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知多星ゴヨウ  作者: MIROKU
元年
32/100

知多星ゴヨウ出陣す



 百八の魔星の守護神チョウガイは、自身が囚われた事を知った。


「これは……」


 凛々しい青年の姿のチョウガイは、右手に黄金の長剣を提げて周囲を見回した。


 宇宙空間の中で、自分の周囲を無数の鏡が囲んでいる。


 死鏡に囚われたチョウガイは無傷ではあるが、彼の意識はゴヨウのサポートロボットへ転送する事ができぬ。


「ゴヨウ、一人でやるのだぞ」


 チョウガイは亜空間内でつぶやいた。この程度の結界で、チョウガイを永きに渡って封じる事はできぬ。


 が、敵は迫っているのだ。


 「外宇宙から来た女たち」に所属していた、僅かな男たちーー


 パーフェクト・ファイターのイプエロンを筆頭に、エリートのギルボラ、高貴なるハイエルキャット、天才ル・パイン、反逆者キャピロ……


 百八の魔星の戦う宿命は、新たな敵によって彩られているのだ。


 だが、今チョウガイを拘束しているのは彼らではない。


 「宇宙を破壊する者」だ。





 知多星ゴヨウは敵の襲撃を知り、自ら「火事場の馬鹿力マシーン」内に入った。


 チョウガイ不在のため、彼も仲間に助けを求めようと思ったが、


(やっぱりできないなあ)


 と断念した。


 まずリンチュウに軍師として命を下そうとしたが、


(あの子、泣いちゃうかもしれないもん)


 ゴヨウはマシーン内で苦笑した。


 リンチュウは聖女に仕える戦乙女のリーダー、ルミナスと友好的だ。


 ルミナスは外見が十代前半ながら光明神の眷属であり、その力はこの星と同等といわれている。


 リンチュウに我と共に死地へ赴けと命を下したら、ルミナスが悲しむだろう。


(ヨウジもダメだし)


 ゴヨウは百八の魔星No.1の剣士、ヨウジに頼もうかとも思った。


 あまり好かない相手ではあるが、実力は魔星屈指だ。


 しかし、ヨウジにも恋人がいる。


 戦乙女のNo.3「エースの切り札」戦乙女エースだ。


 ゴヨウから見れば素晴らしい女性だが、なぜヨウジのような男と交際しているのか意味がわからず、そして嫉妬もしている。


“ヨウジをよろしくお願いしますね”


 戦乙女エースはそう言って丁寧にゴヨウに頭を下げたのだ。最近は「百八の魔星」と「戦乙女」は友好的だが、元は敵対していた。


 その「百八の魔星」筆頭軍師のゴヨウに頭を下げるとは、なかなかできる事ではない。


(カレーライスもおごってもらったしなあ)


 ゴヨウは苦笑した。戦乙女エースは美人で性格も良いのに、なんでヨウジなんかとつきあってるんだ?と嫉妬がこみ上げてきた。


 が、エースの激辛趣味に合わせてくれるのはヨウジだけだという。


 ゴヨウはヨウジを好きではないが、恋人のためには必死になる甲斐性には敬意を抱いていた。


 きっとヨウジの優しさがエースには嬉しいのだ。


(守るべきもののために……)


 ゴヨウは火事場の馬鹿力マシーンの中で瞑想する。


 守るべきもののために戦う。


 それこそが人間の本能なのだろう。


 ゴヨウは心中にバレンタイン・エビルと、百八の魔星の首領ショウコを思い浮かべた。


 死地に女性を連れていくわけにはいかないのだ。


(男がやるんだ!)


 火事場の馬鹿力マシーンの中で、ゴヨウの全身にコンバットスーツが装着されていく。


 彼の火事場の馬鹿力も、第二段階へ到達した。


 第一段階は、己を守るための力。


 第二段階は、他者を守るための力。


 そして新たなる第三段階へと到達するのも近い――


 ーーガコォ!


