ゴヨウ先生、宇宙の謎に迫る
※長いです。
もしも、この世界の全てが造られたものであったら?
世界は巨大な宇宙船の中にある居住空間でしかなかったら?
いうならば方舟の中で人々が記憶を捏造されて生きているのだとしたら……?
その謎に気づいた知多星ゴヨウは、相棒の小型ロボットのチョウガイ(百八の魔星の神チョウガイの意思が転送されている)と共に、帝都の地下大空洞へと身を投じた。
そこにあったのは巨大なコンピューターであった。
「こ、これは……」
機械の要塞を眺め、ゴヨウは絶句した。世界はこの機械群によって操作され、支配されていたのか。
人の出会いも、恋も、死までもが……
人間は己の命の管理までAIに託したというのか。
それならばーー
「チョウガイ! これを破壊するぞ!」
ゴヨウの胸にこみ上げたのは、理不尽なる怒りであった。
「了解だな、もし!」
チョウガイ(cv:千葉繁)は異空間武器庫の門を開き、秘密兵器を取り出しそうとした。
その時、機械の要塞のあちこちから巨大な蜂のようなメカが現れた。これは機械の要塞の守備兵であった。
「はあ!」
ゴヨウは腰の莫邪の宝剣を抜いた。途端に刃が光り輝いた。この剣は、持ち主の生命力を力に変えて敵を斬るのだ。
莫邪の宝剣を手にしてゴヨウは蜂型メカに斬りかかる。
横薙ぎの一閃が蜂型メカを両断した。
更に踏みこみ、莫邪の宝剣を打ちこむ。蜂型メカが真っ二つに別れた。
勢いの止まらぬゴヨウが再び横に薙いだ時、蜂型メカは上下に別れて床に落ちた。
駆け抜けながらゴヨウは三体の蜂型メカを斬り捨てていた。
更にゴヨウ達に向かってくる蜂型メカへ、チョウガイが五火神焔扇の炎を吹きつけて灰塵へと変えた。
「俺達は! 人間は!」
ゴヨウは莫邪の宝剣を握りしめて、機械の要塞の中心で叫ぶ。
「何のために産まれてくるんだ!」
ゴヨウの脳裏にさまざまな女性の顔が思い浮かんだ。
百八の魔星の首領、天魁星ショウコ。
姉のような存在の天殺星リッキーと天威星コーエン。
ハロウィンの女帝レディー・ハロウィーンと、侍女のフランケン・ナース。
そして、レディー・ハロウィーンの双子の妹バレンタイン・エビル……
彼らとの出会いすら、全て管理されていたのかーー
そう思った時、ゴヨウは訳のわからぬ怒りに支配されたのだ。
機械の要塞の中心部で立ちつくす二人に警報音が聞こえてくる。
そして現れたのは、機械の要塞の巨大なる防衛システムであった。
防衛システムは、一見して戦闘ヘリコプターを連想させた。シャープな線で構成されたスタイリッシュなデザインに、圧倒的な存在感……
それは死を運ぶ存在にしか思われなかった。
防衛システムの主砲が閃光を発したーー
横っ飛びで避けたゴヨウとチョウガイ。
「チョウガイ、九竜神火罩だ!」
「はいな!」
チョウガイは異空間の武器庫から新たな兵器を取り出した。
それは九竜神火罩だ。
バレーボールほどの大きさの、光り輝く玉とでも表現すればいいのか。
それをゴヨウは両手で掲げるようにして持ち上げた。
「仏陀の力を信じるのだ!」
チョウガイは叫ぶ。それに呼応するかのように、ゴヨウの両手の中で九竜神火罩は輝きを増して膨れ上がる。
「感情をこめてパワーを上げろお!」
「うおおお!」
ゴヨウは烈火の気迫を発して、両手の中の九竜神火罩を防衛システムへと投げ放つ。
光を発して空を飛んだ九竜神火罩は防衛システムに直撃し、そして包みこんだ。
地下大空洞の空気が震える。九竜神火罩の内部は、太陽の表面と同じ六千度の熱に満たされていた。
その圧倒的な熱量によって、光球の中で防衛システムは一瞬にして爆発し、蒸発した。
ストナーサ○シャインとも称される九竜神火罩は、チョウガイの最強兵器の一つだ。
「ふう……」
「静かになったな、もし」
ゴヨウとチョウガイは耳を澄ませた。地下大空洞の機械の要塞は、今や静寂に満ちていた。
生命のざわめきなど微塵も感じられぬ死にも似た静寂の中で、ゴヨウは女性の声を聞いた。
“助けて…… 力を貸して……”
ゴヨウは刮目した。夢の中で出会った天なる母と同じ声であったからだ。
「チョウガイ、呉鉤剣を頼む」
「うむ!」
どうやらチョウガイにも女性の声は聞こえたらしい。
彼が異空間武器庫から取り出した呉鉤剣を手にしたゴヨウ。
彼は日本刀に似た形状の呉鉤剣を、空に向かって打ちこんだ。
呉鉤剣の刃は空間を切り裂く。切り裂かれた空間の向こうからは、おびただしい光があふれてくる……
“ありがとう、ゴヨウ……”
光に包まれた身長三メートルほどの美女が姿を現わした。
いや違う。
宇宙の意思たる女神は、虚無の中からよみがえったのだ。
この大宇宙は「はじまりの女神」によって産み出された。
