四千年の彼方から
星辰の歪みは戦乙女スターらの活躍によって防がれた。
破壊と創造は一対のものだ。
この一年で宇宙に散った計測不能のおびただしい命ーー
それに代わって、宇宙には再びおびただしい数の命が産まれていく。
この宇宙を創造した女神たちは、再生のために忙しく活動を始めた。
そして帝都には混沌が訪れたーー
「宇宙の危機は去った…… 次はこの星を救わねばならぬ」
暗く狭い部屋に結跏趺坐した天間星ソンショウは、訪れたゴヨウとチョウガイに、そう告げた。
ソンショウは即身仏の修行に入っており、水と塩しか摂らず、その身は骨と皮だけに痩せ細っていた。
「なあに、わしが死んでも新たな天間星が選ばれる…… そうだろ、チョウガイ様?」
ソンショウの言葉にチョウガイは厳かな顔でうなずくのみだ。
チョウガイは百八の魔星の守護神であり、ゴヨウもまた彼によって天の機を知る星「天機星」に選ばれたのだ。
「そんな悲しそうな顔をするなゴヨウ先生…… わしは満たされておるのだ」
ソンショウは骸骨じみた顔に、僅かに笑みを浮かべた。
「男の心と技ーー 男の魂は未来へ受け継がれている…… わしはそれで満足だ。そして女によって命は繋がっていく。混沌などたいしたものではない、大事なのは善悪の超越だ」
「善悪の超越?」
ゴヨウにはソンショウの言葉がわからない。
「この世界は善と悪どちらに傾いてもいかん…… 混沌と秩序、力を合わせなければ、この星は救えぬ」
ソンショウの言葉に黙りこむゴヨウとチョウガイ。
そんな二人を嘲笑うかのように、ソンショウはカラカラと笑った。
「男と女が力を合わせて命を産み出すように…… 光と闇が力を合わせてこそ、この星は救われるのだ…… さあ行け、そして来世で会おう。四千年を共に戦ってきた同志よ」
ソンショウの元を辞したゴヨウとチョウガイは、休憩室でコーヒーを飲んだ。今日はやたらと苦い。
「四千年を共に戦った同志……って何のこと?」
ゴヨウの問いにチョウガイは黙って答えぬ。
彼は彼で、人間だった時の記憶を思い出していた。
チョウガイは難病の妹の治療費を稼ぐため、傭兵となった。
個人技に加え超能力すら使うチョウガイはサイキックソルジャーとして転戦した。
宿敵と雪原の中で最後の戦いを迎えた彼に、妹の声が届いた。
チョウガイは妹の死を知った。
ーーお兄ちゃんを一人にしないでくれー!
雪原の中で絶叫したチョウガイは戦意喪失し、膝から崩れ落ちた。
宿敵は戦いの中で負傷、気絶していたが、身を起こした。
そしてチョウガイの首を獲らんとしたが止めたーー
ーーな、なぜ俺の首を取らぬ……
チョウガイは宿敵に問うた。彼はもはや自身の死にすら関心はなかったが、なぜ宿敵が背を見せたのかわからぬ。
ーー俺にもお前の妹の声が聞こえたような気がしてな……
振り返った宿敵の顔は、ゴヨウと瓜二つであったーー
「ーーさあな。ただ…… 共に戦う同志であることには間違いない」
チョウガイはゴヨウを見つめて珍しく微笑した。輪廻転生、それは真実である。
ゴウ!と巨龍の吹き出した炎が、混沌の尖兵をまとめて火の海に包みこんだ。
「……む、無念」
混沌の尖兵は炎の中で息絶えた。
巨龍は夜空を見上げて咆哮した。
この巨龍の持つ力は、この星と同等であり、あらゆる攻撃は通じないのだ。
絶対の存在として在り続ける巨龍の名はエルブス。
善と悪を超越した「平衡の守護者」である。
エルブスは待っているのだ。この星を救うに価する者が現れるのを。
その者に、この星を救うかも知れぬ力を有した神秘の宝珠を授けるのを……




