男の甲斐性
ゴヨウは天間星「入雲竜」ソンショウと修行していた。
床の間で座禅を組みーー
不動明王像を前にして、精神領域で互いの力をぶつけ合う。
言うなれば超能力バトルだろうか。二人の周囲が派手に吹き飛ぶということもなく修行は終わった。
「ーー死を覚悟して、内なる恐れと、心の迷いを吹き飛ばしたか」
目を見開いたソンショウは、半眼でゴヨウを見つめた。
「心中に不動明王を思い描き、一つになるのだ」
そう言ってソンショウは不動明王像に視線を移した。
魔を降伏する不動明王は、不滅の真理を現す大日如来であり、また宇宙の真理を照らす毘盧遮那仏とも同一とされている。
「世にならうな、ゴヨウよ。人の世は餓鬼、畜生、修羅の住まう地獄なのだ」
「……ソンショウ老師は何様ですか」
ゴヨウは座禅を崩さずそう言った。
彼にはソンショウの言葉に抗う感情があった。
ゴヨウのみならず、ヨウジもリンチュウも地獄の苦しみを味わって、チョウガイに導かれて、百八の魔星に選ばれた。
リンチュウなどは幼なじみである親友に裏切られ、妻は辱しめを受ける前に自害している。
それ以来、リンチュウは酒を飲んでも酔えなくなったのだ……
「ほう、わしに説教かゴヨウ先生?」
「……はい、そのつもりです」
「うむ、合格だ」
ソンショウは好好爺然の笑みを浮かべた。
「子も親に逆らって一人前なのだ…… 自分の道を自分で選び、歩んでいくのだ。少年も目に見えぬ道に従って、やがては父親に成るのだよ」
そう言ってソンショウ老人は立ち上がり、床の間から出て行った。
「それでこそ天機星『知多星ゴヨウ』だ」
ソンショウにほめられた気がして、ゴヨウは呆然としていた。
人の世に在り、己が何を成していくのかーー
その答えは未だゴヨウには朧気だ。
が、彼は百八の魔星の筆頭軍師である。
天魁星・及時雨ショウコと共に、百八の魔星を率いて導いていく……
それが己の天命だと、ゴヨウは改めて感じた。
「ーーお、ゴヨウ先生にチョウガイ様じゃねえか」
街中を行くゴヨウとサポートロボットのチョウガイに、通りすがりのヨウジが声をかけてきた。
ヨウジの隣には長身で派手な美女が寄り添っていた。
優雅な微笑を浮かべた長い赤毛の美女は、戦乙女のNo.3である「エースの切り札」戦乙女エースだ。
「ど、どうだゴヨウ先生? たまにはメシでも食おうじゃねえか!」
何やら慌てた様子のヨウジに無理矢理誘われ、激辛カレーで有名なお店へ。
「ほほう、ここのカレーライスは辛さ120倍まで選べるらしい」
小型のサポートロボットであるチョウガイはのんびりしていた。チョウガイには食事は不要だ。バッテリーには注意しなければならない。
「おじさん、いつもの!」
戦乙女エースはまぶしい笑顔で注文していた。恋する女性は可愛いものだなあと、ゴヨウは横目で見ながら感心した。
「つきあえよ、ゴヨウ先生。おごってやるから」
ヨウジはカウンター席の、ゴヨウの隣に座っていたが、必死の形相であった。
「うーん、美味しい~♥️」
戦乙女エースは辛さ120倍カレーライスを幸せそうに食べていた。
「お、男と女はな、戦争なんだよ! これが男の甲斐性なんだよ!」
ヨウジは一人言のように言いながら、辛さ120倍カレーライスに挑んでいく。
一口で彼の額からは汗が吹き出てきた。
戦乙女エースの激辛趣味に合わせる優しいヨウジは、やはり魔星の誇る勇士であった。
「い、いただきまあす!」
ゴヨウも辛さ120倍カレーライスに挑んだ。
彼の使命はまだ始まったばかりなのだ。




