ゴヨウ先生、意中の人と時を過ごす
サモニャン・ニャンポーは、憧れの二次元の世界へ行くよりも、同居猫のアンドロメダと暮らす事を選んだ。
伝説の商人、兵とブロークンハートによる「完全被甲弾」の試合は、ネットで読む事に決めたのだ。
(夢よりも雌猫を選ぶ…… これが雄猫のロマンだニャ!)
ロマンに浸るサモニャンの隣で、悪魔雌猫アンドロメダは、キン肉ニャンを王位争奪戦まで読み終えた。
「面白かったニャ~ ビッビーンバちゃんが超かわいいニャ~」
「……他には?」
「野郎に興味はないニャ」
アンドロメダの言葉にサモニャンは苦りきった顔でコーヒーを飲むのでした。
**
「最近の『燃えよサモニャン』も落ち着いちゃったなー」
知多星ゴヨウは「燃えよサモニャン」の視聴を終えると、待ち合わせ場所のカフェに向かった。
相手はバレンタイン・エビルだ。約束の時間より三十分早くカフェに到着したゴヨウだったが、すでにバレンタイン・エビルは一人でティータイムを楽しんでいたようだ。
「お、お待たせ!」
「早いわね、まだ三十分もあるわよ」
「い、いや、まあ、その…… 君の顔が見たくて」
ゴヨウの言葉にバレンタイン・エビルは、ほんの一瞬だけ輝かしい笑顔を見せた。
それを見た時、ゴヨウは「もう死んでもいい……」と思った。あまりにも無欲過ぎた。過ぎたるは及ばざるがごとしである。
「どうして君は……」
ゴヨウは言葉に詰まる。レディー・ハロウィーンが男友達と一緒に草野球や釣りに興じるのに対し、妹のバレンタイン・エビルは一人でいてばかりだ。
「一人が性に合うのよ」
「で、でもさあ」
ゴヨウは知っている。完璧商人であるバレンタイン・エビルは、バレンタインの守護者だと。
バレンタインにチョコの受け取りを拒み、更にチョコに込められた思いを踏みにじる者を裁く事を。
彼女の必殺技「バレンタインの鈍色刃」が象徴するのは、バレンタインをないがしろにする者に突きつけられる、裁きの刃であるのだ。
なのに、彼女は全く評価されないではないか。
ゴヨウはそれが悔しいのだ。
「わたしはわたし。バレンタイン・エビルよ。それが使命なの」
「……俺は知多星ゴヨウさ」
バレンタイン・エビルとゴヨウは顔を見合わせて笑った。恋人ではないが、強い絆で結ばれた戦友のようだった。
「まだまだね」
「え、何が」
「あら聞こえてた?」
「んー、聞こえなかった」
二人の意味深なやり取りを通りすがりのカワウソン(超アニマル生命体)が嫉妬混じりに眺めていた。
「カワ~!」
カワウソンは鋭い爪をひらめかせて、二人に襲いかかった。
「七人の悪魔商人」の紅一点、ミス・パーコーメン(遠い親戚がエジプトにいる)。
「運命の五人」の紅一点、ビッグボイン。
二人の写真集を買うために、妻のサリアを質屋に入れようとした正義商人「仮面の貴公子」だったが……
「サリア・スペシャルー!」
怒った妻サリアから自身の必殺技を食らい、仮面の貴公子はKOされた。
妻を質屋に入れるなどと、冗談でも口にしてはいけない。むーざん、むーざん。




