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知多星ゴヨウ  作者: MIROKU
二年
38/100

混沌との戦い



 星辰の乱れは去ったかのように思われた。


 知多星ゴヨウと守護神チョウガイのみならず、この宇宙を創造した超級女神らの尽力によって。


 しかし帝都には更なる災禍が訪れた。


 それは混沌カオスであった。


 人々が我欲に生きる限り、混沌は果てしなく広がっていく。


 この宇宙は未だ不安定なのだ。


 それを正すためには、人間の活力がーー


 生きる力が必要なのだ。





「ーー『トレーニングセンターで水泳かあ。いや、水着は見たいけどさあ』……と。『やっぱりUMAといえばチュパカブラだよ!』……と」


 百八の魔星の筆頭軍師、知多星ゴヨウは戦乙女のミルキーローズとセレーネに、ラインでメッセージを送っていた。


 ミルキーローズは「まずラインから始めない?」と言い、ゴヨウもその通りにした。


 先日、ゴヨウは彼女とトレーニングセンターで会ったが、これは偶然ではない。


 ミルキーローズは毎日のようにトレーニングセンターに通っていたのだ。ゴヨウに会うために……


 そして帝都を守る戦乙女の一人セレーネとは、UMA談義で盛り上がっているのだ。


 B級ホラー映画ファンでもあるゴヨウとセレーネは、性差を越えた親友だ。


 彼女の部屋でZ級サメ映画「ジョーズ・タイフーン」を観た時の事をゴヨウは決して忘れない。


 温厚なセレーネがDVDを膝で叩き割る姿は、神の奇跡を目の当たりにするくらい貴重な光景であった。


 さて、そんなゴヨウは再び戦いへと身を投じた。モテ期が来た!と調子に乗らないだけ、ましな性格なのかもしれない。





 帝都の町中は、静寂に満ちた氷の世界と化していた。


 それは静かなる死の象徴だった。


 帝都のあらゆる機関がマヒしていたために人々は外出せず、そのために死者が出なかったのは、不幸中の幸いか。


「行くぞ!」


 チョウガイはゴヨウを伴い、帝都の町中へと繰り出した。


 黒い長ランじみた衣服に、輝く黄金の剣を手にしたチョウガイは凛々しい青年の姿であった。


 ゴヨウは「火事場の馬鹿力マシン」によって潜在能力を高められ、胸当てや手甲で武装もしている。


 彼の顔には正体を隠すための赤いマスクが、腰には天魁星ショウコより賜った聖剣「花鳥風月」が提げられていた。


 粉雪が微かに舞い散る氷の世界で、チョウガイとゴヨウは敵の気配を察知した。


「ーーむ!」


「逃がすか!」


 チョウガイとゴヨウは、ほとんど同時に駆け出した。


 凍りついた乗用車をチョウガイは一足に飛び越えた。


 ゴヨウは別の乗用車の屋根に手をつき、側転しながら飛び越えた。


 着地した二人は得物を構えた。


 チョウガイは黄金の剣を。これは不動明王の持つ、降魔の利剣に等しいものだ。


 ゴヨウが持つのは一見すると木刀のようだが、この花鳥風月には天地自然の力が満ちているのだ。


「ーーこれは大物がかかったようだな」


 静かに舞い散る粉雪の間から、白い衣服を着こんだ人影が現れた。


 その人影は手に一振りの剣を握っていた。


「さあ、永遠の眠りにつくがいい! 氷翔幻夢剣の力でな!」


 人影の手にした剣が光を放つ。


 それは静かなる氷の世界ーー


 死の世界への誘いだ。


 チョウガイとゴヨウの体が一瞬で凍りついた。


 それは氷の彫像のごとしであった……


「ぬ、うう……!」


 チョウガイは力を振り絞った。


 手にした黄金の剣を振り上げ、打ち下ろす。


 黄金の剣から放たれた光の一閃は、氷の世界を断ち切った!


「な、何い! バカな!」


 驚く人影。そしてチョウガイの一閃によって氷の世界から解放されたゴヨウもまた、必殺の一手を繰り出した。


「速き風よ、光と共に解放されよ!」


 ゴヨウは花鳥風月を打ちこんだ。


 途端に生じたのは暴風、いや巨大な竜巻のごとき荒れ狂う疾風であった。


「う、うわあああ!」


 氷翔幻夢剣を手にした人影は、風の渦に巻きこまれた。


 その勢いは凄まじく、人影はあっという間に数十メートルの高みへ浮かび上がった。


 やがて人影はきりもみ回転しながら上空から落下してきた。


 ドシャアン!と激しい音と共に人影は大地で弾んだ。


 花鳥風月の起こした風は、まるで鳳凰の羽ばたきのごとし凄まじさであった。


 倒した!と思ったゴヨウだったが、上空から落下した敵の姿はない。


「に、逃げられた?」


混沌カオスめ、やりおるな」


 ゴヨウとチョウガイは渋い顔で退却した。氷の世界は解かれ、帝都の町中には活力が戻ってきていた。





「混沌って何なの?」


 ゴヨウはサポートロボットのチョウガイにたずねた。


 ここは超時空要塞「梁山泊」の休憩所の一つだ。


秩序コスモと対をなすものだ。わしにもよくわからんなあ」


 サポートロボットのチョウガイは言った。


 このチョウガイは、守護神チョウガイの意識が転送されたロボットだ。


 したがってゴヨウと共に戦うチョウガイと魂は同一だが、なんというか、今はずいぶんと軽い性格をしている。


「己の『悪』を正当化する、それもまた混沌というものだ。世にはあふれつつあるのだ」


 サポートロボットのチョウガイは穏やかに、落ち着いて話した。


 百八の魔星の守護神チョウガイも、サポートロボットでいる間は責任から離れ、気楽に意識を持ち続けれるという。


 人が日々の生活からどこかに息抜きを求めるように、チョウガイも息抜きを求めてサポートロボットになるのだ。


「こわいねえ……」


 ゴヨウは缶コーヒーを飲みながら目を閉じ瞑想した。


 彼もまた自身の中にある「悪」と向き合いながら、それを制さなければならない。


 彼の脳裏には女性たちの姿が思い浮かぶ。


 天魁星ショウコ。ミルキーローズ。戦乙女セレーネ。


 そしてバレンタイン・エビル……


 彼女達を守るために、ゴヨウはまず己を救い、正しい道を進まなければならぬ。


 己を救えぬ者に、大事なものを守る意思も力も生まれない。


「韋駄天様を見習え」


 チョウガイが言うにはーー


 韋駄天様は倒したディービルからプロポーズされて結婚したという。


 韋駄天様は母ディービルに頭の上がらぬ恐妻家だが、それゆえに道を正し、慕われている。


「女が強い!という結論でOK?」


「男は使い捨ての消耗品だ、せめて死に花を咲かせ」


「そうだね、チョウガイ様…… 俺は大事なひとを守るために戦うよ」


 きっとそれこそがーー


 生きる道なのだ。

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