今ゴヨウとチョウガイの前に現れたのは、その「はじまりの女神」の分身の一人であった。
この宇宙に幾万、幾億いるかわからぬ分身の一人ながら、彼女がこの機械の要塞に幽閉されていた事は、宇宙が乱れる原因の一つになっていた。
それはさながら、精密機械がたった一個の部品を失っただけで機能を果たさなくなる事に似ていた……
「な、なぜ女神様はこんなところに……」
ゴヨウの疑問ももっともだ。宇宙の意思たる女神の分身は、なぜ帝都の地下大空洞にある異空間牢獄に閉じこめられていたのか。
女神は語り始めたーー
**
「ーーアテンション(注目)!」
天殺星リッキーの号令に、百八の魔星の作戦会議室は緊張に包まれた。
ゴヨウが帝都の地下大空洞にて戦いに臨んでいる間、地上では外宇宙から来た女達が男狩りを始めて、大混乱に陥っていた。
軍神スサノーが保護監視しているアウター(もちろん仮の名だ)を頂点にした、外宇宙から来た女たち。
彼女らはアウターが女王の座から降りた事で、複数の勢力に分かたれた。
女王であるアウター以外は繁殖能力を持たないはずの彼女達だが、一部の者は繁殖能力を手に入れーー
己の軍勢を率いて群れから独立し、この帝都で男を狩り始めたのだ。
彼らにもごく少数ながら男性型はいる。繁殖用の存在である彼らは、いつの間にか逃亡してしまったらしい。
「聞け、おんどれら」
い並ぶ「百八の魔星」の勇士を見回す天魁星ショウコ。長い銀髪に漆黒のローブをまとった、憂いを帯びた美女だ。
「及時雨(※恵みの雨)」とあだ名されるショウコは、帝都の人々を守るために、部下に非情な命を下さねばならぬ。
「すでに承知していると思うが、外宇宙から来た女どもが暴れている…… 奴らを討て。奴らの武装に関しては、ここに撮影した映像がある」
ショウコに促され、着物美人の天威星コーエンはDVDを再生させた。大型スクリーンに写し出された映像にはーー
『やらないか?』
凛々しい青年が公園のベンチから、通りすがりの文学系美少年をナンパしていた。
そして展開される薔薇の園に、百八の魔星の勇士は黙して声も出ない。
「おわあああ!」
ショウコは真っ赤になりながらDVDを停止させた。これは彼女の私物で趣味全開のDVDであった。
「ええい、行けお前ら! 出陣しろ! 一人残らず討ち死にしてこい!」
ショウコの命を受け、百八の魔星の勇士らは作戦会議室から出ていった。
**
百八の魔星が誇る剣士、天暗星ヨウシは黄巾力士にーー
人型に変形する可変戦闘機「エクスカリバー」に乗り、超時空要塞「梁山泊」から出撃した。
「イーヤッホッー!」
ヨウシ(cv:山崎たくみ)はエクスカリバーの圧倒的な加速にはしゃいでいた。
音速を越えた早さで空を切り裂く様子を、伝説の聖剣にたとえて命名されたエクスカリバー。
その空戦力は圧倒的だ。
**
黄巾力士の一つ、アーマー騎兵の整備室では地微星ヴァニラ(cv:千葉繁)が作業中だ。
彼はアーマー騎兵の左肩に赤いスプレーをふきつけ「レッドショルダーだぜえ!」と楽しんでいた。
「違う、レッドショルダーは右肩だ」
と冷静なのは百八の魔星最強と黙されるリンチュウ(cv:郷田ほづみ)ーー
元八十万天軍槍棒師範、天雄星「豹子頭」リンチュウであった。
「生きて帰ってきなよ」
麗しの地慧星ココアはリンチュウに向かって微笑した。彼女は百八の魔星の誇る双剣を操る美少女剣士だが、リンチュウとは未だ勝負の因縁がある。
「帰ってきたら再戦しようよ」
「ああ」
リンチュウは静かな笑みを返し、アーマー騎兵に乗りこんだ。
「おい! 亭主の前で何を仲良くしてやがんだ!」
「うっさいね!」
「夫婦喧嘩は後でやれ…… 帰ってこいよお、リンチュウ」
地軸星「轟天雷」ゴートもリンチュウに声をかけた。この老人は「百八の魔星」の兵器開発に携わる人物だ。
「いってくる」
リンチュウはアーマー騎兵を駆り出陣した。
**
帝都上空を駆けるヨウシのエクスカリバー。
ヨウシは青き大空に浮かぶ全長一kmを優に越える巨大な物体を発見した。
「おい、これが敵の宇宙船かよ!」
コックピットのヨウシは冷や汗をかいていた。百八の魔星の本拠「梁山泊」も一km近い巨大な要塞だが、それよりも一回り以上大きい。
「これがやつらの『女の城』かあ!」
ヨウシはエクスカリバーで巨大浮遊物体の周囲を旋回しながら絶叫した。
「こんなんじゃ反応弾でも破壊できねえぜ…… 応戦してこねえのも不気味だしよ。一旦、帰還する!」
**
帝都の緊迫した状況など知らぬとばかりに、七郎は「地獄の砂浜 ~ゾンビ・サマーパーク~」の撮影を終えた。
完成フィルムがこちらである。
“うちはパーコーメンの専門店アルー!”
