帝都を覆う混沌1
この宇宙に在る「概念」や「存在の意義」を守る者ーー
それは「守護者」と呼ばれていた。
百八の魔星の一人、知多星ゴヨウは何を守ろうとしているのかーー
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知多星ゴヨウは守護神チョウガイと共に「混沌」との戦いに身を投じる。
戦場に赴いたゴヨウとチョウガイを待っていたのは、理解に苦しむ現象の嵐だ。
「これは多層の次元が重なりあった虚無の世界だ」
守護神チョウガイですらが、困惑の表情を浮かべていた。
深夜だというのに陽は高く照りつけ、陽光が注がれているというのに厳冬のような寒さなのだ。
それだけではない。上下左右の感覚すらおかしい。無重力の宇宙空間のような不安定さを感じている。
世界に満ちたものは暖かい闇、冷たい光。
ゴヨウは上下逆さになったチョウガイを見つめた。
「お前が逆さになっておるのだ…… いや、わしかもな」
チョウガイは苦笑した。彼ですらが、この混沌に対処しかねていた。
理の違う多層の次元が重なりあった空間においては、もはや敵がなんであるのか、自身が何のために戦うのか、それすらもわからなくなっていく。
ゴヨウですら心中に走る不安を押さえられぬ。だから彼は目を閉じた。
「ノーマク、サンマンダー、バーザラダン……」
ゴヨウは視覚を遮断し、不動明王真言を唱え始めた。
魔を降伏する降魔の利剣を手にした不動明王を心中に描く。
そのはずだが、ゴヨウの脳裏に浮かぶのは違う存在であった。
「虚空蔵菩薩か、なるほど……」
チョウガイの声が遠くなっていく。ゴヨウが目を見開くと、チョウガイの姿は強い日差しと凍った世界のどこにもない。
「ゴヨウ、虚空蔵菩薩の知恵を借りるのだ…… お前は知多星なのだから」
チョウガイの気配は虚空に消えた。
存在が消失したわけではないが、チョウガイも混沌に対処しかねるようだ。
ゴヨウは聖剣「花鳥風月」を手にして、混沌に支配された街中を進む。
見慣れた場所が彼方の幻影に思われた。
「こわいんじゃないのかい? どうでえ?」
ゴヨウが振り返った先には異形の姿があった。




