真(チェンジ)! ブッダー黄巾力士
広大な宇宙空間を宇宙戦艦「梁山泊」は進む。
義の旗の下に集った「百八の魔星」は、人々を守るために全滅覚悟で宇宙へと出撃したのだ。
梁山泊の指令室には緊張が満ちていた。
「進めえ、梁山泊は無敵だ……! 何も恐れるものはない!」
天空星の声が指令室に響いた。彼の叱咤によって、指令室内の重苦しい雰囲気はいささか軽減されたようだ。
そして指令室の大スクリーンに写し出された宇宙空間に、敵の姿が確認された。
「出撃する!」
巨体の天空星は大急ぎで指令室を出ていった。
急先鋒のあだ名の示す通り、天空星は最前線での指揮官なのだ。
指揮能力と統率力に関しては、天雄星や天暗星以上だ。
「総攻撃開始!」
羽毛扇を手に、筆頭軍師である知多星は命を下した。
「ーー撃てえい!」
首領の天魁星(彼女は長い銀髪の美女であった)の号令一下、梁山泊の主砲である日輪砲が閃光を放った。
宇宙の闇を切り裂いた日輪砲の閃光は命中したが、敵はこたえた様子もない。
「まさか神巨兵か!」
「左様。あれこそ、この宇宙の混沌が産み出した、神を喰らうもの」
驚く天魁星の隣に立つ小柄な老人、天間星が告げた。
スクリーンに写し出された敵の姿は、人間に少しだけ似ていた。
胴体からは二本の腕と足、そして頭が生えている。
その肌の表面は赤みを帯びた白であり、顔には小さな目が二つに、異形の牙をむき出しにしたおぞましい口腔部があった。
この敵との距離はまだ相当あるのだが、全長一kmを越える宇宙戦艦である梁山泊よりもはるかに巨大だ。
「日輪砲のエネルギーは吸収されてしまいました」
天魁星の隣に、もう一人の軍師が控えていた。
長い金色の髪を持つ美しい少女である。彼女は天魁星の妹、神機軍師・地魁星だ。
「遠距離からの攻撃は通じません。接近して直接攻撃を行わなければ、敵を倒すことはできません」
地魁星の目に大きなゴーグルが取りつけられていた。彼女は体の大部分を機械に改造しているのだ。
今も彼女の電子脳は、秒間数億回の演算を行っているのだ。
そして導かれた答えは、
「神巨兵の内部に侵入し、核を破壊する。それしか神巨兵を倒すすべはありません」
百八の魔星の勇士が駆る黄巾力士が、次々と梁山泊から出撃していく。
「死ぬにはいい日だ……」
アーマー騎兵の狭苦しいコックピットで、天雄星はつぶやいた。
「何言ってんだ、ムッツリスケベが!」
無線で連絡してきたのは天暗星である。
「俺は生きて帰って、あいつを幸せにしてやらなくちゃいけねえんだよ!」
天暗星の声は弾んでいた。これは開き直りかもしれない。
しかし、その心意気は見事ではないか。無線で聞いていた勇士らは、みな心を軽くした。
天雄星はマスクの奥で苦笑した。
「結婚式には呼んでくれ」
「け、まだそこまでいってねえよ! 金がねえんだ、金が!」
「二人ともおしゃべりはそこまでだ、来たぞ!」
天空星の声に、出撃した数十体の黄巾力士が武器を構えた。
広大な宇宙空間の前方に、神巨兵のおぞましい姿がある。
更に神巨兵から分裂した無数の怪物が、黄巾力士に殺到した。
「行くぞ、コノヤロー!」
天暗星の操縦する可変戦闘機は人型に変形すると、ガンポッドを射ちまくった。
「……」
天雄星は無言でトリガーを引いた。人型の黄巾力士であるアーマー騎兵、その肩にそなえつけられたロケットランチャーが火を吹いた。
百八の魔星の女剣士、地慧星(あだ名は一丈青)は両手に剣を構えた黄巾力士で宇宙怪物の群れに飛びこんだ。
天猛星の乗りこんだ黄巾力士は全身に火気をそなえていたが、それが全て発射された。
宇宙空間に光が散り、そこは戦場となった。
その戦場へ、梁山泊の方角から凄まじい速さで接近するものがある。
「何だあ!?」
天暗星は激戦の最中で宇宙怪物をすでに十数体撃破していた。
彼の眼前を三機の戦闘機が飛び去っていく。
音速をはるかに越えるスピードで、三機の戦闘機は宇宙怪物の群れを突き進んだ。
「チェェェンジッ!」
戦闘機の一機を操縦していたのは、非戦闘員であるはずの軍師、天機星だった。
「真! ブッダー1(ワン)!」
天機星の雄叫びは産声だ。
三機の戦闘機は合体し、一つの人型黄巾力士になった。
赤い機体の背にはコウモリを思わせる翼が広がった。
「ブッダーの力を信じるのだ!」
百八の魔星の守護神、チョウガイもコックピットで叫んだ。彼は二号機に乗りこんでいた。
「感情をこめてパワーを上げろ!」
「うおおお!」
チョウガイの叱咤激励を受けた天機星は、レバーに力をこめた。
そして彼らの駆る黄巾力士「真ブッダーロボ1」の両手の間に、光球が出現した。
小さな太陽のごとく輝く光球を、真ブッダーロボ1は宇宙怪物の群れへ投げつけた。
「消えろ混沌!」
天機星と、いや百八の魔星と宇宙怪物の戦いは尚も続いた……
**
「今のが二千年前の記録映像だ」
チョウガイはゴヨウに告げた。ゴヨウはVRゴーグルを外した。二千年前の戦いに、動悸が早まっている。
「この宇宙は…… 光と闇、秩序と混沌、そして男と女なんだ……」
ゴヨウは額の汗をぬぐった。
混沌との戦いの行方を思うだけで、ゴヨウは気が遠くなりそうだ。