海の家を経営するミス・パーコーメンは、冷やし中華を注文してきた海水浴客のチャラ男に、頭からパーコーメンをぶっかけた。
“イエ~イ”
ビッグボインは砂浜で開催されたミスコンテストに優勝した。
“乱丸の旦那あ、この砂浜にはゾンビがあふれているでやす!”
浅黒い肌に白い髪の美少女・黒夜叉は、水着姿で砂浜に満ちたゾンビを、口から吐いた業腹火炎で燃やしていく。
“覚悟はいいか?”
長い黒髪の美青年・乱丸は、神秘の鎖「ラグナロク」を手にして、吸血鬼ペネロープをじっと見据えた。
“よろしくってよ、よろしくってよー!”
深紅のバッスルドレスに身を包んだ吸血鬼の姫ペネロープは、鼻血を流しながら乱丸の勇姿を熱い眼差しで見つめるのでした……
「むう、寡黙な美形主人公に、愛嬌のあるヒロイン、そして敵役に妖艶な準ヒロイン…… 理想の形が見えてきたぞー!」
七郎は夢中だ。世界の終わりが来ようとも、戦いの中で死を目前にしようとも心を折らぬ。
最期まで潔くーー それが七郎の決意なのだった。
**
帝都のあちこちで暴れている外宇宙の女達だが、友好的な一団もある。
仮に「コロニーF」と名づけられた一団は、狂戦士ペロの前では大人しくなってしまった。
「カッコいい~」
「ねえ、名前は?」
「私達強いからさあ、やめた方がいいよ」
平均身長2・5mの女達に囲まれ、ペロはたじたじだ。彼の外見は二十歳前後の赤い戦闘服に黄色いマフラーをたなびかせた凛々しい青年だ。
が、精神年齢は死した時と同じく十歳前後なのだ。
女子中学生ですら年上のお姉さんだというのに、妙齢の巨女に囲まれた彼は戦意喪失していた。
「ねえねえ、この星のことをもっと教えてよ」
コロニーFの巨女らが友好的ーーというかペロに一目惚れーーなのは、ペロには幸いであったか。
**
コロニーMと名づけられた一団は、戦乙女らとスポーツで対戦する事になった。
「なんで?」
「さあ……」
「スポーツってなに?」
いぶかしむコロニーMの女達へ、戦乙女サニーは宣言した。
「熱血高校ルールでドッジボールやー!」
**
帝都を流れる川の側では、外宇宙から来た女達によって環境改造が行われーー
まるでアマゾンを思わせる原生林に覆われていた。
気が狂いそうな湿気。
熱病。
毒虫。
闇からの襲撃……
緑に覆われていても、そこは地獄だ。
その原生林にリンチュウの駆るアーマー騎兵はパラシュートで降下した。
ーーズウン……!
全高四メートルほどの人型の黄巾力士、アーマー騎兵。
人型なのに騎兵と名づけられたのは、その運用において馬と同様にーー
騎兵のごとく戦場を駆け抜け、銃火器で敵を撃ち倒す事を旨としているからだ。
アーマー騎兵は足裏に風火輪を備えつけており、車両のごとく高速移動を可能としている。
ーーガシャン
アーマー騎兵の顔にあたる部分には三つのレンズが取りつけられている。
周囲確認、赤外線、狙撃用の三つのレンズがパイロットによって選択され、回転しながら索敵を開始する。
その兵器としての非人間的なフォルムから、アーマー騎兵を駆る者は「汚い奴ら」とも称される……
(敵はどこだ)
アーマー騎兵の狭きコクピット内でリンチュウは冷静に敵の姿を追い求めた。
アーマー騎兵のコックピットは、その狭さゆえに棺桶とも呼ばれ、パイロットは乗りこむだけで精神に支障を来すこともあるらしい。
リンチュウもまた、命がけの戦いの中で人間的な感覚を失ったかもしれない……
突如、リンチュウは茂みの中から銃撃を受けた。
センサーが反応すると共に行動したリンチュウのアーマー騎兵は、銃撃を避けながらマシンガンの引き金を引いている。
銃弾が一条の雷のように茂みに撃ちこまれ、次の瞬間には爆発が生じた。
外宇宙から来た女達の無人防衛兵器をリンチュウは破壊したのだ。
ーーギャア、ギャア
林の中から無数の巨鳥が羽ばたいた。
リンチュウのアーマー騎兵は風火輪で地を駆けながら、肩のロケットランチャーを発射した。
次いで生じた爆発と閃光。
リンチュウはこの緑の地獄を駆け抜ける。
地獄を見れば心は砂漠ーー
リンチュウはそのように生きてきた。
総数八十万と号する天軍の槍棒師範という輝かしい実績に、幼なじみである妻と軍で出世した親友。
誰もがうらやむ順風満帆の日々でも、リンチュウは決して慢心しなかった。
仁智勇を兼ね備えた名将として練磨する毎日であった。
が、親友は裏切ってリンチュウを殺そうとした。
妻は軍の高官に辱しめられそうになり、貞節を貫いて自害した。
リンチュウは深い絶望に支配された。全てに裏切られ、生きる気力を失い、酒を飲んでも酔えなくなった。
ただ一つだけーー
命を懸けた闘争の中でのみ、リンチュウは己を取り戻すのだ。
アーマー騎兵を駆り、緑の戦場を風火輪で突き進むリンチュウ。
フレイムランチャーが火を吹き、緑の戦場は次第に炎で赤く染まっていった。
ーー明日の俺が探すものは何だ?
