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知多星ゴヨウ  作者: MIROKU
元年
24/100

混世魔王、オーディションに行く



 十兵衛、いや七郎は新作のタイトルを「地獄のビーチ ~ゾンビ・サマーパーク~」に改めた。


 すると、オーディションを受けに来る女性キャラクターが殺到した。


 やはりゾンビは人気なのだろうか。


 どこかの国でゾンビ映画撮影のためにエキストラを募ったところ、数百人集まったというのは妙に納得だ。


「お名前をどうぞ」


 乱丸は目の前に座した少女に自己紹介を促した。


「はい、わたしは百八の魔星の一人、地然星の『混世魔王』ハードゥです!」


 明るく元気な少女の声だ。黒いローブに全身を包んでいるが、下ろしたフードからのぞく顔はまだ十二才前後だろう。


「ほほう」


 面接官の七郎はニヤリとした。彼は昔から気の強い女性にばかり囲まれてきたから、ハードゥのような天真爛漫な女の子を可愛らしく思っていたのだ。


「混世魔王?」


「はい、わたしは得意の妖術で世を混乱に陥れる事を使命としています!」


 乱丸の問いにハードゥは答えた。緊張しているのか、頬が真っ赤であった。


 視線は乱丸の中性的な顔に注がれていた。乱丸の外見的なモデルは橘右京である。なんのこっちゃ。


「妖術?」


「はい、わたしは消しゴムをはんぺんに変えたりして、世間を大混乱させられます!」


「ふうむ」


 乱丸には今一つわからない。混世魔王のあだ名には相応しからぬ混沌であった。


 ついでに彼女がどんなゾンビを演じる気なのだろうか。それは気になった。


「よし決定! 嫁に来い!」


 七郎、鶴の一声だ。


「はい! お嫁に行きます!」


 満面の笑みを浮かべたハードゥは立ち上がり、乱丸の前へと出た。


「ふ、ふつつか者ですが、お願いします!」


 ハードゥは頬を染めて乱丸に右手を差し出した。乱丸は困惑した。


「お、おい、嫁に来いってそういう意味で使ったんじゃないよ?」


「え、息子さんのお嫁さんのオーディションじゃないんですか?」


「違うってば! ま、まあ、確かに歳はそれくらい離れてるが……」


 勘違いと混乱が渦巻く面接室に、三体の女ゾンビが乱入してきた。


「出演させろ~」


 と七郎に詰め寄ったのは天殺星リッキーだ。彼女のゾンビのメイクは、肌を青く塗っただけのチープなものだ。


「出演させて~」


 額に三角の布を巻いた天威星コーエンは、何か勘違いしていた。これでは日本の幽霊だ。和服美人のコーエンだけに似合っていた。


「出演させんかい!」


 百八の魔星の首領、天魁星ショウコはリアルすぎるゾンビのメイクで、七郎と乱丸の度肝を抜いた。


 体のあちこちから骨や内臓が露出しているリアルゾンビだ。ショウコはメイクに五時間かけたという。


(バカがバカを呼ぶ……)


 七郎はバカバカしくて泣き笑いの表情を浮かべた。明るく楽しいのはいい事だ。めでたし、めでたし。

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