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知多星ゴヨウ  作者: MIROKU
二年
44/100

帝都を覆う混沌3 ~地獄門~



   **



 帝都を覆う混沌という未曾有の危機に、緊急の会議が開かれた。


「多層に重なりあった次元の隙間にゴヨウ先生が向かったと?」


 顔をしかめるのは十兵衛だ。


 彼は日曜朝のスーパーヒーロータイムの一角「柳生十兵衛ゼロワン」に出演もしている、帝都では著名の人物だ。


 無刀取りを主にした兵法の達人たる十兵衛だが、この危機に対処する人材としては不適切であった。


「チョウガイ殿がついているとはいえ……」


 十兵衛の不安は的中していた。チョウガイですらが混沌に呑まれかかっていた。


 また新たな戦乙女「ヒーリングっド」らも、本来の任務があるため、混沌に立ち向かう余裕はなかった。


「く……」


 十兵衛はうなる。スタートゥインクル最終回では、大人になったまどかさんが登場したがーー


「も、もう、可愛いリボンも、可愛いスカート姿も見られないなんて……!」


 十兵衛は大人になったまどかの凛々しい姿を悲しんだ。


 総理大臣になった父をサポートするまどかは、内閣宇宙開発局の特務官であった。


 十兵衛も父の宗矩が幕府大目付の要職であり、彼もまた公儀隠密であったから、なんとなく似た境遇であった。


 その親近感よりも、美少女まどかが隙のないキャリアウーマンになってしまったことが悲しかった。


「さらば青春の光!」


 十兵衛の初恋も、まどかと面影の似た女の子だった。


 私服時の可愛いリボンにスカート姿は、果てしなき高い女子力を示していた。


 それが大人になったら、ビシッとした女になってしまったのだ。


 十兵衛のみならず、悲しんだオッサン達は多かろう。


 さらば優しき日々よ、と……


「いや、お主も似たようなものじゃぞ!」


 そう言ったのは百八の魔星の首領、天魁星ショウコだ。


 長い銀髪の、表情に憂いを帯びた美女。


 だが、彼女の言動は男勝りを通り越して残念すぎた。


「女はなー、自分の幸せを求めて羽ばたいていくものじゃ!」


 そう言うショウコも、高校生までは違う性格だった。


 彼女は勉強もスポーツもできる生徒会長として、人望を集めた。


 が、それがある日、


「そんなことはどうでもいいんじゃ! しっかりせい!」


 ショウコは十兵衛を叱咤した。


 十兵衛もまた幼き日の兵法修行で、よりにもよって父によって右目を失明させられーー


 以後、長らく感情の働きが鈍くなり、隠密ですらがためらうような死地にさえ、平然と赴くような男になった。


 その反動か、かなり年を経てから感情表現が豊かになった変わり種である。


「まどかさーん! うおおおん!」


「うるせえー! だまらんかー! ……仕方ない、あの男を呼び戻すか」


「いや、あの男はすでに死地に向かっている」


 十兵衛はシリアス顔に戻って言った。



   **



 地獄の門が開く時、全ては終わる。


 あふれでてきた魑魅魍魎は人を変化させるからだ。


 蘭丸は愛刀、紅を手に地獄門へ向かっていた。


 暗き空と、巨大で禍々しき地獄門を前に、蘭丸は紅を抜いた。


 悲鳴と共に浪人の背は裂け、体内から魔性が飛び出した。


 血に濡れたそれは、背に透明な昆虫のような羽を生やし、頭部には触覚を持つ全裸の女の姿をしていた。


 魔性は蘭丸を見つめて妖艶な笑みを浮かべた。


 魔性の持つ悪意は、人々の心の底に染みこみ、やがては人ならざる存在へと変えてしまうのだ。


 そうなった時、江戸は終わる。


 この世は終わる。


 それを食い止めるために、蘭丸は地獄門へやってきたのだ。


 ーーふはは……


 美しき魔性の瞳から一筋の赤光が放たれて、蘭丸の額に注がれた。


 それは絶対なる死の印であろうか。


 しかし蘭丸に怯んだ様子はない。


 彼は恐れも迷いもなく、魔性をまっすぐに見つめていた。


「俺の命にかまうな、紅」


 蘭丸は紅を八相に構えた。


 刀身に無数の女の裸身を刻んだ妖刀、紅ーー


 その鋭い切っ先が、暗き天を衝く。


「ただ奴を倒せ」


 蘭丸は紅に呼びかけた。紅は意思を持つ妖刀だ。


 蘭丸の思いに応えた紅は、その刃の輝きを増したようだった。


 ーークアアア……


 獣じみた威嚇を蘭丸に放つ魔性。


 恐怖の中で蘭丸は己を保つ。


 彼は死を覚悟していた。


 なぜならば、それは人を殺めた報い、償いであるからだ。


 人を斬った蘭丸は、人ならざる存在から召命を得て魔性と戦う運命なのだ。


 天の恵みによって神に選ばれた蘭丸は、自身の償いのために魔性と斬り結ぶ。


 たとえ前途に死が待ち受けようと、力及ばずとも、蘭丸は魔性との戦いに身を投じるのだ……


 美しき魔性は暗き空に一声咆哮し、蘭丸へと襲いかかった。


 蘭丸は無心に踏みこみ、紅の刃を打ちこんだ。


 光と闇が激突した。

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