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知多星ゴヨウ  作者: MIROKU
二年
39/100

四千年の彼方から



 星辰の歪みは戦乙女スターらの活躍によって防がれた。


 破壊と創造は一対のものだ。


 この一年で宇宙に散った計測不能のおびただしい命ーー


 それに代わって、宇宙には再びおびただしい数の命が産まれていく。


 この宇宙を創造した女神たちは、再生のために忙しく活動を始めた。


 そして帝都には混沌カオスが訪れたーー


「宇宙の危機は去った…… 次はこの星を救わねばならぬ」


 暗く狭い部屋に結跏趺坐けっかふざした天間星ソンショウは、訪れたゴヨウとチョウガイに、そう告げた。


 ソンショウは即身仏の修行に入っており、水と塩しか摂らず、その身は骨と皮だけに痩せ細っていた。


「なあに、わしが死んでも新たな天間星が選ばれる…… そうだろ、チョウガイ様?」


 ソンショウの言葉にチョウガイは厳かな顔でうなずくのみだ。


 チョウガイは百八の魔星の守護神であり、ゴヨウもまた彼によって天の機を知る星「天機星」に選ばれたのだ。


「そんな悲しそうな顔をするなゴヨウ先生…… わしは満たされておるのだ」


 ソンショウは骸骨じみた顔に、僅かに笑みを浮かべた。


「男の心と技ーー 男の魂は未来へ受け継がれている…… わしはそれで満足だ。そして女によって命は繋がっていく。混沌などたいしたものではない、大事なのは善悪の超越だ」


「善悪の超越?」


 ゴヨウにはソンショウの言葉がわからない。


「この世界は善と悪どちらに傾いてもいかん…… 混沌と秩序、力を合わせなければ、この星は救えぬ」


 ソンショウの言葉に黙りこむゴヨウとチョウガイ。


 そんな二人を嘲笑うかのように、ソンショウはカラカラと笑った。


「男と女が力を合わせて命を産み出すように…… 光と闇が力を合わせてこそ、この星は救われるのだ…… さあ行け、そして来世で会おう。四千年を共に戦ってきた同志よ」





 ソンショウの元を辞したゴヨウとチョウガイは、休憩室でコーヒーを飲んだ。今日はやたらと苦い。


「四千年を共に戦った同志……って何のこと?」


 ゴヨウの問いにチョウガイは黙って答えぬ。


 彼は彼で、人間だった時の記憶を思い出していた。


 チョウガイは難病の妹の治療費を稼ぐため、傭兵となった。


 個人技に加え超能力すら使うチョウガイはサイキックソルジャーとして転戦した。


 宿敵と雪原の中で最後の戦いを迎えた彼に、妹の声が届いた。


 チョウガイは妹の死を知った。


 ーーお兄ちゃんを一人にしないでくれー!


 雪原の中で絶叫したチョウガイは戦意喪失し、膝から崩れ落ちた。


 宿敵は戦いの中で負傷、気絶していたが、身を起こした。


 そしてチョウガイの首を獲らんとしたが止めたーー


 ーーな、なぜ俺の首を取らぬ……


 チョウガイは宿敵に問うた。彼はもはや自身の死にすら関心はなかったが、なぜ宿敵が背を見せたのかわからぬ。


 ーー俺にもお前の妹の声が聞こえたような気がしてな……


 振り返った宿敵の顔は、ゴヨウと瓜二つであったーー


「ーーさあな。ただ…… 共に戦う同志であることには間違いない」


 チョウガイはゴヨウを見つめて珍しく微笑した。輪廻転生、それは真実である。





 ゴウ!と巨龍の吹き出した炎が、混沌カオスの尖兵をまとめて火の海に包みこんだ。


「……む、無念」


 混沌カオスの尖兵は炎の中で息絶えた。


 巨龍は夜空を見上げて咆哮した。


 この巨龍の持つ力は、この星と同等であり、あらゆる攻撃は通じないのだ。


 絶対の存在として在り続ける巨龍の名はエルブス。


 善と悪を超越した「平衡の守護者」である。


 エルブスは待っているのだ。この星を救うに価する者が現れるのを。


 その者に、この星を救うかも知れぬ力を有した神秘の宝珠を授けるのを……

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