帝都の混沌(カオス)
世界中の子どもたちに祝福が訪れた翌日ーー
亜空間で悪神と戦い、傷ついた武神フツヌシは膝をついていた。
疲労困憊の悪神は勝利を確信した。
そして、この国に侵入しようとしていた無数の悪霊は、今だとばかりにフツヌシに襲いかかった。
“このウジ虫どもがー!”
悪神は雄叫びと共に、悪霊を打ち払った。これにはフツヌシが驚いた。
“お前らのような穢れたものが、この男を襲う資格があるか! 全てを捨てて戦う覚悟があるというのか!”
悪神は悪霊を次々と打ち払っていく。彼にもよくわからない感情が悪神を動かしているのだ。
その様子を眺めながらフツヌシは目を閉じ、神力の回復に務めた。
悪神はフツヌシを倒して、この国に入る気配はない。今はなんとフツヌシを守ってくれていた。
が、相も変わらず悪霊はこの国に侵入している。
小さな魔は人々の心の奥底に潜み、悪を為さんとしているのだ。
この国は、いや世界は窮地のままである。
この国の地底深くで「地の龍」と戦い続けていた剣神タケミカズチも、満身創痍であった。
「へ、へへ……」
地の龍を前にし、タケミカズチは不敵な笑みを浮かべた。
全身から血を流しつつも彼の闘志は消えていない。
タケミカズチの脳裏には、超級神たる聖母様の面影が浮かび上がってきた。
戦乙女を統率する彼女は、宇宙の意思たる女神の分身でもある。
その美しさ、気の強さ、大きな胸、全てタケミカズチは気に入っていた。
「……フ」
タケミカズチは刀を構えた。刃渡り二メートルを越す大太刀だ。
これは鹿島神宮の神宝と同じものである。
「行くぜ、おい!」
タケミカズチは大太刀を握って「地の龍」に挑んだ。
彼が倒されれば、「地の龍」によってこの国には再び大地震が起きるだろう。
帝都では悪霊の侵攻を食い止めるため、軍神スサノーが戦っていた。
軍服姿の凛々しい青年の姿であるスサノーは、天帝が創造した新造神ーー
人間の感覚ならば、人造人間であった。彼は天帝から授けられた「光皇神剣」で悪霊を打ち払う。
彼の側には、見目麗しい二人の女性の姿があった。
一人はサキュバスのアルフォンシーヌだ。淫らな魔である彼女は、スサノーの為に死も辞さない覚悟だ。
その心意気を気に入った帝都の超級神、鬼子母神様より雷神剣を授けられたアルフォンシーヌ。
肌の露出の多い衣装に、背に生えたコウモリの翼、臀部から生えた蛇の尾……
雷神剣を携えたアルフォンシーヌは凛々しくも艶かしく、そして美しい。
今や彼女は帝都で男女を問わぬ人気を博していた。
そしてもう一人ーー
外宇宙から来た女、アウターだ。
「マイクロウェーブ、来たわ!」
アウターは宙に浮かんでいた。彼らの科学技術によって造られた戦闘用重甲冑ーー
その両肩のツインサテライトキャノンが、月からのマイクロウェーブによってエネルギーを充填した。
「ツインサテライトキャノン、発射あ!」
光の帯が二条、帝都の空を横切った。そのエネルギーに飲みこまれ、無数の悪霊が消滅させていく(※なんで?というツッコミは勘弁してください汗)
「イエーイ!」
「かんぺきい!」
ハイタッチするアルフォンシーヌとアウター。
スサノーを巡って対立する二人だが、息はピッタリだ。アルフォンシーヌとアウターを眺め、スサノーは微笑したーー
「ーーごおっつい!」
いや、スサノーを巡る女の戦いは、三つ巴の様相を為しているのだった。
アルフォンシーヌ、アウターに続く三人目の女性はーー
「ファイナルサニーやー!」
戦乙女サニーの放った「ごっついファイナルサニー」の閃光弾が悪霊を打ち消していく。
太陽神から力を授けられた戦乙女サニーには、悪霊などものの数でもない。
「なあ、スサノー。うちの店で新作の味見してくれへん?」
戦乙女サニーは潤んだ瞳でスサノーを見上げた。彼女は帝都でお好み焼き屋を経営している。
「ダ、ダメよスサノー! 貴方の貞操が……!」
そう言って重甲冑を脱ぎ捨てたアウター(レオタード風の服だった)が、スサノーの腕に抱きついた。
「あー、もしもし? 帰ったら夕食の準備しないといけないんですけど」
アルフォンシーヌは妖艶な美女の姿から、十代前半の少女の姿になっていた。彼女は普段はエネルギーの消費を抑えるため、少女形態になっている。
「なんや、なんや~…… 同棲してるくせに全く進展なしか~」
「う、うるさい! あんた嫌い! ムカつく!」
「あー、もー! じゃあ今日はみんなで夕食! カレーでいいよね!?」
戦乙女サニー、異星人アウター、サキュバスのアルフォンシーヌ。
三人の美女に囲まれた生活を送るスサノーだが、全く心は落ち着かない。心労で白髪が増えてきたほどだ。
スサノーとしては、距離を充分に取らないと心の安息はなかった。もてる男は苦しく辛い日々を過ごしているのだ。
また、スサノーが三人から一人をーー いや別の女性を選んだとしても、後に待つのは血の雨地獄だ。
気の利いた展開もない、男一人と女三人の関係は、果たしていつまで続くのか。
帝都を守る勇士には、他にも狂戦士ペロや知多星ゴヨウがいるが、スサノーに比べると面白みには欠ける。
やはり女性が命の源にして、宇宙の原点なのだ。
男は宇宙から切り離された哀れな存在だが、華を咲かせることはできる。
「たとえ他の聖剣が敵になろうと戦う!」
ゴヨウは己が聖剣「花鳥風月」を手にして跳躍した。
「この知多星ゴヨウはな!」
ゴヨウは花鳥風月を新たな敵に向かって振り下ろした。
「いくぜ、混沌!」
ゴヨウの新たな敵は、「天なる母」から産まれた「秩序」の双子の兄弟ーー
混沌であった。




