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知多星ゴヨウ  作者: MIROKU
元年
30/100

男の甲斐性

 ゴヨウは天間星「入雲竜」ソンショウと修行していた。


 床の間で座禅を組みーー


 不動明王像を前にして、精神領域で互いの力をぶつけ合う。


 言うなれば超能力バトルだろうか。二人の周囲が派手に吹き飛ぶということもなく修行は終わった。


「ーー死を覚悟して、内なる恐れと、心の迷いを吹き飛ばしたか」


 目を見開いたソンショウは、半眼でゴヨウを見つめた。


「心中に不動明王を思い描き、一つになるのだ」


 そう言ってソンショウは不動明王像に視線を移した。


 魔を降伏する不動明王は、不滅の真理を現す大日如来であり、また宇宙の真理を照らす毘盧遮那仏びるしゃなぶつとも同一とされている。


「世にならうな、ゴヨウよ。人の世は餓鬼、畜生、修羅の住まう地獄なのだ」


「……ソンショウ老師は何様ですか」


 ゴヨウは座禅を崩さずそう言った。


 彼にはソンショウの言葉に抗う感情があった。


 ゴヨウのみならず、ヨウジもリンチュウも地獄の苦しみを味わって、チョウガイに導かれて、百八の魔星に選ばれた。


 リンチュウなどは幼なじみである親友に裏切られ、妻は辱しめを受ける前に自害している。


 それ以来、リンチュウは酒を飲んでも酔えなくなったのだ……


「ほう、わしに説教かゴヨウ先生?」


「……はい、そのつもりです」


「うむ、合格だ」


 ソンショウは好好爺然の笑みを浮かべた。


「子も親に逆らって一人前なのだ…… 自分の道を自分で選び、歩んでいくのだ。少年も目に見えぬ道に従って、やがては父親に成るのだよ」


 そう言ってソンショウ老人は立ち上がり、床の間から出て行った。


「それでこそ天機星『知多星ゴヨウ』だ」


 ソンショウにほめられた気がして、ゴヨウは呆然としていた。





 人の世に在り、己が何を成していくのかーー


 その答えは未だゴヨウには朧気だ。


 が、彼は百八の魔星の筆頭軍師である。


 天魁星・及時雨ショウコと共に、百八の魔星を率いて導いていく……


 それが己の天命だと、ゴヨウは改めて感じた。


「ーーお、ゴヨウ先生にチョウガイ様じゃねえか」


 街中を行くゴヨウとサポートロボットのチョウガイに、通りすがりのヨウジが声をかけてきた。


 ヨウジの隣には長身で派手な美女が寄り添っていた。


 優雅な微笑を浮かべた長い赤毛の美女は、戦乙女のNo.3である「エースの切り札」戦乙女エースだ。


「ど、どうだゴヨウ先生? たまにはメシでも食おうじゃねえか!」


 何やら慌てた様子のヨウジに無理矢理誘われ、激辛カレーで有名なお店へ。


「ほほう、ここのカレーライスは辛さ120倍まで選べるらしい」


 小型のサポートロボットであるチョウガイはのんびりしていた。チョウガイには食事は不要だ。バッテリーには注意しなければならない。


「おじさん、いつもの!」


 戦乙女エースはまぶしい笑顔で注文していた。恋する女性は可愛いものだなあと、ゴヨウは横目で見ながら感心した。


「つきあえよ、ゴヨウ先生。おごってやるから」


 ヨウジはカウンター席の、ゴヨウの隣に座っていたが、必死の形相であった。


「うーん、美味しい~♥️」


 戦乙女エースは辛さ120倍カレーライスを幸せそうに食べていた。


「お、男と女はな、戦争なんだよ! これが男の甲斐性なんだよ!」


 ヨウジは一人言のように言いながら、辛さ120倍カレーライスに挑んでいく。


 一口で彼の額からは汗が吹き出てきた。


 戦乙女エースの激辛趣味に合わせる優しいヨウジは、やはり魔星の誇る勇士であった。


「い、いただきまあす!」


 ゴヨウも辛さ120倍カレーライスに挑んだ。


 彼の使命はまだ始まったばかりなのだ。

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