表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
知多星ゴヨウ  作者: MIROKU
元年
29/100

闘将(たたかえ)!! サンタさん

 人を越えた力を持ち、この世界の経済を司る存在……


 人は彼らを「商人」と呼んだ……!



   **



「ハワッ!」


 完璧商人始祖の一人、正義マンは手にした「裁きの天秤」の傾きを知った。


 裁きの天秤は一方に傾いている。


 善意と悪意、それを測る裁きの天秤は、悪意へと傾いていたのだ。


 これは人の世に我欲をはじめとした悪意が満ち満ちている事の、証明に他ならぬ。


 市場経済における「神の見えざる手」である正義マンだが、彼の介入を以てしても、世界経済は落ち着く素振りがない。


 悪意に満ちた暴力が世界を不安定にさせているのだ。


 さすがの正義マンも憂いを感じぬわけにはいかなかった。


 が、その一方で信じるものもある。


 女性によって命は産み出され、意思や概念は男性によって受け継がれていく。


 正義商人ケリーマンの闘う魂は「永遠の形」だ。


 それを目の当たりにしてしまった正義マンだからこそ信じる。


 半ば不老不死の正義マンだからこそ信じる。


 有限生命体である人間の進化が、この宇宙を救う事に……


 彼が人間の中に見た「永遠の形」の感動はーー


 人間が神仏など人知を越えた存在に遭遇したのと、同じくらいの感動があった。


 だから正義マンは信じるのだ。人間の中にある「永遠の形」を……


 そしてあるいは、彼が一目置いている男ならば。


 「百八の魔星」の筆頭軍師、天機星「知多星」ゴヨウならばあるいは何かを成し遂げるかもしれぬ。



   **



 サンタさんの住むログハウスは寒冷地にあった。


 雪の降り積もる人里離れた山間の地にあるログハウス内で、サンタさんは壁に貼ったタペストリーを腕組みして眺めていた。


 タペストリーには「七人の悪魔商人」の一人ミス・パーコーメンと、「運命の五人」の一人ビッグボイン、更にサンタさんの三人が並んで写っている。


 ミス・パーコーメンはチャイナドレスの美女であり、ビッグボインは世界一(何が)とも称される美女である。


 左右を高名な美女商人に挟まれて、サンタさんも照れ臭そうに笑っている記念の一枚だ。


 なお、サンタさんは巷にあふれる穏やかな老人の姿ではなく、銀のマスクのような光沢を放つ面に、鍛え抜かれた若々しい肉体を持つ。


 老人の姿として世界の人々に認識されているのは、世を忍ぶ仮の姿であると同時に、その理念の象徴であるからに他ならぬ。


 ーーボタボタボタ


 腕組みしたサンタさんは威厳にあふれていたが、彼は大量の鼻血を流し、滴が床に落ちていた。


 ミス・パーコーメンのチャイナドレスのスリットからのぞく脚線美と、ビッグボインの巨大で深い谷間ーー


 それが完璧商人始祖たるサンタさん(真の名を「白銀マン」という)に、少年のような感情を思い出させている……


「ニャガニャガ~」


 その時、ログハウスの窓を勝手に開けて侵入してきた男は、バレンタイン・オメガであった。


 来年のバレンタインに向け活動を開始する前に、彼は愛するサンタさんの顔を見に来たらしい。


 狂気の道化師じみた顔に浮かぶ歪んだ笑みが恐ろしい。


「サンタさん…… 私というものがありながら……」


 完璧商人始祖たるバレンタイン・オメガ(真の名を精神マンという)は、サンタさんの手を取って自身のたくましい大胸筋に押し当てた。


 バレンタイン・オメガは男だが、男であるサンタさんが好きだ。愛しているのだ。


「ほわああああ!」


「お久しぶりですねえ、サンタさん♥️」


「ツアッー!」


 サンタさんは殺意を秘めてバレンタイン・オメガに飛びかかった。