リンチュウは自問しつつ、尚も戦う。緑の戦場に現れた巨大なクワガタ虫そっくりの人造生命体を前にして、リンチュウの心は静かだ。
明日に繋がる一撃を放たんと、彼の精神は研ぎ澄まされていた。
**
コロニーKの女達と野球で試合をする運びになった戦乙女たち。
「アムール!」
「マシェリ!」
初のアンドロイド戦乙女、戦乙女アムール(170cmを越えた欧州系の細身の美少女だ)は戦乙女マシェリーーまだ十代前半といった幼い外見だーーを抱え上げると、宙へ放り投げた。
高く飛んだ白球をマシェリは、空中でダイビングキャッチする。なんという息のあった超人守備であろう。戦乙女チームは、外野はほぼアムールとマシェリのみで守ってしまっている。
なお、二人の関係は年下のマシェリがタチである。なんのこっちゃ。
「ーーあなた方の野球には若さ(※純粋さ)がない!」
攻守交代し、バッターボックスに立ったのは戦乙女ビューティ(cv:西村ちなみ)だ。彼女は武神の元で修行し免許皆伝を授かった強者である。
美神の眷属である戦乙女ビューティは最も美しいと言われている。
「明るさがない、熱がない!」
バッターボックスからピッチャーを見据える戦乙女ビューティー。平均身長2・5mという外宇宙から来た女達は自身の体の一部を機械化しておりーー
野球のルールもネットからのダウンロードで一瞬で熟知した。巨体に似合わぬ運動能力に加え、女性ならではの連携にも長けていた。
だが、試合を制しているのは戦乙女チームだ。
実力的に劣る彼女達だが、その精神性においては勝っていた。
帝都の人々を守る。
たとえ、それが幻想に過ぎなかろうと、戦乙女は一人残らず「守る」ために戦うのだ。
「そんな貴女達に負けるわけにはいきません!」
ピッチャーの投げた豪速球を戦乙女ビューティは打った。
白球は観客席へと落ち、特設スタジアムは熱狂に包まれた。
「心のない貴女達に道は見えません」
ビューティーはゆっくりと一塁を周りながら、ピッチャーへと呼びかけた。
身長2・5mを越える女ピッチャーは、マウンドで号泣していた。
が、それがいいのだ。
個々の能力は高くとも、人間の心を理解できなかった彼女達は、悔しさから初めて心を学ぶ事ができた。
「さあ、手強くなってきましたよ」
ビューティーはチームメイトに向かって微笑した。
**
帝都の中心部に現れた異形の姿に、軍神スサノーは息を呑んだ。
「これは……」
スサノーは腰の軍刀を抜き放つ。軍服、軍帽の凛々しい青年の姿をしたスサノーだが、彼は天帝によって創造された新造神ーー
人間の感覚に例えるなら、人造人間だった。
“汝、暗転入滅せよ”
異形の巨体は声を発した。
それは身長三メートルほどの、背に透き通った羽を生やした一糸まとわぬ美女であった。
外宇宙から来た女達の内の一体が、「女王」として覚醒した姿でもある。
天候すら操る能力を有した「女王」は、帝都の空を暗き暗雲に包んでいた。
「これが宇宙の正体か!」
スサノーは叫んだ。彼自身、意味のわからぬ発言であった。
女王は美しくもおぞましく、邪ながら大勢の娘への慈悲に満ち、しなやかにしてしたたかだ。
言うなれば、この宇宙に存在する全てを内包している生命体だった。
彼女から見れば全ての男は、繁殖のための機械であり、食料であり、消耗品にしか過ぎなかった。
「ハ!」
スサノーは手にした軍刀で、外宇宙から来た女王に斬りかかった。
が、刃は届かなかった。
女王の発した超音波がスサノーを襲い、彼の骨を粉砕し内臓を破裂させたのだ。
肉塊となったスサノーがコンクリートの地面に落ちた。
スサノーの原型を留めぬ骸を見下ろし、女王は頭部の触角を蠢かせながら妖艶な笑みを浮かべた。
**
コロニーMの女達と熱血高校ルールでドッジボールの試合(死合い?)していた戦乙女サニーは……
「縮小シュートやー!」
助走から跳躍し、渾身のシュートを投げ放った!
