宇宙を破壊する者
ゴヨウは夢を見ていた。
広大なる闇とおぼしき場所で、彼は無数の光点が生じては消えていく光景を眺めていた。
それは宇宙が少しずつ崩壊していく様子であった。
生じた光点が消えていくのは、産まれた命が消滅していく様子だった。
今この瞬間にも、億も兆も越えた数えきれぬ命が消えていっているのだ。
かつて「百八の魔星」の神であるチョウガイは言った。
この宇宙のいたるところで大破壊が起きていると。
「あああ……」
ゴヨウは無数の命が消失していくのを知った。
この宇宙の崩壊を止める事ができない悲しみを感じて、彼の魂は萎縮していた。
そして見た。
闇の中に現れた巨大な人影を。
それこそが「宇宙を破壊する者」であった。
生を憎む存在であった。
その「宇宙を破壊する者」が、ゴヨウを観察しているのを感じた。
ゴヨウは蛇ににらまれた蛙のごとしだ。彼の魂は恐怖し、萎縮し、怯えていた…………
「怯むな!」
その声は「百八の魔星」の守護神、チョウガイの声であった。
次の瞬間には、黄金の光が闇を切り裂いていた。
大海が割れるがごとく闇は切り裂かれ、変わって温かな光が満ちていく。
「チョウガイ……様」
ゴヨウは守護神チョウガイを見た。
チョウガイは凛々しい若者の姿であり、手にした黄金の剣を構えて、巨大な人影を見据えていた。
恐れも迷いもない、力強い眼光であった。
チョウガイの一喝によってゴヨウは己を取り戻し、右手に出現させた莫邪宝剣を巨大な人影めがけて投げつけた。
莫邪宝剣は持ち主の魂を力に代えて敵を斬る。
今この時も、ゴヨウの魂を力に変えた莫邪宝剣は、巨大な人影の左胸へと飛んでいった。
“……ふふふ”
巨大な人影は笑ったようだった。今やゴヨウの周囲は光に満ちていたが、巨大な人影は変わらぬ闇をまとっていた。
“なかなか面白い……”
巨大な人影は消えた。
ゴヨウはただ一手に全身全霊をこめた反動で意識が遠のいていく。
夢の中で意識を失うというのも、妙な話ではあるがーー
「よくやったぞ、ゴヨウ」
チョウガイの声は、まるで父親のような威厳に満ちていた。
翌日の事である。ゴヨウはサポートロボットのチョウガイに、夢の内容を話した。
「わしからは何も言わぬ……が。九回裏で2アウト、3ボールでもわしはまだバッターボックスに立てる。ただ一手に全身全霊を注げ」
今日のチョウガイは厳かであった。
いや、ゴヨウといると威厳がはがれてしまうのだ。
なぜかはわからない、ゴヨウが役立たずの「ゴヨウ先生」だからだろうか。
さて、ゴヨウとチョウガイは黄巾力士の格納庫に来ていた。
無数の黄巾力士は、外宇宙からの脅威と戦うために造り出されたのだという。
「つまり…… 宇宙怪獣軍団と戦うために!」
「違ーう!」
ゴヨウと一緒にいると、ツッコミの絶えぬチョウガイであった。