「ニャガニャガー、サンタさんてばー!」


 サンタさんの猛攻を必死の形相で防ぐバレンタイン・オメガ。さすがは共に完璧商人始祖といったところか。


 なお、バレンタイン・エビルは(表向きは)彼の養女となっているが、真相はわからない。


「シャババ~、何事だー!」


 台所から廊下を駆けてきたのは、一つ目のトナカイ(302cm、580kg)だ。


 凄まじい体にエプロンをつけているトナカイは、朝食の準備をしていたのだ。彼はサンタさんの身の回りを世話している。


 また、このトナカイもただのトナカイではない。


 正体は完璧商人始祖の一人、眼マンだ。最近は人里へ降りて料理教室に通ったりもしている主夫である。


「あー、貴様はー!」


「ニャガニャガ~、トナカイさんお久しぶりですねえ。サンタさんと同居していて、彼の下着も洗っている貴方に軽く殺意を持ちますよ」


「シャババ~、私とサンタさんはそういう仲ではなーい!」


 エプロン姿の眼マン、いやトナカイはガタイに似合わぬハイキックをバレンタイン・オメガに見舞った。


「ツアッー!(意:殺す!)」


 サンタさんはトナカイと背中合わせになって担ぎ上げると、駆け出した。


「エルクホルンコンプレッサー・トレインー!」


 サンタさんとトナカイのツープラトン技が、バレンタイン・オメガに向かって放たれた。



   **



 暗黒ブラックサンタは思い出す。


 商人の神であった「ザ・マン」との対決を。


“いつの日か、お前がその技で私を倒すのを楽しみにしているぞ”


 数億年前、ザ・漢は微笑しながら暗黒サンタにーー


 完璧商人始祖の一人、黄金マンに言ったのだ。


 それを成し遂げるまでの長き苦悩の年月と、達成した時の充足……


 死の覚悟、全身全霊、最高の一手……


 あの一瞬は黄金マンにとって永遠だ。


 そして、あの一瞬もまた「永遠の形」の一つかもしれぬ。


 自ら体現した「永遠の形」を、黄金マンは決して忘れぬ。


「優しさを他人に押しつけてはならぬ。いかに命を懸けようと、他人に見返りを求める優しさなど偽善というものだ。優しさだけでは救われぬ。余計に惨めになるという事を忘れるな」


 黄金マンは配下の悪魔商人たちに告げた。それは弟、白銀マン(サンタさん)の信念の否定であった。


「プレゼントをもらうに相応しいか、転生するのに相応しいか、今一度自問してみればいいのだ」


 黄金マンの厳しさは子どもに通じるだろうか、また昨今の異世界転生物への痛烈な皮肉をこめて黄金マンはつぶやいた。


 さて、彼の配下の悪魔商人達は年末に向けて何をするかと……


「年末にはシングルを発売するアルよ!」


 ミス・パーコーメンは、最近は宣伝ばかりだ。まあ、営業は大事である。


「年末は試合だ!」


 六騎士の一人、阿修羅マンは年末のスペシャルマッチに向けてトレーニング中だ。


「ニンニン~」


 残忍者ざんにんじゃは何も告げずに場を去った。今では「強敵(とも=友)」となった鴉マンと共に、年末は山で修験者の修行だという。


「クリスマスには特別メニューを用意するぜ!」


 「七人の悪魔商人」のリーダー、猛牛マンは牛丼市場を把握するがーー


 クリスマスに一人で御来店のお客様には特別メニューを用意するという。


「く、優しいな……!」


 猛牛マンの心遣いに感涙したのは、同じく七人の悪魔商人の一人、バネマンだ。おそらく彼は今年もシングルベルだ。


(私も待っているぞ、お前たちの内の誰かが、私を倒すのを……)


 黄金マンは配下の悪魔商人らを見回した。


 そして、同時に今年のクリスマスは猛牛マンの店でシングルベル特別メニューを楽しむ事に決めた。めでたし、めでたし。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