**
緑の地獄でリンチュウの戦いは続いていた。
巨大なクワガタ虫は、外宇宙から来た女達の生物兵器のようだ。
その強固な外骨格に、リンチュウの駆るアーマー騎兵の装備は通じない。
弾も尽きたリンチュウのアーマー騎兵は背を見せ、足裏の風火輪で逃げ出した。
その後を、木々を薙ぎ倒しながら巨大なクワガタ虫が、想像しがたい速さで追いかける。
これはリンチュウの誘いであった。
「うおお!」
彼はアーマー騎兵の右足にロックをかけた。
アーマー騎兵は右足を軸に180°回転ーー
真後ろを向いて、巨大なクワガタ虫へ突っ込んだ。
意表を衝いたリンチュウの奇襲、いやーー
(これが俺の全力だ!)
リンチュウはアクセルを踏みこんだ。彼の駆るアーマー騎兵は赤く塗られた左肩から全速力で、全質量をこめて巨大なクワガタ虫にぶち当たった。
凄まじい衝撃がアーマー騎兵のコックピット内のリンチュウを襲った。
リンチュウのアーマー騎兵はほぼ大破し、巨大なクワガタ虫も外骨格が大きく割れて後方へ吹っ飛んだ。
何本もの木々が倒され、ジャングルに潜んでいた動物達が泡を食って逃げ出していく。
リンチュウは大破したアーマー騎兵のコックピットから抜け出し、ヘルメットをも投げ捨てて空を見上げた。
「……ははは、空気がこんなにうまいとは」
リンチュウは熱い陽射しを見上げて苦笑した。
息苦しいヘルメットに、狭く圧迫感に満ちたコックピット。
そこから出たリンチュウは、生の喜びを心身で存分に味わっていた。
全身全霊、乾坤一擲。
己の命すら省みなかった捨て身の一撃は、リンチュウの未来を切り開いた。
明日に繋がる会心の一手だった。
死闘から生き延びたリンチュウは、生の喜びに満ちていたが、ふと巨大なクワガタ虫の方へ振り返った。
その外骨格は砕かれ、ひび割れーー
仰向けに倒れた腹部からは、何か光が漏れていた。
(これは……)
リンチュウは緊張に汗を浮かべ、巨大なクワガタ虫へ近づいた。
腹部の外骨格は唐突に開いた。そこは液体に満たされたコックピットだった。
リンチュウのアーマー騎兵と違って、なんと安らぎに満ちたコックピットであろう。
アーマー騎兵のコックピットは棺桶だが、巨大なクワガタ虫のそこはまるで母親の胎内ではないか。
その液体の中に横たわっていたのは、全裸の女である。頭髪は一本もなく、それがためにリンチュウは不気味さを感じていた。
だがリンチュウは目を離せない。巨大なクワガタ虫の生物兵器を操っていたのは、この女だろう。
液体の中で女は目を見開いたーー
**
レディー・ハロウィーンとフランケン・ナース、そしてバレンタイン・エビルの三人はハロウィンの準備に大忙しだ。
ハロウィンの女帝レディー・ハロウィーン。
彼女はハロウィンの時期には、世界の富を動かす存在だ。
それがために「正義商人」の中でも「アイドル商人」に数えられる一人だった。
フランケン・ナースは彼女に仕える侍女であり、明るい笑顔と穏やかな性格、そして豊かな胸によって大人気の女性型人造人間であった。彼女もレディー・ハロウィーンの手伝いで忙しい。
バレンタイン・エビルもまた双子の姉であるレディー・ハロウィーンのために、女性下着メーカーの写真モデルになったりした。
姉と違ってバレンタイン・エビルはロングヘアーで、更に線が細い妖精のような美女であった。
「さ、ハロウィンはもうすぐよ!」
レディー・ハロウィーンの汗がキラキラ輝く。
彼女の瞳は明日を見ていた。
**
帝都の朝である。
百八の魔星の一人、天速星「神行太保」ノリオ(cv:若本規夫)は、いきつけの蕎麦屋で朝食だ。
朝から「肉そば大盛」をすするノリオ。店主のアルベル(cv:秋元洋介)は黙って仕事中だ。
「ふう…… オヤジ、相変わらずうまいな」
「へえ」
食べ終えたノリオとアルベルの他愛ない会話。小鳥が鳴いている。帝都の朝は穏やかに始まりをーー
「……なんて、まったりしてる場合かー!」
ノリオは突然、騒ぎだした。
「へえ」
「オヤジ、わかるか? この世界を覆う無気力が! これもスマホのせいだ!」
「へえ」
「便利すぎれば感謝を失う…… なんておそろしい世の中だ!」
なおも騒ぐノリオ。言う事に一理ある。
「なあに、俺も正論を吐き散らすつもりはねえ…… ワン○ースも必要だから存在してんのさ、人は失くしちまった夢や情熱をワ○ピースの中に見てえんだよ、だから人気があるのさ!」
「へえ」