 棺桶にも似た火事場の馬鹿力マシーンが開き、横たわっていたゴヨウは手足の拘束具を引きちぎり、身を起こした。


 敵は迫っている――





 黄巾力士ロボットの格納庫に向かったゴヨウだが、全て整備中だった。


「なんでー?」


 せっかくシリアス決めて変身してきたのだが、ゴヨウは拍子抜けだ。


「今日は月に一度の総メンテナンスの日だぞ、知らねえのかよ?」


 地微星ヴァニラ(イメージcv:千葉繁さん)は、赤いマスクを装着して正体を隠すゴヨウを胡散臭そうに眺めた。


「乗れるやつないの、ゴートさん?」


「あるにはあるが、あれしかないな」


 地軸星ゴートは格納庫の隅へ振り返った。


 壁際に立つ黄巾力士はゴヨウも知らない機体であった。


「どうもパーツが足りねえんだよな、腹部にでっけえスペースができちまう」


「性能自体は悪かねえけどよー」


「ああ、これがいいな」


 ゴヨウは苦笑した。


 パーツの足りない黄巾力士とは、まるで自分のようではないか。


 ゴヨウとて「百八の魔星」筆頭軍師でありながら、どこか抜けている。


 サポートロボットのチョウガイがいてこそ、ゴヨウは活躍ができるのだ。


「ゴートさん、これでいい」


 ゴヨウが選んだのは不完全な黄巾力士「白獅子」であった。


 更にゴヨウはゴートから、黄巾力士用のガトリングガンと手榴弾なども受け取った。


 手榴弾は自決用のものだ。


 ゴヨウが死んでも、新たな「天機星」がチョウガイによって選ばれるだけだ。


 そして、彼の意思は未来の誰かに受け継がれる。


 ゴヨウが「守る」という意思を、歴代の天機星から受け継いだように……


 だからこそゴヨウは安心して死地に向かえる。


「……出撃しちまった。なんだ、あいつ?」


「あれ、お前の知り合いじゃねえのか?」


「いや、俺はとっつあんの知り合いだと思って。ゴヨウ先生に似てっけど、誰だったんだあいつ」





 そんな頃、はるか北の海岸でサンタさんは、クリスマスにむけて猛特訓中だ。


「メリィークリスマァスッ!」


 極寒の凍てつく吹雪の中、サンタさんは競技用パンツ一枚の姿だ。


 岸に着いた帆船に太い金属製のロープを巻きつけ、それをただ一人で引き上げようとしていた。


「メリィークリスマァスッ!」


 サンタさんの側で叱咤激励を飛ばすのは、完璧商人始祖の一人の眼マンーー


 現「一つ目のトナカイ」である。


 彼もまたトレーニングウェアだけで、凍てつく吹雪の中に立つ。


 これしきのことで力尽きるようなサンタさんーー


 完璧商人始祖の一人、白銀マンに世界中の子どもを祝福するなどできはしない。


「メリィークリスマァスッ!」


 白銀マンは己の命すら危うい極寒の中で死力を振り絞った。


 帆船は少しずつ砂浜に乗り上げていく。


「メリィークリスマァスッ!」


「メリィークリスマァスッ!」


「ハラショー、サンタッ!」


 白銀マンはーー


 いやサンタさんは凍てつく顔に凄絶な笑みを浮かべた。


「ツアッー!」


 そして帆船は、サンタさんによって岸へ上がった……





 白獅子を駆って戦場へ向かったゴヨウは、塹壕の中に潜んで敵を迎え撃つ。


 ほどなくして平地に降り立ったのは、無人ロボットの群れだ。


 これは外宇宙から来た女たちの残党、数少ない男性型であるギルボラの持つ軍勢だった。


 数十体の無人ロボットを前に、ゴヨウは先制攻撃をしかけた。


「おりやあああ!」


 白獅子の手にしたガトリングガンから発射された弾丸が、無人ロボットを次々と蜂の巣にし、爆発させていく。


「死に花を咲かせてやるー!」


 ゴヨウも半ば狂った様子でガトリングガンを連射した。


 ここが最期だとゴヨウは思っていた。


 せめてバレンタイン・エビルのためにと思えば、不思議に恐怖は感じなかった。


 バレンタイン・エビルに出会えた事を感謝しつつ、ゴヨウの駆る白獅子は塹壕から出た。


 ガトリングガンは早々と弾切れだ。


 あとは敵陣深く斬りこんで、自決用の爆弾を作動させるだけだ。


(ショウコ様、ご武運を!)


 主である天魁星ショウコに別れを告げるゴヨウ。


 そして敵陣へ飛び出そうとした時、空の彼方から飛来する影があった。


 驚愕のあまり声も出ないゴヨウ。そのゴヨウの見ている前で、飛来した影は敵陣へ突っ込んだ。


 それは四メートルほどの人型ロボットであった。


 シャープなラインは均整の取れた忍者のごとくだ。


 人型ロボットは、手にした剣で敵ロボットを斬り裂いた。


 更に腰部分から広範囲に拡散エネルギー波を発し、弓型のビーム兵器も用いて敵を撃破していく。


 あまりの速さにそれは影しか残さない。


 そしてゴヨウの搭乗した白獅子は勝手に動き出し、そして変形した。


「おわわわ!」


 白獅子の胸部と腹部が大きく開き、そこに変形した人型ロボットがコアとなって合体しーー


 白獅子と名づけられたロボットは、文字通り獅子の形態になって敵陣へ突っ込んだ。


 それはまるで猛虎が非力な人間を蹂躙するかのようだ。


 ゴヨウは白獅子のコックピットで唖然としていた。


 死地は脱したが、彼にはわからない事だらけであった……


(また顔が見れそうだなあ)


 緊張が解かれたゴヨウはコックピット内で気を失った。敵は変形した白獅子が勝手に撃破していく。


 バレンタイン・エビルとショウコ、二人の顔が思い浮かんだ。





「……それは天なる母の使者かもしれぬ」


 亜空間から脱出してきたチョウガイは言った。


 今は凛々しい若者の姿ではなく、意識を小型のサポートロボットに転送していた。


 天なる母とは、この宇宙の真なる創造主にして、超越の存在だ。


「な、なんで俺を助けたの?」


「……お前が命を捨てて帝都を守ろうとした心意気が御先祖を動かしーー 御先祖の意を受けた神仏が天地宇宙へ呼びかけ、更に天なる母をも動かしたのだ。だがゴヨウ、油断するな。お前はその道から離れることはできぬ。仁は人の心、義は人の道。道は一本しかないのだ。近道も回り道もない」


「……わかってるよ」


 ゴヨウは今回も生き延びた。超越の存在が彼を見守っているのだとしたら、ゴヨウも命がけで応えなければならない。


 義の道を外れた時、ゴヨウは蜘蛛の糸を登っていた罪人のごとく、暗黒の底へ落ちていくだろう。


「ーーさて、来期のプリピュアでもチェックするかな」


 ゴヨウはスマホでチェックを始めたので、チョウガイは大きなため息をついた。めでたし、めでたし。

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