヨウは我に返った。改めて見上げれば、開拓者たるカーレルは身長およそ十メートルというところだろうか。


 彼は左手の人差し指に本を乗せ、右手の人差し指の、長く鋭い爪の先でページをめくっていた。


 なにやら危なげだが、カーレルの指先は精密機械のような滑らかさでページをめくっていく。


 しかも速い。辞典のような分厚い書物を読み終えるまで、十秒もかかるまい。


「な、なぜ、こんなところに?」


「それは私の質問だ、人間よ…… どうやってここへ来た? この次元の狭間へ」


「お、俺は、ただ…… 走ってただけです、出口を求めて」


「いや、人間よ。お前が求めていたのは、宇宙の真理だ。だからここへ来たのだ」


 カーレルの巨大な指先が本を閉じ、彼はまた次の本を棚から取り出してページをめくりはじめた。


「宇宙の真理?」


「お前が求めるのは何だ? この世の深淵か? 宇宙の始まりか?」


 ゴヨウは言葉に詰まった。彼が求めているのは何だろうか。


 ふと脳裏には浮かんだのは、頬を赤らめたバレンタイン・エビルが義理チョコを差し出す光景であった。


「雑念が多いな、お前は」


「す、すみません」


「ますますもって変わった人間だな、だから私のところへ来たのか」


 カーレルの口元が僅かに歪んだ。


「そこの棚に宇宙の真理を記した本がある。そうだ、3,817番目だ。それを読んでもいい。それもコズミックフォージの一部だ」


 カーレルもまたコズミックフォージという単語を口にした。


 ゴヨウには、その意味はわからないがーー


 ゴヨウは夢中になって本を読み始めた。心からはバレンタイン・エビルもカーレルのことも消えている。


 多くを知る宿星に産まれたゴヨウ。


 彼のあだ名は「知多星」である。


 そのあだ名の通り、ゴヨウは書物に目を通していく……


「ふっふっふ、ここまで来れただけのことはある。必死で学べよ、知多星ゴヨウ。時間は山ほどある」


 カーレルは笑ったようだった。


 彼の姿は人間と似ているが、頭部には二本の角を、背には鷲のような翼を生やしている。


 人間の世界においては「悪魔」と形容される姿をしているカーレルだが、彼の魂は光輝いていた。


 広大な図書館でカーレルとゴヨウは読書に没頭する。


 この宇宙で起きた全ての事象を書物に記す力が、この図書館にはあるのだ。


 人知の及ばぬ場所と存在を前にして、ゴヨウは書物をめくる。


 宇宙の真理を学ぶことは、帝都の人々を救うことに繋がるとゴヨウは信じていた。


 そして宇宙最古の生命体である開拓者のカーレルに遭遇したのは、虚空蔵菩薩の導きであるとも信じている……



   **



 バレンタイン・エビルと混沌カオスの尖兵の戦いは続いていた。


「ヒャッ、ヒャッ、ヒャッ。俺にかかればバレンタインの守護者ガーディアンといえど子猫ちゃんも同然よ」


 混沌カオスの一団から前に出てきたのは、ひょろりとした体格の男であった。


 だが、黒き鎧の背には無数の触手が蠢いている。


 これは鎧にそなえつけられた装備の一部だ。


「このワームのライミーが相手してやろう!」


 触手は金属の生命体ででもあるかのように、ライミーの背で蠢いていた。


 この触手に美しいバレンタイン・エビルがとらわれれば、それは下手をすれば十八歳未満お断りの描写になりかねない。


 そうなれば作品は強制削除、サイトからも永久追放になるかもしれない。


「そんなことはさせないわ!」


 バレンタイン・エビルは吠えた。


 160cmほどの欧州系ロングヘアーのバレンタイン・エビル。


 美しい彼女だが、怒りの形相を浮かべる彼女は、双子の姉であるレディー・ハロウィーンに瓜二つだ。


 バレンタイン・エビルもレディー・ハロウィーンも、その性格は獅子のごとく勇ましい。


 だからこそ、彼女の一族は永きに渡って魔物から人々を守ってこれたのだ。


 だからこそ姉妹そろって「存在の意義」や「概念」を守る者ーー


 「開拓者」と並び称される超越の存在、守護者ガーディアンに選ばれたのだ。


「ヒャッ、ヒャッ、ヒャッー!」


 ライミーは鼻息荒く触手を蠢かせてバレンタイン・エビルに突撃した。

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