「銀○もそうさ、あれは案外、真面目な人が愛してるのさ、息抜きしたいし、少しなまけたいのさ! かわいいもんよ、まあ○魂のヒロインは月詠さんで決まりだぜ!」
「へえ」
「そうしてだ、そろそろ創作にも新たな風を吹かせる必要がある…… そう、それは微かな風でも、感じた人の心に刺激や活力を与えるような、新鮮な風だ! 全ては繋がってるんだ!」
「へえ」
「ネットの怖さ、一度はそこから離れ、そして強靭な自己を再構築する…… ネットに流されるのではなく、ネットを渡っていく魂を持たなきゃならねえ! そうだろ?」
「へえ」
「新たな創作は、オヤジの極上の肉そばのように…… そば(文章)、つゆ(作風)、肉(設定、世界観や人気キャラクター)の三つの調和が必要なんだ! そば(文章)とつゆ(作風)だけでうまいものはあるんだが、シンプルなのもいいんだが、それに+アルファが必要だ! オヤジのそばが見事すぎて、人生を渡る知恵が身についていくようだぜ!」
「へえ」
「まずは男女のペア…… 物静かな男と、騒がしい女の子、そしてちょっと大人の女性で男女の三角関係を作品の中心にすえつつ、物語を展開する! 三國志の劉備、関羽、張飛みたいなもんだ! あいつら男だけど!」
「……」
「俺はやるぜ、オヤジ! 新たな創作の風を吹かせてやるぜ!」
「お勘定」
「へえ」
ノリオはそばの代金680円を支払って店を出た。めでたし、めでたし。
**
場面は帝都の中心へと戻るーー
「女王」の超音波破砕攻撃によって軍神スサノーは肉塊と化した。
勝ち誇る「女王」へ斬りかかった影は、狂戦士のペロだった。
彼はスサノーの原型を留めない骸を見るや、両手に握った二本の大型ナイフで「女王」に斬りかかったのだ。
“ぬう”
「女王」はペロの猛攻にたじたじだ。戦神から狂戦士の力を授かり、世の平和に貢献する事を誓ったペロ。
彼は黄色いマフラーに赤い戦闘服という出で立ちで、「女王」に挑んでいく。
音速を越えるペロの一閃を避け、弾き、後退していく「女王」だが、まだ余裕はあるようだ。
“な、汝は激しいな……”
恍惚とした表情を浮かべる「女王」。戦闘中とはいえ、誤解を生みかねない発言にペロの攻撃が鈍った。
“甘くて可愛いものよ”
刹那の間に放った「女王」の張り手ーー
やんちゃな子どもを叱りつけるようなビンタの一発でペロは吹き飛び、その先のビルの壁面に激突した。
“我が相手にしてもよいぞ”
女王はペロに近づいていく。その女王へ、空中から無数の光線が降り注いだ。
それは外宇宙から来た女達の武器ではないか。
女王が見上げれば、同胞である外宇宙から来た女達が武装し、ペロを守るかのように銃口を女王に向けている。
“お前たち…… なにゆえ?”
「「「「「「わたしたちは、いい男の味方でーす!」」」」」」
武装した外宇宙から来た女達は笑顔で答え、手にした銃やバズーカを乱射した。
どうやら彼女達は「自身の存在意義」を見いだしたようだ。
軽すぎる意義だが、ペロのために戦闘に臨んで命を散らす覚悟があるのならーー
“それこそ天道よな”
女王は忌々しげに苦笑した。彼女は同胞が存在意義を見出だした事が嬉しかったようだ。
そんな女達へ女王は重力攻撃をしかけた。空中にいた女達が一人残らず地に落ちて、一切身動きできなくなった。
“ふっふっふ、男と一緒に逝け。せめてもの情けよ”
勝ち誇る女王と、苦悶する女達。
ペロもダメージの大きさから動けない。
その時、スサノーだった肉塊が唐突に蠢き始めた。
**
「最近の『知多星ゴヨウ』はシリアスすぎて堅苦しくて、つまらないニャン!」
テレビで「知多星ゴヨウ」を観ていた猫格闘家のサモニャン。彼の隣には居候の悪魔♀猫アンドロメダが毛繕いしていた。
翌日、サモニャンはバッファローニャンとの試合に臨んだ。
「ウニャー!」
サモニャンはコーナーポストに飛び乗った。その両前足から爪が飛び出した。
「ニャンコクローの二刀流で100×2の200パワー!」
サモニャンはコーナーポストからロープに飛び乗り、反動を利用して高く高く跳躍した。
「通常の二倍のジャンプで200×2の400パワー! 更に通常の三倍の回転を加えて400×3の1,200パワーニャー!」
サモニャンは光の矢と化してバッファローニャンに空中から襲いかかった。
**
帝都の戦いは続くーー
“これは……”
外宇宙から来た「女王」は驚愕していた。原型を留めていなかった軍神スサノーの骸が蠢き、再生を開始しているではないか。
これは例えるならば、生命活動が停止していた死体が傷を修復しながら、甦ろうとしているようなものだ。
「神」たる存在は半ば不老不死の、不滅の存在である。
だが、その神力を0にされれば、神も消滅するのだ。
だから軍神スサノーの骸が再生を開始したのは、有り得ぬ事であった。
「女王」がスサノーの骸に更なる攻撃を加えんとした時、狂戦士ペロは死力を振り絞って身を起こした。
ーーこの一瞬を活かしてくれ。
ペロは加速装置で加速し、スサノーに攻撃を加えようとした「女王」の胸に特攻した。
二人の体は、背後のビルの壁面に激突した。
“な、汝は本当に激しいな……”
女王は胸に飛びこんできたペロに照れながら、彼を押し退け立ち上がった。ペロは気力体力も尽き、ツッコミを入れる余裕もなかった。
その間にスサノーの再生は終了していた。
ーーお前は神の出来損ないだ……
スサノーの耳に父たる天帝の声が届いた。それはかつて己が創造された時の囁きだ。
天帝はスサノーの眼窩に眼球をこめ、内臓を整えながら彼に囁いたのだ。
ーー帝都を守れスサノー、我が息子よ。
天帝から授かった使命を果たすため、スサノーはこの宇宙の力を身に宿していた。
彼は帝都を守る絶対不滅の存在なのだ。
たとえ帝都が闇に染まろうと、帝都を守るーー
概念もしくは存在の意義を守るスサノーは、帝都の真なる守護者なのだ。
「……さあ来い女王!」
復元し、再生したスサノーはまだ苦しげだが、決死の覚悟を秘めた瞳で女王を見据えた。同時に軍刀を鞘に納め、腰に構えた。
スサノーは全身全霊の一手を狙っていたーー
“くあ!”
女王の口から超音波が放たれた。
スサノーは高く跳躍して超音波を避けた。足の下を超音波が通過していく。
「でやっ!」
スサノーは空中で抜刀し、逆手に握って下方から斬り上げた。
空を切り裂いた軍刀からは、剣気が刃となって放たれて女王を襲った。
“あああ!”
女王は悲鳴を上げた。スサノーも着地した。
女王の艶かしくも禍々しい肢体は、正中線で切り裂かれて真っ二つになり、左右に倒れた。
「はあ、はあ……」
スサノーは女王の真っ二つに分かれた体を尚も見つめていたがーー
やがて軍刀を鞘に納めた。同時に暗い空は晴れ、無数の陽光が地に降り注いだ。
スサノーの狙い澄ました一手は、女王のおぞましい心も美しい肉体も、一刀両断にしたのであった。
**
帝都を襲う外宇宙から来た女達による男狩り。
この未曾有の危機に、ハロウィンの女帝レディー・ハロウィーンは戦乙女らと共に、コロニーKの外宇宙から来た女達と野球で勝負(何の?)に臨んでいた。
「はあっ!」
ピッチャーマウンドでレディー・ハロウィーンはボールを握った右手を振り上げた。
同時に右足も高くかかげた。そのまま左足の爪先で、コマのように一回転しつつ、回転の力をもボールにこめた。
「アタアーック!」
レディー・ハロウィーンのスカイラブ投法だ。
時速190kmで放られたボールは、外宇宙から来た女ーー黒いコスチュームに身を包んだ身長2・5メートルに達する美女だーーがフルスイングしたバットをへし折り、キャッチャーミットに飛びこんだ。
それで試合は終了した。レディー・ハロウィーンの完封試合だった。
「じゃ! 急ぐから!」
レディー・ハロウィーンは戦乙女ビューティにグローブを投げ渡すと、急いで河川敷のグラウンドから去っていった。
キャッチャーを務めたフランケン・ナースも同様にグラウンドから走り去った。
もうじきハロウィンの本番だというのに、女帝レディー・ハロウィーンが野球で気晴らしをしすぎてはいけないのだ。
「応援ありがとうございました~」
主のレディー・ハロウィーンに代わって、侍女のフランケン・ナースは笑顔で野次馬の観客(ほとんど男だった)に手を振って、小走りに駆け去っていく。ナース服の胸元がユサユサ揺れていた。
「……男に産まれて良かったなあ!」
男性陣は笑顔でハイタッチした。これで数ヶ月は生きられそうなラッキースケベだった。男はそういう生き物なので、女性方は許していただければ幸いです。
**
また、別の地域ではーー
コミュニケーションを拒み、男狩りを行うコロニーXの女達。
狩られた男達は命まで奪われる事はないが、機械によって根こそぎ搾られてしまうという。
ーー男狩りにあってラッキースケベだと思ったら、ただ機械で搾取される…… 地獄でした、男の地獄でした!
男狩りの被害にあった者の報道がなされた事で、深刻な事態になっていた。男達は女を恐れて外出すらしないのだ。
そのコロニーXを相手に戦いを挑む男がいた。
一人は武神フツヌシであった。
武装して騎乗した彼は五十歳近い老武士だった。もの◯け姫のア◯タカが歳を重ねると、このような風貌になるのでないか。
フツヌシはコロニーXの猛者達に向かっていった。
遠くからは矢を射かけ(殺傷せぬよう、トリモチランチャーにセットアップ済み)、馬の機動力を活かして離れたり近づいたりを繰り返し、コロニーXの女達を散々に疲弊させた。
更に敵陣深く斬りこめば、槍を振るって女達を蹴散らした。これも穂先はラバー製なので大した怪我も負わぬ。
更にそこに剣神タケミカズチまで乱入してきた。
身長約220cm、体重約140kgの剣神タケミカズチ。
戦場に現れた彼は、背負った大太刀(鹿島神宮の神宝と同じ)に右手を伸ばした。
「忍ッ!」
タケミカズチは跳躍し、背負った大太刀を抜く。
同時に片手で刃を振るう。
「鹿島神剣!」
生じた音速を越える衝撃波は、コロニーXの女達をまとめて吹き飛ばした。
死傷者こそ0だが、タケミカズチとフツヌシの戦いぶりに、コロニーXの女達は根こそぎ戦意を喪失していた。
「これに懲りたらーー 男狩りなどせずに、女として幸せをつかむ努力をしろ」
フツヌシは馬から降りて、呆然とするコロニーXのーー
外宇宙から来た女達に告げた。
「やろうってんならやめとけよ、おめーら…… 俺達ゃ最終回のガ○ダムより強えぜ」
女達を見回してタケミカズチは不敵な笑みを浮かべた。
フツヌシがコロニーXの大半の女から好意を持たれたのに対し、タケミカズチは一部の女からは徹底的に嫌われた。
その分、一部の女からタケミカズチは愛されたが。
「さあ、帰るぞ」
フツヌシはタケミカズチに言った。フツヌシの本来の使命は、帝都を守る事ではなく、この国に侵入しようとする強大な悪神を食い止める事だ。
そのために、フツヌシは異空間で悪神と永遠ともいえる戦いに身を投じているのだ。
強大な悪神を食い止めるため、小さな魔の侵入は許してしまっている。
その小さくも貪欲なる魔は、人々の心に潜み、嘘から始まる底知れぬ悪意によって人心を支配しているのだ。
「ああ、帝都の守護者はスサノーだからな」
タケミカズチも大太刀を背の鞘に納めた。彼の目的は「地の龍」を封じる事だ。
「地の龍」がその強大なる力を解放すれば、この国全てが大地震に襲われる。
それを食い止めるため、タケミカズチも人知れず「地の龍」との永劫の戦いに臨んでいる。
今、帝都を救援に来たのは、フツヌシとタケミカズチ、両者の分身であった。
その力は本体の五分の一程度だが、外宇宙から来た女達を蹴散らすには充分であった。
また、軍神スサノーのみならず、帝都を守る存在は他にもいる。
狂戦士ペロと、相棒の黒き巨犬マッドブル(♀)。
正義商人レディー・ハロウィーンと侍女フランケン・ナース。
レディー・ハロウィーンの双子の妹にして、正義商人のバレンタイン・エビル。
天魁星「及時雨(※きゅうじう、恵みの雨の意)」ショウコに率いられた百八の魔星。
スサノーの周囲にもまた、使命を全うし、概念と存在の意義を守る「守護者」がいるのだ。
「甘やかしすぎてはいかんな」
「何言ってんだ、あんたから行こうって誘ったんじゃねえか」
フツヌシとタケミカズチは顔を見合わせて笑いながら、再び己が戦場へ舞い戻った。
**
帝都の上空に浮かぶ異形の巨大浮遊物体ーー
それこそが外宇宙から来た女達を乗せて、遥か彼方からやってきた彼女達の方舟だった。
地に掘り進められた蟻の巣にも似た形状だ。
全長一kmを優に越える巨大な女の城の内部には、まだ未知のエネルギー反応があった。
「ーー撃てえい!」
百八の魔星の母艦「梁山泊」の司令室でショウコは叫んだ。
梁山泊の主砲である「日輪砲」の閃光は、巨大浮遊物体に当たると共にエネルギーを吸収されてしまった。
「日輪砲、効果なし」
暗い顔で言ったのは地魁星「神機軍師」アケミだ。彼女はショウコの実妹である。
「……わかるか、ソンショウ」
ショウコは傍らの軍師ーー 天間星「入雲龍」ソンショウに尋ねた。
老軍師ソンショウも普段の笑みを潜め、厳しい眼差しをモニターに写し出された外宇宙から来た女の城に注いでいた。
「まさか…… 神巨兵か?」
帝都を襲った「外宇宙から来た女達」との戦いはまだ続く。
ショウコから密命を受け、サポートロボットのチョウガイと共に帝都の地下へ向かった天機星「知多星」ゴヨウも、未だ帰還していない。
帝都の災いは未だ去りそうもない。




